大陸中央部を覆うように広がる山脈のとある洞窟を調査中に、謎の人物に蛇型ロボットを破壊されてしまった自衛隊は、拠点でロボットから送信されて来た最後の画像を検証していた。
「うっわぁ・・・・これは・・・怒るわぁ~。」
女性自衛官達から冷たい視線が突き刺さる、ロボットの操作を担当していた自衛官も眉間に手を当てて俯いてる。
「つまるところ、土の民の女の子の服に入り込んで、下半身にカメラ部分が到達したと・・・確かにロボットを破壊されても仕方がないな。」
「で・・・どうするんですか?これから彼らの集落に直接乗り込んで謝罪でもするんですか?」
「それは・・・するべきなんだろうが、難しい所だな、少なくともあれで警戒心を持たれてしまったのは間違いない。」
「この大陸の国々と交流を広げるのも我々の任務だ、土の民との接触は出だしが悪かったが、それでも交流を持つべきだと思う、ロボットは失われてしまったが、洞窟の調査を引き続き行うべきだろう。」
「それじゃ、ロボットが破損した時のプランで行くか?とは言ってもやる事は単純なんだが・・・。」
地底都市に帰った3人の土の民は、頭部が潰れた鉄の蛇を持ち込み、街の有力者たちと会議をしていた。
『これを見てくれ、中身を見ればわかるが、この蛇の様な鎧虫は、無数の部品からなる複雑な構造の人工物だ、生き物では無い。』
『人の手によって生み出された人工の鎧虫だと?実物を見るまで信じられなかったが、これは・・・いや、外に屯しているリクビトの物である確証はあるのか?』
『恐らくそうだろう、洞窟の外に居るリクビト達は、斑模様の鎧虫らしきものに乗って移動している様だが、生物らしからぬ形状をしている。』
『あの時は頭に血が上っていたが、改めてみると、凄い構造をしているな、この鉄蛇は・・・棘のついた車輪を組み合わせて関節を動かしているのか・・・。』
『・・・・・・・。』
『ペトラ、もう大丈夫かの?』
『うん・・・・平気、下着の上からだったから大丈夫だよ。』
『そ・・・そうか・・・。(そう言う事を言いたかったのではないのじゃが・・・うーむ、返答し辛いのう・・・。』
『こほん、兎に角、外に居る連中がついにこの洞窟に入り込み、この街に何れ到達すると言う事ですね?』
『それでリクビトの連中はどうするんだ?こんなとんでもない物を扱う連中だ、相当な手練れに違いないだろう。』
『戦闘は避け、彼らがこの洞窟に訪れた意図を聞き出す必要があります、もし、向こうが話し合いを持ちかけて来たらそれに応じるべきでしょう。』
『一応娘に危害を加えられとるんだがなぁ・・・まぁ、襲い掛かって来る様な連中なら頭を金槌でかち割る口実が出来ると言う物だが・・・。』
『モーズ、ペトラの事で頭に来ているのは解るが、乱暴はいかんぞい?もし連中が最初からそのつもりならば、もう既に襲撃されているだろう。』
『分かっている別に怒っている訳では無い、ただ、あの鎧虫を嗾けた奴が現れたらぶん殴ってやるだけだ、冷静にな。』
『お父さん・・・・。』
やれやれと、ジルバは呆れ顔をして、再び目線を町の有力者たちに向ける。
『さて、話を纏めるとしよう、もし彼らがこの洞窟に訪れこの街に来る様だったら、彼らの首領に話をつけ、この洞窟に来た意図を聞き出し、可能ならば立ち去って貰う、これで良いかの?』
『この洞窟を無視して立ち去ってくれるのが一番だが、恐らくはそうも行かないだろうよ、街の門を警備隊が固め、住民は街の奥に一時避難、魔術師部隊は防衛兵器をいつでも動かせるようにしておけ。』
『了解致しましたわ。』
『あぁ、門はがっちり固めておくよ。腕が鳴るな!がはははっ!』
『荒事にならなければ良いがのぅ。』
土の民の会議はまだまだ続く・・・。
「予備のプランって、結局俺達が自分で直接乗り込むだけかよっ!!」
「だから、やる事自体は単純だと言っただろうが、つべこべ言わずに手を動かせ。」
「暗視ゴーグルは装備した?それじゃぁ行くわよ!」
周囲の様子を伺いつつ洞窟を慎重に進む自衛隊、時折足場の悪さに尻餅をつく事もあったが、滑落防止のために壁にアンカーを打ち付け、ワイヤーで身体をしっかりと固定する。
「此処までが、蛇型ロボットの通った道か、ここから先は完全に未知の領域だな、気を引き締めろ!」
「了解!!」
「・・・・・っ待て、暗視ゴーグルを外せ、明かりが近づいてくる。」
暗視ゴーグルのスイッチを切り、ライトを点灯させ、近づいてくる光源に向かって照射する。
「土の民とやらのお出ましか、思っているよりも早かったな?」
「警戒を怠るなよ?発砲は禁止する、さて、どう出るか?」
洞窟に入り込んできた謎の集団に対して土の民の警戒心は最大になっていた。武装し身を固めているが、相手の実力は計り知れない、決して油断はできない。
『まさかここまで早く来るとはな、監視が伝えに来てもギリギリか、街に近すぎるな。』
『見れば見るほど奇妙な姿をしているな、あの光る魔道具もかなり高度な技術が使われているのだろう、これだけ離れていると言うのに何という明るさだ。』
『相手の武装は・・・杖?いや、短槍か?それにしても奇妙な形状をしているが、あの短槍も魔道具なのだろう、見た目で油断するなよ?』
『むっ、此方に近づいてくるぞ?・・・何やら妙な仕草をしておるの?手話か?』
『どうやら、向こうも話し合いがしたい様だな、さて、何を要求されるのやら・・・・。』
『あーっ・・・日本国、自衛隊、洞窟、調査しに来た、貴方達、此処に住んでいる人?』
『ニハン?ジエイタイ?何の話じゃ?』
「あ・・・普通に大陸共通語なんだ・・・それじゃ私が変わりますね。」
「おう、頼んだぞ。」
『えー、こほん、私達は日本と言う国からこの山脈の調査を行いに来た者達です。』
『ニファン?何とも呼びづらい名前の国じゃのう?』
『にほん、にっぽん、と呼び方は幾つかありますが、発音しやすい方で構いませんよ?』
『ニポンか、わかった、そっちの方で呼ばせて頂こう、して、この洞窟の調査と言ったかの?お主らに聞きたいのじゃが、これに見覚えはないかね?』
白髪交じりの老人が仲間に目線を送ると、奥にいた男がカメラ部分の潰れた蛇型ロボットを運んで来る。
『あー・・・勿論見覚えありますよ、それは、我々が作り出した調査用の鉄の蛇でして、人に変わって危険の多い洞窟などを調べさせる道具です。』
土の民たちは、驚いた顔をするが、赤銅色の髪を持つ男だけは眉間にしわを寄せ不機嫌そうな表情をしていた。
『成程な、俺の娘に鉄蛇を飛び込ませたのはお前たちだったのか・・・。』
赤銅色の髪を持つ男は鋭い目つきで自衛隊を睨めつけてくる。
『(あ・・・やばい、操作したの俺だとばれたら殺される・・・)』
蛇型ロボットを操作していた自衛隊員は、顔を青くし体中に嫌な汗をかく。
『その節は大変申し訳ありませんでした、あの鉄蛇を操っていたのは私です、うっかり滑らせて崖から落下させてしまい、娘さんに怖い思いをさせてしまいました。』
女性自衛官が前に出て頭を下げる。そして、蛇型ロボットを操作していた自衛官に目線を向け短い無言の会話をする。
「(後で食事をおごってね。)」
「(すまない、助かった、借りは必ず返す。)」
『ふむ・・・女・・・か、まぁいい、後ろに居る男連中だった場合は、軽く殴っていた所だが、悪気が無かった様だし、相手が同性なら娘の気も少しは和らぐだろう。』
『えぇ、次は気を付けます。』
『所で、はるばるニポンとやらからこの洞窟へ訪れた理由は何かな?調査とか言っていたな?』
『鉱物資源が無いかこの山に調べに来たのです。後は近隣住民との交流でしょうか?』
『近隣住民の交流・・・ねぇ、それは俺達も含まれるのか?』
『えぇ、勿論です。宜しければ貴方達の集落に案内していただけませんか?』
『ふぅむ・・・・。』
赤銅色の髪を持つ男は腕を組み考え込むが、白髪交じりの老人が代わりに答える。
『我々としてもやぶさかではないのぅ』
『ジルバ!?』
『あの鉄蛇を見て、少しばかりお主らに興味が湧いた。どうかねモーズよ?』
『・・・・確かに、彼らの技術力には驚きはしたが、得体の知れない連中を街に入れて良いのか?』
『なぁに、鉄蛇を実際に手にもって調べた連中は、未知の技術に興味津々でのう、鉄蛇を作った彼らの話も聞きたくなる筈じゃ、ワシ自身がそうなのじゃからの!』
『そうですか、とても光栄です。これがきっかけで日本との交流が深まる事を期待しております。』
『おうおう、では案内しよう!こっちじゃ!』
土の民の集団に案内され、洞窟の深部を目指し歩き続ける自衛隊、そして洞窟の中とは思えない広大な空間が眼前に広がった。
「・・・・・これは凄い・・・・。」
過去に大規模な崩落があったのだろうか、天井の一部が崩れた跡があり、ぽっかりと青空を覗かせ、地底の都市を太陽が照らしている。
『どうかね?驚いたじゃろう?まさかこれだけ、洞窟の深部で太陽を拝めるとは思っていなかったじゃろう!!』
『え・・・えぇ、物凄い光景です。』
見上げるほどの大きさの城壁に囲まれつつも、その城壁は洞窟の天井には届いていない、大きな城壁に見合った巨大な門には、2本の金槌が交差した意匠の紋章が描かれている。
『リクビトよ、見るが良い、これが我らツチビトが作り出した地底都市だ!』
『ツチビト?・・・・それが、貴方達の種族名・・・。』
『土の民にして槌の民、それが我々ツチビトじゃ!!』
ツチビトの集団は、門番と短い会話をした後、大きな太鼓を叩いて門の向こうに合図を送ると、重い響きと共に巨大な門がゆっくりと開き始める。
「は・・・はははっ・・・てっきり洞窟を削って作った住居に暮らしているかと思えば、とんでもない所に来てしまったな。」
「同感ね、さてはて何が飛び出てくるのやら・・・・。」
音が止み、ツチビトの集団は、先に進み、自衛隊の方に振り向き手招きをする。これから土の民と日本国の交流が始まろうとしていた。