異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第44話   国交への道

「ニッパニアからの特使だと?」

 

異世界の大陸のとある小国にて、数匹の鎧虫に乗った斑模様の兵士が接近中と言う情報を聞き、その国は色めき立ったが、

彼らの目的は、国交を正式に結ぶために訪れたと言う。

 

「異形の鎧虫と兵士の護衛が多数、そして、ニッパニアの外交官です・・。」

 

「ぐっ・・・対・ニッパニアの為の連合を結成しようとしている時に・・・。」

 

「未確認情報ですが、連合を組む予定の国々にもニッパニアの特使が訪れているみたいです。」

 

「・・・・成程な、ニッパニアは複数の国を敵に回すよりも、味方に引き込んでしまうほうが良いと判断したのだろう。」

 

「なんとも狡猾な種族です。」

 

「ふん、流石のニッパニアも危機感を抱いたか、しかし、此方に大きな利益が無ければ、突っぱねてやるわ」

 

 

城門が開くと、鎧虫が独特の唸り声を上げながら、街道の石畳の上を走り、街の住民は、驚いて建物の中に逃げ込んだり、

異形の鎧虫と兵士を興味深く観察していた。

 

 

「日本国ゴルグ行政代行官にして今回特使として派遣されました山崎由紀です」

 

「ほほう、ニッパニアには女性の外交官もおるのか、遠路はるばるご苦労だったな。」

 

「ヤマザキ殿、このお方が、この国を治める国王です。」

 

「うむ、このまま立ち話も何なので、城の会議室で続きを話そうか・・。」

 

 

特使と言うのだから、少なくとも凶行に及ぶ事は無いのだろうが、万が一に備えて、監視と牽制を兼ねて数名の兵士を部屋の片隅に立たせる。

 

「では、早速ですが、対等な立場での国交を結びたいと思います。」

 

「貴国と国交を結ぶ事は吝かではないが、大陸に訪れてすぐ、ゴルグガニアを武力で制圧し、その手中に収めたと聞くが・・・。」

 

「日本は、貴国と争うつもりはありません、それに、その指摘に関しては日本に非は有りません。」

 

「ほほう?」

 

「ゴルグと国交を結ぶために、特使を派遣したものの、騙し討ちに遭い、使節団は全滅、拷問を受け、我々に見せつける様に城壁へ遺体を張り付けたのです。」

 

その話の内容に、国王は少なからず驚いた。特使を騙し討ちし、死体を晒すなど、まともな国ならばやらない、ましてや碌に戦力も分からぬ未知の国相手で・・・だ。

 

「ふむ、しかし、その様な情報は聞いていないが・・・。」

 

「特使の遺体が晒されていたのは、我々がゴルグを陥落させるまでの間の短期間でしたからね、現在は、本国の墓地に納骨されております。」

 

「さぞ無念であっただろうよ、ニッパニアがゴルグガニアを攻めるのも理解できる、その話が本当ならばな。」

 

「余りこういう会談の場で見せるべきものではないのですが・・・・仕方ありませんね・・・。」

 

山崎特使が懐に手を伸ばし、部屋の隅に立っていた兵士が、剣に手をさり気なく添えるが、彼女はそれに意にもせず、白い石板の様な物を取り出した。

 

「・・・・・これを・・・見てください。」

 

山崎特使が、魔道具と思わしき石板を操作すると、少し目を背ける様にしつつ石板を差し出す。

 

「こ・・・これはっ!!!?」

 

石板に映し出されたのは、焼け焦げ、血にまみれた死体が城壁に吊るされている絵だった、その惨たらしさ去ることながら、

その絵はまるで、その場面をそのまま切り取ったかの様に精巧に描かれていた。

 

「焼け焦げた死体に、損傷が激しいとはいえニッパニアの服と一目でわかる衣装、そして、これは間違いなくゴルグガニアの城塞。」

 

「写し絵、もしくは、写真と言う物です。その風景の一部を切り取る道具と言いましょうか・・・。」

 

「シャシン・・・・ニッパニアには、この様な魔道具があると言うのか・・・しかし、この光景は・・・・。」

 

周りの兵士も、遠目から確認できる石板の絵に驚きつつも、ゴルグガニアの行った蛮行に怒りを感じ始めていた。

 

「貴国の言い分は理解した、だが、その上で貴国は我が方に何を望まれるか?」

 

「我々が求めるものは以下の通りです。」

 

 

:両国は互いに独立した国家であることを認める。

:両国は互いの国境を峡谷に流れる大河とする。

:両国は交易協定を結ぶ。

:両国は互いの安全を保障する相互不可侵条約を結ぶ。

:両国は互いの国に大使、並びに領事を派遣し自国民の権利を保障する。

:両国は正式に国交を結ぶにあたっての法整備をする。

 

「ふむ、妥当な内容だな・・・。」

 

「日本国は必要とあれば、あなた方の要請次第で支援や援助などを行う用意も御座います。」

 

「それは有り難いな、それならば我らも、力になれる事があれば手を貸そうぞ?」

 

「有難う御座います。」

 

ふと、何か思い出したかのように手を叩くと山崎特使は、視線を後ろの扉に移す。

 

「あぁそうでした、我が国から贈呈品が御座います。」

 

暫くして、広間に次々と鎧虫の荷台から降ろされた色とりどりの鮮やかな布や、工芸品などが並ぶ

 

「これは・・・何と見事な・・・。」

 

「それは、ガラス細工と言います。この大陸では珍しい物かと・・・・」

 

「ニッパニアにはさぞ優秀な職人が居るのだろうな?」

 

「えぇ、それも沢山です。」

 

「素晴らしいな、この様な国と国交を結べるのならば、我が国も現在よりも発展が望めるだろう。」

 

「ただ交易をするだけでなく、日本の技術を広く伝えたいと思います。」

 

「ニッパニアの技術とな?だが、その様な物を外部に漏らして良いのだろうか?」

 

「農業技術から、採掘技術など、他にも様々な技術を提供いたしましょう・・・その代り・・・」

 

 

会談が終わり、日本の特使が帰ると、国王は頭を抱えて椅子にもたれかかるのであった・・・。

 

「まさか、自国だけでは食糧を賄いきれないとは・・・・あれだけ強力な国が・・・。」

 

「意外でしたね・・。」

 

「ニッパニアの農業技術の内容が本当ならば、同じ面積で今の数倍は収穫量が見込めるが、その殆どを買い叩かれては・・。」

 

「最初に抱いた印象とは、また別な意味で狡猾な種族の様ですね。」

 

「ぬぅ・・・ヤマザキ特使が言うには、収穫量によってニッパニア側も輸入量を減らすと言っていたが、総合的にみると国民に食わせる量が以前よりも減ってしまうぞ。」

 

「ニッパニアから沢山の外貨が手に入るのは魅力的なのですがね・・・。」

 

「連合を組む予定だった国々も似たような事を言われているのだろうと思うと、何とも言えない気持ちになる・・・。」

 

「ニッパニアと相互不可侵条約を結べただけ良かったと思いますがね、あの国との戦に備えなくて良くなるのですから。」

 

「そうだな・・・・だが、ヤマザキ殿が最後に言っていた言葉が気になるな・・・。」

 

「他の国の代表者や特使をタネガシマと言う孤島へ招待する・・・ですか・・・。」

 

 

 

 


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