自衛隊による首都攻撃によりカクーシャ帝国皇城の外壁の一部が崩落し、玉座の間から業火に巻かれる帝都の姿が露わとなっていた。
SSM1Bが直撃し魔石柱の誘爆、そして王城広間で戦う陸上自衛隊の戦闘の余波でカクーシャ帝国の建造物は次々と瓦礫と化しつつあった。
黒煙に包まれるカクーシャ帝国帝都を背に、玉座の間まで突入してきた特殊部隊に向き直ったカクーシャ皇帝はトガビトの魔石を体内に取り込むことで異形の姿へと化そうとしていた。
『コレが燃えるとさぞ壮観だろうな?』
カクーシャ帝国の首都を攻撃する前に情報工作の一環でカクーシャ帝国勢力圏の国々にばら撒いた伝単に描かれた東京の写真を見せつけ、焼却の魔法で3枚のビラは灰と化す。
『貴様っ!!!!』
自衛官たちの表情が怒りで染まる。
『果たして貴様らは、我らを狩る天敵か、それとも最大級の獲物か、どちらなのだろうな?』
大熊の様な体毛に覆われた姿に変貌したカクーシャ皇帝は、口腔からはみ出る剣歯をむき出しにし顔を歪ませる。
『カクーシャ皇帝、貴様をテロ容疑で拘束する!』
『てろ、とは何かは知らぬが、貴様らは我の獲物だ。さぁ死合おうではないか!戦いだ!それがこの世に必要な物なのだ!』
『狂人がっ!』
『我々は唯奪う、お前たちは一切の抵抗すら許されず滅びるだけだ。』
マントを翻しながらカクーシャ皇帝は鉤爪状に変化した手を振り下ろし、特殊部隊に振り下ろすが牽制程度の攻撃が当たるはずもなく転がることで回避し、空を切った腕はそのまま玉座の間の床を砕く。
回避しながら89式小銃を構え、側面を取るとバースト射撃をしてカクーシャ皇帝の脇腹を撃ち抜く。
『っ!ぐっ・・・ククククッ!!』
苦痛に顔を一瞬歪ませるも、目を見開き口腔から牙をはみ出しながら狂気的な笑みを浮かべ、床に突き刺さったままの鉤爪を強引に振り回し破片を特殊部隊に浴びせる。
「ぐあああああっ!!」
「くそっ!囲んで十字砲火を浴びせろ!」
『温いわ!』
背中に両腕を回しマントを広げるとマントの裏側に描かれた模様が光り輝き、複数の光球が空中に生み出される。
『はあああっ!!』
稲妻の様な光が迸る魔光弾は意思を持ったかの様に特殊部隊に襲い掛かり、炸裂音と共に玉座の間に飾られた調度品や柱などを破壊し、何名かがその破片を浴びて負傷する。
「うぐぉぉっ!」
「大丈夫か?」
「か、かすり傷だ。問題ない」
「この男、強いぞ」
空中に光球を漂わせながら獰猛な笑みを浮かべ、鉤爪で裂けたグリーヴで瓦礫を踏みしめながら近づいてくる。
『まだその程度ではないのだろう?宮廷魔術師と魔術将を打ち倒し戦士たちよ』
『当然だ』
再び魔光弾が特殊部隊に襲い掛かろうとしたとき、手榴弾がカクーシャ皇帝の足元に転がり、特殊部隊は既に回避行動をとっていた。
崩れた壁や柱などの遮蔽物に身を隠し、手榴弾の破片から身を守ったのである。
炸裂音と共に無数の破片とワイヤーが爆心地周辺を蹂躙し、至近距離でまともに受けたカクーシャ皇帝は、獣じみた唸り声をあげながら苦悶の表情で体制を崩す。
散弾の様に飛び散った金属片の嵐をやり過ごした特殊部隊は、89式小銃を構えてカクーシャ皇帝に十字砲火を仕掛け、血祭りにあげる。
『がっ・・ごぼっ!ご・・・お゛っ!ごばあああぁっ!?』
魔術将と同じく複数の角度から体内に侵入した金属の礫は貫いた鎧の破片と共に体内を蹂躙し、骨などに跳ね返りながら重要臓器を傷つけた。
「やったぞ!」
「いや、油断するな!これで終わりな筈がない!」
「うっ!?こ・・・これはっ!」
既にズタズタになった体組織が膨張し、新たな筋繊維を形成し皮膚が裂けつつ修復と断裂を繰り返しながらカクーシャ皇帝の体は膨張してゆく。
生命を脅かす強烈な損傷が生存本能を刺激してトガビトの魔石の力を引き出し、さらに異形化が進行する。
『フシュルルルルル!素晴ラしイ!素晴らシいぞ!ニポポ族!!』
薬指と中指の間が肘まで裂けて新たな関節を形成し、腕から枝分かれした新たな腕を形成し、もう片方の腕は更に膨張して分厚い体毛に覆われ、ますます大熊の様な腕に変化する。
関節が増えた事で可動領域が広がった鉤爪は、さらに鋭さと凄惨さを極め、暴風の様に斬撃が繰り出される。
「くっ!」
その一撃一撃が直撃をもらえば即死してしまう威力を持っていたが、回避に専念し時に銃身や銃剣でいなす事で攻撃を受け流し、時折隙をついて銃撃や銃剣を繰り出す。
『またそレか?』
膨張した毛皮に覆われた腕を盾にしながら近づいては、大槌の様に打ち下ろし力でねじ伏せようとしてくる。
「ぬっ!!ちぃっ!」
「あの腕、見た目よりも硬いぞ!」
「なんつー化け物顔だ、今なお変異し続けているぞ」
『さぁ、冥府へ旅立ツ準備は出来タかね?貴様らニはその権利ガある』
複数の関節に分かれた鉤爪状の片腕と、毛皮に覆われた筋肉質なもう片方の腕を持つ怪物が両手を広げながら空中に光球を生み出す。
「!」
(光球の数が先ほどよりも減っている?)
『足掻ケ!』
広げていた両腕を交差させると、稲妻が迸る魔光弾が特殊部隊に襲い掛かるが、それを回避すると同時にバースト射撃で反撃する。
(やはり精度が低下している、怪力と異形化は器用さを失わせるのか)
カクーシャ皇帝と正対している特殊部隊員がアイコンタクトで仲間に合図を送ると、腰に差しているナイフを投擲してその場から飛び退く。
『何ダ?それハ?』
呆れた様に鉤爪でナイフを弾くと、足元に硬質な音が響くのに気づく。
『っ!?何ッ!!』
ガラスの筒の様な物体がカクーシャ皇帝の足元で炸裂すると、強烈な魔光パルスが迸りカクーシャ皇帝の体細胞の遺伝子情報を無残に破壊する。
『ッガアアアアアァァァ!!?』
「ああああああっ!!!」
魔光パルスが迸る爆心地に突撃した特殊部隊は89式小銃を突き出し、先端に取り付けられた銃剣がカクーシャ皇帝の喉仏に突き刺さり、飛び掛かった勢いのまま馬乗りになり銃の安全装置をレの字に倒しフルバーストしながら引き抜いた。
カクーシャ皇帝の首が半ば引きちぎれながら体を痙攣させ、顔の穴と言う穴から血を吹き出す。
「やったのか?」
「こんな奴、拘束なんて出来やしない」
「!?嘘だろう?」
もげた首の脊髄からゲル状の神経組織が伸びて胴体と接続し、筋肉組織が形成され頭部と融合し、体の表面から気泡を発生しながら溶け崩れた肉塊が上半身と思われる部分をもたげる。
「まだ、生きているというのか?」
『我ガ王族の務めとシて連隊長をしていタ頃の話だ』
「!?」
『人の身でハ敵わヌと思わレた甲獣と遭遇シ、犠牲を出シながラも仕留メた事ガあってナ』
『戦イでの興奮はアったガ、甲獣ノ死骸ヲ前にこれ程ノ巨獣でも死を迎えル事ニ虚しさを覚えタものダ』
溶け崩れながらも獣の喉をならす様な声を上げ、語るカクーシャ皇帝。
『・・・・何が言いたい?』
訝しげな表情で、89式小銃を構える特殊部隊。
『く・・くふふフふふフ・・・こノ世界に意味ナど無いのダよ、虚無ノ民よ』
『空を掴ミ、大地を掌握シ、大海を飲み干そウとも、ただソれだケだ全てに意味がナいのだ』
今すぐにも肉塊の体組織は溶け崩れそうになっているが、悪意だけで自我を保ち特殊部隊に語り掛けてくる。
『だガ、力ヲ持つ者、特ニ途方も無ク長く生きテいた物ヲ滅ぼすのハ何にモ代えがタい絶頂を覚えルのダよ!歴史ガ終わル快感、特に日本ほドの物にナると最上質ダ』
『万物ハ、大いナる崩壊を迎えルために発展している、ソれガ世の理なノだ!イクウビトよ!!』
肉塊の表面が牙とも肋骨の一部ともつかぬ突起が突き破り、獣とも昆虫ともつかない魔獣の様な姿に変化しつつあった。
そこに発射音と共に飛来したパンツァーファウストが光の尾を引きながらその胴体に突き刺さり大爆発を引き起こす。
『黙れ!そんな独りよがりに滅ぼされてたまるか!!』
『そんな小学生でも思いつきそうな安っぽい終末論に、そんな底の浅いものにこの大地に生きる人々が地獄に叩き落されたというのか!?ならば一人で地獄に堕ちろ!!』
さらなる異形化を強制的に中断させられたカクーシャ皇帝の上半身が玉座の間の床に転がるが、残された鉤爪状の片腕を胸部に突き刺したのち、トガビトの魔石と融合した自身の魔石を引き抜き、握りしめる。
『ふは、フハははっ。ふはははははは!!!ならば滅ぼせ!我が身を食らえ!食らい尽くすのだ!けだもの共め!ふはっ、ふはあははは!あっはははっ!!』
『はははっっげぃぃぎぃぁっ・・・・かっ・・・!!!』
血管が絡みついた異形の鉱物器官に亀裂が走る。
鉤爪が体内魔石を砕こうというその瞬間、血汗にまみれ苦痛激痛に苛まれ、苦悶とも恍惚ともつかぬ表情で自身の肉塊に押しつぶされ腫瘍の塊の様な姿と化したカクーシャ皇帝は、青白い光を放ちながら膨張を始める。
「いかん!爆発するぞ!!」
「退避だ!退避せよ!!!」
予め距離を取っていた特殊部隊は一瞬で判断を下し玉座の間から全力で退避し、瓦礫に横たわるダリウスと負傷してその場に残っていた隊員を拾い、その場から離れる。
少し遅れて耳を劈く爆発音が轟き、玉座の間は瓦礫の山と化する。
辛うじて構造物同士で支え合っていた皇城は、中央部ともいえる玉座の間の内部爆発により致命打を負い、崩落が始まる。
『終わった・・・・のか?』
『まだ動くなダリウス殿、ここも直に崩落する』
『既にお迎えには連絡済みだ、テラスに発煙筒を設置するぞ』
『地揺れが止まらない、間に合ってくれよ』
暫くすると、皇城テラスに急行した輸送ヘリが到着し、特殊部隊とダリウスは崩壊しつつある皇城を後にする。
皇帝の捕縛任務は失敗、しかし貴族皇族の一部は地下通路を通って脱出しようとしている所、陸上自衛隊が確保しており戦後の責任問題は彼らに清算させる事になった。
最高責任者の確保は出来なかったものの、多数の要人を確保できたので地上部隊は撤退を開始、しかしカクーシャ帝国は瓦礫の山と魔物化した住人達の巣窟となってしまった。
撤退の最中に陸上自衛隊は無事だったまともな状態の民間人を保護して、カクーシャ帝国の属国や攻撃を免れた地方都市へと避難させたのであった。
もう少しだけ続きます。