異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第42話   不思議作物(卑猥風味

日本が空中大陸に拠点を設けてから暫くして、ソラビトが修理できなかった遺跡都市の修繕が大分進み、空の民の活気が満ちていた。

 

「それにしても、このジュウキと言う物は凄まじいな。」

 

「本当に凄いです、これ程大きく力強い魔道具は、私たちがリクビトだった頃ですら作れませんでしたよ!」

 

「いやぁ、むしろ、人力でこれ程の建造物を作り上げた事に私たちは驚嘆しておりますね。」

 

「あいや、我々がリクビトの姿を維持していても、この工事は年単位を要したであろうな、それをたった数か月で成し遂げるとは、何たる偉業!」

 

「はははっ、大げさ過ぎますよ。」

 

「ご謙遜なさらずに、私たちはニフォンに心の底から感謝しております。」

 

「どういたしまして、さて、これから如何なさいますか?」

 

「ふむ、悩みの種だった気候制御装置の修復が完了したので、諦めかけていた農地の拡大をしようと思っていてな。」

 

「作物の種は、保存庫にそのままの状態で保存されております、恐らく植えれば直ぐに発芽し、根を伸ばすかと・・・。」

 

「ほほう、空の民の作物ですか、それは興味深いですね。」

 

「では、そろそろ昼食の時間なので、食後に保存庫へ向かいましょうか。」

 

空の国に設けられた、日本大使館で、昼食をとると、遺跡都市の中心部にある保存庫へ向かった。

 

「いやぁ、ニフォンの料理は素晴らしいですね、パスタなる穀物を糸状にした料理など思いつきませんでしたよ?」

 

「あぁ、あれは正確にいうと日本料理じゃないんですけど・・・ナポリタンは日本生まれだけどね。」

 

「ふむ、よくわかりませんが、原型は元の世界と交流していた国の物・・・なんでしょうか?それにしても、あの味は素晴らしい物でしたが・・・。」

 

「いや、私も本場のイタリアンは食べた事ないんですけどね。」

 

「さてさて、話をしているうちに目的地につきましたぞ?」

 

話をしながら歩いていると、石でできた建物と更に重厚な分厚い石の門が、見えて来た。

 

「これが保存庫・・・しかし、これだけ重そうだと、扉を開くだけでも一苦労ですね。」

 

「ふふふっ、そう思いますでしょう・・・。」

 

魔術師の少女がそう呟くと、爪で石の門をカリカリと擦る様な動作をした後、青白い光の線が脈打つように門の表面を走り抜けると

門は、細かいキューブに分解し、パズルの様にスライドしながら入口の壁と同化する。

 

「す・・・凄い・・・。」

 

「いや、取っ手がありますから、普通の扉みたいに開く事が出来るんですけどね?私達は非力ですから、魔法で開く手段も残していたのですよ。」

 

「うむ、リクビト時代は、そのまま開いていたが、今の姿ではあの方法でしか開閉しておらんのだ。」

 

「何というか、無駄なところに無駄に拘っていますね。」

 

「ニフォン風に言えば、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きと言うのだろう?」

 

「先人たちは、こういう遊び心も持ち合わせていたんでしょう、魔法でそのまま横にスライドさせた方が簡単なのに。」

 

「ささっ、作物の種が保存されている部屋は、この奥ですよ、行きましょう!」

 

 

ソラビトに案内されるまま、保存庫を歩いていると植物を思わせるデザインの紋章が描かれた石の扉の間にたどり着いた。

 

「この部屋です、扉を開きますよ。」

 

保存庫の入り口と同じく、細かく分解しながら開く作物の種子が収められている部屋の扉、そこには沢山の壺が並んでおり、その壺には空の民の文字で品種名が書かれている。

 

「今度植えようとしている作物の種子なんですが、これを植えようと思います。」

 

少女の両手に掬い取られた黒く楕円形の種子、どことなく小さな柿の種を思わせる形状をしている。

 

「ほうほう、どの様な物が育つのですか?」

 

「根菜類ですね、パルル・トテポチカといいます。」

 

「か・・・変わった名前ですね・・。」

 

「外側は、ニフォンでいうダイコンみたいに固いんですが、中心部はプルプルして甘いんですよ!」

 

「は・・・はぁ・・・。」

 

「こっちは、ニュニュポ・ポニュチカと言います、こちらはニフォンでいうジャガイモみたいな形状で・・・。」

 

「あぁ、えっと・・・。」

 

「表面は、意外とふにゃふにゃしていて、一対の塊根があって、中身はつるりと白い球があって、取り出すとにゅるん とでんぷん質の・・・。」

 

「なんだろ・・・名前もさることながら見た目も卑猥そうな・・・。」

 

「ん?何か言いましたか?」

 

「い・・・いえ、何でも・・・。」

 

「顔が赤いですよ?大丈夫ですか?」

 

「お・・・お気になさらず・・・。」

 

「そうですか?・・・とりあえずニフォンが直してくれた気候制御装置があって初めて育てられる作物なので、とても楽しみです。」

 

「お望みならば、ニフォンにも種子をお分けしますぞ?ニフォンは農業も発達していると聞きますからな。」

 

「本当ですか!?こちらの世界の作物の調査が進んで居なかったので、試料提供は助かります。」

 

しかし、内心は、日本で卑猥な形状の作物が育てられるのは嫌だなぁ・・・と思いつつ、作物の種子が収められた壺を眺めるのであった・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルル・トテポチカ 通称:甘汁根

 

和名:ウナギダイコン

 

先端が丸く膨らんだ白く太い主根とダイコンの様な葉を持つ根菜。

空の民の保存庫で保存されているが、原始的ながら品種改良がされており、大陸で育てられている原種よりも巨大。

表面の皮は渋く、食用に適さないが、内部はゼリー状で、味は米を噛み続けたときに感じる甘味に似る。

アロエの様に食物繊維の塊であるが、糖分を多く含み、ビタミン・ミネラルなども豊富で栄養価も高い。

ある程度温かい気候でないと、育たないが、日本の気候では普通に育てられるので、新種の作物として注目が集まっている。

・・・・・見た目的な意味でも。

 

 

ニュニュポ・ポニュチカ 通称:双球芋

 

和名:フタタマフクロイモ

 

ジャガイモの様な外見の塊根を二つ作るイモ類で中心部はヌルヌルした粘膜で覆われたデンプン質の部分がある。

表面は稲荷ずしの皮の様な触感で、引っ張ると容易く破け、粘液と共に可食部が転がり落ちる。

生のままでは、無味に近くドロドロして食べられたものではないが、茹でると、モンブランの様に甘くてふわりとした食感になる。

ビタミン類は左程でもないが、糖分を多く含み、珍味として大陸でもごく少数育てられている。

ある程度の温かさと、大量の水を要するので、育てるのが難しいが、水源さえ確保できれば量産が出来るかもしれないと注目が集まっている。

・・・・・見た目的な意味でも。

 

 

 

 


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