あれは、私の姉が成人の日を迎えた時に起きた出来事だった。
円柱状の祭壇で、成人の証であるサンゴの髪飾りと大真珠を削った三又の槍を父が姉に授け、成人の義を終えた直後に、海底全体を揺るがす様な
地震が起こり、海底火山から青白く輝く魔鉱石の溶岩が爆発するように吹き出していた。
地下から大量に噴出した魔力を含んだ溶岩が、私たちの国の大部分を消滅させてしまったのだ。
咄嗟に海面まで逃げた私たちは、唯々、溶岩に飲み込まれつつある海底都市の崩壊を見るしか無かったのだ。
「お父さま・・・。」
「何という事だ、私たちの故郷が・・・。」
「お姉さまは?お姉さまはどこなの!?」
「分からない、くっ、成人の儀を迎えたばかりだというのにっ!」
逃げ延びた生き残りの私たちウミビトは、地震が収まるまで寄り添うように海面を漂い続けた。
しかし、海面は私たちを狙ってリクビトたちが襲い掛かってくるかもしれない危険な場所でもある。それ故に、私たちは地震とリクビトの襲撃の恐怖と戦わなければならなかった。
私たちは、強力な癒し手でもあり、体内に宿す水の魔石の影響でその肉にも凄まじい癒しの力を秘めている。
リクビトたちは、私たちの肉を食すことで、不死身の体を手に入れると思い込んでいるが、決してそうはならない。精々その寿命を2~3年延ばす程度だ。
「大丈夫だ、何があっても私が守り抜くよ。」
父は、背中にしがみつく私を励ましつつ、黒真珠の三又槍を握り周囲の警戒をしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・?
「おい、あれを見ろ!!」
「な、なんだあれは!? 何という事だ・・。」
「あ・・・あ・・・あああ・・・。」
それは、水中での活動が上手くないリクビト達が海の民の領域を侵すときに使う船という乗り物であった。
しかし、目の前に現れたのは「木」という水に浮かぶ素材ではなく、見たこともない硬質で灰色に塗られた素材で作られた巨大な船であった。
私は恐怖していた、海の国が青白く輝く溶岩に飲み込まれてゆく光景を目の当たりにし、只管、逃げ続けた。
気が付けば、海流に流され、知らない海域に来てしまっていた。
「お父様、ウルスラ・・・どこにいるの?」
もし、此処がリクビトの縄張りとする陸地が近い場所であったら、命に係わる。一刻も早く仲間たちと合流しなくては・・・。
「早くみんなを探さなくちゃ・・・リクビトに見つかったら、おしまいだわ!・・・・・きゃっ!?」
少しでもリクビトに見つからないようにと、海底まで潜ろうとしたとき、目の前に見えない壁が立ちふさがる。
いや、少し目を凝らしてみれば、細いツタのような物体が規則的に並んでおり、それは押しても引っ張ってもちぎれない丈夫な繊維で出来ているようだった。
「一体これは何?毒クラゲの触手でもこんなものは・・・・え?うそ・・・少しずつ狭まってくる!?」
「いや・・・いやぁ・・・・やめ・・・助けて!助けてぇ!!」
気が付けば、その規則的に並んだ繊維の壁は、ぐるりと周りを覆っており、少しずつその壁が狭まってきていた。
「おっ・・・なんか地震があったらしいぜ?」
「海の上だからいまいち感じなかったが、津波が来ると不味い、仕掛けを一度引き上げて母港に戻ろう」
ラジオから流れてくる緊急速報を聞き、漁師たちは、定置網を巻き取り撤収の準備をしていた。
「最近燃料代も上がって、唯でさえ苦しいってのに、本当についていないよなぁ・・。」
「ついでに、不漁続きときたもんだ、案外、地震を察知して安全なところに逃げてんのかもな」
「ま、野生動物のほうが自然災害に気付くのが早いみたいだから・・・・ん・・?な・・・なんだ!?」
引上げ中の定置網には、何か棒状の物体を持った人間・・・・のような生き物がかかっており、腕やら腰ひれやらを網にひっかけて苦しそうにもがいていた。
「なんだ・・・これ・・・?」
『ばかーーー!リクビトあっちいけぇぇぇっ!うえぇぇぇん』
同時刻、近海で、災害救助に派遣されていた護衛艦によりウミビトの集団が保護されていたという。
その後、彼女は保護されていた仲間たちと合流し、リクビトの新たに開発した拘束魔法「ティーチ・ア・ミィ」の情報を伝え、
海に生きる亜人たちに大きな恐怖と衝撃を与えたという。
本作は、旧2chの自衛隊がファンタジー世界に召喚されますたスレッドのログをベースに編集された作品です。
元々読み切り作品のつもりで連載するつもりのなかったものですが、世界観が構築されるにつれ筆が乗り1つの作品として連載する事になった経緯があります。
SSデビュー初期の作品かつ現在も未熟な文章力ですが、よろしくお願いします。