ギュオオオオオオオオオオン!!
猛獣のような雄たけびを上げつつ、高速で羽を回転させる巨大な羽虫、その羽虫の頭部から連続して発射される光弾が、相対する羽虫に着弾し、煙を上げる。
しかし、先ほど追尾していた羽虫が視界から急に消える、否、急減速したお蔭で目の前から消えた様に感じたのだ。
ババババババババババ!!
甲高い音共に放たれた光弾が、背後から浴びせられ、ついに耐久限界を迎え爆散する。
戦果を確認する様に旋回しながら、異形の羽虫は、太陽の光を反射させながら雲海へ潜って行く・・・。
「いやぁ、まさか大陸で映画が見れるとは思っていなかったよ。」
「下に出ていた文字は、大陸で荒野の民が使っている言語か?」
「そうそう、娯楽も少ないから、現地民も興味津々、チケットも現地通貨に合わせて安価に設定されているから、売り切れ御免状態さ」
「でも、これ少し前の映画だろ?最新作の映画は上映されていないみたいだし・・・。」
「贅沢言うなよ、個人シアターをちょっと大きくした程度の規模ではあるが、スピーカーにも金かけて重低音バッチリだし、そこら辺は目を瞑るもんだよ。」
「安価に設定しているのもそういう背景があるという事か、まぁ、良い暇つぶしにはなったよ。」
ぞろぞろと、上映が終わって、規模の小さい即席映画館からゴルグの住人が出て行くが、その中にローブで身を包んだ人物が裏路地に向かって行き、
同じような黒ずくめの衣装を身にまとった集団と合流した。
「ニッパニアの劇とやらは楽しめたか?」
「いや、驚きすぎて楽しむ余裕も無かったな。」
「あの施設で何が行われていた?」
「上から垂れ下がった布に、魔道具から色のついた光を照射する事で、動く絵を映し出す物だ。」
「動く絵・・・とな?」
「ニッパニアの兵士に聞いてみたが、何枚もの透けた獣皮紙に絵を描いて、それを高速でめくり続ける事で、あたかも絵が動いた様に見せるらしい」
「獣皮紙をそれ程までに調達できる資金力があると言うのか?」
「いや、正確には獣皮紙ではない未知の素材だったが、何にせよ、我々の理解の範疇を超える技術で作られているとみて良いだろう。」
「して、肝心の劇の内容は・・・?」
城塞都市ゴルグに訪れた密偵が、日本の上映した映画の内容を仲間に伝えると、渋い顔で顔を見合わせて口を開いた。
「あれは、恐らくニッパニアで実際に使われている魔導兵器の絵だろう。」
「空を飛び、狙った獲物を引き千切る致死の閃光、ゴルグガニアを襲撃した部隊に大打撃を与えた物と同質ものと見て間違いないな。」
「唯でさえ常識外れの火力を有しているのにも関わらず、空を自由に飛び回り、大地に死を降り注ぐ羽虫か・・・・。」
「幾ら近隣諸国と連合を組んだとて、敵う筈も無し・・・・か。」
「国に戻り、この事を伝えなければな、連合軍結成の件は見送るべきだろう。」
「そもそも、新たに建設されたゴルグガニアの防壁が完成した時点で手遅れだったのだ、いや、防壁が無くとも、ニッパニアを打ち破る存在などこの大陸には無い。」
「ニッパニアに動きが見えないのが不気味だが、動ける内に動いておくべきだろう、状況によってはニッパニア側についた方が賢明かもしれん。」
黒ずくめの密偵達は、商人風の服装に着替えて、馬車に荷物を詰め、旧城門をくぐり、その外に新設された新防壁の門へと向かうのだった。
「(・・・・しかし、あの動く絵の劇の内容・・・・続きが気になるな・・。)」
実際に映画を見た密偵の一人が心の中でつぶやくと、祖国にニッパニアの情報を伝えるために帰路へと急いだ。