「おいおい、連中弓だの槍だの用意して、裏に集まっているぞ?どういう事だ?」
自衛隊の一時拠点から見たトワビトの集落は、慌ただしく動いているように見えた。
余りにも物々しいその光景を見て、思わずと言った形で、自衛隊側も警戒態勢に移った。
「交渉と称して、騙し討ちでもするつもりなのでしょうか?」
「不味いぞ、此方が攻撃を受けない限り、反撃は出来ないぞ、弓や魔法の射程距離に入れば、此方にも被害が広がる」
「二の轍は踏むなよ、交渉中に襲い掛かってくるようなら、すぐにでも制圧できるようにしておけ」
一方トワビトの集落にて・・・・。
「鋼蟷螂はどこまで迫ってきている?」
「はっ、付近の鉱山から湧き出て、波状に広がっている様です。」
「それも、凄まじい数です、私の隊の仲間も傷を負いました、まだ死傷者は出ていませんが、余りにも多すぎて撤退せざるを得ませんでした。」
「鋼蟷螂の駆除に目途は立っているのか?」
「我ら魔術師部隊にお任せを、面での攻撃は、我が部隊が得意とするものです。」
「アドル魔術長、任せてよいのか?」
「はっ、我が身命にかけて、この村を守ります。」
「何の!我々自警団も、この村を守ります!魔術師部隊だけに手柄を立てさせませんぞ!」
「では、共同で討伐隊を組もうではないか?互いの不得意な分野を補い合えば、恐れる物は何も無しだ。」
「許可する、自警団は魔術師部隊の斉射から鋼蟷螂の群れに突撃せよ、魔術師部隊は鋼蟷螂に肉薄する自警団の援護を!」
「「はっ!」」
「森の外で待機中の異国人達はどうしますか?」
「放っておけ、鋼蟷螂に襲われて森の外に出て行ってくれれば、良い、どの道この森には寄り付こうとも思わなくなるだろう。」
「荒野の民は、森で生きるすべを知らないですからね、場所が知られるのは不味いですが、此処まで来れる軍勢が他にどれほど居るか・・・。」
「報告します!鋼蟷螂の群れが村に迫っています!直ぐに接触します!」
「うむ、では出撃せよ!我らが領域を侵す魔虫を殲滅せよ!!」
自衛隊の野営地付近に仕掛けられた赤外線センサーが反応し、謎の侵入者を感知した。
警戒態勢中の自衛隊は、色めき立った、奇襲攻撃を仕掛けてくるのならば、反撃に村を攻撃を仕掛ける事も考慮していたが、謎の侵入者はトワビトではなかった。
「これは・・・鎧虫って奴か?蟷螂型の生物だ、恐らくこの森の原生生物だろう」
「いやいや、まてまて、何だこの数は!こっちに来るぞ?」
監視カメラの映像に映った異形の巨大昆虫は、金属質の光沢をもつ銀色の鎌を振り回し、次々と障害物の木々をなぎ倒し一直線に進んでいた。
偶然、監視カメラがヤマネコの様な生物を巨大昆虫が捕食する場面を捉え、画面に映し出された惨劇を見た自衛官の肝を冷やした。
「おい、まさか、連中が大騒ぎしているのって・・・。」
「この蟷螂野郎のせいって事か?・・・いや、不味いぞ!戦闘配置に着け!!」
「急げ!急げ!化け物は目前に迫っているぞ!!」
「念のために仕掛けておいたクレイモアがこんな形で役に立つとはな」
「まぁ人間相手に使うのは気持ち良い物ではありませんからね。」
「ハ 曲がりなりにも軍人が言う台詞では無いな。」
「軍人ではなく自衛官ですよ、いい訳みたいなもんですがね。」
「そろそろ、射程圏内に入る、引き付けた後に起爆しろ!」
森の奥から迫りくる、巨大な蟷螂の群れが、轟音と共に大量のボールベアリングを叩き付けられ、引き千切られてゆく・・・。
断続的に聞こえる破裂音は、トワビトの集落まで響いていた。