巨大な地下洞窟の中に佇む城塞都市、それが彼らツチビトの住居であった。
自衛隊は彼らに案内されるがまま、城塞都市の門をくぐり、ひときわ大きい建物へ行くのであった。
『ようこそ、地底都市へ、済まぬがしばし待たれよ。』
建物の前の庭まで案内されると、白髪交じりの老人が扉の奥に消え、その待ち時間で自衛隊員達は、周りの景色を観察し始めた。
「まさか地下にこれ程の城塞都市が存在するとはなぁ・・・。」
「ゴルグの元の城壁は6~7メートルくらいの高さだったよな?ここのは少なくとも10メートルはあるぞ?まぁ、俺達が立てた奴よりは小さいが・・・。」
「それも誤差の範囲だな、しかし、これ程の防壁は一体何から守るための物なんだろうか?話を聞く限りでは、少なくとも外の人間にはあまり知られていない種族の筈だが・・・?」
「外敵から身を守るためじゃない?こんなに物々しい防壁を建造するんだから、ゴジラみたいな原生生物でも居るんでしょ?」
「・・・・あまり考えたくはないが、トワビトの集落付近で遭遇した前例があるからな・・・可能性としてはありかも知れん。」
自衛隊員の面々が、とりとめのない会話を続けていると扉が開かれ兵士を連れて白髪交じりの老人が戻って来る。
『待たせたの、それでは案内しようぞ。』
館の様な城の様な建造物を案内され、その道中、前後に引き連れて来た兵士がぴったりとついてくる、恐らく護衛と警備を兼ねてだろう。
ひときわ大きな部屋にたどり着くと、円卓・・・では無く、石造りの四角いテーブルに向かい合うように木製の椅子が並んでいた。
『遠路遥々のご来訪、ご苦労である、外部からの来客など久しく無かったが、まぁゆっくりしていってくれ。』
案内の時に同行していた兵士が、椅子に掛けるよう促すと、自衛隊員達はそれぞれ木製の椅子に腰を掛ける。
『話は聞いておる、お主らがニポンと言う国の使節だな?』
『えぇ、我々は日本国自衛隊です。この大陸の国々と交流を持つために、海の向こうからやってきました。』
自衛隊を案内した白髪交じりの老人は目を丸くして驚く
『なんと、それは初耳じゃったな!?海と言うのはあれじゃろ?世界の最果てまで続く尽きる事のない水溜りだと・・・。』
『えぇ、その海です。我が国は、この大陸から少し離れた場所に位置する島国なのです。』
『ふむ・・・では、そなた達が噂に聞く海の民とやらなのでないか?・・・むん?しかし鰭や鱗などは見当たらないが・・・?』
ツチビトの有力者たちは不思議そうに首をかしげる。
『いえ、我々は海の民ではありませんが、その海の民と交流を持ってはいます。』
『な・・・なんと・・・。』
ツチビト達は大いに驚き、暫く言葉を失う。外部と交流を殆ど持たないツチビトでも海の民の排他的な気質と目撃例の少なさは、風の噂で耳にしているのだ。
『海の向こうから来た島国、未知の種族と交流を持つニポン・・・か、大陸の国々と交流を持とうとしていると言っていたな?』
『えぇ、各地を回って交流を広げています。しかし、まさか地下にこれ程の国が存在しているとは思っていませんでしたが・・・貴方達とも交流を持ちたいと思っております。』
『むぅ・・・お主らの目的は本当にそれだけなのか?あの奇怪な鉄の蛇といい、お主らの身に着ける奇妙な魔道具といい、外交の為に訪れたにしては異様過ぎる。』
『我々は自衛官ですので、外交官ではありませんね。しかし、彼らに先立って接触するのが我々の仕事でもあります。』
『成程な・・・確かに我らは外部との交流を断っている、お主らが偶然この洞窟を調査しなければ接触も無かっただろうな。』
『正式に日本と交流をすれば、本国から外交官がやって来ると思います。所で、話をお聞きすると貴国は鎖国状態にある様ですが、宜しかったのでしょうか・・・?』
『うむ、鎖国と言えば鎖国であるが、積極的に外部と交わろうとしていないだけで、別段、この地下都市への往来を禁じている訳ではないぞ?』
『では!』
『うむ、そちらがそのつもりならば、正式に交流するのもやぶさかでは無い、それに、例の鉄蛇の他にも面白そうな物を扱っていそうだしな。』
ツチビトの老人はしわくちゃな顔で愉快そうに笑う。
『だが、外部には我らの事はあまり口外して欲しくない、厄介ごとは余り持ち込まないで貰いたいの。』
『分かりました、一応上にはその旨を伝えておきます。』
『唯でさえ厄介ごとを抱えているのに、外から悩みの種を持ち込むのはまっぴらごめんでのぅ。』
『厄介ごと・・・ですか?』
その直後、遠雷の様に地下都市の外から激しい音が鳴り響き、建物に微弱な振動を感じる。
「な・・・何だ今のは!?」
「地震?」
思わず椅子を蹴り上げる勢いで立ち上がる自衛官の面々、良く見るとツチビトも同じだ。
『噂をすれば何とやら・・・その厄介ごとが現れた様だ・・。』
『い・・・一体何ごとですか?』
『我らがこの洞窟に暮らし始めてから数百年、どこからか巨大な甲獣(グリプス)が現れてな、それ以来、不定期に襲撃を受けておるのだ。』
顔半分を覆うほどの髭に覆われているものの比較的若いツチビトが答える。
『まったく、お前らを連れてくる最中に遭遇しなくて良かったぞ、だが、間が悪いとも言えるな、悪いが暫く城門は開けない。』
赤銅色の髪を持つ男が額を抑えながら話す。
『甲獣?もしかして、あの分厚い防壁がこの街を覆っている理由って・・・。』
『そうだ、奴が原因だ。最初は土を固めた壁だった、そして何度も突破されるうちに現在の形にまでなったのだ、そこに至るまでの被害総数は凄まじい物だったよ。』
再び轟音が響く、今度ははっきりと解るくらいに揺れを感じ、パラパラと天井から粒が落下する。
『ふむ、音の位置的に丁度ここから見えるじゃろう、窓を見るが良い。』
オオオオオオオオオオオォォォォォォン・・・・・。
洞窟に反響して不気味な鳴き声が聞こえてくる。時折城壁の外側から土煙が上がる。
『あれは甲獣・・・・。』
『そうじゃ・・・奴こそ忌まわしき黒き甲獣・・・・黒鉄重甲獣(ベルグードグリプス)じゃ!!』
先ほどまでは温厚そうだった白髪交じりの老人は、射殺さんばかりに憎しみの籠った目つきで城壁の外の土煙を睨みつけていた。
ベルグードグリプス 通称:黒鉄重甲獣
和名:クロガネヨロヒムシクイ
大陸中心部を覆う様に広がる山脈に生息する中型の甲獣。
基本的には鎧虫を捕食するが、鉄鉱石や金属を多く含む殻を持つ木の実を食べることもある雑食性。
甲獣としては一般的な大きさの本種であるが、岩や砂に埋もれて長期睡眠する習性があり、
圧力で密集した外殻は他の甲獣に比べ非常に強固。
洞窟や峡谷などでの目撃例が多く、地面を削りながら獲物を捕食する姿は圧巻。
食物連鎖の上位に君臨するが、同種の縄張り争いや外敵からの襲撃で命を落とす個体も多い。
傷つくたびに強固に再生した外殻は鋼にも勝る強度を誇り、外殻は高値で取引されている。
とはいえ、この世界の技術では加工することが不可能なので丸ごと城壁に利用される。