異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第152話  逃げ場のない荒野

カクーシャ帝国の国境沿いに建設された要塞都市の一つである荒野の要塞は、反・カクーシャ連合を抑え込む要所であった。

 

近くの山から石材を切り出し、高く積まれた防壁は火に強く頑丈で、魔物や周辺諸国の襲撃を退けてきた。

そんな防壁よりも更に高い監視塔は、防壁の内側全てを眺めることが出来、要塞の外も遠くまで見渡すことが出来る。

 

カクーシャ帝国の中でも数少ない平地の領土なので、主食となる麦の様な穀物が作られており、カクーシャ帝国を支える穀倉地帯でもある。

その為、農民や商人なども多く暮らしており、ある種の都市国家の様でもある。

 

反・カクーシャ連合と国境を面しているだけあって、兵士の装備や練度は高く、しばしば発生する小競り合いも彼らを引き締めるのに一役買っているのである。

 

だが、今回は何時もと少し様子が違っていた。

 

大気を切り裂く巨大な翼が、2つ線の様な雲を作っていた。

 

「クーガー3、敵要塞確認」

 

「クーガー4、バリスタと思われる防衛兵器及び用途不明の装置も多数確認。」

 

「こちら管制塔、民間施設と思われる農村への誤爆を注意されたし。」

 

「クーガー3、了解」

 

「クーガー4、了解。」

 

2機のF-15戦闘機が旋回しながら、地上に広がる穀物畑と点在する民間施設を確認すると、その奥に聳え立つ国境要塞へと針路をとる。

 

「全く、話が違うぞ、付近に民間施設は無かった筈ではないのか?」

 

「クーガー3、有事の際は簡易な駐屯地として機能するらしい、つまりは軍事拠点でもある。」

 

「クーガー4、分かっている、有事の際は民間人も徴兵され攻撃対象となるか、やりきれんな。」

 

「クーガー3、クーガー4、私語は慎め、間もなく目標上空だ。」

 

「了解。」

 

惑星アルクスの世界では聞きなれぬ音が鳴り響き、異変に気付いた村人や兵士が空を舞う異形の巨鳥を指差し驚愕していると、巨鳥は事もあろうにニーポニスを討つ為に兵を召集して戦準備をしている国境要塞へと急降下を始めた。

 

「クーガー3、爆弾投下用意・・・・投下!!」

 

「クーガー4、投下!」

 

F-15戦闘機の急降下爆撃は、城壁に備え付けられた防衛兵器や兵舎、要塞周辺を見渡す事の出来る監視塔などを破壊し、地上は地獄絵図と化する。

 

「クーガー3、敵地上物破壊」

 

「クーガー4、敵地上物破壊、火薬庫の様な物に引火したのか爆発閃光を視認した。」

 

頑丈な石造りの建造物にMk.82無誘導爆弾の一つが直撃した結果、青白い閃光を伴った連続爆発が発生し、何度も大気を叩く音が響くと、最終的に青白い爆炎と光る粒子をまき散らしながら大きなキノコ雲を形成する。

 

「クーガー4、魔素検知器の反応増大、魔力爆発が発生したと思われる。」

 

「クーガー3、確認した、魔石倉庫だったのだろうか?」

 

「こちら管制塔、間もなくゼロアワーだ、地上部隊を支援せよ。」

 

「クーガー3、了解」

 

「クーガー4、了解、機銃掃射を開始する。」

 

2機のF-15戦闘機は旋回し、既に爆撃で瓦礫の山と化した要塞へと再突入を開始する。

 

 

 

===================================

 

 

カクーシャ帝国国境要塞の一つである荒野の要塞は、時折無謀にもカクーシャ帝国に挑んで来る中小国を撃退する拠点として機能していた。

元々は、カクーシャ帝国の数少ない平地の穀物畑を魔物から守るために作られ、収穫された穀物の保管庫としても機能していたが時代と共に発展し、それはやがて他国との戦争に使われるようになり、鉄壁の防御力と全てを土に還す攻撃力を誇る要塞へと生まれ変わった。

 

ごく最近、大陸中央部で勢力を増すニーポニスを攻め滅ぼすために属国から兵が集められ、攻勢の準備を進めていたが、先日の巨大怪鳥騒ぎのせいで思うように兵が集まらず、中には反旗を翻す元属国すら現れる始末であった。

 

『全く、忌々しい!ニーポニスの巨鳥め!!』

 

『資料として集められた絵の現物を拝見いたしましたが、正直不愉快ですね。』

 

『ニーポニスめ、姑息な事を考える。遅かれ早かれこの世界は我らカクーシャ帝国の物となるのに、小賢しくもこちらの足並みを乱す工作をしおって!』

 

『蛮族らしい浅知恵です。ニーポニスに踊らされて裏切った元属国も見せしめに滅ぼさねばならなくなってしまいました、全く無駄な時間です。』

 

『身の程知らずにも程があると言うものだ、無知の代償は重いぞ?』

 

『反逆者の動向も怪しいです。ニーポニス討伐は既に決定事項とは言え、戦後処理を手間取れば、反逆国家に付け入る隙を見せてしまう、それだけは回避せねば。』

 

『昔から異なる蛮族が手を組み我らに歯向かう事はあったが、それに属国も加わるのだ、一筋縄ではいかんだろう。』

 

『裏切り者に死を!虚無の民ニーポニスに黄昏を!!』

 

兵舎の兵士たちが槍や剣などの武器を盾に打ち鳴らし鬨を上げると、兵士の一人が違和感を感じたのか槍を掲げたまま辺りを見渡した。

 

『ん?何か聞こえないか?』

 

『雷か?雨の音は聞こえないが・・・・。』

 

次の瞬間兵舎は赤き閃光が迸り、一瞬にして百を超える命が消滅した。

 

荒野の要塞は、天変地異が発生したかの様な惨状であった。

積み上げられた強固な石の防壁は粉々に砕かれており、要塞の象徴であった監視塔は根元からへし折れ原形すらつかない状態であり、兵士も民も等しく肉塊や大地の染みと化していた。

 

『あぁ!ああぁぁっ!!あーーーあーーー!!』

 

『何が起きたんだ?俺の、おれの兄弟は何処に消えた?』

 

『じ・・じに・・・死にだく・・・なぎ・・ぇぁ・・・。』

 

爆弾の直撃を受けた施設やその至近距離に居た者はほぼ全て即死したが、そこから少し離れた位置に居た者は破片を浴びて中途半端に生き残り、地獄の苦しみを味わっていた。

 

『いやぁぁぁ!あんたぁぁぁ!!』

 

『あぅ・・い゛い゛・・にぃ・・・ぅぃぅぃ・・・。』

 

『駄目だ、頭が潰れて目玉と灰色の奴がこぼれている、旦那さんはもう・・・。』

 

『医者は何処だ?どこに居る!?』

 

散弾の様に飛び散った細かい石の破片を浴びて失明して手探りで歩く者、下半身と泣き別れしつつも死にきれず自分の命の灯が消えて行くのを実感する者、家族や友人の遺体に寄り添い泣き崩れる者、荒野の要塞の彼方此方で地獄絵図が広がっていた。

 

『あれは・・・何だ?』

 

『鳥?いや、鎧虫か?』

 

仲間が死に周りの事が目に入らない者も多いが、一部の者は空を高速で飛ぶ何かに気づく。

 

『ニーポニスは首都に巨鳥を嗾けたと聞いていたが、まさか奴らがそれなのか?』

 

『くそっ!畜生!はたき落としてくれる!』

 

『待て、防壁の攻城弩や魔導弩は全て破壊されてしまっているのだぞ?どうする事も出来ん!』

 

『そもそも、あんな速い怪物に矢を当てる事なぞ不可能だ!』

 

『まだ予備の魔導弩が倉庫にある筈だ、整備中だがあれを使うしかない!』

 

『分かった、ニーポニスの巨鳥に一矢報いてやる。』

 

燃え盛る荒野の要塞に地響きが起こり、青白い爆炎と共に魔力が稲妻状に迸り、雷光を纏った黒煙が立ち上る。

 

『ぐっ、魔石保管庫の位置だ、急ぐぞ!!』

 

『おうっ!!』

 

爆撃を生き残ったカクーシャ帝国兵達は、それぞれの手段で異形の軍勢に立ち向かうために要塞内を駆け回る。

 

 

===================================

 

「おー、随分と派手にやっているな。」

 

「赤外線誘導ではない無誘導爆弾だ、全て有効打になったかまだ不明だが、これで大分敵も減った筈だ。」

 

「後は俺たちの出番って訳だ、行くぞ!」

 

 

大型トレーラーに載せられて運び込まれてきた74式戦車や96式装輪装甲車が荒野の要塞付近に展開しており、各車両のエンジンが重々しい唸り声を上げながらその巨体を前進させる。

 

土煙を上げながら迫りくる異形の怪物に、民間施設に居た一般人は家や物陰に隠れて震えあがり、その場に居合わせた兵士の一部も戦意を喪失して身を隠す者がいた。

 

『くそっ!臆病者どもめ、後で見ていろ!』

 

『ここは通さんぞ、化け物共め!!』

 

鎧虫狩りにも使われる大槍を構えながら戦闘車両に突撃するカクーシャ帝国兵、しかし次の瞬間鎧虫の頭部が光り、赤い光の束が降り注ぎ肉片と化して行く。

 

『いやぁぁぁっ!!』

 

『ひ・・ひぃぃぃ!!』

 

戦いの様子を物陰から眺めていた一般人や逃走した兵士が悲鳴を上げ、異形の鎧虫の群れが通り過ぎるまで身を寄せ合って震え続けた。

 

道中自衛隊は、穀物畑に点在する民間施設から反撃されるが、生半可な弓矢や投げ槍では傷一つつかず、銃撃や砲撃で無力化し、停止すらせずに荒野の要塞へと突き進む。

 

「ほぅ、崩れた防壁を撤去しているぜ?」

 

「結構生き残りが居るもんだな、やはり爆撃だけでは無力化出来ないか。」

 

「敵の生き残りが防壁に展開し始めている、気を引き締めて当たれ!」

 

「了解!!」

 

前進を続けていた戦車や装甲車などの戦闘車両は荒野の要塞手前で一時停車する。

 

「大盾と大槍を構えて前進か、まるでファランクスだな。」

 

「地球のそれと完全に同じものかは不明ですが、訓練が行き届いているみたいですね。」

 

「あぁ、見事な練度だ、俺達もそう言う面は見習わなければならないが、ご退場願おうか。」

 

「まだ撃つなよ、奴らが揃うまで待つんだ。」

 

瓦礫を撤去し、何とか人が通れるくらいの道を作ったカクーシャ帝国軍は、次々と防壁の外に這い出て武器を構え、隊列を組み、異形の軍勢たる自衛隊を討つ為に雄叫びを上げ気を高ぶらせると、一糸乱れぬ動きで前進を開始した。

 

「よしっ・・・いいぞ・・・・。」

 

「っっっってぇぇぇ!!!!」

 

戦車や装甲車よりも少し後ろに展開していた、155mmりゅう弾砲やMLRS等が一斉に火を噴き、放たれた榴弾やロケット弾がカクーシャ帝国軍の頭上に降り注ぐ。

 

鎧虫の牙や爪を受け止めてきた大盾も、蛮族の弓矢を弾いてきた鎧も砲撃の雨には等しく無力であった。

高熱の赤き破壊が死をまき散らし、爆炎が兵士ごと大地を舐め回し、カクーシャ帝国軍を焼き尽くす。

 

F-15の爆撃を生き残ったカクーシャ帝国軍は、志虚しく現代兵器の洗礼を受け、その肉体ごと土と一緒に耕されてしまった。

周囲には硝煙と赤黒い血肉の甘ったるい臭いが立ち込め、それでもなお生き残った者達の鼻腔をくすぐり意識と理性を毒の様に少しずつ少しずつ奪っていった。

 

『へは・・あへ・・ふひひひ・・・はへへへへ・・・。』

 

『あはは・・あは・・あの・・あの子がぐちゃぐちゃだぁ・・あははは・・・。』

 

直接砲撃を浴びた兵士の生き残りも、自分の家族が目の前で赤い煙と化した光景を目の当たりにした一般人も到底理性を保てる訳がなかった。

 

少し前まで、威風堂々としていたニーポニス討伐軍も今では物言わぬ骸の山と化しており、それは人なのか物なのか、瓦礫なのか肉片なのか殆ど区別のつかない状態であり数刻前の荒野の要塞と同じ場所であると思えない光景であった。

 

『なんなんだよ、俺達は一体何を相手にしているんだ?』

 

『戦える者は居ないか?戦える者は!!』

 

『っ!!敵が動き出したぞ!』

 

『奴らついに俺たちに止めを刺しに来るつもりだ!』

 

『くそっ!抗ってやる!』

 

『アタシも戦える、息子の仇だ!』

 

『おらもだ!魔力無しの野蛮人なんかに負けないど!』

 

家族を失って放心を続ける者も居たが、その中からニーポニスに憎悪を滾らせる者が現れ始め、民間人も武器や農具を取り、迫りくる鎧虫の群れへと突撃を開始するのであった。

 

「敵増援!まだ来るぞ!」

 

「っ!?まて、敵兵に混じり民間人も突撃してくる!」

 

「構わん!撃て!」

 

「くそっ!!」

 

74式戦車がカクーシャ帝国軍に砲身を向け、多目的榴弾を放ち、帝国兵と民兵を吹き飛ばす。同軸機銃が薙ぎ払う。

 

96式装輪装甲車の96式40mm自動てき弾銃やM2重機関銃が独特の発砲音を連続させ迫りくる軍勢を土と混ぜ合わせる。

 

既に数千人の命が失われており、死に体のカクーシャ帝国軍だが、彼らの不運は此処まででなかった。

 

ウ゛イ゛イ゛イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ン゛

 

『にぎゃああぁぁぁぁ!!』

 

『巨鳥が戻ってきやがったぞぉぉ!!!』

 

『空から火を噴きつけてくる!なんて威力だ!!』

 

爆撃を終え身軽となったF-15戦闘機が旋回しながら、機銃掃射をし、地上部隊を援護した。

 

「クーガー3、機銃掃射開始!」

 

「クーガー4、突入する!機銃掃射!」

 

「クーガー3、敵地上部隊の損害を確認。」

 

「クーガー4より、クーガー3、敵基地に動きあり、あれは一体なんだ?」

 

崩れた要塞の施設の中から台車で運ばれてきた魔石が集まった様な突起物をF-15戦闘機に向けるカクーシャ帝国軍。

 

クーガー4が嫌な予感を感じると、無意識にレバーを傾け回避行動を取っていた。

 

突如、魔石の集合体から眩い光が放たれ、F-15戦闘機の飛ぶ高度までレーザービームの様な光が通り過ぎる。

 

「何だあれは?レーザー砲台だと!?」

 

「クーガー3、よく見ろ、火炎放射だ。」

 

「クーガー4、確認した、何か力場の様な物を火炎が通っているのか。」

 

「照準は手動だ、見当違いの方向に飛んでいるが、あれは脅威だぞ!」

 

「クーガー3、突入する、機銃掃射開始!!」

 

「クーガー4、機銃掃射!!」

 

一方、倉庫から魔導弩を引っ張り出してきたカクーシャ帝国兵は、空を我が物顔で飛び回る異形の巨鳥に憎悪の視線を向け、魔導弩の照準を空に向けた。

 

『人食い族の魔石には及ばないが、リクビトの魔石をかき集めて作り上げた究極の魔導兵器を食らうが良い!!』

 

『甲獣の外殻すら貫く熱線を浴びるが良いぞ化け物め!!』

 

電子音にも似た独特の起動音を響かせながら、先端に取り付けられた魔石に魔力が集まり、臨界点を突破した圧縮魔力が槍の様に天を穿ち、力場を通って金属をも溶かす熱量の火炎が直進する。

 

しかし、異形の巨鳥はあまりにも速く、熱線を命中させる事も出来ず、魔導弩の勢いも落ちてきて、魔力を再充填しなければならなくなった。

 

『何故、何故当たらない!』

 

『速過ぎる!!』

 

『雲の向こうに消えたぞ、くっ!こうなったら地上の鎧虫の群れを狙っ・・・。』

 

照準を地上目標に変更しようと魔導弩をずらしたカクーシャ帝国兵は、痛みも感じず魔導弩ごとその身を砕かれていた。

 

F-15戦闘機の放った機銃が魔導弩の魔石を砕き、魔石内部の残存魔力が解放され青白い爆発が発生し、荒野の要塞の一角が吹き飛ぶ。

 

「あれの威力は不明だが、地上部隊に向けられていたら不味かったぞ。」

 

「クーガー4、再突入の準備に入る。」

 

「クーガー3、了解、次で残弾が尽きるな。」

 

「そろそろ燃料も余裕が無い、最後の仕上げだ。」

 

荒野の要塞上空を旋回して、カクーシャ帝国軍の戦列を再度機銃で薙ぎ払った後、F-15戦闘機はケーマニス飛行場へと帰還していった。

 

一方、荒野の要塞を制圧に取り掛かった地上部隊は、砲撃で瓦礫の山を吹き飛ばし、要塞内部へと突入していた。

 

「逃げる民間人には手を出すな、敵兵を倒せ!」

 

「武器を持って抵抗してくる者は敵兵扱いで良い、兎に角撃ちまくれ!」

 

96式装輪装甲車のランプドアが開かれ、次々と自衛隊員が吐き出されて行く。

 

「GO!GO!敵施設に突入の際、不意打ちに注意しろ!」

 

ターン!!!

 

「グッドキル!!」

 

瓦礫を押しのけて進む異形の鎧虫に悲鳴を上げながら逃げる民間人と、雄たけびを上げながら施設や瓦礫の隙間から飛び掛かるカクーシャ帝国兵、しかし彼らの抵抗虚しく、体中に穴をあけられ絶命して行く。

 

「先ほどの熱線攻撃が来るかもしれない、当たれば無事では済まないぞ?」

 

「バリスタや投石器などの大型兵器の様だから取り回しは悪い筈だ、屋内で使える物ではなさそうだぞ?」

 

「魔法に関しては未知数なところがある、警戒するに越したことは無いさ。」

 

「ここから先は少し開けた場所に出るぞ!、装甲車両や戦車を盾にしろ。」

 

元は訓練や演習に使われていたと思われる要塞内広場に出ると、案の定四方から弓矢や投げ槍が放たれてきた。

 

直前に乗車した者は、窓から小銃を突き出し応戦し、車外に居た者は装甲車両や戦車を盾にしながら反撃する。

 

74式戦車が、矢を放つ陣地に多目的榴弾を放ち、陣地ごと吹き飛ばし無力化していると、奇妙な杖を持った男が崩れかかった施設の屋上に現れた。

 

『食らうが良い野蛮人!!!』

 

薄汚れた、しかし元は装飾が施されていたであろうローブを着込んだ男は、先端が萌葱色の魔石で出来た杖を構え、強力な熱線を96式装輪装甲車へ向けて発射した。

 

「不味い!!」

 

眩い閃光が、96式装輪装甲車の側面を炙る。

 

「させるかぁ!!」

 

赤みを帯び始めた96式装輪装甲車の間に74式戦車が砲塔を回転させながら割り込み、正面装甲で熱線を受け止め照準を魔術師の男へと向ける。

 

『馬鹿な!馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁ!!人食い族の、萌葱色の魔石が通用せぬだとおぉぉぉ!!?』

 

『あり得ぬ、あり得ぬぞぉ!許さん!許す事などできぬ!!化け物めぇ!』

 

赤々とした熱線は、更に眩く光り輝き青白い熱線へと変わる。

しかし、長い角を持った鎧虫は熱線を正面から受けているにも関わらず平然と動き、角をこちらに向けると地面に響く音共に何かが放たれた。

 

『そんな馬鹿な!!!』

 

榴弾の直撃を受けた男は、杖ごとその身を砕かれ、膨大な魔力を放出していた萌葱色の魔石は、砕け散る事で内包魔力を瞬間的に放出して、魔力大爆発を引き起こす。

 

先ほどの爆撃を彷彿させる大爆発は、生き残っていた施設も倒壊させ、いよいよもって荒野の要塞に致命打を与えた。

 

「今のは危なかったな、色々な意味で。」

 

「高純度魔石が危険視される訳だ、内包魔力の瞬間的な放出はもはや大爆発と言って良い。」

 

「ほんの一瞬炙られただけだったが、あれ以上浴びていたら破壊されていたかもしれん。」

 

「後は魔力爆発に巻き込まれずに済んだのは幸いか、残存勢力を叩くぞ、残りの施設を制圧する。」

 

「了解、全く、誰だ民間人は殆ど巻き込まないと言った奴は。」

 

「向こうは山の中でこっちは穀倉地帯だ、貧乏くじを引いただけだろう。」

 

「空からじゃぁ分からんこともあるんだろうな、行くぞ!GO!GO!」

 

見渡す限り瓦礫の山となった荒野の要塞の中で辛うじて生き残った施設の制圧にかかる自衛隊、抵抗に遭ったり不意打ちを受けたり負傷者が少数出てしまうが、幸い死者は出ず、砲撃や爆撃で敵兵は残りわずかとなっていたため、降伏までそれ程時間を要さなかった。

 

『見たか?』

 

『あぁ、あれが魔力無しだって?冗談だろう?』

 

『魔力を持たぬ虚無の民、人食い族と手を結ぶ人類の敵、そういう奴らも居るが、そんな生易しい存在では無いぞ?』

 

『人食い族の仲間処か、伝承の人食い族なんかよりも遥かに危険な力を持っている、これは本国に情報を何としても持ち帰らなければ!』

 

『だが、本国はこれを信じるか?』

 

『信じる信じないは置いといて見たままの事を伝えるほかあるまい、間違ってもニーポニスを敵に回してはならぬと説得せねばならない。』

 

『自分たちが唯一カクーシャ帝国に対抗できると信じる者達が素直に信じるとは思えんが、致し方あるまい。』

 

『あぁ、一歩対応を間違えると亡国と化するのだ、何としても老人共に理解してもらうぞ!絶対に!』

 

 

国境付近から自衛隊とカクーシャ帝国の戦闘を見ていた、反カクーシャ連合は、圧倒的な火力と展開速度の速さに戦慄し、魔力無しの民であるニーポニスに畏怖を感じ、今更になってニーポニスに外交的な接触をする国が現れ始めた。

既に、国交を持っている都市国家を伝手に連合はニーポニスと軍事同盟を結ぶべく交渉の準備を進めるのであった。

 

『あわよくば弱った方を襲って武器を鹵獲するつもりだったが、あんな物に手を出しては火傷では済まないぞ。』

 

『魔力無しの劣等民族?大森林の向こうから来た連中だ、最初から只者ではないと思っていたがこれ程とは・・・。』

 

『カクーシャ帝国はもう終わりだな、ニーポニスが中央世界をどうするつもりなのかは不明だが、我らも身の振り方を考えるべき時が来ているのだろう。』

 

『ニーポニスに手を出してはならぬな。』

 

絶対に倒す事の出来ない相手であると思っていたカクーシャ帝国を、赤子の手をひねるが如くあっという間に制圧してしまったニーポニスに、カクーシャ帝国と国境を接する周辺諸国は恐怖を覚えるのであった。

 

 

===================================

 

「敵の防衛線に風穴が開いた、カクーシャの野望もこれで終わりだろうな。」

 

「既に、山岳部の国境要塞は制圧したらしい、これでキョーシャ前線基地やケーマニス駐屯地方面の脅威は無くなったと見て良いだろう。」

 

「だが、あそこにも民間人が居たそうじゃないか、もうちょっと事前調査をしておくべきだったのではないか?」

 

「どの道軍人と民間人の境界線が薄い国なんだ、こうなる事は回避できなかったんだろうな。」

 

「どうだか。」

 

「ここは終わったが、まだ戦闘中の所もあるんだろう?国境要塞に敵兵力が集中している所を一網打尽という計画だが、上手く進めばよいな。」

 

「ここでも魔法は侮れない要素であった、負傷者も出ている、楽観視することは出来んよ。」

 

「彼方はヒシャイン方面の要塞か、国境要塞を潰した途端にヒシャイン公国が漁夫の利を狙って来なければ良いが・・・。」

 

「フン、連中がそこまで愚かだとは思わんよ、何せ此処の様子を見ていた反カクーシャ連合の連中も撤退していったんだ、慎重なヒシャインがそんなヘマやらかす訳がないだろう。」

 

「それもそうだな。」

 

「そろそろこの宴もお開きにして貰いたいもんだ。」

 

元々大陸中央部に進出した日本国を滅ぼすために属国から召集された兵であったが、攻勢準備の為に各国境要塞に集められていた事が仇となって、日本の同時攻撃により一網打尽にされてしまったカクーシャ帝国。

 

ほぼ同時とは行かなかったものの、全ての主要な基地を破壊され戦力を失い、属国からの求心力も地に堕ちたカクーシャ帝国は、首都が丸裸の状態になっていた。

 

大陸中央部に覇道を唱え、実際にその全てをカクーシャの領土と化しつつあったが、人食い族よりも更に手を出してはいけない存在に、日本の逆鱗に触れてしまった為にその野望は潰えようとしていた。

 

大陸中央部を暴れまわる巨獣が討たれた時、その巨体に見合った崩壊と混乱が齎されるであろう、しかし、それはいずれ収束されて行くであろう。

大海を泳ぎ回り、大地を踏みしめるカクーシャ帝国以上の異界から現れる魔力無き大怪獣によって。




色々とモチベーションの維持が大変ですが、テンポだけは維持したいところです。
今年中に進められるところまで進めておきたいですねー。

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