異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第70話   天から降り注ぎし破滅

「地下砦との連絡が途絶えただと!?」

 

ルーザニアの対日本前哨基地である地下砦の陥落が伝えられ動揺が走る。

 

「はい、様子を見に行った者も未帰還です。恐らくニッパニアにやられたと思われます。」

 

「おのれ!ニッパ族め!!蛮族のくせに鼻が利く!兵を集めよ!地下砦を奪還するぞ!!」

 

山岳部に建設されたルーザニアの砦は、日本に落とされたと思われる地下砦の奪還の為に慌ただしく動き始める。

馬に引かれて投石器も武器庫から出され、本格的な攻撃の準備をした。

 

「くくくっ・・・地下砦をも上回る兵の数、そして通常の物よりも大型の投石器、そしてこの装備!負ける筈が無い!」

 

「勿論です、蛮族風情に土を付けられたのは癪ですが、蛮族共が調子に乗れるのも此処までです。」

 

「くははは!土では無く、返り血ならば浴びても良いがなぁ!さぁ行くぞ!皆の物!蛮族共の頭蓋骨を踏み砕いてくれよう!!」

 

 

粗末な服を着た奴隷たちが縄を引き、重い音を上げながら城門が開かれようとしていた・・・しかし・・・。

 

「おいっ?あれは何だ?」

 

兵士が空に向かって指をさすと、黒い点の様な物が遠くの空に浮かんでいるのが見える。兵士たちが首をかしげていると、突如閃光と共に城門が吹き飛び、瓦礫と化す。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

城門を開けようとしていた奴隷たちは、爆風に巻き込まれ、その殆どが即死し、少し離れていた位置にいた兵士たちも少なからず被害を受けた。

 

「木片が!脛を貫いた!ぐああああああ!!」

 

「何だ!?一体何なんだ!?」

 

「何だあれは!?空に何かいるぞ!!・・・・・っ!何か光った!?」

 

城門が吹き飛ばされた事で、出入り口が塞がれ、右往左往する兵士達に容赦なく重機関銃が空から降り注ぐ。

見張り員ごと櫓は吹き飛ばされ、頑丈な筈の城壁は積木のように簡単に崩され、隊列を組んでいた兵士たちは一瞬で肉塊に変えらた。

 

 

「弓兵!!空の化け物に矢を放て!」

 

「駄目です!遠すぎて当たらな・・・ぎっ・・・・!!!」

 

空に浮かぶ謎の物体に向かって矢を放っていた弓兵が悲鳴を上げる間もなく肉片と赤い煙に変えられ、その周辺が炸裂音と共に城壁ごと粉砕される。

 

「な・・・あ・・・あれは・・・羽虫!?」

 

気が付けば、巨大な羽虫の様な怪物が砦の上空を旋回していた。どうやら空に浮かぶ黒い点の正体は羽虫の化け物だった様だ。

 

「見ろ!あの化け物に赤い丸が塗られているぞ!!」

 

「馬鹿な!ニッパ族は、あの様な鎧虫を操る技術を身に着けていたと言うのか!?」

 

「何と奇怪な!まるで骨の様な姿をしている!」

 

「羽虫がまた炎を吐き出すぞーー!!!」

 

羽虫の頭部が発光すると、光の束が一直線に突き進み、次々と破壊と死がまき散らされる。

まるで落書きの様に地面には線が引かれており、その道筋には土に混ざり兵士の鎧や兜が混ざっていた。

 

「だ・・誰か!助け・・ひっ・・・や・・やめ・・・」

 

這いずりながら武器庫の扉まで逃げた将兵は、背後を振り返り、その顔が絶望に染まる。

 

AH-1Sコブラの横に備えられたTOWが武器庫に向かって尾を引きながら直進する光景が目に映ったのだ。

 

山岳上部に建設された砦に、止めを刺すべく発射されたミサイルは、派手に火柱を上げ、その効果範囲内の物体を蹂躙した。

 

 

砦に動くものがなくなった後、機銃掃射に加わっていたUH-1イロコイから次々とヘリボーンし、崩壊した砦に自衛隊が展開して行く。

 

 

「こりゃ凄まじいなぁ・・・。」

 

「まさに地獄絵図って感じだな。」

 

「生存者が居るなら、確保しろ、とは言ってもこれだけ空から浴びせれば生き残りなんて居ないだろうが・・。」

 

「連中から仕掛けて来たんだ、文句は言わせんよ。」

 

「畜生、暫く肉料理は食えないな・・・硝煙と血の臭いで鼻が曲がりそうだ・・・。」

 

「我慢しろ、しかし良くこんな場所に砦を建造したな、重機も無いのに大した根性だよ。」

 

「奴隷を馬車馬のように働かせたのだろう、見ろ、兵士に交じって粗末な服をきた死体が転がっているだろ?」

 

「あぁ、巻き添えを食ったのか・・・気の毒に・・・・しかし、奴隷か、戦争に敗北した国の国民の成れの果てと言った所か・・・。」

 

「この世界では未だに奴隷が労働力として使われている。負ける可能性はほぼ皆無だが、仮に負ければ俺達もこの奴隷たちの仲間入りと言った所だろう。」

 

「弱肉強食だな、俺達の国に喧嘩を売るって事がどういう事か連中にきっちりと示してやらんとな。」

 

「全く・・・転移後の混乱から体制を立て直そうとしている時に、ゴルグにちょっかいをかけてくるとは・・・。」

 

「ルーザニアは、講和に乗って来るでしょうか?」

 

「乗ろうが乗るまいが関係ない、無理やりにでも交渉のテーブルにつかせてやるんだよ。」

 

「また火達磨は勘弁だぜ?ゴルグの王族の二の舞は避けたい所だよ。」

 

「さて、俺達は西側から内部を探る、お前たちは反対側を頼むぞ!」

 

 

 

 

その日、ルーザニアの山岳砦は、複数の攻撃ヘリによって僅かな生存者を残し壊滅した。

山岳砦の陥落の報が届いたのは、大分後になってからであった・・・。

 

 

火災蟲イル・コウィ

 

 

ニッパニアが操る巨大な羽虫。

その腹には無数のニッパニアの兵士を治める空間が備えられているらしく、敵対する相手の上空から兵士を吐き出し、凄まじい速さで制圧する。

そして、自身からも強力な熱線を発射する事が可能で、灼熱の光の束が哀れな獲物に降り注ぎ、十を数えぬうちに地上は地獄と化す。

地上に兵士を下ろすと言う役割を持つ以上、目撃数が多く、その姿を見た兵士はたちまち戦意を砕かれると言う。

兵士の目撃談によると凶悪な力を持つ割には、ずんぐりとした姿を持つと言う。

 

 

 

 

飛毒蟲コルベラ

 

ニッパニアが操る巨大な羽虫。

彼らの国の言葉で「毒蛇」を意味する名を持つ異形の羽虫で、その姿は生首だけの毒蛇とも、蛇の頭蓋骨を抱える巨大な羽虫とも言われている。

その羽音は死者の調べ、その鳴き声は憤怒の咆哮、爆ぜるは大地を飲み込む赤き毒。

かの羽虫が現れた戦場では、大いなる破滅が訪れる、それ故に、かの羽虫をその目で見て生きて帰ったものは数少ない。

いずれにせよ、生存者たちは心神喪失状態かそれに近い者ばかりで、その全貌は謎に満ちている。

 

 

 

 

凶雷蟲アーヴァンチ

 

ニッパニアが操る巨大な羽虫。

彼らが操る羽虫の中でも最も恐ろしく、最も強大な力を持ち、古の時代に猛威を振るった戦士達の名を冠する戦闘種という。

流石のニッパニアとて、この羽虫を捕えるのは容易では無いらしく、彼らの保持する本種の個体数は非常に少ないらしい。

しかし、その強さは一騎当千。千の兵士を一瞬で肉塊に変え、堅牢な砦を一撃で紅蓮の炎と共に吹き飛ばす力を持つ。

全てを焼き尽くす圧倒的な暴力により、目撃者は殆どおらず、天から雷鳴と閃光を落とす骨のような羽虫とも、無数の火炎弾を放つ深緑の蜻蛉とも言われている。

目撃者は全て、体の大部分を欠損した状態で、僅かな情報を齎しこと切れたので、他の羽虫以上に謎に包まれている。

 


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