異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第166話  商人たちの城

大陸中央部に進出した日本国が国と企業の威信をかけて建築したケーマニス・シーサイドモール。

ケーマニス王国との協力の下、双方の経済的発展を目的に建築されたが、全長2kmに達する巨大なショッピングモールで、様々な日本企業の出店があり、大陸中央部の国々に日本という国がどの様な存在かを知らしめる場でもあった。

 

当初は王城よりも立派な建造物を異国が租借地に建築する事に反対の声もあったが、カクーシャ帝国との交戦をしつつも着々と工事が進む様子を見る内に力の差を実感し、貴族や大商人などの有力者たちは声を潜めるのであった。

なお、ショッピングモールの建築に乗り気だったのは、日本から齎された日本本土の紹介ビデオにすっかり魅了されてしまった王族たちであった。

 

建築途中でカクーシャ帝国との決着がつき、工事現場で変わらぬ日常を送る企業職員に大陸の国々は薄ら寒いものを覚えた。

戦争の当事国の民だと言うのに、どこか遠くで起きている出来事の様に捉え、乱れることも夜逃げすることもなく仕事に従事しているのだ。

大陸中央部の国々は、日本国に何とか付け入る隙がないか探すが守りが堅く戦争で動揺して逃げ出す人員を自国に招いて情報と技術を得ることも出来ず歯痒い思いをしていた。

 

建築物の基礎的な部分は大方完成し、飾り付けが始まると灰色だった外観は色味が増し、重厚長大な建築物のはずなのにどこか親しみと活力を感じる意匠が施されて行き、次第に周辺諸国は日本がどの様なものを作り上げるのか興味を持ち始めた。

 

そして、日本企業の力を結集して作り上げられたケーマニス・シーサイドモールの開業セレモニーが開かれ、事前に招待された貴族や王族・大商人などがシャンパンのグラスを掲げて大陸中央部初のショッピングモールを大いに楽しんだ。

海上の小舟から打ち上げられる花火は、セレモニーに参加していない一般人にも見え、その奇跡の様な光景に多くの人々が感動に打ち震えるのであった。

 

日本企業が大陸中央部に進出する拠点としての機能を持つ関係上、現地の大商人などとも交渉が行われることもあり、大商人が拠点とする街とのパイプ役をすることで大陸中央部中に日本企業は影響力を広げていった。

 

暫くして、入場制限がかけられていた一般人にも開放され、簡単な手荷物検査と思想テストをする事でゲートを潜ることが許可された。

これは、大陸沿岸部で盗難や暴行などの営業妨害行為が開業初期の頃に多発的に発生してしまった事が直接の原因であった。

残念ながらこの世界の民度の低さがこの処置の要因の一つで、テロ防止の観点からもやむを得ない事であった。

 

とは言え、比較的基準は緩く、よっぽど問題が無い限りは簡単にケーマニス・シーサイドモールに入場出来てしまうので疚しいことを考えていない一般人からしたら天国の様な場所であった。

基本的に大陸中央部に訪れる日本企業職員の慰安所としての側面が強く、日本人はフリーパスで入れるので船旅で疲れた体を癒やす憩いの場所としてたちまち人気となった。

 

魔力を持たない日本人を軽んじる国でさえ、虹色の輝きを放つ商人たちの城の存在感は無視できず、人食い族と誼を結ぶ虚無の民の領域を目指す者を止めることは出来なかった。

否、実際にその目でその姿を見てきた者たちが持ち帰ってきた情報や物品に、日本国の実力を認めたくなくとも認めざるを得なかったのだ。

 

豊かな国を妬み、人食い族と組んだ裏切り者の討伐を名目にケーマニス王国を目指す勢力もあったが、騎兵団も破城槌も魔導兵も関係なく爆炎とともに土と混ぜられた。

方やショッピングモールでのんきに買い物を楽しむ日本人と、方や暴徒鎮圧作業の片手間に地獄へ叩き落される反日本勢力。

 

異世界の商人たちが建築した虹色の光を放つ城は、その豊かな富とそれに引き寄せられ安易に我がものとしようとする愚か者を炙り出し、その威光で焼き尽くすのであった。

カクーシャ帝国を倒してもなお魔力至上主義の価値観は強固に存在し続け、負けることがわかっていても現実を見ないふりをしながら虹色の富の象徴に手を伸ばす者は思いの外多かったのであった。




うーん、月1ギリギリ間に合いませんでした。

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