異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第156話  咎を刻む者

SSM1Bの直撃と魔石柱の誘爆で大火災が発生し、黒煙に包まれるカクーシャ帝国帝都、そこで魔獣と化したカクーシャ兵と自衛隊が戦闘を繰り広げていた。

 

人間離れした身体能力を得たカクーシャ兵や帝都住民達の攻撃を受け、負傷者が出るも、装甲に覆われた戦闘車両が前面に出て自衛隊員たちの盾となり、被害は最小限に抑えられていた。

 

「開けた所で戦うんだ、路地に進むと挟撃されかねん。」

 

「魔法と言うのは厄介だな、負傷者も増えている、車内に避難させているが安全とは言い難い。」

 

「国境要塞の時みたいにレーザー砲の様な魔法を使われたら今度こそ犠牲者が出るぞ?魔道具を装備している奴を優先して狙うんだ!」

 

王城広場に陣取り、機銃掃射でカクーシャ兵を迎撃する陸上自衛隊は、カクーシャ帝国王城にヘリボーンを行う特殊部隊から見事に気をそらせ陽動する事に成功する。

 

カクーシャ帝国王城にヘリボーンした特殊部隊は、王城上部から内部に突入し、カクーシャ帝国中枢を制圧するために玉座の間を目指すのであった。

 

『この先からトガビトの魔石の魔力を感じると言うのは本当ですか?ダリウス殿。』

 

『間違いない、既に魔道具に加工されたのか、異質さを感じるが、確かにあいつらの魔力を感じる。』

 

本来ならばトガビトの戦士長のダリウスがこの作戦に参加する事は無かったのだが、トガビトの偵察隊の体から引き抜かれた強力な魔石を感知できる事と高い戦闘能力を持つ事が前回の救出作戦で評価され、特例的に参戦する事となった。

 

『あの強力な魔道具の放つ魔法に耐えられたのも戦車の装甲があっての事だ、あんなもの生身で食らっては一溜りもない。』

 

『だが魔力を完全に制御できているとは感じないな、やはり我らの魔石は我ら自身が扱わなければ真価を発揮しないのだろう。』

 

「外は酷い事になっているな・・・。」

 

魔石柱の誘爆の余波で穴の開いた壁から、火の手が上がる帝都の様子を見た自衛官が呟く。

 

『あれでは、我ら以上に人を辞めてしまっているな、躊躇う事無く共食いを進んで行うのか、どちらがケダモノなのだろうな?』

 

『追い詰められてそうせざるを得なかった者達と力を得るために進んでそれを行う者達か、後の歴史書にはどのように描かれるのか。』

 

『因果な物だ、我らトガビトは復讐に駆られて咎を負った、だが奴らは我らと同じ事を、それを咎とすら自覚する事なく今なお行い続けている。』

 

『ある意味ではこれ以上咎を負わなくても良いように終わらせてやるのも我々の責務かもしれませんね。』

 

『それは流石に詭弁だな、しかし、どの道奴らを放置するわけにも行かぬ。』

 

無数の影が王城広間に集まって来る、通路から、建造物の屋根や壁を這い、異形と化したカクーシャ人が群れを成し、奇声を上げながら囮となっている陸上自衛隊に襲い掛かる光景を尻目に特殊部隊は足を速める。

 

「前方に敵確認!!」

「物陰に隠れろ!魔法が飛んでくる!」

 

物陰から突如、部分的に異形と化した敵兵が飛び出し、杖から火炎弾や氷の槍などが発射され特殊部隊は散開してこれを回避する。

 

『おのレ!二ポポ族め!土足デ王城へ忍び込ムとハ!!』

『劣等民族ガ!!』

 

柱の陰に隠れた自衛官が燃え盛る火炎弾の熱気に腕で頭を庇うようにしながら身をかがめ、手榴弾のピンを外すと、敵兵の足元に投げ込んだ。

 

『ナんだ、これハ?』

『っ!?魔石爆弾カ!?』

 

カクーシャの魔石爆弾は基本的に加工前の原石に近い見た目をしているので、足元に投げ込まれた物体が何であるか思い至るのに時間を要し、その判断の遅さが致命的な結果を齎す。

 

ドーン!!

 

『ウギャアアアアアァァァ!!!!!』

『あぎゃっ、カアアアァァァ!!!』

 

爆音と共に破片が広範囲に撒き散らされ、その効果範囲に居た敵兵の体に突き刺さり、食い込み、断末魔の悲鳴を上げながらカクーシャ兵達は血の海に沈んでいった。

 

「まだ来るぞ!」

「右の扉だ!撃て!撃て!」

 

89式小銃のバースト射撃が的確にカクーシャ兵の頭部を捉え、果実のように爆ぜ、糸が切れたように転げ落ちる。

 

『おのレェ!!』

 

身をかがめていて射線から逃れていたカクーシャ兵は、体をバネにして物陰から飛び出し、空中で体を捻りながら手のひらから握り拳大の氷の刃を飛ばし、自衛官のヘルメットの側面を叩く。

 

「ぐおっ!?」

「っ!大丈夫か?」

「掠っただけだ、だが、氷の塊とは言え侮れんな。」

『はぁっ!!』

 

ダリウスが手で空を裂く様な動作をすると、カクーシャ兵が隠れていた柱が斜めにずり落ちる様に倒れ、遅れるようにして柱と同じく斜めに裂けたカクーシャ兵が血をまき散らしながら倒れる。

 

「見事だ。」

「次々と集まって来るぞ、これだけ音を鳴らしてりゃ仕方ないが。」

「前進しろ、このままでは挟撃される。」

 

囮がカクーシャの軍勢を引き付けているとは言え、玉座の間の守りは固く近衛兵が騒ぎを聞きつけて特殊部隊の降下地点付近に集まって来る。

 

「こちらクレスト、機銃掃射する!」

「っ!助かる!」

『伏せろダリウス殿!』

『了解した』

 

AH-64アパッチが特殊部隊に迫るカクーシャ兵を監視赤外線で捉え、M230機関砲を連射し区画ごと敵兵を殲滅する。

 

ドコココココココココココココココ!!!!

 

『何だ何ガ起こっテ』

『ぴギャッ!?』

『あ』

 

王城に忍び込んだ賊を討つために、兵舎から飛び出したカクーシャ兵達は異形の羽虫の放つ光の束に粉砕され、その暴風に巻き込まれた者は誰一人と原形をとどめていなかった。

 

「こちらクレスト、お掃除は終わったぞ?先に進んでくれ」

「了解、今ので近くの奴は片付いたみたいだな」

「武運を祈る」

「後で奢らせてくれ」

「仕事が終わればな、補給に戻る、死ぬなよ」

 

地上部隊の支援攻撃で弾薬を使い切ったAH-64アパッチはキョーシャ駐屯地へと帰投する。

 

『大したものだ、敵の気配も今の所感じられない』

『その魔力感知能力は便利なものだな』

『お前たちの魔道具には敵わんし、そちらの方が使い勝手は良いだろうよ。』

『そりゃどうも、ダリウス殿、先に進むぞ』

『あぁ』

 

玉座の間があると思われる場所を目指して通路を突き進んでいると、装飾品の少ない鼻につく異様な臭いの立ち込める広間へ出る。

 

「うっ」

「何だ此処は?」

「状況ガスか?」

『気を付けろ、同胞の魔石の気配を感じる。』

『トガビトの魔石か!?』

 

突如紫煙の中から特殊部隊めがけて火炎弾が飛来し、咄嗟にそれを回避するも爆風で飛び散った破片を浴びて一人が負傷する。

 

「ぐわあああ!!」

「応戦しろ!撃て!」

 

煙の中から現れた黒いローブを身に着けた老人に89式小銃をバースト射撃するが、濁った体液を飛び散らせてのけぞるも、ゆっくりと起き上がり不気味な笑みを浮かべる。

 

『くかかかかっ!なかなか面白い武器を持っているでは無いか、虚無の民よ!』

「馬鹿な、急所に命中したはず。」

 

黒いローブを身に着けた老人は異様な風貌であった。

顔から腕までびっしりと印が刻まれており、体色は青白く、萌葱色の魔石の魔道具と思われる装飾品を身に着けていた。

そして何よりも異様なのが、被弾箇所から緑色の煙を上げて傷口がみるみる再生している事であった。

 

「化け物め!」

『生憎二ポポ族の言葉なぞ知らんのでな、魔力無しの劣等人種よ、我らの糧となるが良い!』

 

細長い陶器の瓶を取り出すと、蓋を外して緑色に発光する液体を飲み干すと、胸を搔き毟り喘ぎ声を上げながら体が膨張し始め、ナメクジのケンタウロスの様な異形の姿へと溶け崩れ変貌する。

 

『魔力無しが幾ら小細工しようが、所詮は魔力無しよ!今、この瞬間!我は人食い族を超えた存在へと至ったのだ!』

 

先ほど放った火炎弾も十分に脅威的だが、異形へと変化した魔術師の放つ魔法は重火器に匹敵する威力と化しており、小銃もねばねばとした粘液と再生能力を持つ軟体によって有効打とはなっていなかった。

 

「くそっ、小銃がまるで通用していない!」

「なんて威力だ、元から侮る気は無かったがこれほど強烈とは!」

「っ!氷の魔法が飛んでくるぞ!」

 

先ほどのカクーシャ兵が放った氷魔法は氷の矢や槍程度の規模であったが、異形の魔術師の放つそれは、もはや柱と言って良い太さであった。

 

『ふははは!泣き叫べ虚無の民よ!我らは高等民族であるぞ、そして我らは神に等しい存在へと昇華するのだ!』

 

電柱の様な大きさの氷の塊が次々と放たれ、広間は見るも無残に破壊されて行く。

 

「っ!?ダリウス殿!」

 

負傷で動きが鈍った隊員に氷の柱が迫るその一瞬、閃光が氷の柱をバラバラに解体し、自衛官が押しつぶされる前に落下して難を逃れる。

 

「お返しだ!」

 

次の魔法を準備していた魔術師の胸にバースト射撃を叩き込み、詠唱を中断させると魔術師は自衛官を忌々しそうに睨みつける。

 

『小賢しい真似を!』

 

振り払うように魔力波を放ち、89式小銃を撃っていた自衛官が吹き飛ばされ木製の扉を破壊しながら隣の部屋へと飛んで行く。

 

『おのれ、オノレ、おノれおのレェ!!毛無し猿が良い気にナりおってぇぇぇ!!』

『頭に血が上り過ぎたな老人。』

『あっ?』

 

身に着けた魔道具から魔力を集め、部屋ごと吹き飛ばそうとしていた異形の魔術師は両手を天に掲げるが、ダリウスの放った次元斬りに両手を切断され、断面から血と一緒に魔力が噴き出す。

 

『あぎ、あぎゃぁああああぁぁぁおぉぁぇぁぁぁぁ!!!!』

『時間稼ぎ感謝する!』

 

物陰から現れた隊員がカールグスタフを構え、引き金を引く

発射音と共に放たれた成形炸薬弾が軟体と化した下半身に命中し、身に着けていた萌葱色の魔石の魔道具を破壊しつつ、メタルジェットが体内を焼き尽くし、魔術師の顔の穴と言う穴から赤と緑の混じった体液を噴き出しながら声にならない悲鳴を発し、最終的に魔力爆発を引き起こし絶命する。

 

「とんでもない相手だったな。」

「少なくとも先ほどの奴らとは別格だった、あの男は何者だったんだ?」

『恐らく、カクーシャの宮廷魔術師、それも最上位の者だったのだろう。』

『しかし、トガビトの魔石を砕いたというのにあの程度の規模の爆発しか起こさなかったのは一体何故だ?』

『一つの魔石を切り分けて複数の魔道具へ加工したのだろうな・・・。』

 

ダリウスが破損を免れた魔道具の一部を拾い上げると、留め具を指でへし折り、萌葱色の魔石だけを取り外す。

 

『一部は消し飛んでしまったが、取り戻したぞ、ミナ・・・。』

『感傷に浸っている所済まないが、先へ進もうダリウス殿。』

『あぁ、奴らを唯では済まさん。』

 

先ほど吹き飛ばされた自衛官が玉座の間への道と思われる場所を発見したと報告すると、特殊部隊は宮廷魔術師の研究室を抜け、玉座の間へと急ぐが、側面から火炎弾が飛来し通路が破壊され瓦礫へと埋まった。

 

「新手か!?」

「次から次へと!!」

『醜い老人だと思っていたが、最後の最期に時間稼ぎをしてくれた様だな?』

 

隣の通路から現れた者は鎧の上からでも分かるほどの筋骨隆々とした歴戦の戦士と言う風貌の男であった。

 

「成程、こいつが本命と言う所か?」

『気を付けろ、この男、只者ではない!』

 

常人が着るには重そうな分厚い板金鎧と萌葱色に発光する杖とも短槍ともつかぬ魔道具を身に着けた男はダリウスを観察し嘲笑を浮かべる。

 

『ほぉ?やはり人食い族か、虚無の民と人食いの鬼が手を組むとは、やはり劣等民族のやる事は碌でもない。』

『その槍の魔石は・・・・ドーリス!?』

ダリウスが短槍に組み込まれた魔石に目を見開くと、徐々にその表情を険しくさせる。

『なんだ?あの小娘の思い人だったのか?あの手ごたえのない屑でも我らが高等民族の糧となったのだ、この姿になった事にあの世で喜んでいるだろう。』

『貴っ様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

ダリウスは腰の帯に取り付けていた、一回り大きな魔石片を取り出すと、次元斬りを放ち薄ら笑いをする男に光の刃が直進する。

 

『面白い!』

 

萌葱色の魔石が組み込まれた短槍を一振りすると、強力な魔力波が光の刃を捉え、相殺し合う。

 

「戦車砲の砲身を切り落とした次元斬りがかき消されただと!?」

『あの甲獣と同じ方法か!!』

 

直撃すれば防御力を無効化する次元斬りであるが、繊細な魔法なので同じ魔力によって打ち消される弱点が判明しているが、それを直感で理解し、魔力波で相殺する対応力に自衛官たちとダリウスは内心舌を巻いていた。

 

『我は魔術将、世界を統べるカクーシャ軍の頂点に立つ者なり!』

『奇遇だな、俺はダリウス!トガビトの戦士長にして魔術長なり!!』

『成程な、それでは貴様を倒せば人食い族最強を超えたと言う事か、くかかかかっ!腕が鳴るわ!!』

 

魔術将が短槍を振るうと、空間が歪み光の刃が回転しながらダリウスに迫る。

 

『っ!今の一瞬で魔術の構成を見抜いたか!』

 

先ほど魔術将がやった様に魔力波を次元斬りの側面に当て、打ち消すと、壁や天井を飛び跳ねながら、ありとあらゆる魔法を放ち応戦する。

 

「なんつう戦いだ!」

「あれに巻き込まれたらひとたまりも無いが・・・・」

「ダリウス殿を援護しろ!誤射するなよ!?」

 

光弾の嵐に巻き込まれないよう、自衛官は牽制射撃を行うが、人間離れした身体能力と動体視力によって回避され、魔術将はダリウスと応戦しつつ時折思い出したかのように自衛官に向けて魔法を放つ。

 

「ぐっ、危ない」

「戦闘センスはダリウス殿と同格か」

「こんな所で足止め食っている場合じゃないのに!」

 

ダリウスの魔石を仕込んだ手刀と魔術将の短槍が衝突し、金属音が響き渡る。

 

『流石は人食い族最強の男よ、そうでなくては戦い甲斐がない』

『カクーシャの将軍の実力はこの程度か?』

『確かに魔道具の補助が無ければその身体能力には追い付けんよ、だがな。』

 

短槍でダリウスを弾きながら距離を離し、腰に取り付けられた魔石片を投げつける。

 

「グレネード!!」

「伏せろ!!」

 

魔石片はダリウスの目の前で炸裂し、強烈な閃光が放たれるが、その場にいた者は誰一人と負傷らしい負傷をしていなかった。

 

『がっ・・・あっ・・・。』

 

しかし、ダリウスは体を痙攣させながら後ろ向きに倒れ、体を丸めのたうち回る。

 

『あの小娘たちも、こいつで身動きを奪ってやった。この衣はこいつを運用するための特別製でな、魔力を遮断する甲獣の革で作られている。』

『所詮人食い族など過去の遺物よ、最強の人食い族の魔石から作られる魔道具、さて如何程の物になるかな?』

『ぐっがっ、ド・・・ドーリス・・・』

 

次元斬りと同じ性質の魔力を帯びた短槍をダリウスに突き刺そうとする魔術将、しかし。

 

タタタン!!

 

『あっ?』

 

背後から89式小銃のバーストを浴び、板金鎧を貫通しながら変形した弾丸が内臓をズタズタに引き裂き、魔将軍は吐血する。

 

『が、がばぁっ!き、貴様ら、何故動ける!?』

 

仲間と射線が被らない位置に移動していた特殊部隊は、魔術将に十字砲火を浴びせる。

 

タタタン!タタタン!バババババ!!ダダン!!

 

『ご、ばごっ!お゛っ!ご・・ご、ぼぉ!!?』

 

魔術将にとって、いや、この世界の住人にとって自衛隊は、地球人はイレギュラーな存在であった。

魔力をその身に宿さず、それが故に魔力の影響を受けない体を持つ、根本的にこの世界の人間と異なる種族。

魔術将の目論見虚しく、完全に油断した状態で十字砲火を受けてしまい、全身から血を噴き出しながら膝をついてそのまま固まった。

 

『生憎こちらはパルスグレネードなんてものが効く体じゃないんでね。』

『ダリウス殿!しっかりしろ!』

『ぐ・・あ・・・が・・・。』

 

蹲るダリウスを瓦礫の影まで引きずり、手当てをするが魔光パルスの内部ダメージはどうする事も出来ず、出血箇所の止血が手一杯であった。

 

『ど、ドーリスの魔石を・・・頼む。』

『あ、あぁ、奴の短槍から・・・・?奴が居ない!?』

 

ダリウスを治療するために一瞬目を離したすきに魔術将が姿を消し、血痕が隣の部屋まで続いていた。

 

「あれだけ銃撃を食らって生きているとは。」

「追いかけるぞ!嫌な予感がする。」

 

魔術将の後を追う特殊部隊が見た者は、短槍から萌葱色の魔石を取り外し、穴だらけになった体にねじ込む姿であった。

 

「しまった!」

『ぐ・・ぐが・・くふふふっ、遅かっタな?虚無の民二ポポ族よ。』

 

胸部が緑色に発光し、皮膚を引き破る様に筋繊維が膨張し、顔は猛獣のように人間離れした面容と化していた。

 

『筆頭宮廷魔術師の老人ハ、そノ身ヲ人食い族の血や魔獣の血と魔石を調合した薬液デ肉体を変異させていたガ、我は元々適性があってナ?直接人食い族ノ魔石を取り込むことで神へと近づけルのだ!!!』

 

「これは・・・・鬼か?」

 

口腔からはみ出す鋭い剣歯、膨張した筋繊維を覆うように再生し始める褐色化した皮膚、そして頭蓋骨から生える魔石質の1対の角、それはもはやリクビトともトガビトとも違う異形と化していた。

 

『神だか高等民族だかなんだか知らんがな、これだけの所業をやらかしておいて、そんな御大層な名を自称するなぞおこがましいと思わないのか?』

 

『フン、人食い族の力を借りテ我らの拠点を落とシたとは言え、貴様ら自身は魔力無しの虚無の民よ!』

 

タタタン!!

 

側面からの銃撃で青白く発光する体液が噴き出し、床や壁に飛び散ると徐々に光を失って赤い色に戻る。

 

『れ・・・劣等人種の屑共ガああァァァァ!!!』

 

怪物へと変異した魔術将の怪力は純粋な破壊力を持ち、操る魔術も先ほど撃破した宮廷魔術師に引けを取らない威力を持っていた。

まるで暴風雨の如く放たれる魔光弾の雨は、1発1発が掠るだけでも致命傷を負いかねない破壊力を持ち、魔力強化をしている訳でもない特殊部隊にはこの星で遭遇した魔獣よりも厄介な相手であった。

 

「くらえ!!」

『ぐおおおぉ!!!殺す!破壊スル!!』

 

だが、特殊部隊もまた精鋭であった。

サイボーグや超人に例えられる程の身体能力を持ち、過酷な訓練をこなし、ふるいにかけられても脱落せず、洗練され、限られた者だけがなれる精鋭、それが彼らであったのだ。

 

『潰す!っっ潰す!叩き潰しテ引き延バしその身を食らっテくれるわ!!』

『理性が吹き飛んでいるぜ魔術将さんよ!』

 

異形と化しても、小銃は通用し、宮廷魔術師の様に粘液で軽減される訳では無いが、同じく強力な再生能力を持つ魔術将には有効打を与えている訳でも無かった。

 

残り弾数に気を付けつつ、その体に銃弾を撃ち込むが、時間をかければ時間をかける程こちらが不利になって行くのは分かっていた。

 

「ここまでだ!」

 

機転を利かせた自衛官が、注意を引き付け囮になっている仲間を援護しつつ、魔術将の眼球を狙って攻撃をする。

 

『グルオオオオオォォ!!!』

「いい加減くたばれ化け物が!」

 

突如視界を奪われ無秩序に暴れ狂う魔術将の首に銃剣を突き刺し、駄目押しで至近距離からバースト射撃をし、最後に蹴り倒す。

 

『ごオオオオォォォォ!!!』

「嘘だろ、頚静脈は断ち切った筈だ!」

「それどころか、眼球すら再生し始めている。」

『ふしゅおおおぉぉォォ!!イクウビト共めぇぇぇ!!』

 

眼球が再生するまでの間暴れ狂う魔術将に向けて試験管の様なガラス質の筒の様な物が投げつけられる。

 

パァン!!!

 

快音と共に強烈な閃光が崩落した部屋を包み込み、魔術将は十字砲火で負った傷が開き、地獄の怨嗟の様な鳴き声を響かせる。

 

『ば・・馬鹿がナああぁぁァァァ!!』

「メイドインジャパン、国産のパルスグレネードの味はどうだ。」

 

天然魔石よりも高純度な合成魔石で作られた日本製パルスグレネードは、カクーシャ製パルスグレネードよりも高出力の魔光パルスを発生した。

さらに、魔力を遮断する甲獣の革で作られた防護衣はトガビトの魔石を取り込み異形化した事や銃撃で破損し、その機能を喪失しており、魔光パルスを至近距離で浴びた魔術将は口から血の泡を吐きながら悶絶する。

 

『ご・・ごぼおおぉぉ!モ゛オオオオォォ!!!』

 

突如暴走した魔力が体中の体組織を変異させ、体内に埋め込んだドーリスの魔石が拒絶反応を引き起こし、遺伝子が傷つけられたように出鱈目に変異を続け、体の関節はあらぬ方向に曲がり、皮膚を突き破って形容しがたい形状の骨が伸びて行く。

 

「これで終わりだ化け物め!」

 

肉塊へと変異しつつある魔術将は苦悶の表情で呻き声をあげるが、そこにパンツァーファウスト3が撃ち込まれた。

尾を引きながら放たれた光の矢は、深々と魔術将の腹部に突き刺さる。

もはや人間の声では無い、おぞましい断末魔の叫びと共に爆発四散し、ついに魔術将を打ち破ることに成功する。

 

「はぁ、はぁ、くっ・・・流石に化け物2体連戦は身に応える。」

『ダリウス殿、立てそうか?』

『いや、もう暫く動けぬ、俺を置いて先に行け、皇帝を捕らえるのだ。』

『ダリウス殿、これを・・・・。』

 

魔術将だった肉塊から奇跡的に無傷であったドーリスの魔石を回収した自衛官がダリウスに手渡す。

 

『ドーリス・・・済まなかった。』

『俺は此処に残ります、負傷している者は足手まといでしょう。』

『そうか、ダリウス殿を頼んだぞ。』

『最低限の人員を残し退路を確保せよ、先に進むぞ!』

 

先ほどの戦闘で瓦礫と化した通路を迂回して、カクーシャ皇帝を捕縛するために玉座の間へと向かう特殊部隊、そして彼らが見たものは・・・・・。

 

『ついに此処までたどり着いたか劣等民族共よ。』

「こいつは・・・・。」

 

既に人とは違う異形へと変異しつつあるカクーシャ皇帝の姿であった。

 

『実に美しい光景だと思わぬか?くはははは、実に愉快、不愉快、今代でこの様な光景を拝む事が出来るとは、これも役得か?』

 

王城広間で戦う陸上自衛隊の攻撃や、先ほどの戦闘の余波で玉座の間の壁の一部が崩落しており、火の海に沈む首都を嘲笑しながら自衛官たちに向き直る。

 

『歴戦の戦士、数百年の年輪を重ねた甲獣、栄華を誇った大国、それら全てが滅び去る、今まで繁栄してきたもの全てが無駄になる。なんと美しい事か』

『何を・・・何を言っている?』

『積み重ねて来たもの全てが無駄になる時、そしてその手でそれをなす時、我は無常の喜びを見出すのだよ、虚無の民イクウビトよ。』

 

熊のように体毛で覆われた手に3枚の紙片が握られており、それを自衛官たちに見せつける。

 

『コレが燃えるとさぞ壮観だろうな?』

 

それは、自衛隊がカクーシャ勢力圏上空からバラ撒いたビラの1部であった。

東京スカイツリーを含む東京の街並み、笑顔で町を行き交う人々の写真、巨大な商業施設の写真、それらの写真がカクーシャ皇帝の掌の上で突如発火して消し炭が宙を舞う。

 

『貴様っ!!!!』

 

自衛官たちの表情が怒りで染まる。

 

『果たして貴様らは、我らを狩る天敵か、それとも最大級の獲物か、どちらなのだろうな?』

 

大熊の様な獣人と化したカクーシャ皇帝との戦いが始まろうとしていた。


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