異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第27話   古代重甲獣

自衛隊のベースキャンプから発生した殺虫剤の霧は、次々と殺到する鋼蟷螂たちを飲み込み、それを吸い込んだ鋼蟷螂たちの体を急激に蝕んだ。

 

「おいっ!奴らの動きが急に鈍ったぞ!?」

 

「最初煙幕なんか何故使うんだと思ったが、あれ殺虫剤だったのか・・・。」

 

「まったく、調査が進んでいないのに生態系を壊すような真似を・・・お蔭で助かったがな。」

 

「幼体と思われる小型の奴は死滅したみたいだが、成体らしき大型の奴は、まだこちらに向かってきている」

 

「へろへろ歩いてちゃ良い的だがな!装填完了!射撃を開始する!」

 

 

 

一方、トワビトたちは、鎧蟷螂の進行ルートが自衛隊陣地に逸れた為、残存勢力の掃討に移っていた。

 

「タルカス!もうすぐ一斉攻撃が始まるよ!援護するから離脱して!」

 

「応! そこをどけぇ!虫けらが!!」

 

鋼鉄の刃に首を切り落とされる大柄な体格をもった鋼蟷螂、その巨体が崩れ落ちる前に、蹴り飛ばして、先に後退したバリケードまで全力疾走する

 

「魔力を集中させろ!放て!!」

 

数を減らしてもなお、凄まじい数の鋼蟷螂の群れは、再び放たれた魔光弾の嵐に曝され、その多くが原型を失うほどの損傷を受けた

 

「はぁ・・・はぁ・・・・かはぁーーーっ!そろそろ打ち止めだろう!」

 

「お疲れさん、タルカス、途中で群れが逸れてくれなかったら危なかったよ。」

 

「まったくだ、余所者には気の毒に思うが、厄介者がまとめて処理されて助かったよ。」

 

「リクビトと鋼蟷螂が相打ちになってくれれば、後の処理が楽になるわね。」

 

ドオオオオオオォォン!!ドォン!

 

 

「しかし、さっきから響いている音は一体・・・奴ら魔術師部隊でも連れてきていたのか?」

 

「さぁ?でも、魔力らしき反応は無いし・・・一体連中は何をしているんだろうか?」

 

 

 

トワビトの村の魔術長アドルは、困惑していた、目の前の鋼蟷螂の群れを撃退することに成功したことは喜ぶべきことだが、既に鋼蟷螂の群れに飲み込まれている筈の異邦人どもが未だに戦闘を続けている事に、戦慄を覚えた

 

 

「断続的に響く炸裂音・・・・奴らはあれ程の群れを相手に未だに戦闘を続けているというのか?」

 

「どうも様子がおかしい、誰か様子を見に行って来い」

 

「私が直接向かう、魔力を感じぬのに炸裂音が続いているのが気がかりだ」

 

「魔術長が?貴女の身に何かあったら困ります、私が行きます!」

 

「私も行かせてください!まだまだ余力は残しております!」

 

「ならば、私について来るが良い、最悪差し違えるつもりで行くがな」

 

「なに、鋼蟷螂との戦いで疲弊した異邦人など恐るるに足らず、連中に敵意があれば殲滅するのみです。」

 

「先走るなよ、では、行くぞ!」

 

 

自衛隊のベースキャンプ周辺の森は、鋼蟷螂の死骸と砕け散った木片と殺虫剤の霧が混じった硝煙に包まれていた。

 

 

「あの木の陰にふら付いている奴が居るぞ、撃て!」

 

ターン!

 

「グッドキル!」

 

「大分片付いてきたな、殺虫剤万歳だな」

 

「しかし、一体なぜ行き成り鎧虫が湧いて出てきたんだ?この前空撮した時は、確認されなかったのに・・・」

 

「さぁな、軍隊アリの大移動みたいなのに、偶々ぶつかってしまっただけなのかもしれんが・・・。」

 

 

くぁわああああああああああああぁぁぁぁ!!

 

突如、森全体に響き渡る咆哮が、森の奥から響いてきた、それと同時に、轟音と共に遠くから土煙が上がる

 

「なんだ・・・・あれ?」

 

「嘘だろ?怪獣映画か何かじゃあるまいし・・・」

 

「もしかして、あの鎧虫の大移動は、あれが原因!?」

 

次の瞬間、自衛隊の目の前に散らばっていた鎧虫の死骸の山が赤い鞭の様なものに巻かれて森の奥に消えていった

 

 

「アドル魔術長・・・なんでしょうかこの臭いは・・・はぅ・・くさい・・。」

 

「わからぬ・・・だが、破裂音が収まった様だな、連中、ついに力尽きたか?」

 

「流石にあれだけの鋼蟷螂を相手にする事は出来なかったのでしょう、あの人数でここまで持ったのが奇跡なくらいですよ。」

 

「そうだ、私はそこが気になるのだ、あの程度の人数では断続的に魔法を使い続けることなど不可能なはずだ、死体から魔道具でも見つかればよいのだが・・・。」

 

 

ドオオオオオオオォォン!!

 

くぁわああああああああああああああぁぁぁ!!

 

 

「今の鳴き声はっ!?」

 

「まさか!?・・・そんな、いや、だが奴が原因だったと言うのか?」

 

「アドル魔術長!!今のは一体何です!?」

 

「100年に一度目覚める鎧を纏いし巨獣だ・・・私も幼少の頃に目撃したことがある。」

 

「古代重甲獣・・・。(アルマードグリプス」

 

 

森の木々をなぎ倒しながら現れたソレは、金属質の鱗を持つ巨大な獣だった、鋼蟷螂の死骸を夢中で貪り、地面を揺らしながら自衛隊のベースキャンプに近づいていた。

 

 

「な・・・あぁ・・・でか過ぎる・・。」

 

「鱗の一枚一枚が座布団位あるぞ?あの鱗はまさか、金属でできているのか?」

 

「調査に来ただけなのに何でこんな目に・・・あぁ畜生、撮り溜めしていたDVD見れるかなぁ・・・。」

 

「今はそんな事言っている場合じゃ・・・っ!?」

 

一通り鋼蟷螂を食べ終えると、突如、謎の巨大生物は鞭のようにしなる舌を伸ばして自衛隊のベースキャンプのコンテナに巻きつけた

 

「弾薬箱が!!」

 

「おいっ!狙われているぞ!よけろ!!」

 

舌を巻きつけたコンテナを機銃陣地に投げつけ、土煙が上がる

 

「っぷふ!!あぁ畜生、何てことしやがる!」

 

寸前のところで回避したおかげで、全員擦り傷程度で済んだが、MINIMIが一丁お釈迦になってしまった。

 

「攻撃を受けた!反撃する!!」

 

「カールグスタフを用意しろ!野郎を吹っ飛ばす!!」

 

噴射音と共に発射された多目的榴弾は、巨大生物の腕に着弾し、鱗を吹き飛ばすが、目立った損傷を受けている様子は無かった。

 

「んな阿呆な!?」

 

「困ったときのカール君が!!」

 

思わぬ反撃を食らった巨大生物は、激高してガリガリと金属の擦れる音を響かせながら自衛隊に向かって突進を開始した。

 

「く・・・来るぞ!!」

 

「だが、見た目通り動きが鈍いみたいだ、デカいうえに金属で出来ていりゃぁな・・・。」

 

「不味い!後退しろ!」

 

 

自衛隊のベースキャンプに巨大生物が到達しようとしたその時、空から光の束が降り注ぎ、巨大生物の背中に次々と突き刺さり、大量の鮮血が吹き出した!

 

ヴィィィィイイイイイイイイイン!!!

 

モーター音と発砲音が混じった独特の音を立てながら数機のイロコイとコブラの編隊がM134ミニガンを発射し、巨大生物を血祭りに上げる

 

「コブラだと!?イロコイだけじゃなかったのか?」

 

「遅かったじゃないか、もう蟷螂野郎は片付いているぞ?代わりにデカいのが居るけどな!」

 

「いや、見ろ!奴はまだ生きている!化け物め・・・!」

 

 

ぐおおおおおおぉぉぉ!!!

 

怒りに燃えた巨大生物は舌を振り回して周囲を旋回するヘリを叩き落とそうとするが、空を切るだけだった

 

「ミニガンが効かないならば・・・・これはどうだ!!」

 

コブラの脇に抱えられていたTOWが、尾を引きながら巨大生物の頭部に向かって直進する。

 

ぐぎゃああおぉぉぉぉん!!!

 

吸い込まれるようにして巨大生物の頭部に着弾したTOWは頑丈な鱗に覆われた巨大生物の頭部を吹き飛ばし、ついにその巨体を地面に横たわらせた

 

 

 

 

「なんだ・・・これは・・・。」

 

自衛隊と鋼蟷螂の戦いの様子を見に来たトワビト達は、目の前で起きた戦闘に戦慄を覚えていた・・・。

 

「あの古代重甲獣を倒すとは・・・。」

 

「これが奴らの戦闘だというのか?これは、まるで・・・・。」

 

「高火力の連続魔法に、火を噴く羽虫・・・我々はとんでもない物と遭遇してしまったのかもしれない・・・。」

 

 

『ア・ノー・・・スミマ・センー』

 

「ひっ!?」

 

いつの間にか近づいていた汚らしい斑模様の兵士に驚き、軽く悲鳴を上げてしまう

 

「っ・・・!お前達は一体何なのだ!それだけの戦力を集めて唯の調査隊だと!?我々をどうするつもりだ!?」

 

『アー・・・エット・・・ツーヤック、タノムー・・・。』

 

「我々ハ、ニホン国、ジェィタイです!貴方 仲良ク しようと思ウ したいデス。」

 

「仲良く・・・だと?馬鹿な、荒野のリクビトですら無い未開の亜人が我らと何故関係を持とうとする!?目的は何だ!?」

 

『ツーヤック・・・コレ・アッテール・ノー?』

 

『ヤメロ・フアン・ニ・ナッテクル・ジャナイーカ・・・』

 

「アドル魔術長・・・彼らは何と言っているのでしょう?・・私、怖いです・・。」

 

「うろたえるな・・・しかし、聞いたこともない言語だ、奴らは一体・・・。」

 

「スミマ・センー・・・私・駄目・モットー・上手いヒト・通訳呼ンデクマス・・・。」

 

片言で斑の兵士が、通訳を呼んでくると告げると、再び天幕の方向へと帰って行った・・・。

 

「一体なんだったんだ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

スティラマティア    通称 鋼蟷螂

 

和名:シロガネオオノコカマキリ

 

金属質の外殻を持つ巨大な蟷螂型生物。

鉱山に生息する小型の金属質生物を捕食することで、自身の体に金属質の外殻を得た鎧虫で、ほかの近縁種よりも攻撃面と防御面に優れている。

生物濃縮で蓄積された金属成分は、捕食のために使われる鎌の部分に蓄積し、殆どインゴット化している。

その反面、筋肉には金属成分がさほど蓄積されないため、内臓と外殻以外は可食部位となる。

肉は味の薄い淡白なエビの様な味で、火を通すと薄桃色に変色し、エビ風味が少しだけ強くなるが、やはり薄味。栄養価は低脂肪で高たんぱくである。

定期的に大発生することがあるが、縄張りの外に出ないことが多いため、食料減少に伴い、共食いをして暫くすると個体数が元の数に落ち着く。

大発生中は周辺にある種のフェロモンが充満している為、これが大発生の原因と思われる。

 

 

アルマードグリプス 通称 古代重甲獣

 

和名:テイオウヨロヒオニムシクイ

 

100年単位で休眠と活動を繰り返す超大型の哺乳類、毛が変化した金属質の鱗を持ち、1枚1枚が非常に強固。

個体数が極端に少ないので、活動中の個体と遭遇する事は滅多にないが、繁殖期になると50年かけて子育てをすると言う伝承があるが、詳細は不明。

アルマジロの様に滑らかな曲線を描いた体躯を持つが、丸まることは出来ない。

雑食性で、金属質の生物を好むが、基本的に鎧虫の肉を狙って長い粘着性の舌を使って捕食する。

あまりにも活動周期が長いために生態系が殆ど判明しておらず、巨体のために捕獲もほぼ不可能なため、観察もできない。

ただし、活動周期がある種の鎧虫の大発生期間と被っているため、鎧虫を多く目撃した時には、休眠から目覚めた本種が徘徊している可能性がある。

武具を身に着けた自衛隊を、金属質の生物と勘違いして、捕食しようとした。

 


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