大陸のとある小国にて、異世界から現れた謎の国で作られたと言う小さな小箱が話題になっていた。
「見てください、この小箱を」
綺麗に髭を整えた貴族が、布の上に大切そうに置かれた小箱を開き、箱の中身を指さす。
「この通り、金属の細い板が敷き詰められ、小物入れには使えそうもないのですが、この部分を回すと・・・。」
・・・ピロロン~~♪ポロロロン~~~♪
「突起のついた金属の筒がゆっくりと回転し、金属の板を弾いて音楽を奏でるのです!」
「これは・・・素晴らしい、一体どこの誰が、この様な物を作り上げたのだ?」
「それが・・・ウミビトの海域に突如として出現したかの国の物の様で・・・。」
「ジャー・ポニスか!?」
顎から胸まで届く髭を伸ばした貴族が驚きの声を上げる。
「えぇ、部下を使って、この小箱の生産者を探し出すよう命じたのですが、これを取り扱っていた行商人を拷問してやっと出所を掴んだと思いきや、よりにもよってあの国とは・・・。」
「むぅ・・・ジャー・ポニスの小箱を作る職人はゴルル・ガニスに訪れているのだろうか?」
「密偵をゴルル・ガニスに送ってはいるものの、その様な物を作っている職人は居なかった様ですね。」
「つまり、ジャー・ポニス本国で作られたものが、荷揚げされているという事か」
「残念です、もしその様な職人があの城塞都市に店を開いていたのならば、他国に先を越される前に連れてくるのですが・・。」
「多少強引にでも連れて来いと命じたい所だが、あの国は、元の国民でないゴルル・ガニスの住民ですら傷つけられると激昂するらしいじゃないか?」
「なに、そんな物、街を襲った盗賊連中の戯言でしょう、あれだけ大きな国です、人が数人消えた程度気にしないでしょう、」
「もし、仮に噂が事実ならば、我々もゴルル・ガニスの二の舞だぞ?かの国の民は、慎重に扱うべきだ。」
その問いに、かすかに鼻で笑うと、整えた髭を指で弾きながら答える。
「馬鹿げています、優れた職人とは言え、貴族でもない下賤の者に、国が総力を挙げて戦いを挑みますか?」
「しかしだな・・・。」
「それに、国交を持った国ですら、双方とも人が消えるのは日常茶飯事です、一々そんな誰も気にしない様な事で軍を動かしては、災厄をまき散らし、多くの国々から信用を失うだけで利点が無いです。」
「うむむ・・・。」
「何にしても、職人があの城塞都市に訪れていない以上は、ジャー・ポニスから輸入する他ありませんな。」
「そうだな、金を出せば、正当な手続きの元で取引が出来る、一番リスクが少ないやり方だ。」
「しかし、我が国の鍛冶職人の尻を蹴り飛ばしてでも、同じものを作らせなければなりませんね。」
「それをするにも現物が何個も無ければ話にならんな、多少の出費は覚悟してこの小箱を輸入しよう。」
「そうですね、商人を経由すると高くつきますので、部下にジャー・ポニスと直接交渉をさせましょう。」
後に、とある小国で、優れた職人が何人も謎の死を遂げる事件が発生するが、真相は不明のまま。
街工房の関係者は、その話題に関して答えず、口を噤んでおり、一説では、異界の民が作った、音楽を奏でる小箱が関係していると言う・・・。