異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第45話   天空へ昇る巨塔

空はやや薄暗くなりつつあるが、照明によって昼の様に明るい会場、異世界の国々の代表や特使が日本のある孤島に集められ、祭りの様な騒ぎになっていた。

 

「え~~本日は、大陸の皆様に集まって頂き、誠にありがとうございました。」

 

『ニーポニア直々に我々を招集するとは、どういうことなのだろうか?』

 

『分からぬ、私はニッパニアが見せたいものがあると言って、この孤島に案内されたのだが・・・。』

 

「この地に我が国日本が転移して、多くの時間と資金と資源を費やし、遂に実現しました。」

 

『ニパンの言葉は、まだそれ程理解できん、演説の内容くらいは、大陸標準語で話してほしい物だが・・・。』

 

『私も部分的にしか理解できぬが、なにやら大きな偉業を残すべく何かをするらしい・・・。』

 

「従来の人工衛星は打ち上げ後の姿勢制御に制限がありましたが~~~・・・・」

 

『っ・・・あれは、我が怨敵の帝国ではないか、奴らもこの国の招集に応じたと言うのか?』

 

『ふん、3つの小国を手中に収めたからと言って、帝国を名乗るだの身の程をしらぬ、ここがニッパニアで無ければ首を跳ねていた物を・・・。』

 

「新型の魔石機関を搭載する事で、半永久的にエネルギーが供給され続けるので~~~・・・」

 

『しかし、ニーポニアの料理は美味いな、これ程贅沢に香辛料を使用した料理など、滅多な事では味わえんぞ・・・。』

 

『この黒い茶も中々良いな、単体では苦みが強いが、この白い液と粉を混ぜる事で、まろやかな風味になる。』

 

『白くて甘い粉状の調味料など聞いた事も無い・・・一体何で出来ているのだろうか・・・。』

 

「そして、人類初、そして新世界(アルクス)初の魔石搭載型人工衛星打ち上げとなります。」

 

 

「それでは、皆様、カウントダウンがそろそろ終わりに近づいてきました、H-ⅡAロケットの発射まで残りわずかとなります。」

 

 

既に暗くなっていた空は、更に暗さを増し、星が見えつつあるが、その暗闇を切り裂くように、巨大な塔の様な物がライトアップされる。

 

 

『なんだ、あれは?』

 

『前から気になっていたのだが、あの塔は一体何だ?金属の塊で出来ている事は理解できるが・・・。』

 

『巨大な祭壇なのかもしれぬな、あれ程の大きさの触媒で儀式をすれば、何が起きても不思議ではない』

 

『ま・・まさか、あの塔を使って、我らを幻惑魔法で使役するつもりなのでは?・・・くそっ、迂闊だった!』

 

「それでは、カウントダウンに入ります、ここから見えるあの建物にご注目ください。」

 

 

10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・リフトオフ!!

 

 

突如、先端の尖った塔の様な物体が、爆炎に包まれたと思いきや、その巨体が炎を吹き出しながら空高く飛び上がる。

 

 

『なっ!?何だあれは!!??』

 

大陸の国々の代表達が、その光景に釘付けになる。

 

やがて、炎を吹き出しながら上昇する物体は、雲を突き抜け、本来ならば暗闇に包まれている筈の空を夕暮れの様に照らしながら、なおも突き進む。

 

 

『ニーポニアは・・・異空の民は・・・あの様な物を作り上げる事が出来るのか・・・?』

 

『彼らは、神か・・それとも、魔か?』

 

 

徐々に、火を噴き空を飛ぶ塔の様な物体の音が遠のき、夜を夕暮れの様に照らしていた光も消え、大量の煙だけがその場に残された・・・。

 

 

「では皆様、こちらを、ご注視ください。」

 

 

会場の隅に設けられた、大型スクリーン(大陸の代表達には何かの飾りに見えていた)に映像が映され、何やら図形の様な物が表示されていた。

 

 

「固体補助ロケット第1ペアは既に燃焼終了しており、固体補助ロケット第1ペア分離中です。」

 

勿論会場に居る大半は、その内容を理解できていない、しかし、彼らは黙って演説を聞き続けた。

 

「SRB-Aの分離画像が届きました、無事に分離しましたね。」

 

『何という光景だ・・・・この様な高さで地上を見下ろす事になるとは・・・。』

 

『あの塔は、ここまでの高さに打ち上げられたと言うのか?ありえん!』

 

「衛星フェアリングの分離の様子です・・・・ひすい1号、分離成功です。」

 

魔鉱石の青白い光を放ちながら、形状を変化させながら離れて行く奇妙な物体・・・異空の民は、ヒスイイチゴウと呼んでいる様だが・・・。

 

「新世界(アルクス)の地形の情報収集や、気象観測など、これからも衛星を打ち上げ続け、新世界の発展に努めようと思います。」

 

『・・・・・。』

 

「それでは、有難う御座いました!!引き続き、お食事をお楽しみください。」

 

 

 

打ち上げに関わったスタッフは、お祭り騒ぎではしゃいでいる様だが、大陸の国々の代表達は、お通夜の様に沈んでいた。

ある者は、放心状態で空を眺め続け、ある者は、唇を青く染めて頭を抱え込み、ある者は、魅入られた様にうっとりとスクリーンを眺めている。

 

 

後に、この島で起きた事を代表達は、それぞれの祖国に伝え、日本の得体の知れない力を恐れた大陸の国々は、連合軍結成の件を見送る事にした。

 

 


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