異世界転移によって未知の世界に国ごと転移してしまった日本は、海の民と言う原住民と遭遇し、交流を持つようになっていた。
日本が転移した原因ともなる海底火山の活動の影響で彼等の国は壊滅状態に陥り、住居を捨てて逃げ出した生き残りの難民たちは、日本に保護してもらう事で滅亡を回避する事が出来た。
しかし、彼らの体内に宿る癒しの秘宝とも呼ばれる水の魔石を狙ってウミビト狩りに出る国も多く、大陸とは逆の方向にある伊豆諸島へと避難させ、日本が盾となっていた。
その過程で、水槽に入った状態で、陸路を進み日本国内を横断したウミビトも多く、その道中で日本に興味を持ち、不便ながらも陸で過ごす好奇心旺盛な者も居た。
「おや?ウルスラちゃん?まさか君とこんなところで出会うとはね。」
「あ、ニシモトキョージュ」
「西本でいいですよ」
「うん、ニシモトさんニシモトさん、まさか陸地でこんなに広い水たまりがあるとは思っていませんでしたよ!」
陸で生活を送るウミビトは、普段は水族館の様な巨大な水槽の中で過ごしており、街を見物する時は、車椅子などを使って移動している。
この少女もその好奇心旺盛な海の民の一人で、海の国でもそれなりの有力者の令嬢でもある。
彼女と交流を持つ異文化研究を専門とする西本教授が、行きつけのスポーツジムでバッタリ遭遇し、お互いに驚き、そのまま雑談する事になった。
「あぁ、ここはジムっていってね、普段体をあまり動かさない人が体を鍛えるために来る場所なんだ。」
「あのおじさんね、此処で一番泳ぎが速いって言うから、競争してみたの、でも私が勝ったんだよ?すごい?」
「まぁ、ウミビトは生まれながらに水泳の名手だからね(人魚と競争させられたのかあの人」
彼女が指をさした方向に視線を移すと、筋骨隆々とした海パンの男性がビーチ用の椅子の上で真っ白に燃え尽きていた。
「すごいでしょ?」
「あぁ、すごいすごい(棒)。そうだ、機会があったらお姉さん達も呼んであげなよ、気分転換にはなると思うよ。」
「うん、お父さまもお姉さまも、海の国のみんなも呼んで泳ぐの!」
「はは、みんな呼んだら流石にプールが溢れちゃうよ。」
海の民がスポーツジムのプールになだれ込む様子を想像し、思わず目頭を押さえてしまう。
「(しかし、こんな子供まで大陸の連中は狙うのか・・・人魚の肉が・・・不死の肉体がそんなに欲しいのか?)」
今でこそ笑顔を振りまいている彼女だが、初めて出会った時は緊張で顔が強張っており、余裕が無さそうであった。それはつまり、今まで度々陸の国々に襲撃され命を奪われる者も居たと言う背景があると言う事であり、同じく陸に住む我々に対して恐怖心を抱いていたという事であろう。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。(彼らは故郷を失った、だからせめて新しい拠り所だけでも・・・。」
不思議そうな顔で首を傾ける少女の頭を撫でると、スポーツジムに備え付けられた自動販売機からジュースを買い、少女に炭酸飲料をあげた。炭酸によるプチプチとした未知の味に目を白黒させている少女を微笑ましい顔で見守りながら、習慣となっているトレーニングをするためにプールを後にした。