異次元の惑星アルクスの軌道上を周回する人工衛星そうぎょく1号。
魔石機関を搭載した実験機ひすい1号から5号の実験データを元に開発された軍事衛星であり、従来の衛星よりも稼働時間が伸びた最新型の衛星である。
ひすい型同様、惑星アルクスを電子の目を持って観測し、護衛艦や自衛隊機に衛星測位データを送信している。
大陸中央部の覇権国家カクーシャ帝国の遥か上空から観測し、グローバルホークと連携し、高精度の測位データを自衛隊は得ていた。
大陸北部沿岸にて・・・。
波を掻き分け異世界の海を突き進む灰色の影がカクーシャ帝国領へと向かっていた。
海上自衛隊たかなみ型護衛艦1番艦たかなみ、本来しもきた、きりしまと共に大陸中央部へと派遣され、PKO活動を行っていたが、カクーシャ帝国の宣戦布告により敵基地攻撃の為にカクーシャ・ヒシャイン国境に接近していた。
「これより敵要塞へのミサイル攻撃を行う。」
「対艦誘導弾発射用意、発射始め!」
「SSM1B発射!」
数発の90式対艦誘導弾[SSM1B]が発射され、眩い光と共に天空に火柱が昇る。
ロケットモーターに点火して初速を稼ぎ、燃焼を終えた固形燃料ロケットブースターが切り離され、ターボジェット推進へと移行する。
異形の大槍が大気を裂き、カクーシャ帝国国境要塞を撃破するべく飛翔する。
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カクーシャ帝国ヒシャイン方面国境要塞。
元々は荒野の国境要塞の防壁を作るための石材を切り出す石切り場であったが、内乱によりヒシャインがカクーシャから独立した時期に要塞化された拠点であり、元が石切り場であるが他の国境要塞に比べても遜色ない規模である。
城塞都市と言うよりも純粋な軍事基地としての機能を持ち、補給は近隣の村からトンネルを通じて行っており、民間人の出入りは少ない。
現在は、ヒシャイン公国との小競り合いをする為の前線基地としての用途が主で、兵士の練度も実戦を経験しているので悪くない。
魔力無き民の国ニーポニスとの戦争の為に、隣接する属国からの兵士の召集を行っており、部隊の編制が終わったら荒野の要塞の部隊と合流する予定であった。
『中々壮観だな、これだけの兵が集まると。』
『えぇ、ヒシャインが怪しい動きをしないか睨みを利かせるためにある程度人数は割かなければなりませんが、これだけの兵士が集まればキョーシャを制圧したというニーポニスとは言え圧殺されるでしょう。』
『世界を統一し、紺碧の世界を取り戻す我らが使命を阻む蛆虫共め、巨人の靴で踏みつぶしてくれるわ!!』
『魔力無き小人共よ、貴様らに存在価値はない、最後の一人も残らず根絶やしにしてやる。』
『荒野の要塞を発った部隊と合流したのち先ず手始めにキョーシャ傭兵国の蛆虫共を・・・・何だ?』
豪華な装飾が施された鎧を着た武官が振動の様な物を感じると、突如視界は灰色に包まれ、爆ぜる音共に意識を失いもう二度と目覚める事は無かった。
すり鉢状に削られた元石切り場である要塞中心部から突き出た監視塔は、要塞内は元より、ヒシャイン領を監視することが出来た。
要塞付近ならば、どこからでも見ることが出来た監視塔はこの地域のシンボルタワーであったが、風切り音と共に飛来した何かが突き刺さったと思ったら、要塞全てを覆わんばかりの土煙と、赤々とした爆炎が発生し、はるか遠くまで響く轟音と共に崩れ落ちていった。
『うぎゃああぁぁぁ!!』
『塔が倒れ、お・・・落ちるうううぅぅ!!!』
『あ・・・ひぁ・・・ひ・・・ひぎゃあああぁぁ!!』
ミサイルの爆発に巻き込まれ消し飛んだ者、監視塔の頂上から落下死した者、瓦礫の下敷きになり圧死した者、たった数発のミサイルによってヒシャイン要塞は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
『何だこれは!一体何が起きたんだ!!』
『ヒシャインの大規模儀式魔法か?』
『奴らがそんなモン使えるならばとっくに使っている!』
『ではこの現象は一体何なんだ!!』
監視塔や兵舎、司令室など要塞の要所が悉く破壊しつくされており、ヒシャイン方面国境要塞は大混乱に陥っていた。
『ほ、報告します!崩落に巻き込まれなかった生き残りが空から巨大な槍が降ってきたと証言しております!!』
『巨大な槍だと!?』
『では、これは人がなした事なのか?馬鹿な、まるで天災ではないか!』
『現在施設の消火を行っておりますが、消火活動を行っている魔術師の魔力が持たず全焼してしまった施設もあります。』
『なんたる事か、まて倉庫は無事か?』
『地下倉庫は被害を免れたそうです。』
『そうか、魔石が無事なら良い、もしこれがヒシャインの仕業であったら反撃の為に必要な物資が足りなくなる可能性があった。』
『おのれ、この落とし前はつけて貰うぞ!』
『むっ・・・・何だこの音は?今度は一体何が起きると言うのだ?』
亀裂の走った施設から外に出て崩れかけた防壁の上に登り、辺りを見回す武官、ふと目を凝らすと、土煙を上げなら黒い影が要塞に接近してくるのが見えた。
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「入り組んだ地形のせいで一度に車両を送る事は出来ないが、まぁ少数でも問題ないだろう。」
「流石に90式戦車の装甲を貫く攻撃は無いだろうな。」
「しかし、天然洞窟を馬車が通れるほどの道幅に工事で広げるとは、カクーシャ帝国の国力は侮れないな。」
「いや、情報提供してくれた元カクーシャの属国によると元々ここら辺は大型の鎧虫の生息地で、この洞窟もその鎧虫によって広げられたものらしいぞ?道の整備もせいぜい凹凸を無くすくらいで元からあったものらしい。」
「成程、蟻の巣を再利用したという事か?」
「蟻型の鎧虫かは分からんがな、さてそろそろ敵基地だぞ、気を引き締めろ!」
洞窟から出ると、小高い丘の上に防壁が広がっており、既にSSM1Bによって施設が破壊され、黒煙を上げていた。
「洞窟から出た瞬間目の前が壁か、こりゃ攻め辛い訳だ、上から狙い撃ちだぜ。」
「あぁ、降伏勧告と思ったが、駄目だな弓矢が飛んできてるわ。」
「敵攻撃の意志あり、繰り返す、敵の攻撃の意志あり、反撃せよ!」
90式戦車を始めとした戦闘車両が唸りを上げながら敵要塞へ直進した。
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『鎧虫だ!鎧虫の群れが攻めてきたぞ!!』
『くっ、こんな時に!死臭に釣られて集まってきたというのか?』
『篝火に虫殺しの草を入れろ、効くかどうかは分からないが、動きが鈍れば上々だ、応戦せよ!』
『虫けら共め!今は貴様らにかまっている暇が・・・え?』
次の瞬間、鎧虫の頭部が光ったと思うと、弓矢を射っていた弓兵達の櫓が爆ぜ、あっという間に陣地は破壊され、木材なのか肉片なのか石材なのか分からない混合物となり、驚愕に目を開くカクーシャ帝国兵達は次々と彼らの後を追った。
『あ・・・あげぁ・・・おごぇ・・・。』
『おい!生きてるか!?返事をしろ!』
『くそっ!奴らは何なんだ!』
『よ、よく見ろ!白地に赤い丸?あれは、ニーポニスの国旗では無いか?』
『あの鎧虫はニポポ族が使役しているというのか!?』
ドオオォォォン!!
轟音と共に鋼鉄の城門が冗談のように吹き飛ばされる。
『城門がたったの一撃で!?ば・・・馬鹿な!奴隷を数十人がかりで縄を引かせて開閉する重さだぞ!?』
『くそっ!こうなったら捨て身で此処を守るしかない!』
『直接取りついて甲殻の隙間に剣をねじ込んでくれる!!』
城門や穴の開いた防壁の隙間から次々と兵が吐き出され、走りながらも隊列を組み、異形の鎧虫、96式装輪装甲車や90式戦車に剣や槍を突き立てようと迫って来る。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
しかし、鎧虫の上部から放たれる光弾が熱線が、先頭だけでなく後列の兵士も人としての原型を残さず粉砕され、血の煙となる。
『くたばれ化け物めぇぇぇ!!』
半ば捨て身で投げ放たれた大槍が、太い角を持つ鎧虫の上部に命中するが、硬質な音共に大槍は虚しく回転しながら弾かれ、無慈悲にも鎧虫の角が槍を投げた兵士の方向へ向く。
『馬鹿な!幾ら甲殻の分厚い鎧虫でも無傷で済むはずがっ!!!』
ドン!
轟音が響き渡り、大槍を投げようとしていた者達を赤き閃光と共にこの世から消し去る。
土煙と爆炎が立ち上り、一瞬にして数十名の命が失われる。
太い角を持った鎧虫から放たれるのは強力な閃光だけでなく、小刻みに発射される熱線もあった。
猛烈な勢いのまま角の生えた鎧虫は防壁を粉砕し、要塞内部へと突入し、崩壊を免れた設備を破壊し始めた。
『おのれ!おのれぇぇ!!ニポポ族めぇぇ!!』
『虫殺しの草も効き目が無いぞ!何と言う事だ!』
『何としても奴らを止めろ!このままでは要塞を落とされる!』
突如、要塞を荒らしまわっていた鎧虫が一か所に集まると、攻撃が収まり、兵士たちが首をかしげる。
『なんだ?急に動きが止まったぞ?』
『まて、何だこの音は?』
ふと空を見上げると鈍く光を反射する複数の影がこの要塞へと接近してくるのが見えた。
『何だあれは?羽虫?見た事も無い種だ。』
『くっ、まさか奴らもニポポ族の使役する鎧虫なのか?』
『やはり虫殺しの草も効果なしか、忌々しい・・・・。』
『動けるものは応戦しろ!蠅を叩き落すぞ・・・・がっ!?』
ヴィィィィイイイイイイイイイン!!!ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
異形の羽虫の放つ攻撃は地を這う鎧虫同様、いや、それ以上に強烈であった。
地上に降り注いだ光の束は、人間ごと地面を掘り返し、落書きの様に地面に引かれた線の道筋には、原形を失う程に破損した鎧と肉片が散らばっており、中途半端に生き残り悲鳴やうめき声をあげる者も居た。
『あぁ・・・あぁぁ・・・おれ・・・俺の腹に腕が生えて、これ誰の腕?』
『ぐあぁ、お・・剣が刺さっ・・・誰か、誰か抜いてくれ。』
『だれ・・助け・・・。』
空を旋回しながら異形の羽虫は更に追撃を加え、ヒシャイン方面国境要塞に止めを刺さんばかりに破壊をまき散らした。
異形の羽虫の腕に備え付けられた筒の様な物体から無数の火炎弾が射出され、逃げ惑う兵士たちや反撃する弓兵達が連続した爆発音と共に肉塊と化す。
崩壊を免れていた施設にもその被害が及び、ますます要塞は瓦礫と化して行く。
そして、羽虫の攻撃に巻き込まれないようにするためか一か所に集まっていた鎧虫は再び行動を開始した。
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「凄まじいもんだな。」
「連装ロケットと機銃掃射で粗方地上目標は潰した、後は要塞の制圧だ。」
「大型目標はたかなみのSSM1Bで吹っ飛ばしているが、施設が分散しているせいか生き残っているところも多い。」
「倒壊している施設は無視しても構わんから、残りを攻撃しろ。」
「他の要塞でも現在交戦中だ、やや作戦進行が遅れているからこちらも急ぐぞ!」
「へいへい了解、上空からの支援がある、落ち着いてやれ。」
「恐らくここにも地下施設がある筈だ、制圧するにせよ不意打ちに警戒せねば。」
風切り音と共に轟音が響き渡り、要塞の一角が爆炎と共に吹き飛ばされる。
「今のはTOWか。」
「頼もしい限りだ、総員降車準備!地下施設を制圧するぞ!」
ヒシャイン方面国境要塞上空を旋回するAH-1コブラとAH-64アパッチは、地上部隊の援護と地上施設への攻撃を行っていた。
「こんな作戦ルーザニアの山岳砦制圧の時以来だな、彼方よりは広いので骨が折れそうだが。」
「対艦ミサイルで重要施設は吹っ飛んでいるし、地上部隊も居るんだ、あん時よりゃマシだろうよ。」
「上からだと明らかに敵が守りを固めている場所が分かるな、吹っ飛ばしてやれ!」
20mm機関砲が火を噴き、崩れかかった壁ごと敵兵を粉砕し、地下施設入り口と思われる扉を破壊する。
閂がはめ込まれて、閉ざされた扉は木片と化し、地下施設への道が開かれた。
「コブラじゃ流石に地下施設の支援は不可能だ、上手くやってくれよ。」
96式装輪装甲車の後部油圧式ランプドアから降車した自衛隊は、上空からの支援を受けつつも地下施設の入り口まで進み、時折現れるカクーシャ帝国兵を射殺し、要塞内部の制圧に取り掛かった。
タタターン!
「ナイスキル!」
「物陰に潜んで攻撃してくるが、近接武器くらいしかないお陰で対処がしやすい。」
「油断するなよ、この星の連中は魔法とか言う非常識なもんを使ってくるんだ、気を抜くと即あの世行きだぞ!」
燭台にぼんやりと照らされる地下通路を進んでいると、突如壁の隙間から魔石の様な物が投げ込まれ、眩い光を放つ。
「っ!!グレネード!!」
条件反射的に伏せ、回避行動に移るが魔石爆弾は閃光を放ち砕け散りはするものの、特に殺傷力を持つ訳でも無く、魔石爆弾が放った閃光も目を晦ませるには光量が足りていなかった。
「なんだ?スタングレネードにしてはお粗末な・・・。」
突如壁がスライドし、隠し扉からカクーシャ兵が現れるが、あからさまに動揺した後、腰から短剣を抜き突撃を開始する。
タタタターン!!
数珠つなぎに放たれた小銃弾がカクーシャ兵の鎧を貫通し、顔の穴と言う穴から血を噴き出し、隠し扉から飛び出した一団は全滅する。
「一体何だったんだ?」
「見てください、先ほどのグレネードが紐を通して腰にぶら下げられています。」
「ふむ、精神操作の類の魔術が込められたグレネードだったのかもしれんな。」
「我々の体には彼らにとって致死量の魔力波も全く効果がありませんからね、対・アルクシアン用のグレネードだったのかもしれません。」
「後で回収して、っ!!危ない!」
別の隠し扉が開かれると、再び先ほどの魔石爆弾が投げ込まれる。
「このっ!!」
「あっ!馬鹿!!」
人体に全く影響が無いと理解しているからか、若い自衛官は事もあろうに抱えていた89式小銃の銃床で魔石爆弾を弾き返し、弧を描きながら魔石爆弾は元の場所に飛んで行き、炸裂音と閃光が放たれる。
「馬鹿か!あれが破片爆弾だったら死んでいたぞ!」
「すまん、それよりも敵に動きが無いが・・・。」
銃を構えながら隠し扉の向こうを覗き込むと数人のカクーシャ兵が体を痙攣させながら口から泡を吹いていた。
「えげつないな、一体どんな魔法が込められていたのやら。」
「ま、待て!・・・・これは・・・。」
突如、倒れていたカクーシャ兵は体をのけぞらせると口からこぼれる泡に血が混ざり始め、見る見るうちに皮膚が剥がれ落ち腫瘍の塊の様に爛れ、ひじの関節から新たな腕の様な指の様な骨格が飛び出し、次第に動かなくなり生命活動を完全に停止した。
「う・・うぷっ・・・。」
「っ!高濃度の魔素と魔力波による突然変異誘発作用か!」
「遺伝子が傷つけられ出鱈目に変化した結果絶命か、なんて惨い。」
「・・・・こんな死に方だけはしたくないな。」
「進むぞ、カクーシャめ、こんな兵器を使うつもりだったのか。」
要塞制圧の為に各通路から地下施設に侵入した自衛隊は、時折現れるカクーシャ兵を倒しながら進み、魔石保管庫と思われる広間に到達する。
「凄い量の魔石だな。」
「対艦ミサイルで破壊できなかったか、C4爆弾を持ってくれば良かった。」
「不意打ちで負傷者も出ている、早めに終わらせたいところだが・・・。」
背後に気配を感じると、金属が擦れる音が聞こえてくる。
「そうも言っていられないか、来るぞ!」
次々と扉からカクーシャ兵が殺到し、広間と言う開けた空間で武器を切り替え短剣ではなく長剣や短槍を構える。
『おのれ劣等民族め!』
『蛮族死すべし!!』
しかし、リーチの長い武器を構えても、自衛隊の小銃相手では分が悪く、互いの死角をカバーする連携により効率的にカクーシャ兵たちは[処理]されていった。
『がっ!!』
『何だこの魔導はっ・・・ぎえぁぁ!!』
『あっ』
銃声を聞きつけたのかカクーシャ兵が集まってくる気配を感じるが、第一波をしのいだ事で幾らから余裕が生まれる。
「全く、砲撃や空爆だけで敵を全滅させる事は出来ないか。」
「これでも大分数を減らした筈なんだがな。」
「それよりも、どうする?施設科の到着を待つか?」
ずん・・・・パラパラパラ・・・。
遠雷の様に爆発音が響き渡り、天井から埃が落ちてくる。
「上では派手にやっている様だな。」
「あっちの方に気がそれて向かってくれれば良いんだがな、仕方がない、施設科の到着までこの場を確保するぞ・・・おおぉぉぉっ!?」
突如天井がぶち抜かれ、土砂が流れ込み、魔石倉庫の天井に青空が見える。
「危うく巻き込まれるところだった、派手にやり過ぎだろう。」
「いや、だが都合が良い、瓦礫を上って外に出るぞ。」
魔石倉庫を確保していた自衛隊員は地上に退避すると、無線でヘリに連絡し、穴が開き顔を出した魔石倉庫にTOWを撃ち込ませた。
魔石倉庫に山積みにされた魔石はTOWの直撃を受け、連鎖爆発を引き起こし、眩い青白い閃光と共に巨大な火柱が発生し、SSM1Bの直撃に比類するほどの爆炎が地下施設を崩壊させ、ヒシャイン方面国境要塞に止めの一撃となった。
「見ろ、断末魔の叫びだ。」
「退避が間に合って良かった、まだ地下トンネルが残っているかもしれんが、これでこの要塞の機能は死んだも同然だろう。」
「しかし、地上は見事に更地だな、対艦ミサイルで吹っ飛んだとは言え、此処まで瓦礫になるのかね。」
「念のために残存勢力が残っていないか警戒を続けなくては、すぐ隣がヒシャイン公国と言うのもある、こんだけ暴れて妙な気を起こさないと思うが・・・・。」
その後、幾つか崩壊しかかった地下通路を発見するが、カクーシャ兵の姿は無く、隣接する村に通じているだけであった。
なお村の住民たちは自衛隊の姿を見るや否や恐れおののき、降伏を受け入れ無血開城となった。
敗北者には苛烈な運命が待っているのが相場であり、住民たちは若い娘を家に隠し、中には命乞いをする者も居たが、異界から訪れた兵士たちは乱暴狼藉を働かず、秩序だった動きで事務的にカクーシャ帝国の内情聴取を行い、規律の取れた敵兵の姿に村人たちはあらゆる面でカクーシャ帝国はニーポニスに負けていると悟るのであった。
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ヒシャイン国境監視砦にて・・・・。
『何という事だ、これが・・・これが奴らの戦いだというのかっ!?』
『空を飛ぶ大槍と、巨大な鎧虫、そして破壊を齎す羽虫。』
『一方的ではないか、我らを散々苦しめた国境要塞がいともたやすく崩れ落ちるとは。』
カクーシャ帝国とヒシャイン公国の国境には互いを監視する様に、拠点が築かれており、元石切り場の国境要塞もその一つであったのだが、それと相対する様にヒシャインも山腹に砦を築いており、カクーシャ帝国とニーポニスの戦闘をはっきりと確認する事が出来ていた。
ヒシャイン公国上空を聞きなれない風切り音と共に太い柱の様な物が通り過ぎると、事もあろうに、睨み合っていたカクーシャ帝国の国境要塞に次々と突き刺さり、天を焦がさんばかりの爆炎が立ち上り、明らかに致命的な損害が発生している様であった。
それからが、更に衝撃的であった。
謎の鎧虫の群れが、彼らの使っている街道を通って炎上を続ける国境要塞を襲撃し、次々とカクーシャ帝国軍が蹴散らされている様子が確認でき、追い打ちの様に空からも巨大な羽虫が火を吐きながらカクーシャの要塞を崩して行くのだ。
遠雷の様に、響き渡る魔導の炸裂音が断続的に発生し、鎧虫の腹部から奇妙な鎧を身に纏った兵士が吐き出された事で、あれが人の手によって行われた事だとヒシャイン公国は理解する。
そして、脳裏には先日空を舞った異形の巨鳥の姿が思い浮かび、ニーポニスがカクーシャ帝国に逆侵攻を開始したのだという事も理解した。
ニーポニスの民は、魔力を身に宿さない虚無の民と聞いていたが、彼らの杖が放つ閃光はカクーシャ帝国軍の分厚い鎧を容易く貫通し、途轍もない威力と連射性能を持っているという事が分かった。
魔力を宿さない民と言う情報が偽情報だったのか、ヒシャインの国境砦の監視員たちは項垂れた、しかし何時までも落ち込んでいられない、ニーポニス人の戦い方を、仮想敵国の実力を正確に本国に伝えるために恐怖を飲み込みつつカクーシャの要塞の戦いを見守った。
カクーシャの国境要塞の最期は壮絶であった。
火を噴く羽虫の放った火炎弾が、崩落した施設に吸い込まれる様に直進し、魔石倉庫か何かに命中したのか、盛大に魔力を伴った青白い爆発を発生させ、その衝撃はこちらの砦まで伝わるほどであった。
『伝えなくては、一刻も早くこの情報を届けなくては!!』
早馬に乗って伝令兵が本国首都まで急行し、大公城に転がり込む様に情報を伝えると伝令兵は疲労の為か崩れ落ちて、医務官の肩を借りながら退場した。
『ニーポニス!ニーポニスッ!!!これ程とは、まさか、まさかまさかこれ程とはっ!!!』
『大公様、お気を確かに!』
『我は大丈夫だ。しかし、これは不味いぞ、我々は既にニーポニスに工作を仕掛け、かの国の民に危害を加えてしまっている。』
『たった1日足らずであの忌々しい要塞を攻略してしまうとは。』
『奴らは一体何なんだ?どうやったら天を舞う大槍を召喚できる?あの鎧虫や羽虫は何処で捕まえてきたのだ?魔力無しの民が、魔導を放ちカクーシャ帝国軍を打ち破るだと?何がどうなっているのだ!!』
『俄かに信じられません、しかし、時を追うごとにあの要塞の陥落は確かに起こった事のだと・・・・ニーポニス、彼らは一体。』
『火を噴く巨鳥なんぞ唯の警告に過ぎなかったのだろう、本気を出したニーポニスがどれだけ恐ろしいか・・・恐ろしい?・・・我が?虚無の民を・・う・・・うううぅっ!』
『大公様!誰か!誰から医務官を呼んでください!!』
ヒシャイン公国に齎された情報は衝撃を与え、ヒシャインだけでなく、ヒシャインと同盟を組む近隣諸国にもニーポニスの脅威と恐怖が伝搬した。
大陸中央部に覇を唱える巨獣、或いは虎と呼ばれるカクーシャ帝国は、その腹部を巨大な槍で貫かれる如く、その主力を失った。
牙を、爪を、四肢をもがれた巨獣カクーシャは、残された顎でニーポニスと戦わなければならない。
決着の時は近づきつつあった。
何とか無理やりエンジンを回して書き上げました。
出来れば今年中に大陸中央部編を完走できれば良いなと思っております。