異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第160話  咎人の禊祓い

大陸中央部でも有数の力を持った覇権国家カクーシャ帝国、それは今や瓦礫へと還り無惨な光景が広がっていた。

住民たちを狂戦士化させていた魔石柱の塔は、海上自衛隊のミサイル攻撃によって破壊され、対艦ミサイルSSM1Bの炸薬と魔石の内包エネルギー暴発によって首都の大半が爆風によって消し飛び、延焼した炎は木造家屋どころか石造の施設も焼き尽くした。

 

大半の住民が死亡し、生き残りも地下都市に居て戦禍を免れた少数のみで、カクーシャ帝国は国としての機能を失っていた。

それ以外のカクーシャ人は、高濃度の魔力波を浴びた事により異形の怪物へと変異してしまい、理性を失い本能の赴くままに人を襲う様になってしまった。

 

「これよりカクーシャ帝国帝都跡地の魔物討伐を行う!」

 

「おおおおおぉ!!!」

 

崩壊したカクーシャ帝国跡地を巡って日本と協議した結果、ヒシャイン公国がカクーシャ帝国跡地の元住人である変異体の駆除を行うことになり、魔物討伐の経験が豊富な討伐部隊と民間部門の傭兵団が派遣された。

 

「おい、聞いたか?帝都跡地の魔物は元々カクーシャの民らしいぞ?」

 

「本当かよ、にわかに信じがたいな」

 

「ニーポニスとの戦いでカクーシャ帝国は滅びたらしいが、それのせいで瘴気に包まれて住人が呪われた姿になってしまったらしい」

 

「おっかねぇな。ニーポニスは魔力を持たない民と聞いていたが、呪術の様な力は使えたんだな」

 

ふと傭兵団の集まりと少し離れた位置に居る集団が目につく。

薄暗い色のローブを着込んだ集団は顔を隠すように深くフードを被り、奇妙な篭手の様な武具を点検している様であった。

 

「呪われた民と言えば、聞いたかあの外套で顔を隠している連中の事」

 

「あぁ、本当に人食い族なのか?何でまたカクーシャ帝国の魔物狩りに参戦しているんだ?」

 

「何にせよ怪しい連中だ。本当に人食い族だった場合何時寝首を掻かれるか判らん、警戒を怠るなよ」

 

「ああ、俺も人食いの鬼に食われるのは御免だ」

 

ニーポニス製らしい妙に揺れない馬車に乗って移動した討伐隊は、徐々にその全貌が見えてくるカクーシャ帝国帝都跡地に愕然とした表情をし、崩れた外壁の手前で降車した後、索敵を開始する。

 

「何だこりゃ?腐った肉塊?」

 

「ひでぇ臭いだ。鼻がひん曲がりそうだぜ」

 

帝都内部に侵入した討伐隊は、通路に転がる赤黒い塊を見て顔をしかめる。

腐臭を放つそれは、半ばゲル化した肉塊の様で見方によっては人が丸くうずくまっている様に見える物体であった。

鼻を摘みながら傭兵の一人が側面を通り過ぎようとした時、突如腐った肉塊の様な物体が彼に向かって飛びかかってきた。

 

「なっ!?」

 

「くそっ!やめろ!気色悪い!」

 

「なんだこれは、警戒しろ!あれに近づくな!」

 

赤黒い肉塊はゲル状の物体を滴らせ、取り憑いた傭兵の衣服に侵入し青みがかった煙を上げながら傭兵の皮膚を変色させてゆく。

 

「いでぇ!あがっ!や・・・やめ、ぎええぁぁぁ!」

 

「何だ、何が起きている」

 

「あげっぎぇ、だ、だずげ・・・ごぇ」

 

赤黒い肉塊に取り憑かれた傭兵は全身血まみれになりながら喘ぎ苦しみ、最後には大量の赤黒いゲルを吐き出しながら溶けて腐った肉塊の一部の様になってしまった。

 

「っ!こっちからも来るぞ!」

 

「犬みたいな奴だ!」

 

騒ぎを聞きつけたのか、狼男の様な姿の魔物が建物の壁を飛び移りながら討伐隊に向かって降ってきた。

人間の骨格の面影を残す鋭い爪を振り下ろし、鎧虫製の牙剣と衝突して火花を散らす。

 

「ぐっ!なんて力だ!」

 

「くそっ、瘴気が濃すぎる!体の感覚が変だ」

 

「つ・・・強い!」

 

帝都跡地に侵入してから体に変調をきたす者が現れ始め、戦闘が始まってから早くも討伐隊は崩れかかっていた。

そこに突如閃光が走ったと思うと、複数の魔物の首が切り落とされ生首が転がる音が響く。

 

「!?」

 

「一体何が起きて・・・・」

 

「角?まさか奴らがっ!」

 

「あれが人食い族・・・」

 

戦闘が始まり、視界を確保するためかフードを外し素顔を顕にした集団は、浅黒い肌と木の葉の様耳と青白く発光する角を持った亜人という風貌であった。

篭手の様な装備に光が集まると、少し離れた場所に居ても熱気を感じるほどの熱量の球体が空中に形成され、時折空気中に眩く爆ぜる粒子がそれに集結しているようであった。

 

「凄まじい力だ、瘴気を吸い込んでいる?」

 

「違う、魔力だ。瘴気の正体は魔力だったんだ」

 

高熱の球体に魔力を集結させていた亜人の戦士は勢いよく手を振り下ろすと、通路にうごめいていた肉塊に向かって熱球が直進し、次々と肉塊を炭化させながら地面を焼き削り、瓦礫に衝突すると大爆発を起こしその一帯が吹き飛んだ。

 

「うおおおおぉぉっ!?」

 

「何という威力だ、魔物が消し炭になっちまった」

 

「世界を滅ぼしかけた種族、人食い族。伝説は本当だったんだ」

 

一部の不幸な狼人間を巻き込み腐った肉塊型の魔物を一掃した亜人の戦士は、木の葉の様な細長い耳をピクリと動かすと、その場から飛び退いた。

ほんの一瞬遅れて亜人の戦士の居た場所を叩き割る影が降ってきた。

 

「オゴオオォォォォ!!クワセロ!!」

 

「なんだコイツ、今喋っ・・・・」

 

「伏せろ!!」

 

驚く傭兵に注意を促す亜人の戦士。その直後、筋肉の塊の様な魔物は叩き割った石畳の破片を掴み、驚き固まる傭兵の頭部めがけて投げつける。

 

「うおおおおぉぉ!?」

 

「ニクニクニクゥゥゥゥ!!!」

 

筋肉ではち切れてしまっているが、鎧の様なものを着込んだ魔物は口腔からはみ出る程に発達した犬歯をむき出しに投石を回避され仕留め損なった獲物に向かってナックルウォーキングをしながら飛びかかってきた。

 

「おらぁぁ!!!」

 

そこに大盾を構えたヒシャインの魔物専門部隊の兵士が側面から突進し、横腹に棘付きの盾で殴りつける。

 

「っ感謝する!」

 

体勢を崩した鎧の魔物に一斉に飛びかかると、それぞれの獲物を叩きつけ袋叩きにする。

怒り狂った魔物は腕を振り回すが、盾で受けられ、殴りつけた反動を使って飛び退き距離を取られた。

 

「貫け!!」

 

討伐隊が飛び退き射線が通ったことで、放たれた氷の刃の魔法は正確に鎧の魔物の首と眼球に突き刺さり、みぞれ状の血液が吹き出し沈黙する。

 

「まだ来るぞ!犬みたいな奴のおかわりだ!」

 

「次から次へと!!」

 

乱戦状態となった討伐隊は、次々と狼人間の様な魔物と人語の様なものを操る魔物を倒して行き、やがて鉤爪の威力が心なしか弱まっていることに気づく。

 

「なんだぁ!ぶるっちまったのかぁ!?」

 

無精髭の傭兵が片手斧を狼人間の眉間に食い込ませ、蹴り倒して刃を引き抜くと仲間の援護に向かう。

 

「こいつら動きが鈍っていないか?」

 

「瘴気が薄まったからか、こっちは体が軽くなってきたな」

 

「もしかしてアイツらのお陰か?」

 

少し離れた場所で光の刃を放ち魔物の群れを解体する亜人の戦士達が視界に映る。

 

「何にせよ好都合だ。奴らの力を利用させてもらうぞ」

 

「腐った肉塊みたいな奴は連中に任せろ。犬っころ共を叩き潰すぞ!」

 

「うおおおおぉぉ!!!」

 

ある程度魔物を倒し続け、日が傾き始めた頃、外壁の外から角笛の音が鳴り響く。

その音を合図に討伐隊は潮が引くように後退し、穴の空いた外壁の外へと退避する。

何体か追尾してきた魔物も居たが、それを撃破した後は魔物が迫ってくる様子は無かった。

そして、遠くにカクーシャ帝国帝都跡地が見える丘に馬車を置いた臨時拠点にて焚き火を囲んで戦果を発表するのであった。

 

「なぁ、あんたら本当に人食い族なのか?」

 

果実酒を飲みながらほのかに頬を染めた無精髭の男が、角の生えた亜人に声をかける。

 

「正確に言うと人食い族を打ち倒した英雄と人食い族の間に生まれた民が我らトガビトだ」

 

「英雄と人食い族の子供?」

 

「どういう事だ?」

 

隣りにいた細身の剣士の男が反応する。

 

「人食い族とリクビトたちとの戦いで戦況をひっくり返し人食い族の長を倒した英雄たち、その話は大陸中に伝わっていることだろう?」

 

自種族をトガビトと名乗る亜人の戦士の言葉に頷く一同。

 

「ああ、それで何でその英雄サマが人食い族なんかと結ばれたんだ?」

 

「簡単な話だ。非力な女子供には手をかける事が出来ずに保護して身を隠したのさ」

 

思わぬ真実に眉間に皺を寄せる剣士。

 

「何ということを」

 

「英雄全てが人食い族を生かす事を望んだわけではない。袂を分かち人食い族の女子供達と辺境の地に身を隠した一派がトガビトになったのだ」

 

「ふん、世界を滅ぼそうとしていた連中がおめおめと生き延びやがって、そのまま滅びちまえば良かったのに」

 

無精髭の男は不機嫌そうに盃の果実酒を一気に煽る。

 

「そうなる道もあっただろうな。実際我らがこの大地に犯した罪は1000年経とうとも祓われることはない。それ故に、我らはその咎を負うのだ」

 

「罪は認めているんだな?」

 

「当時の我らはリクビトに対する憎しみに囚われ物事を見通す視点を失っていたのだ。英雄たちによって一度それが断ち切られれば見えてくるものもある」

 

「憎しみだぁ?俺たちが人食い族を憎むなら兎も角、なんで俺たちリクビトが恨まれにゃいかんのだ?」

 

「ふむ、これは伝えて良い話だったな?」

 

少し離れた切り株に座るトガビトの女戦士に確認を取る。

 

「族長がニーポニスとの協議で助言を受け問題ないと判断している」

 

「そうか、では最初から話すとしよう」

 

そして人食い族の末裔ことトガビト達による彼ら視点での1000年前の大厄災の歴史が語られた。

元は何処にでもある小さなリクビトの部落であったこと、それが略奪者によって侵略を受け常時飢饉へとなる程の収奪を受け続けたこと、そしてそれによる共食いによって人食いの亜人へと変貌してしまったこと、その結果リクビトに憎悪を燃やした人食い族たちが大陸中の国々を襲い戦禍で大地が破壊され尽くされてしまったことが語られた。

人食い族へ対抗するために生まれた様な超人たち即ち英雄たちによって人食い族の長が倒されたことなど幾つか共有する歴史もあったが、その内容は今までの常識を覆す話だったので、いつの間にかトガビトの語りを聞くために集まっていた討伐隊の面々は複雑な表情で唸るのであった。

 

「そうして我らは大陸の辺境の地に身を隠し細々と生を繋いでいたと言うことだ」

 

「・・・・・・正直その歴史は受け入れがたいな」

 

「けっ、早い話がただの八つ当たりじゃねぇかよ、くだらねぇ」

 

「だが、少数民族の弾圧の手口と言い、これではまるで・・・・」

 

トガビトの戦士が頷く。

 

「カクーシャ帝国やヒシャイン公国と同じと?鋭いな。事実我らが祖先人食い族が反撃に出た時に多数の貴族や豪族が大陸の中央に逃亡し、列強国の素体となる国家群を形成したことが回収されたカクーシャの資料から判明している」

 

無精髭の男が鼻で笑う。

 

「ハッ、カクーシャの奴らがくそったれなのは間違いないが、八つ当たり的に無関係なリクビトの国々を侵略して大陸中を荒らし回ったお前たちも許されないぞ?」

 

そこに細身の剣士が割って入る。

 

「国を作らず細々と辺境で暮らしていた集落が次々と侵略されていた時代だぞ?別に彼らだけが弱小国を食い荒らした訳でもないだろう?」

 

「あ?お前は人類の敵の方を味方するのか?」

 

「そうではない、仮にその時点で人食い族に変異せずに壊滅していた場合、いずれ他の国が似たような事をやらかしていた可能性もあると言うことだ」

 

「少なくとも魔力を吸い付くして土地の魔素が枯渇する事もなかっただろうに」

 

「それだけではない、カクーシャの奴らのような手口で少数民族を弾圧し続けた結果新たな人食い族が誕生しない保証は無いと言いたいんだ」

 

無精髭の男は押し黙り、顎髭をさすりながら呟く。

 

「・・・・そりゃぁ、あまり愉快な話じゃねぇな」

 

「我らとしても祖先の犯した大地の大罪を再び犯す民が現れて欲しくないものだ」

 

「正直言うと私は、お前たちの境遇には同情している。だが、それでも大地に与えた影響は深刻だ、とても許されることではない」

 

トガビトの戦士たちは目をそらしながら俯く。

 

「・・・・・・」

 

「だが、お前たちが過去に犯した罪を忘れずに向き合い続けるならば、少なくとも今この瞬間は共に戦う仲間と認めよう」

 

「ふん、俺は被害者面するお前らが気に食わないが、実力だけは認めてやる。俺らにはあんな動きは出来ないし馬鹿げた魔力を操ることも出来ん。せいぜい罪の分働くことだな」

 

信じられないような表情で顔を上げるトガビトの戦士たち。

 

「・・・・配慮してくれたというのか?」

 

「お前らが只者ではないと言うことは分かってんだよ、馬鹿にするな」

 

「安心しろ、私は背中を狙うような事はしない」

 

「感謝する」

 

「けっ」

 

「先は長い、今は英気を養っておけ」

 

それから、2週間ほどカクーシャ帝国帝都跡地へ滞在し魔物の討伐を行った後、物資が尽き始めたので討伐隊はそれぞれ拠点とする都市に帰還していった。

人食い族の末裔であるトガビトの史観は受け入れがたいものがあったが、それでも共に戦う内に彼らがそこまで邪悪な存在であると思えなくなってしまった者も多く存在し、その認識は討伐隊の家族や知人などを通じて少しずつ各地へ広がって行き、僅かであるが大陸中央部の価値観に影響を与えって行った。

その後も何回かに分けて討伐隊が派遣されていたが、突如として討伐隊の派遣が打ち切られ、そこに来て戦争の当事者と言うのに今まで傍観していたニーポニスがいきなり魔物殲滅を行うと告知してきたのだ。

また、その内容も余りにも突飛な事で、空から強力な攻撃を浴びせて魔物を殲滅するというのだ。

突然の解散命令を受け肩透かしを食らった討伐隊は仕方なく解散することになったのであった。

 

数週間後、ケーマニス王国の空港を発ったC-2輸送機が旧カクーシャ帝国領上空に到達しつつあった。

 

「しかし大きいな」

 

「出来たばかりの急造品だからな」

 

C-2輸送機のカーゴルームを占領する金属塊を眺める自衛隊員。

 

「本当に効果があるんだろうな?」

 

「構造自体は単純だ。効果は実験室レベルで何度も再現性が確認されている」

 

「鉄の樽に火薬と魔石と信管を詰め込んだ様なものだ。材料さえあれば民間企業でも簡単に作れる」

 

「それはそれでおっかないな、悪用も考えられるから法整備を急ぐべきだな」

 

「何、今回の用途は突然変異体の駆除だ。害獣が現れたら駆除するだろう?」

 

「元人間という事を考えなければな」

 

「それはカクーシャの奴らの自業自得だろう。それにあの姿のまま生き続けるのも残酷だとは思わんか?」

 

「こいつのせいで更に得体の知れない化け物にならんだろうな?」

 

「カクーシャ帝国の防壁に備えられていた魔石柱は確かに高密度の魔素を含んでいたが、マテリアル企業の作った高純度魔石に比べるとそうでもない。半端な魔力波だから異形化したんだ」

 

「それで?こいつが炸裂したら連中はどうなるんだ?」

 

「SSM1Bの直撃で誘爆した時と比べ物にならない・・・・少なくともアレの数万倍の魔光パルスが放たれ、細胞が溶解され骨格や体毛などを残して溶けてなくなる」

 

「もっと早くに投下するべきだったのでは?」

 

「これでも設計から完成まで早い方だったと思うぞ。幸いある程度間引きも出来ているから変異体が現れるリスクは大幅に低減している」

 

「ヒシャイン公国が時間を稼いでくれたおかげか。あの元住人が大陸中に散らばっていたらどうなっていた事か」

 

「さぁな、恐らく高濃度魔力汚染よりも深刻な被害が発生していたかもしれん。変異は未だに続いているらしいからな」

 

「全く、駆除のために仕方がないとは言え、せっかく除染が進んでいるのにまた汚すことになるのか」

 

「トガビトの協力のお陰で魔素に関する研究が大幅に進んでいるそうだ。魔力クリーナーの試作品が開発される事が決定されて、ここもその稼働実験の候補地なんだとか」

 

「俺らが言うことではないがグレート・ゲームプレイヤーに振り回される現地国家は辛いねぇ」

 

「今までやってきた事のツケって奴さ。自分たちが力を無思慮に振り回した結果この事態を引き起こしたのさ」

 

「我々も何時二の轍を踏むことにならない様自戒せねばならんな」

 

「よし、そろそろ目的地上空だ。地上観測班によると付近の住民は避難済みとの事だ。ドローンによる確認も終わっている」

 

「かなりの炸薬量だ。俺たちの体に無害と分かっていても地上観測班の安否が気になるな」

 

「爆風の範囲から遠く離れている。魔光パルスは飛んでくるかもしれないが影響のあるのはこの世界の生物だけだ」

 

「カーゴを開け」

 

「大型パルス爆弾投下!!」

 

C-2輸送機のカーゴが開き、ずんぐりとした形状の金樽が滑り落ちるように投下され、空中でパラシュートが開かれるとある程度の高さで信管が作動し、まるで2つ目の太陽が現れた様な凄まじい閃光がカクーシャ帝国帝都跡地を包み込んだ。

 

最大効力を発揮する高度で炸裂したそれは、地上のありとあらゆる生物の遺伝子を破壊し細胞分裂のたびに崩壊が進み、液状化させてゆく。

 

高純度の魔石を炸薬で炸裂させているため想定されているよりも物理的な加害半径は広かった様だが、特殊加工が施された純魔石の大部分のエネルギーは魔光パルスに変換され一定の距離から離れると破壊力を失う。

その代わり変換された魔光パルスは魔素構造物に特異的に作用し、共振したり崩壊させたり様々な影響を及ぼした。

 

それから暫くして、地上観測班による調査の結果、大型パルス爆弾から放出された魔素は自然と大気中に拡散されて行き、大部分のエネルギーは魔光パルスに変換されていたためエネルギーを使い切った魔素粒子が与える影響は限定的と観測された。

 

厳重な調査の結果、トガビトが活動するには問題ない魔素濃度のために、引き続きカクーシャ帝国帝都跡地の除染はトガビトが行うことになった。

 

変異生物達は殆ど死滅したため帝都跡地の除染作業は平和なものだったが、時折訪れる遺跡漁りのスカベンジャーや野生動物が被爆して異形化することもあり、思わぬ横槍が入れられる事もあった。

小さなトラブルはあったもののトガビトに同行していた科学者による観測によってトガビトの魔素結晶化のメカニズムとプロセスの研究が進み、後に開発される魔素収縮式浄化装置の大きな助けとなるのであった。

 

 

 

 

 

半個体液状変異体 通称:腐った肉塊 (自衛隊から一部でフレッシュスライムと呼ばれている)

 

恐らく元人間だったと思われる変異体で、遺伝子の破壊が進み元の姿がどの様なものだったのか判らない程に崩壊してしまっている。

その殆どが魔光パルスを浴びた時点で生命活動を停止してしまっているが、中には体細胞が独立した微生物の様に振る舞い、流動しながら虫などの小動物を捕食する原始的な生物に回帰してしまった個体も存在する。

被爆時に変異に耐えきれず生命活動を停止した個体を取り込み増殖することもあり、帝都崩壊後も個体数を増やしていた。

また内部に強力な魔力を取り込んでおり、組み付かれた者は外部から体内から致死量の魔力波を浴びせられ、体組織を崩壊させ溶け出た細胞液を肉塊生物が吸収する。

あまりにも悍ましい捕食方法だが、魔力の影響を受けない地球人が組み付かれても捕食の心配はない。非衛生的なので洗浄は必須である。

討伐隊により多くが焼却処理され、更に魔光パルス爆弾によって一部のサンプルを残し野生個体は絶滅した。

 

 

人狼変異体 通称:犬の魔物

 

まるで御伽噺のウェアウルフの様な姿をした変異体で、その骨格はリクビトの祖先の類人猿と似ている。

似たような姿の亜人であるムレビトと違うところは、屈強な体格と鋭い牙と鉤爪などであり、ムレビトほど手先が器用ではないことである。

また、多産なムレビトとは真逆に人狼変異体は生殖能力が退化していることが判明している。

その殆どが理性と知性を失っているが、一部の個体が言語のようなものを発していたので、個体によって変異の度合いは違う様である。

生殖能力を失っているため、駆除をしなくても自然と淘汰され絶滅していたが、寿命も不明なので生きている間にどれだけ周辺被害を広げるか分からないので駆除されることとなった。

 

 

 

筋繊維増大型変異体 通称:鎧の魔物

 

元カクーシャ兵と思われる変異体で、ある程度自我が残されているのか言語のようなものを発していたという報告がある。

怪物化したカクーシャ皇帝と類似する変異体なので、一部の死体が回収され日本の研究所に送られて解剖され遺伝的な研究が進められている。

凄まじい怪力と、常識はずれに旺盛な食欲に突き動かされ人間や動物関係なく襲いかかり捕食行動をする。

また、体内魔石が心臓などの重要臓器を傷つける程に成長することもあり、戦闘中に突如絶命することもあったという。

改めて高濃度魔素汚染によって変異した魔物の生物としての歪さが浮き彫りとなった出来事であった。

 

 

 

魔素収縮式浄化装置 通称 魔力クリーナー

 

トガビトの能力である大気中の魔力を凝縮して魔石にする技術を解析して開発された魔力汚染除去装置。

彼らの角を核に空気中の魔力を集める仕組みを機械的に再現して、核となる純魔石に特殊な力場を帯びさせ同様の現象を発生させることに成功した。

彼らの角は角質化した体組織が含まれているため、彼らは感覚的に体を動かす延長線上で空気中の魔力を操り凝縮させていたため、それを再現するのに苦労した。

そこで観測機器を総動員して現地で魔力収縮現象を観測することでメカニズムの解明が進んだ。

その結果、純魔石にある種の磁場を与えつつ電流を流すことで特殊な力場を発生させ、それを高速でスピンさせることで安定的に力場を形成する事に成功した。

トガビトは魔石合成に多大な精神的・肉体的疲労が伴うので魔力汚染地帯の除染は時間がかかっていたが、電源設備と核となる純魔石があるなら容易に除染が可能になったので、投入された試作品は今も休まずに稼働しカクーシャ帝国帝都跡地の除染が進んでいる。

 

 


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