大陸中央部を覆うように広がる大森林地帯、魔力を多く含む土地の影響で異常に発達した巨木が光を遮り、部分的に夜のように暗い場所が存在する。
また、入り組んだ地形や、危険な生物も多く生息する為、調査があまり進んで居ない土地である。
例外的に、この森の原住民であるトワビトは、他の種族に比べて森の地形を熟知しており、地形調査をする自衛隊にとって大きな助けになっている。
『この先は、我らでも滅多に訪れる事が無い魔境だ、あまりにも危険な魔物が闊歩している、行くのは自殺行為だ。』
「えぇっと、この先は、危険生物がわんさか居るので行くのは自殺と同じだと言っているみたいです。」
「あぁ、成程、それでガイドさん汗かいているのね。こりゃ気を引き締めないといかんなぁ」
『それでも、お主らは、この先に進もうと言うのだろう?鋼蟷螂の群れを撃退し、国を滅ぼしかねない巨獣を打ち倒したその力、見せて貰うぞ』
「お手並み拝見だとさ、いやぁ、わくわくするねぇ」
「いや、嫌な予感しかしないのですが・・・」
『ここから遠目に見えるあの山には、以前この森を襲った鋼蟷螂の元々の生息地が広がっている、鋼蟷螂はむしろ食われる方の鎧虫でな、巨大な魔物が鎧虫を目当てに徘徊しているぞ。』
「ふんふん、成程、この前の蟷螂の化け物を餌にするようなデカい化け物も居ると?」
『流石に古代重甲獣を超える様な巨獣は居ないが、それでも十分に巨大だぞ?そして、数はそれなりだ、多くは無いが希少な訳では無い、まず遭遇すると見て良いだろう。』
『大丈夫です、前回の調査でこの森の危険生物の脅威度は十二分に検証しております。その為の重火器です。』
自衛隊員が仲間の背負っている筒状の物体、カールグスタフを指さしてガイドのトワビトに説明する。
「カールグスタフがあれば、大抵の野獣はイチコロだろうよ、そもそも野獣にこんな武器を使用するなんて想定されていないんだぞ?」
『アドル魔術長が言っていた火を噴く特大杖か、お主らの持つ魔術杖の大型版と言った所だろうか、それ程の大きさなら火炎魔法の威力も桁違いだろうな。』
トワビトのガイドが感心したようにカールグスタフを眺めながら頷く
「それでは、大森林の深部を目指して調査を開始しましょう!空からでは分からない事が多すぎます。」
調査を開始した自衛隊は、鬱蒼と生い茂る大森林の深部に向かう、大森林の中央部には巨大な山が存在し、そこには現地住民ですら立ち寄る事を躊躇う危険生物の生息地が広がっていた。
道中、未知の鎧虫に襲われたり、落とし穴と化した鎧虫の古巣へ同行していた生物学者が落下したりと、様々なトラブルに見舞われるものの、何とか目的地の山へ到着した。
「道中どうなるかと思ったけど、何とかなるもんだな、しっかしまぁ、随分と大きな山だ事。」
「形はそんなに綺麗ではないけどな、なんか中年のおっさんが横たわっているみたいだ。」
「そんなこと言っていると本当におっさんに見えてくるから止めてくれよ、取りあえず安全を確保した後は地質学者さんの出番だな、俺達はその護衛っと」
『見事な物だな、厄介な鎧虫として知られる、岩蠍を秒殺するとはな、我々がこれを倒すのに最低1つは魔石を使用しなければならないと言うのに・・・。』
『いやぁ、実際急所の眉間に火力を集中させていなかったら危なかったですよ?弱点を教えてくれて有難う御座います。』
『なに、ここら辺は我々にとっても未知の領域、お主らに同行する事によってこちらにも利益があるのだ、気にしないで良い。』
大森林中央部に聳える山には、今まで遭遇した異世界の生物の中でも異彩を放っていた、金属の膜をもつ苔やそれを貪るワラジムシの様な鎧虫、それを捕食する鋼蟷螂、そしてそれを捕食する大型の甲獣。
何れも体内に高純度の魔石を宿す生物ばかりで、荒野で見かける生物よりも比較的丈夫な体格を持つ様だ。
「ん?音が・・・・んぁっ!?上から何か来るぞっ!?」
『な・・・なんだこの魔物は!?』
「現地の人でも知らない生き物らしいです!!た・・・退避!退避!」
ギャオオオオオオオオオオオオオン!!
まるで全身が火成岩でできているような、ごつごつとした甲殻を持つ爬虫類が空から降って来る。まるで岩山の一部を削り取りそのまま蜥蜴に張り付けた様な歪な造形を持つ謎の大型生物が調査隊を獲物と見なし牙をむき出しにする。
タタタン!タタタン!と一定のリズムで、頭部を狙って銃撃するが、鱗を何枚か吹き飛ばすだけでまるで効果が無い様に見える。
「なんつー硬さだ!」
「カールグスタフを叩き込む!どいてろ!」
発射音と共に光の矢が岩の様な蜥蜴に向かって突き進むが、青白い光を発し粒子をまき散らしながらその巨体が宙を舞った。
「と・・・飛びやがった!?」
『馬鹿な、あの巨体で・・・・っ!!』
「え・・・・エーテルカイトかっ!?」
前脚に折りたたまれた翼膜を大きく開き、魔力の渦を発生させ、それに乗る様に飛行する巨大生物、丁度調査隊の真上に到達したころに、胸部が赤紫色に激しく点滅する。
『いかん!!』
光が胸から喉に、喉から頭部に移動し、口腔から光が漏れだす。そして目が眩まんばかりの光が辺り一面を覆いつくすと、轟音と共に放たれた強烈な電撃が、地上のあらゆる物を焼き、蹂躙する。
「うおおおおぁぁぁぁぁっ・・・・?・・・はっ?、・・い・・・・生きているのか?俺は?」
『何という威力だ、防ぐのに魔石を3つも使う羽目になるとは・・・』
気が付くと、トワビトの案内人が杖の先端に巻き付けた魔石を使って光の壁を形成し、光のドームが調査隊を包み込んでいた。
光のドームの外は真っ黒に焦げ付き、異臭が漂っている。
グルルルルルゥ・・・・。
巨大生物は、必殺のブレスが防がれた事で苛立たしそうな表情を作ると、岩山の壁面に着地し、威嚇する。
「お蔭で命拾いしたぜ、感謝する!」
「やってくれたな、こん畜生!まずは、動きを止めろ、スタングレネード!!」
壁に張り付いた巨大生物の眼前にスタングレネードを投げ込み、閃光を発し轟裂する。
ギャオオオオン!?
壁からずり落ち、地面に叩き付けられ、巨大生物は苦しそうにもがく
「装填完了、今度は外さない!!」
しかし、巨大生物は予想以上に早く体勢を立て直し、戦闘態勢に移ろうとしていた。
「なっ!?(自ら雷光を発するが故に閃光に耐性があったのかっ!!不味い!!)」
再び空を舞おうと翼が青白く輝き始めるが、翼膜に銃撃が殺到し、翼膜が穴だらけになる。
グァッ!?
魔力の渦を形成する器官に異常が発生し、暴発するように魔力の渦が片腕を跳ねあげ、そのまま体を岩壁に叩き付ける。
「今だ!!!」
2発目の光の矢が吸い込まれるように、巨大生物の胸部に飛んで行き、頑丈な鱗を吹き飛ばし、心臓を破壊する。
この世の物とは思えないほどの断末魔の叫びをあげ、辺りの空気がビリビリと震え、そして、巨体が力なく崩れ落ちる。
「終った・・・・のか?」
『この様な魔物が、大森林の深部に生息しているとは・・・・。』
「現地住民も知らないとなると、本当の本当に未確認生物だったという事か。」
「取りあえず解体した後、回収するぞ、森の入り口にトラックが待機している。」
『我々の先祖が育てたこの森は、この様な魔物すら生み出していたと言うのか・・・・。』
『たかが1000年でしょう?生物がその土地に適応進化するのに最低でも数万年はかかりますよ?』
『いや、唯の動物がその身に魔石を宿し、魔物へ変異する事もある、魔力がこの様に濃い土地では少なくとも3世代以内に変異し始めるのだ。』
『3世代・・・・つくづく地球の常識が通じない星ですな。』
『我々としては、魔力そのものが存在しない世界と言うのが信じられないがな。』
現地住民も知らない未確認生物を解体すると、試料運搬用のトラックが待機する森の入り口まで移動する・・・・しかし
「おい・・・・気付いているか?」
「あぁ、つけられているな。」
『獣の息遣いを感じる、山を下りる頃からか・・・・。』
「ガイドさんも気付いているみたいだね、でも、つかず離れずの距離を維持している・・・か、何者か?」
「一応回収部隊にも連絡済みだ、このまま追ってこなければ、それで良いのだが・・・・。」
薄暗かった森に光が差し始め、入り口が見えてくる、遠目だが、トラックが数台確認できる。
「おいおい、もう森の入り口だぞ?まだついてくるのか?」
「襲い掛かってくるわけでもなさそうだが・・・・仕方がない。」
調査隊の一人が無線で何かを呼びかけると回収部隊の待機する位置から発砲音が聞こえた。
ギャン!?
短い悲鳴と共に、調査隊の背後から何かが崩れ落ちる音が響く。
「さて、ストーカー野郎はどんな奴だ・・・・?」
悲鳴の聞こえた場所まで言ってみると、羽のついた麻酔弾が突き刺さったまま謎の生物が昏倒していた。
「ねぇ、こ・・・これってさっきの・・・。」
「いや、似ているが、少し小さいな。」
ギャフ・・・グルルゥ・・・。
調査隊は森の中央の山で回収した生物の死体と共に、山から調査隊を追跡してきた生物を生け捕りにし、大森林を後にするのだった・・・。
ベルク・ヴィヴルム 通称 鋼飛竜
和名:ヨロヒオオミズチ
大陸中央部と沿岸部を隔てる様に広がる大森林の中心に聳える山に生息する大型の爬虫類。
金属の外殻を持つ生物を岩石ごと捕食する事で、金属質の外殻を得た肉食動物で、体内に魔石と連動した発電器官をもつ。
電撃は大抵の金属質生物に有効なので、この山の食物連鎖の中でも比較的高位に位置する。
普段は前脚に折りたたまれている翼は、魔力を発する器官と連動しており、魔力の渦に乗る様に飛行する事が可能。
これは、ソラビトと全く同じ原理での飛行方法であり、地球上の生物よりも大きな体格の生物が空を飛ぶ事が可能である事を示している。
この生物の発見と同時に、見た事も無い巨大な飛行生物が存在するかもしれないと生物学者の間で様々な論文が書かれる事になった。