異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第168話  人種差別撤廃条約

大陸有数の列強国であるカクーシャ帝国を返り討ちにした日本国は、未だにこの世界にはびこる魔力至上主義の価値観を砕くために大陸中央部での友好国と協議し、合同で人種差別撤廃条約を結ぶ。

 

巨獣たるカクーシャ帝国を撃破した後も何度か言いがかりをつけられ周辺国から襲撃を受けることもあったが、戦争と言えるものに発展せず、せいぜい小競り合い程度に収まっていた。

唯一航空爆撃が行われるほどの規模に発展したのは反カクーシャ帝国の同盟が反日同盟に変じたものの戦いであり、友好国であるケーマニス王国に多少の被害が生じたものの応援に駆けつけた自衛隊の砲撃と機銃掃射により一方的に殲滅されてしまった。

少数であるが友好国に犠牲者が出てしまった日本は激昂し、反日同盟の主要国の軍事施設を報復爆撃し、その破壊力と恐怖を持って大陸中央部にはびこる不穏勢力を沈黙させてしまったのである。

 

大陸沿岸部と中央部共に戦乱が絶えない一つの理由に魔力至上主義と人種差別、特に亜人種族に対して行われるものがその要因として捉えられ、その価値観を否定し警戒をすることで抑え込もうという試みが、人種差別撤廃条約であった。

地球で行われたものと同等かそれ以上の切実さがあり、今なおこの世界を歪たらしめている問題を解消するための第一歩であった。

 

『魔力無しの劣等民族風情が何を偉そうに』

 

『自分達の力を使わずに、魔獣を使役することで勢力を広げただけの癖に魔力無しが!』

 

 

当然ながら反発はあり、彼らリクビトから見ると亜人の一種である日本人(イクウビト)が分不相応な立ち振舞をしていると非難があり、条約に反対する国もあった。

しかし、劣等民族たる亜人である筈の日本国が事もあろうに巨獣カクーシャを討ち滅してしまったので、正面から立ち向かうことが出来ず抗議するしか出来なかったのである。

 

日本国影響圏で合同で人種差別撤廃条約を結ばれ、少なくともその領域では表向きでも人種差別することは出来なくなり、人食い族として恐れられたトガビト達も日本人の付き添いがつく前提で表の世界で活動がしやすくなるのであった。

 

それから暫くして、噂を聞きつけた被迫害民族がケーマニス王国へ集まる。

 

リクビトとは全く別の祖先から進化していった爬虫類型人類、ウロコビト。

ウロコビトと同じ祖先を持ちつつ水場に適応したウミウロコビト。

体格こそ大柄なリクビトの様だが、潰れ気味の鼻と口腔からはみ出した剣歯・灰色の肌が特徴のススビト。

 

その他諸々、今まで勢力に勝るリクビト国家に追いやられて大陸中央部に隠れ住んでいた民族が次々とケーマニス王国やフーヒョニス王国を始めとする日本国影響圏を目指すのであった。

 

『あの国ならばまともに働き口が探せる』

 

『里に彼らの技術を持ち帰ることが出来れば上手く発展出来るかも知れない』

 

『とにかく何か食べさせてくれ、何でもするから!』

 

大陸のどこにこれだけの亜人種族が身を隠していたのか、その多種多様な姿の民がひしめく光景に目を白黒させつつも、正式な手続きを経て彼らを受け入れていった。

しかしながら、それを待たずに不法に入国するケースが続出し、社会問題となっていった。

当然ながら地球でも同様に起きた文化や習慣の違いによる問題が起きており、文明の摩擦に寄るストレスによって犯罪行為を起こす難民が現れ始め、現地の治安維持組織が対応する羽目になるのであった。

 

『人種関係なく平等に扱うという話ではなかったのか!』

 

『我らの習慣や文化をなぜ認めない!』

 

『話が違うではないか!こうなれば、居場所がないのならば奪うしか無い!』

 

迫害され続けていた歴史を持つ被差別民族は、日頃の鬱憤を晴らすが如く窃盗・強姦・強盗・放火などを行っては鎮圧され不興を買っていた。

我慢の限界に達した同盟国の一部に難民の排除をしようとする流れが起こり、宗主国たる日本が嗜める事もあったが、今度はそれで話が違うと難民が騒ぎ始める。

それでも日本は粛々と犯罪行為を取締り、難民に対して暴力を振るう者も裁かれた。

そして決定的だったのが、ケーマニス王国に密航した犯罪組織の日本人が見世物にする目的でウロコビトを拉致しようとして逮捕される事件であった。

 

「日本の恥晒しが・・・」

 

「違法な研究目的の人体売買、姿こそ違うものの人権が認められた亜人を動物園感覚で飼育する目的の犯罪組織、我が国にもそういった外道は存在する。嘆かわしいことだが」

 

難民・現地人・日本人と区別すること無く法に則り裁く日本国の厳格さにそれを前にした人々は恐れ慄き、その姿勢が副次的に日本に難癖をつける国の減少につながるのであった。

 

 

 

 

大陸中央部の亜人

 

この世界の人類の発生した地はまだ判明していないが、恐らく大陸中央部のどこかであり、類人猿の化石などが各地で発掘されている。

地球人のそれよりも環境適応能力の高いリクビトは、少ない世代で分化が始まり、数万年、下手をすれば数千年程度で亜人と呼ばれる姿に分化する。

変異の頻度は魔素の濃度にもよるので、ずっとリクビトのまま姿を維持する事も多いが、大陸沿岸部よりも比較的魔素濃度が高いため少数民族を含めると非常に多様な亜人が暮らしている。

特定の能力はリクビトよりも秀でている者が多いが、人口はリクビトが圧倒的に多く、また団結力が高いために纏まった勢力を形成する前に攻め滅ぼされてしまい、リクビトに対抗できるほどの規模になることは少ない。

極小数ながら単一の亜人で形成された亜人の国も存在するが、本当にレアケースなので多くの亜人はリクビトの国から隠れるように集落を形成している。

 

 

 

 

 


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