異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第66話   リーフブロワ―の恐怖

日本が大陸の拠点とする要塞都市ゴルグの一角に、異世界の動植物を研究する研究所が存在する。

主に未知の病原菌や危険生物の対策が最優先課題とされており、未知の感染症が日本に上陸する前に食い止めるための防波堤として機能する予定だが、未だに施設は整っておらず、増築が待たれる。

 

各地から捕獲した動植物を飼育する設備も間に合っておらず、要塞都市ゴルグの近辺でとれたものは、ある程度の観察が終わった後、自然に帰すこともある様だ。

 

 

「ふぅ、ここらへんの掃除は終わりだな、後は飼育施設付近か、無駄に広いから疲れるな・・・清掃員も増やしてくれないもんかねぇ。」

 

リーフブロワ―を使い、一か所に集めた落ち葉の山をビニール袋に詰め込み、焼却炉に放り込むと、軽く手を払い埃を落として、次の掃除場所に向かう。

 

飼育施設付近の街路樹由来の物と思われる、大量の落葉が絨毯の様に積もっている光景を前に、苦笑いしつつ、ため息をつき、リーフブロワ―を起動する。

 

 

一方、飼育施設内部にて・・・。

 

 

んぐ・・・ちゅぱ・・くちゅくちゅ・・・はぐはぐ・・・。

 

 

「なぁ・・・あの子さっきから何やっているんだ?」

 

「あぁ、太郎の事?少し前に自分の尻尾を追いかけまわしてグルグル回っていたんだけど、自分の尻尾を捕まえると同時に噛みついちゃってね、それからずっと舐めているんだよ。」

 

檻の中で飛竜の子供が、自分の尻尾を口に頬張ったり、舐めまわしている。余りにも長時間舐めまわしているせいで尻尾はベトベトになり、少しふやけてしまっている。

 

「ははははっ、馬っ鹿でぇ~~!自分で自分の尻尾を噛みついたってか?こりゃ傑作だな!」

 

クニュゥゥー・・・・アグニュゥ・・・はぐはぐ・・・。

 

「しかし、夢中だなぁ・・・もう痛みも引いているんじゃないか?」

 

「今度は尻尾を追いかける遊びじゃなくて舐めまわす遊びになっているみたいだな、可愛い奴め・・・。」

 

はぐはぐ・・・・ンギャ?・・・グルルルルルゥゥ・・・グゥゥゥゥッ!!

 

「ん?太郎?どうした?」

 

「何唸っているんだ・・・おいおい、震えているじゃないか、どうしたんだ?」

 

 

研究所の清掃員は、飼育施設付近の落ち葉をリーフブロワ―で一通り吹き飛ばした後、ビニール袋に詰め込み、軽く腰を叩く。

 

「あ~っ・・・疲れた、一人でやるには広すぎるっての、さて、報告に行くか・・・おん?」

 

ふと、窓から飼育施設内部を覗いてみると、研究員が何やら集まっている様だ。

 

「何かあったのかな?」

 

 

 

グルルルルルゥゥゥッ・・・グゥゥゥゥ・・・。

 

 

「どうした太郎?どこか体調が悪いのか?」

 

「震えている・・・何か怖い目に遭ったのか?」

 

 

クゥゥゥン・・・・ニャフン・・・・。

 

 

「おーい、何の集まりだ?」

 

「あ、掃除終ったのか?それよりも、太郎がおかしいんだよブルブル震えて蹲っているんだ。」

 

清掃作業が終わり、野次馬的に研究員たちの集まりに顔を出してみると、大きな獣が丸く蹲っており、不安そうな表情で震えている。

 

「風邪でも引いたのかな?」

 

ンギャッ・・・ふ・・・フーーー~~~~ッ!!グルルルルルゥ!グゥゥゥゥゥ!!!

 

「な・・・何だよ、何睨みつけているんだよ?」

 

飛竜の子供は、後から入って来た清掃員を睨めつけ、鱗や体毛を逆立たせている。

 

「太郎?どうした・・・って・・・あー、まさか・・・。」

 

「は?何?何で俺が睨まれているの?」

 

「それ、片手に持っている物、さっきからずっと起動しっぱなしじゃないか?」

 

ふと、自分の片手に握られているリーフブロワ―がいつの間にかモーター音を響かせて風を起こしている。

 

「これ?これでびびってんのか?」

 

グゥゥゥゥゥ!!!フゥゥゥゥゥッ!!ンギャン!ふーーーーっ!!

 

「うわー・・・色々逆立っているよ・・・毛玉みたいになっとる」

 

「早く止めてあげなよ・・・。」

 

「ほいほい、わかったよ・・・・って、あっ・・・。」

 

リーフブロワ―のスイッチを切ろうとするが、滑って床に落としてしまい、盛大に音を立てつつ跳ね返り、噴射口が飛竜の太郎のお腹に当たってしまう。

 

 

ずぶっ!ぶぼぼっ!!・・・ぷぅっ!

 

キャウゥゥゥゥゥゥン!!!???

 

リーフブロワ―から送り出される空気が肉を震わせ屁の様な音が響き渡る。

飛竜の太郎は、甲高い悲鳴を上げると、そのまま硬直し、床に生ぬるい液体を漏らしてしまう・・・。

 

「あーーーーっ・・・・やっちゃった・・・。」

 

余りにも未知の体験をしたために、飛竜の子供は恐怖のあまりに失禁してしまった、体は震えつぶらな瞳から涙がこぼれ始める。

 

クンクン・・・・。

 

「あ~・・・ええっと、その・・・ごめん・・・っていうか動物も泣くのか・・・。」

 

「いいから、さっさとそれ片付けて!後で反省文書けよ!」

 

クウゥゥゥン・・・。

 

「あ違うんだよ?太郎を怒った訳じゃないから・・・。」

 

 

その夜、清掃が終わった後の檻の中で、お漏らしをした場所の床をしきりに申し訳なさそうな表情で見つめる飛竜の太郎の姿が余りにも哀愁を漂わせていた。

 

この出来事の後、飼育施設付近はリーフブロワ―や掃除機を含む音を響かせる清掃具の使用は禁止され、昔ながらの竹箒が使われるようになったと言う・・。

 


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