かつて、大陸の中でも比較的力を持った国だったゴルグガニア、日本の使節団を虐殺した事でかの国の逆鱗に触れ、一度は滅ぼされたが、
日本の統治の元、復興を始めていた。
しかし、城塞都市を覆う巨大な防壁は自衛隊の火砲などにより無残に破壊され大穴が開いており、修復されずにそのままになっていた。
だが、城塞都市に住まう住民たちに不安の色は薄く、自衛隊に対する恐怖心はあるものの、平穏に暮らしていた。
と、言うのも・・・。
「なんだ・・・これは・・・。」
自衛隊によって破壊されて機能を失った防壁を覆うように、正六角形に城塞都市を包む様に作られた更に巨大な新防壁が、
この世界の常識では考えられない速度で建設されていたのだ。
「ゴルグガニアの防壁が破られたと聞いたので、様子を見に来たが、こんなものが新設されているとは思わなかったぞ」
「これがニッパニアの力だと言うのか?馬鹿な、あり得ない!」
遠目からでも確認できるほどに巨大な灰色の壁は、何の石材で作られているのか不明で、のっぺりとしている。
「しかし、これではっきりした事がある」
「あぁ」
「ニッパニアはこの大陸に覇を唱える気だ、あの街を拠点に勢力を広げるに違いない」
「あれ程の防壁を築き上げるのだ、大きな戦の前準備とみて間違いないだろう」
「あの国は危険だ」
「あぁ」
「だが、いかに狂暴な猛獣でも付け入る隙はある、あれを見ろ。」
日本が新設した六角形の防壁の内側に、修理されずにそのまま放置された旧防壁が薄らと見える。
「あの破壊痕、己の命を犠牲に行使する自爆魔法の物と酷似している、全力であの街を奪いにかかったのだろう」
「ニッパニアは、我々の常識では計り知れない数の魔術師を抱えているのかもしれん」
「だが、その数にも限りがある。」
「だからこそ、各国に大使館を置こうと、必死になっているのだろう。」
「むやみやたらに力を振りかざさぬ理性はあるようだが、いつかは、大陸に災厄を齎す国だ。」
「同盟国と連携して抑え込まねばならんな、不審な行動に出ないか監視を続けなくては・・・。」
黒装束に身を包んだ密偵は、闇に溶け込む様に消えていった・・・・。
日本領ゴルグ地区・・・使者騙し討ち事件と共に発生した戦争によって、短時間で自衛隊に制圧された城塞都市。
日本としては、武力によって他国を征服するつもりは無かったが、首謀者の王族や貴族をテロ容疑で処刑したため、治安が崩壊し、
放置する訳にも行かず、ズルズルとした流れのまま日本領に編入する羽目になってしまった。
だが、日本本土と距離が比較的近く、ある程度の海底の深さがあるため、湾岸地域を整備すれば大型船の入港も可能と言われ、
大陸への足掛かりの拠点として期待されている。
「石を積み上げて建造した元の防壁もすげぇけど、これはこれで壮観だなぁ。」
未だ建造途中であるが、ゴルグ地区の新防壁を眺め、サソリ型の鎧虫のボイル焼きを齧る自衛隊員。
「何があるか分からない所に城壁を壊したまま放置とかは出来ないからなぁ、出費は痛いが仕方ない。」
「元の城壁で7~6メートル前後、で今回の防壁は12メートル前後と・・・。」
「少なくとも投石器や破城槌で破壊されることは無いと思うが、砲撃には耐えられんぞ?」
「青銅器時代相当の文明に、そんな火力のある武器ある訳ないだろ?」
「魔法とかいう訳解らん不確定要素がある分、警戒するに越したことは無いだろう。」
「ないない、起こりえない事は考える必要は無い、だったら、最初から俺たちに使っている筈だ。」
「それは、そうなんだがなぁ、魔鉱石とかいうトンデモエネルギー物質のせいで、俺たちがこの世界に吹っ飛ばされてきたんだろ?」
「あくまで仮説だろう?確かに、未知の部分は多いが、この世界の人間が使う魔法とやらも、大した威力ではないし、連続で使える物でもないらしいし・・。」
「最近国交を持った、森の耳長連中とかは、威力も持久力も段違いだったらしいじゃないか、油断は禁物だと思うぞ?」
ため息をつきながら、食べ終えたボイル焼きの殻をごみ袋に放り込むと、音を立てながら土を掘り返す重機に視線を移し、呟く。
「あれは、特殊ケースだ、そもそも、魔鉱石を多く含む土地で変異した連中の話で、魔鉱石が少ないここら辺の連中に何ができるってんだ?」
「しかしだな・・・。」
「あんまり心配するな、禿げるぞ?」
「生憎俺の親父も爺さんも白髪頭で、禿げの家系では無いんでね。」
「はははっ、さて、休憩もそこそこにして、さっさと戻るぞ?」
雑談を交わしていた自衛隊員は持ち場へと戻ってゆく・・・しかし、彼らは知らない・・・魔石を宿す魔術師の命を犠牲にした自爆魔法が小型の榴弾砲に近い威力がある事に。