異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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大分時間がかかりましたが、何とか投稿にこぎつけることが出来ました。
長くなるので幾つかに分割します。


第155話  帝都に降り注ぐ光の槍

異世界の海を灰色の鋭角な影が波を切り裂くように突き進んでいた。

海上自衛隊たかなみ型護衛艦1番艦たかなみはカクーシャ領近海に接近していた。

 

グローバルホークによる偵察飛行や、人工衛星による観測により帝都付近の測位データが集積され、かなり高精度なものとなっていた。

 

護衛艦たかなみは、帝都で潜入捜査を行っている調査員から送信された情報から、現在帝都の施設から都市の住民を狂戦士化させる魔法が放たれいると言う情報を得ており、魔力波を放つ魔石の塔が最優先破壊対象とされていた。

 

魔石の塔の破壊は、敵兵の強化を阻止するのが目的であり、そして戦意のない住民を強制的に兵士へと作り変えてしまうカクーシャ帝国の非人道的な行為を止める為でもあった。

しかし、日本国本土でも行われた実験によって高純度の魔石を破壊する事で内部に蓄えられていたエネルギーが瞬間的に大放出される性質が判明しており、偵察により観測された魔力から魔石の塔の魔素の純度が非常に高い事が判明した。

 

ミサイル攻撃や航空爆撃によって魔石の塔が破壊された場合、高い確率で連鎖爆発を引き起こし、カクーシャ帝国首都が、致命的な打撃を受けることは確実であった。

こちらの目的は相手を強制的に交渉のテーブルに引きずり出す事であり、殲滅ではないので、可能な限り被害が抑えられないかシミュレーションするが、それでも多数の民間人が巻き込まれるのは確実であった。

 

 

「作戦開始時間が迫っている。」

 

「3つの要塞を制圧した事で大きな脅威が取り除かれ、地上部隊はカクーシャ帝国首都を包囲しつつある様です。」

 

「ゼロアワーに魔石柱のある塔への攻撃を決行する。」

 

「対艦ミサイルが直撃した時点で帝都は瓦礫の山になるだろうが、特に魔石の塔の破壊はどれだけの破壊力があるのか想像もつかん。」

 

「どの道敵の首都に攻め込むんだ、守りを固められたら相当面倒なことになるぞ。」

 

「敵首都は地表の都市だけでなく、天然洞窟を利用した地下都市も存在する様だ。」

 

「陥落させた国境要塞にも同じような所がありましたね。」

 

「山に囲まれたカクーシャ帝国特有の様式だな、対艦ミサイルの直撃と魔石の誘爆で国境要塞と同じく地下都市が崩落する可能性もある。」

 

「やはり民間への被害が大きすぎますね、戦後処理の事を考えると頭が痛いです。」

 

「だが、その民間人も今や狂戦士だ、恐らく死兵となって襲撃してくるだろう。」

 

「くそっ、奴らなんてものを使いやがるんだ!」

 

護衛艦たかなみは、SSM1Bのプログラミングを終え作戦開始時刻を待つのであった。

 

一方、陸上自衛隊はカクーシャ帝国国境要塞を複数同時に陥落させ、カクーシャ帝国帝都目前まで迫っていた。

 

「多少国境要塞制圧に時間がかかったが、誤差の範囲内だな。」

 

「不意打ちによる死傷者や負傷者が出ています。敵の首都ならば猶更気を引き締めないといけません。」

 

「奴ら自分の内臓を簡単に爆薬にしやがる、殺すと決めたら躊躇せんのだ。」

 

「まさか民間人すらも自分の魔石を爆弾に使うなんて。」

 

「それだけ魔力無しにやられるのが気に食わないんだろう、今まで魔力で優劣を競っていた連中には、この現実が受け入れられないのさ。」

 

「しかもこの先に待ち受けてる連中は洗脳魔法だか何だかで、完全にとち狂っちまっているんだ。民間人相手でも判断を誤ると命取りになるぞ?」

 

「まぁ、どの道その洗脳魔法をかけている施設をぶっ飛ばせばめでたく敵はピンクの煙さ、ミサイル攻撃で生き残った敵を排除するのが俺たちの仕事だ。」

 

「その敵の何割かが狂わされた民間人だろ?気が滅入るな。」

 

「ふん、降伏したふりをして自爆する奴、捕虜の身で魔力無しと侮蔑してくる奴、留置所から逃げ出そうとする奴、そんな奴らばかりだったろう?」

 

「部下が犠牲になったのはお悔やみするが、大多数は力のない巻き込まれただけの民間人だったろう、気持ちは分かるがその辺にしておけ。」

 

「同胞が居る留置所で自爆するんだ、奴らの命の軽さなんてそんなもんだろう、それのせいでアイツは犠牲になったんだ。」

 

「その教訓から追加で対人パルスグレネードが支給されているんだ、何か怪しい行動に出た奴が居たらそれこそ躊躇せずに使え。」

 

「元よりそのつもりだ。」

 

 

彼らの行く先には国境要塞程ではないにせよ、関所として機能する小規模な砦が点在している。

しかしこの程度の障害ではゼロアワーに影響する程の脅威は無かった。

戦車や装甲車がカクーシャ帝国の施設を無残に破壊しながら、瓦礫と死体を踏みつぶし侵攻を続ける。

 

 

カクーシャ領近海の護衛艦たかなみは、作戦開始時刻が迫り、艦内は慌ただしく動いていた。

 

「いよいよゼロアワーだな。」

 

「帝都の調査員は既に脱出したとの事です。」

 

「あぁ、良くやってくれた。」

 

暫し目を瞑り、目を見開くとミサイル攻撃を指示する。

 

「これより敵首都へのミサイル攻撃を行う。」

 

「対艦誘導弾発射用意、発射始め!」

 

「SSM1Bサルボー!!」

 

次の瞬間、4連装発射筒が火を噴き出し、眩い光が海を照らし、轟音を響かせながら白い軌跡を残し、知性を持った異形の大槍が天空へと昇って行く。

 

 

・・・・・カクーシャ帝国帝都。

 

帝都の住民たちは、元からある程度の軍事訓練を受けており、帝国から武具を支給され性別にかかわらず、ある程度の戦闘技術を身に着けていた。

 

『ニーポニス、殺すのが楽シみだ。』

 

『あぁ、骨を砕キたい、肉を引き裂きたい、次の狩りの獲物だ。』

 

『カクーシャ帝国万歳、皇帝陛下は我らに蛮族を狩ル機会をくダさった、殺したい。』

 

『ニーポニス、人食い族、殺したい潰したい、あぁ・・・あああぁっ!!』

 

虚ろな瞳で井戸端会議のように如何にして敵を殺害するか、会話をする住民たち。

婦人や子供達に至っては、狂気的な笑みで刃物を研ぎ続けている。

 

『皇帝陛下カラ、授かっタ武具よ?アナタ、ちゃんト手入れしておきなさい。』

 

『アァ、悪い悪イ、奴らの内臓ヲ引きずり出ス剣が錆びていテは格好ガつかないナ。』

 

カクーシャ帝国帝都を覆う防壁に点在する魔石柱の塔からは、魔力波が放たれており、魔石柱の制御を担当する魔術師が塔の内部で魔石柱に連動した魔法印を操作し、同時に自身の操る魔力波に飲まれないように防護膜を展開していた。

 

『うぅ、頭が痛い。辛うじて防いでいるが、魔法の発生源の真下ではどうしてもその影響を受けてしまうな。』

 

『愚民どもがどうなろうと勝手だが、果たして愚民どもを使い捨てて国境要塞を全滅させるほどの相手に対抗できるのだろうか?』

 

『だが、我らはカクーシャ帝国は、万物を統べる存在、この試練を乗り越えなければ世界統一なぞ夢のまた夢だ。』

 

『来るが良いニポポ族め、人食い族共々打ち滅ぼしてく・・・・』

 

次の瞬間、魔術師は何が起こったのかも分からないまま痛みも感じる暇もなく、この世から肉体が消滅する。

 

大気を切り裂き、飛来した多数の90式艦対艦誘導弾[SSM1B]が次々と魔石柱の塔に突き刺さり、光と高熱の大瀑布がその範囲内の人員を飲み込み、原形はおろかそこに存在した形跡ごと消し去った。

 

高性能爆薬の生み出す爆発閃光から遅れて、魔石柱が破壊された事で生じる内包エネルギー瞬間放出現象が起こり、紅と蒼の混じった爆炎が、帝都を覆う防壁を崩壊させ、その一瞬だけ帝都は影の存在すら許さない程の光量の閃光に覆われる。

 

『ウギャアアアアアァァァぁぁ!!!』

 

『ぎぃぃぃ!!アギィィィィィ!!!!』

 

魔石の誘爆に巻き込まれた者達は、物理的に爆死してしまったが、その恐ろしさの本質はまた別にあった。

それは、致死量の魔力波、細胞をずたずたに引き裂く蒼き閃光、体を構成する設計図をぐちゃぐちゃにされる事で、その肉体は腐ることなく肉塊へと崩れ落ちる。

 

地獄絵図、そうとしか表現できぬ悲惨な光景がそこに広がっていた。

 

カクーシャ帝国帝都の彼方此方に服や鎧のまとわりついた肉塊が転がる。

魔石柱に近ければ近い程その数は多くなり、被ばく量が少ない者も苦悶の表情で転げまわりその身は少しずつ異形の姿へと変質して行くのであった。

 

 

・・・・・カクーシャ帝国帝都近郊。

 

「撃てぇ!!」

 

74式戦車がライフル砲を発射し、関所に使われている砦の門が歪にひしゃげて宙を舞う。

門を守ろうと隊列を組んでいたカクーシャ兵は原形を残さず爆散し、範囲から逃れていたカクーシャ兵は尻もちをつきながら恐怖の目で唸り声を上げながら突き進む鋼鉄の獣を見つめ、悲鳴を上げる。

 

「74式もこれが最後の活躍かもしれんな。」

 

「とは言え、そもそも戦車を持ち出す相手が魔獣くらいしか存在しませんがね。」

 

「故障などで脱落する奴もいる、90式の連中はそこまでも無いが、やはり装備の更新は必要だな。」

 

「恐らく、こういった戦闘車両もこの世界に対応した形に調整されて行くのでしょうね。」

 

突如、遠雷のように爆発音が響き渡り、遠方に青白い光が見える。

 

「やっこさん派手にやったな。」

 

「もう目と鼻の先です、一気に敵首都を制圧しましょう。」

 

陸上自衛隊がSSM1Bの着弾を確認すると、目標の帝都への足を速めた。

 

「まて、何か来るぞ!」

 

「魔物の群れだ!素早いぞ!」

 

筋骨隆々とした四肢と体毛に覆われた魔物の群れが突如前方から現れ、進軍する陸上自衛隊に襲い掛かる。

 

「撃てぇ!!」

 

しかし、89式小銃やMINIMIの機銃掃射によって、次々と打ち倒されて行く。

 

「魔物が鎧を着こんでおります!恐らくカクーシャ帝国の使役する魔獣だと思われます!」

 

「首都を叩かれて奥の手を出してきたか!気を付けろ!」

 

「なっ!前方から来ます!」

 

「そのまま突っ込め、撥ね飛ばせ!」

 

機銃掃射をしながら進んでいた96式装輪装甲車の目の前に魔獣が現れるが、速度を上げて強引に撥ね飛ばした。

 

『グルァァァッ!!!?』

 

装備を身に着け筋骨隆々とした魔物も96式装輪装甲車の質量と速度に正面からぶつかるには分が悪かった。

まるで死にかけの虫の様にピクピクと体を痙攣させ、口から血の混じった泡をはく。

 

『ゴボッ・・・ご・・・ごのレ、イクウビドめ゛ぇぇ・・・。』

 

走り去った96式装輪装甲車の後続の自衛官が、倒れる魔獣の口から人語が話される事に驚愕する。

 

「こ・・・こいつ、今喋って・・・。」

 

「油断するな!来るぞ!」

 

物陰から剣を振り下ろす魔獣、それは地球の伝承で聞くウェアウルフに酷似した姿をしていた。

 

『逝ネェ!二ポポ族!!』

 

しかし、飛び掛かろうとするも空中で89式小銃のバースト射撃に撃ち落とされ、穴の開いた首を暫く搔き毟った後に絶命する。

 

「こいつら、魔物じゃない!元人間だ!!」

 

「まさか!魔石柱の破壊の影響か!?」

 

その姿はウェアウルフに酷似した姿をしているが、ムレビトの面影もあった、そう、この星の類人猿の化石に近く、惑星アルクス人の原初の姿を色濃く出した、先祖がえりを引き起こしていたのだ。

 

「亜人を魔物扱いしていた連中が、魔力波に被曝して亜人化したのか。」

 

「皮肉なもんだな。」

 

「見ろ、帝都の門から化け物共が吐き出されてるぞ。」

 

「っ!指揮を執っている奴も居るのか、完全に理性が飛んでいる訳でも無さそうだな。」

 

「各部隊に通達!魔物の正体はカクーシャ兵だ!魔石の爆発で変異した模様!繰り返す!魔物の正体はカクーシャだ!」

 

魔物の正体が元人間と言う事に、少なからず動揺する陸上自衛隊だが、隊列を組み魔物と化した兵を指揮する者を確認すると、冷静さを取り戻す。

 

『二ポポ族に正義ノ鉄槌ヲ!』

 

『敵は鎧虫を操ルぞ!気を付ケロ!』

 

『オオオオオォォォォ!!!』

 

自衛隊のボディーアーマーにも負けていない重量の板金鎧を身に着けていても、それを感じさせない軽快な動きで帝都に進軍する陸上自衛隊に突撃をする魔物の群れ。

 

しかし、突如風切り音が聞こえると、空から迫撃砲が降り注ぐ。

 

『魔法!?馬鹿ナ!奴らは、魔力無シの筈!コれ程ノ威力ノ魔法など!』

 

指揮を執る魔物の側面に迫撃砲が着弾すると、大量の土と破片がまき散らされ、重武装の鎧をあっけなく破壊し、その周辺の者達を肉片へと変える。

 

『馬鹿ナぁぁぁ!!劣等人種ガぁぁぁ!!』

 

『血が!仲間タチが!!あぁ!アァァァァ!!』

 

空から降り注ぐ迫撃砲と機銃による十字砲火に、カクーシャ兵達は凄まじい速度で数を減らしていった。

 

『アアアアァァ!あぁっ!!』

 

地面には大量の土と肉片と金属の混合物が転がっていた。

元から正気を保っていたか怪しい者も居たが、遂に狂気に理性を飲み込まれ、本当の魔物へと変わり果ててしまう者が現れ始める。

 

『隊長どノ、何てお姿ニ・・・・・。』

 

もはや、元が人間だったのかもわからない肉片と金属片の混合物を持ち上げる一人のカクーシャ兵、人間よりも横に大きく裂けた肉食獣の様な口を開けると、その遺体を貪り始めた。

 

「な・・・何だあれは!」

 

「共食いしている!?」

 

今なおその数を減らし続けているカクーシャ兵だが、その中で仲間の遺体を食べ始める者が現れ、目に見えて更なる異形の姿へと変異しているのが確認された。

 

『ふしゅるるるるるる!!殺ス!破壊スル!!』

 

鎧や衣服ははち切れて、体に部分的に纏わりついているだけで、人間を辞めた魔物は、3メートルを超える巨体へと巨大化していた。

 

『グルアァァァァ!!皆殺シだぁぁぁ!!』

 

人間の関節の面影は残しつつも、その走りは獣のそれであった。前足と後ろ脚を使った四足歩行、強靭な四肢と背骨をバネにする走法は、瞬く間に彼我の距離を一気に詰める。

 

「撃て撃てぇ!」

 

「畜生!止まらない!なんて奴だ!」

 

小銃の十字砲火を浴びても、突進を止めない魔獣の威圧感に若干怯む自衛隊だが、96式装輪装甲車の重機関銃や、74式戦車と90式戦車の砲撃が巨大な魔獣を捉え、次々と撃破して行く。

 

『グルアアアァァァァ!!!』

 

ドオオオオォォン!!!

 

「流石に戦車砲の直撃には耐えられないか。」

 

「甲獣でも倒せる威力だ、むしろ耐えたら驚くぞ?」

 

「今の余波で帝都の防壁が崩れた様だ、城門もな。」

 

「SSM1Bの着弾で元から瓦礫の山だったがな、敵首都に乗り込むぞ!!」

 

陸上自衛隊は、崩れて穴の開いた防壁を抜けて遂にカクーシャ帝国帝都へ侵入する。

そこは、SSM1Bと魔石柱の爆発で深刻な被害を受けており、元人間だったと思われる布のまとわりついた肉塊が転がり、言葉とも悲鳴ともつかぬ呻き声をあげる変異した住民が徘徊し、爆発した防壁付近から火の手が上がる地獄の様な都市であった。

 

「なんて・・・なんて光景だ。」

 

「パニック映画でももう少し大人しい表現をしますよ。」

 

「この肉塊、まだ生きているのか?」

 

「迂闊に近づくなよ?何か飛んでくるか分からない。」

 

突如民家の窓が割れ、木片をまき散らしながら細身の魔物が襲い掛かって来た。

 

『カァァァァッ!!』

 

野獣のように裂けた口から細長い舌をちらつかせ、鋭い爪を自衛隊に突き刺そうとするが、89式小銃でそれを受け流し、すかさず銃剣を喉元に滑らせ、体当たりで突き飛ばす。

 

『ギャァアアアァァァ!ぁぁぁ・・・ごぼっ。』

 

「この魔物、エプロンつけてやがる。」

 

「元主婦だったとか?やるせないな。」

 

魔物の出てきた施設を警戒していると、小さな8体の影が次々と壁を破壊しながら現れ、自衛隊に飛び掛かって来る。

 

『ホワアアアァァァァ!!』

 

『キュエアアァァァァ!!』

 

歪に変異した爪を振り回し、対応が遅れた自衛官の衣服を裂くが、ボディーアーマーの金属プレートに阻まれ致命傷にはならなかった。

 

「ぐっ!やりやがったな!」

 

「パルスグレネード!!」

 

信管の取り付けられたガラス瓶の様な物体が放り投げられると、パンと小さく爆ぜ、眩い閃光が煌めくが、視界を奪うほどの光量は無かった。

 

『ヒギャアアアアァァ!!』

 

しかし、小型の魔獣には効果覿面であり、目や鼻と口と、あらゆる穴から血を噴き出し痙攣してやがて動かなくなる。

 

「さっきの主婦の子供達ってところか?」

 

「8つ子とは大家族だな。」

 

「こんな事が無ければ今も普通に人として暮らしていたんだろうな。」

 

「皇帝とやらを早くふん捕まえて、責任を取らせてやる!」

 

若い自衛官が目の前の理不尽に憤るが、状況は待ってくれない。

 

「変異の少ないまともなカクーシャ兵も居るみたいだな、感傷に浸っている余裕はない、応戦しろ!!」

 

「戦車や装甲車を壁にしろ!上からの狙撃に気を付けるんだ!」

 

カクーシャ帝国帝都は戦禍に包まれていた。

 

一方、地下洞窟を経由してカクーシャ帝国帝都に侵入した部隊は、魔力波から免れた住民に手を焼いていた。

 

『ひっ・・・ひぃぃぃ!!お助けをおおお!!』

 

『きゃあああぁぁ!!』

 

外せない仕事についていたり、皇帝の演説が行われた当時帝都に居なかったりと、洗脳魔法にかからなかった住民は、知人や家族が異様な状態になっている事に恐れおののき、地下都市へと身を隠している者が多かった。

 

そこに、見た事も無い装備の異国の兵団が攻めてくるのだ、正気を保てるはずもない。

 

「落ち着いて!抵抗しなければ手を出しません!」

 

『あば・・あぼばばばば・・・・。』

 

壁際に張り付いて震える中年の男性は、失禁し口から泡を吐いて白目をむいて崩れ落ちた。

 

「やっとまともな奴らに会えたと思ったらこれだよ。」

 

「地上があの地獄絵図なら気持ちもわからんでも無いがな。」

 

「恐らくここからでも王城へと侵入できる通路がある筈だ、探し出せ!」

 

比較的魔力汚染の少ない、地下居住区では地上とはまた違った意味で、対応しなければならなかった。

 

ゼロアワーが始まって暫くして、カクーシャ帝国帝都上空に複数の影が飛来した。

 

バタバタバタバタ・・・・・・。

 

「見ろ、やっこさんおいでなすったぜ?」

 

「特殊部隊が王城を制圧に向かうぞ、俺達は成るべく此処で大騒ぎして注意を引きつけるんだ!」

 

「敵兵?ふん、何処見ても化け物だらけだな!」

 

変異していないまともなカクーシャ兵が魔物たちに指示を出し、魔法を飛ばしてくる者も居る。

戦闘車両を盾にしているので、被害は少ないが、それでも不意打ちを食らい負傷する者が出始めていた。

 

「上手くやってくれよ・・・・。」

 

腕に突き刺さった氷の鏃を引き抜き、手で出血箇所を圧迫する自衛官。

丁度王城の上空からヘリボーンを行う光景を見て、戦意を高めるのであった。

 

カクーシャ帝国崩壊の時は近づいていた。




うむむむ、前の投稿から半年以上かかってしまいましたが、書く感覚と設定を思い出し思い出し書こうと思います。
生活環境が大きく変わってしまったので、モチベーションがなかなか上がりませんでしたが、気張って書き進めます。

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