異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第50話   蟷螂鋼

大陸沿岸部と中心部を分ける、深く、広く、暗い大森林、多くの国はその森に住む危険な魔物のせいで進出はおろか接近すらも困難で、国によっては禁域として指定されて居る事もある。

しかし、その森にはトワビトと言うリクビトから派生した長寿の種族が集落を築いている。

 

 

『いやぁ、しかし凄い量の鎌が手に入ったな。』

 

『古代重甲獣が鋼蟷螂を追い立てて来たおかけで、こっちは大被害だったが、幸い死傷者は出ず、鎌や甲殻を手に入れることが出来たんだ、結果的には良しとするべきだろう。』

 

山積みになった鋼蟷螂の前脚を眺めながら満足する初老のトワビト。

彼らは、もいだ前脚の中に詰まった肉を棒のようなもので、穿り出し、肉と外殻を別々の容器に移している

 

「あれ、何やっているんでしょうかね?」

 

「何か茹でたタラバガニの身を穿り出している様に見えるな、美味そうな匂いも漂っているし」

 

「ちょいと聞いてみるか」

 

『アンノー・・・すみませんガ、それ、何をする、もぎ取る、分ける、移す? 』

 

自衛隊員が大陸共通語で日焼けした筋肉質なトワビトに話しかける。

 

『ん?あ・・・あぁ、何をしているのかって?鋼蟷螂の鎌を集めて、金属塊を作るのさ』

 

『金属塊?』

 

『鋼蟷螂の鎌を溶かして固めると、蟷螂鋼(マティア鋼)と言う特殊な金属が作れるのさ、武具から工具、日用品など様々な物に使える優れものだぞ?』

 

 

トワビトの鍛冶師が、粘土や砂の様な物で作られた溶鉱炉らしき物が収められている施設を指をさして説明する。

 

 

『マティア、金属?鉄鋼とは違ウ?』

 

『テッコウ?ニーポニアの金属の事?それは知らないけど、青銅よりも頑丈で、粘りもあるのがこの蟷螂鋼さ、魔銅の剣でも打ち勝てる強靭さを持つんだ。』

 

『スティラマティア、ニホン、調べる、主に鉄だっタ、それ、多分、鉄鋼?』

 

『ニーポニアには鋼蟷螂が生息していないと聞いているよ、残念ながら蟷螂鋼は鉱石から作る物じゃないんだ、多分別物だろう』

 

『アー・・・・もっと、調べる、時間ガ必要。』

 

『鋼蟷螂は、金属質の生物を食べて鎌を硬質化させるからね、山から蟷螂鋼が鉱石として掘り出せれば良いけど、そう言った事は聞いていないしねぇ。』

 

『金属塊、少シ、分けて貰エル?』

 

『魔石と交換なら考えても良いよ、さて、鋼蟷螂の肉も茹であがったみたいだし、一緒に食べに行かないか?他のイクウビトさん達も集めればよいよ。』

 

その晩、トワビトの村に派遣されていた自衛隊は、トワビト達に誘われて、鋼蟷螂料理を振舞われた。

 

 

後日、サンプルとして蟷螂鋼を持ち帰った自衛隊は、研究所に依頼して調べてみた結果、原始的な鉄鋼と判明した。

トワビトの鍛冶師などの技術者に、技術交流の為に、マテリアル企業の作った幾つかのインゴットを渡し日本の製鉄技術に驚嘆する事になる。

 

『うぬぅ・・・・見た事も無い金属だ、これは本当に鉱石から作り出したものなのだろうか?』

 

『ニーポニアにはこれ程、強靭な金属を作り出す技術があると言うのか?もしや、あの火を吹く羽虫も・・・。』

 

「こっちとしては、生物の外殻にあれ程、高純度な鉄をため込むなんて正直信じられないんだけどね・・・。」

 

余談だが、この時期、一部のマテリアル企業が、魔鉱石の単結晶の精製に成功し、魔道具の部品に転用できないか研究中である。

 

 

 

 

蟷螂鋼 マティア鋼

 

トワビトが鋼蟷螂の鎌から作り出した原始的な鉄鋼で、荒野の民が使用する青銅剣よりも丈夫。

大陸の多くの国々が鉄器ではなく青銅器を使用しているが、森の民は、数少ない鉄器を作れる文明と判明した。

 


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