異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第148話  咎を背負う者と打ち砕く者

大陸中央部の覇権国家カクーシャ帝国と戦争状態へとなってしまった日本国は、カクーシャ帝国が嗾けてきたキョーシャ傭兵国の襲撃を撥ね退け、キョーシャ傭兵国の首都を侵攻し陥落させる事に成功する。

戦後処理と同時進行で、キョーシャ傭兵国の首都を対カクーシャ帝国の前線基地として急ピッチで改造し、カクーシャ帝国の侵攻部隊を撃破した。

 

しかし、カクーシャ帝国の侵攻部隊との戦闘が起きる前に、秘密の交流を結んでいたトガビト達が不安定な大陸中央部の情勢を探るために向かわせた偵察部隊が、カクーシャ帝国軍の待ち伏せに遭い拉致されて、拷問の末に全員が死亡するという最悪の事態が起こる。

 

拷問によって日本とトガビトとの秘密の交流がカクーシャ帝国に漏れて、カクーシャ帝国の影響圏の国や集落に日本が人食い族と手を組んでいると言う情報が出回り始めた。

 

情報伝達速度こそ通信技術が未発達なため、昔ながらの早馬による伝達が主流でそこまで拡散していないが、カクーシャ帝国と日本の影響圏に挟まれた中小国を揺さぶるには十分な衝撃を与え、日本に対して疑心を抱くのであった。

 

 

・・・・・とあるカクーシャ帝国の属国の酒場にて

 

『まさかニーポニスと人食い族が裏で同盟を結んでいるとはな。』

 

『いや、既に王族同士で婚姻を結んでいると聞いたが・・・。』

 

『ふん、通りでおかしいと思っていたんだ。魔力無しの蛮族の分際で、此処まで大陸中に影響を広めていったのは人食い族と交流を結んでいたからなんだ。』

 

『魔力無しに魔道具なんて作れるわけない、奴らの力の源は人食い族の驚異的な魔力に違いない、他者の力で大きな面をして良い身分な事だ。』

 

『異世界の国だかイクウビトだか知らんが、別の世界から来たという嘘なんかつかず最初から人食い族の属国だと言えば良かっただろう嘘をついた分だけ立場が悪くなると言うのに。』

 

『ニーポニスは世界を、カクーシャ帝国を敵に回した。今や人食い族と同じく滅ぼされるべき存在なのだ。』

 

『ニーポニスと国交を結ぶ国は全て人類の裏切り者だ、言葉が喋れるだけの猿共を気まぐれで人間扱いしてやったから調子に乗るのだ。』

 

惑星アルクスの文明では考えられない日本の精巧な加工物の数々に疑問を覚えていた国や集落は、人食い族と交流を結んでいたという噂を聞き、何故魔力の無い民が優れた魔道具を所持しているのか納得した。

魔力を持たないひ弱な種族が人食い族と誼を結び人食い族の魔道具を大陸中に広め、人食い族の魔道具無しでは成り立たない彼らに依存した世界を作り出そうと目論んでいるのだと。

 

 

・・・・・日本影響圏の都市国家の酒場にて

 

『奇妙な噂?ニーポニスと人食い族が交流を結んでいるという噂の事か?』

 

『何だ、知っていたのか。』

 

『あぁ、どうせ何時ものカクーシャ帝国の扇動工作だろう、ヒシャイン公国かもしれんが。』

 

『人食い族が作った魔道具をニーポニスが売りさばいているって話だが、聞くだけ馬鹿馬鹿しい、そもそもニーポニスの魔道具は魔力を全く使わず魔力自体も帯びていない本当に魔道具なのかも疑わしいものだ。』

 

『そう言えばニーポニスの商人もこれは魔道具ではないと言っていたが、魔力も使わずどうやって動いているんだろうかね?』

 

『そこなんだよ、魔力で動くなら人食い族が作ったって言うのも納得できるが、魔力を帯びず、魔力とは違う何らかの力で動く道具が人食い族の魔道具と言うには不自然すぎるんだ。』

 

『人食い族とは違う意味で異様なんだよな、ニーポニスの連中は。』

 

『確かリクビトではないと自称していたな、顔つきと毛の色は確かに違うがリクビトにそっくりな姿で魔力がない事以外はそんなに違和感を感じないんだが・・・。』

 

『出所が怪しいという点では共通しているが、例の噂、異世界人って言うのもあながち眉唾物って訳でも無いかもな?』

 

『異世界人、あぁイクウビトって呼ばれているんだっけ?』

 

『元は大森林の向こう側で呼ばれていた他称らしいが、こっちの方でも定着し始めているな。』

 

『イクウビトか、得体のしれない不気味さと言うのは感じるが、実際話してみた感じ礼儀は弁えているし暴れる事も無いからそんなに悪い連中じゃなさそうだがな。』

 

『何にせよ、居るかどうかも分からない人食い族よりもカクーシャ帝国の方がよっぽど脅威的だわな。』

 

『違いない。』

 

日本に疑念を覚えた国がある一方、そこまで短絡的でない者達も多く、そもそもイクウビトの魔道具と思われる加工物も彼らイクウビトと同じくまったく魔力を帯びておらず、魔力を注ごうにも反応すらせず、人食い族が作ったにしては異質過ぎて疑問だらけであった。

これが魔力を注ぐと起動する照明の類ならばまだ納得できるが、胡散臭くて出処の怪しい噂自体、カクーシャやヒシャインの流した攪乱目的の偽情報と判断した国や集落も多かった。

 

ただ、表立ってないにせよ日本に反感を持った国は多く、現地に赴いた日本人が冷遇されるケースが目に見えて増え、大陸中央部での活動が多少やり難くなったことは否めなかった。

 

『さっき、ニーポニスの男がなんか叫んでいたが何だったんだ?』

 

『何でも、商談が破綻して交易品を騙し取られそうになったらしい。』

 

『ふぅん?まぁ魔力無しが足元を見られるのも仕方が無いか。』

 

『とは言え、あいつらが操る鎧虫は脅威的だ、商品をつんだ鎧虫の頭に乗ったら突然鎧虫が唸り声を上げたんだ、流石に騙そうとした商人は地面に頭をつけて謝ってたぞ。』

 

『野蛮だなニーポニス人。』

 

『興味を失ったのか、そのまま無視して鎧虫に乗ったまま街の外に出ていったが、その商人相当怒っていたな、騙した方も大概だが誇りを傷つけるやり方は気に食わない。』

 

『本当かどうかは分からないが、あの鎧虫も人食い族から譲り受けたという噂もあるし、分不相応な力を持った民って言うのは増長するらしいな。』

 

『ニーポニス人そのものは魔力無しだし、その反動で力に溺れてしまったんだろう、人食い族と交流を持っている噂の真偽は兎も角、少なくともあの鎧虫は脅威的だな。』

 

 

日本とカクーシャ帝国が衝突した事により、大陸中央部の情勢に深刻な影響を与え、中小国での犯罪件数は明らかに増えており、中でもトガビトと手を組んでいる国が他にないか、カクーシャ帝国の工作員に扇動された者達が魔女狩りめいた処刑を各地で行い、大陸中央部の国々に派遣されていた日本の企業職員や外交官はケーマニス王国まで撤退する事になる。

 

対象はトガビトそのものだけでなくトガビトと手を組んでいたと思われる日本人や日本と親密な交流を結んでいた国や集落にも及び、元々の外交的な対立や民族間での問題から、小競り合いから本格的な武力衝突まで発展し、大陸中央部の混迷さに拍車をかけていた。

 

しかし、日本を始めとした幾つかの国はこの混沌とした情勢を冷静に分析をしていた、カクーシャ帝国の流した情報に踊らされた国がカクーシャ帝国と国境を接する国或いは、カクーシャ帝国人と同一民族・カクーシャ帝国に依存した集落であると言う法則を見抜いており、カクーシャ帝国影響圏と日本国影響圏の境界に位置する国々に警戒を強めていった。

 

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ある都市国家にて・・・・。

 

カクーシャ帝国とニーポニスの影響圏の境界に位置するこの国は、日々領土を拡大する覇権国家カクーシャ帝国の影に怯えていた。

しかし、つい最近大森林の向こう側からやってきた新参者ニーポニスが破竹の勢いで大陸中央部にその名を轟かせ影響を広めていったことに驚愕し警戒していた。

大陸中央部の国々を未知の技術で開発し、商業的な影響力を広げ、圧倒的な武力で鎧虫や魔獣などの魔物を駆逐して、人類の生存圏を広げていったのだ。

 

 

時折カクーシャ帝国より齎される高品質な金属が延べ棒の状態で運ばれてくる事もあり、それを転売したり加工する事により発展をしていたが、ごく最近になって幾つかの国を経由してニーポニスの品が輸入され、その加工物が未知の金属で作られている事に気づき、その品質の高さからちょっとした騒動になる。

 

金属塊として運ばれてくる事は無く、既に金槌や釘などに加工された状態で運ばれて来るが、寸法が全く同じで恐ろしいまでに規格が統一された加工精度の高さに驚き、ニーポニスに技術を学ぼうと打診する。

そんな矢先、ニーポニスと人食い族が交流を結んでおり、ニーポニスの魔道具は人食い族から齎されたものだという噂が出回り始めた。

元々カクーシャ帝国に警戒していたこの国は、カクーシャ帝国の扇動工作と予想していたが、ニーポニスの異様なまでの技術力の高さとニーポニス人の魔力の存在しない身体的な特徴にちぐはぐさを感じ、ニーポニスが実際に人食い族と交流を結んでいた場合を想定して警戒心を強めていった。

 

『恐ろしいまでの精度だな、工房長、これは我々で作れるのか?』

 

『無理だな、釘にしても数本程度なら大きさを合わせる事も出来るが、こうも大量に同じ形に整えるのは不可能だ。』

 

『しかし、一見鉄に見えるがこの金属は一体何で出来ているのだろうか?』

 

『わからん、だが恐らく鉄だろう、何かと混ざっているのかもしれんが恐ろしいほど強靭だ。』

 

『これ程の物を作り上げるとは、魔力無しなのに大したものだ。』

 

『あぁ、物を加工するにも魔術を使うし、魔力とは切っても切り離せない、むしろ魔力も無く魔法も操れないのにこんな物を量産できることが末恐ろしいわ。』

 

『そう言えば例の噂は聞いているか?工房長。』

 

『ニーポニスと人食い族が裏で組んでいるという話か?ふん、馬鹿馬鹿しい。』

 

『まぁ、カクーシャ帝国やヒシャイン公国がやる何時もの手口だろうな。』

 

『とは言え、人食い族の助けがあったり人食い族の魔石でも手に入れば、もしかしたらこう言った物を作り出せるかもしれんがな。』

 

『人食い族の魔石か、確かにカクーシャ帝国が使う魔導兵器に奴らの魔石を用いた破壊の杖があると聞くが・・・。』

 

『むしろ人食い族と敵対していて、何らかの方法で人食い族を狩り、奴らの魔石を手に入れたという方がしっくりくるわい。』

 

『成程、魔力無しと魔力と破壊の化身では、水と油、魔力無しの民族がどのようにして人食い族の魔石を制御しているか不明だが、ニーポニスの力の源泉が人食い族の魔石と言うのならばある程度辻褄が合う訳だ。』

 

『あくまで仮説だがな、どっちも大外れかもしれん。』

 

『とは言え、頭の片隅に置いておくべきだろうな、あの国は不明な点が多すぎて不気味だ。』

 

 

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カクーシャ帝国の隠れ砦を制圧した自衛隊は、トガビトの偵察隊の遺体を彼らの集落に運び、彼らに埋葬させた。

 

人食い族たる、トガビトは基本的に死者の血肉を食べて骨のみを埋葬するのだが、遺体の保存に使用されていた薬液が猛毒の物質だったため、火葬する事になった。

 

親族の遺体が欠損した状態で発見されることは現代的な価値観を持つ日本人にとって苦痛だが、人食い族と恐れられるトガビトにしてみても耐えがたい苦痛であり、血肉を取り込む事も出来ず、魂と共にある事も出来ず、偵察隊の遺族たちは絶望の底に叩き落されていた。

 

『ヴェルナー村長・・・心中お察しします。』

 

『・・・息子の魂が戻ってきたと思えば、この様な事、認められない認めたくない。』

 

『俺がついて行っていればドーリスは・・・くそっ!』

 

『お主が責任を感じる事は無かろう、全てはカクーシャ帝国のせいだ。何故我が子らが親よりも先に死なねばならんのか、馬鹿息子め、馬鹿孫め、あぁ・・・。』

 

『魔石は奪われてしまった、五体満足とは言えないが、遺体は取り戻した、血肉にすることは出来ないが埋葬する事だけは出来る。ただそれだけが救いだ。』

 

この世に生きる者が死者の血肉を取り込み、魂の結晶とされる魔石を身に着け遺族たちは死んだ家族と共に生きるという風習の元、トガビトは生きてきた。

 

しかし、猛毒に浸されて血肉を取り込む事も出来ず、魂の結晶たる魔石も引き抜かれ、体の一部が欠損した遺体が残るのみ。

 

『おのれカクーシャ帝国め!おのれリクビトめ!絶対に許せぬ、許す訳には行かない!』

 

『ああ、我らが受けた苦痛を何十倍何百倍に返しても足りぬ!』

 

『ヴェルナー村長!ダリウス殿!』

 

『っ!』

 

『・・・・・あぁすまない。』

 

トガビト達は怒りと悲しみと復讐心に支配されつつあった。

 

だが、彼らと共に悲しみを共有する存在、イクウビトが居るからこそ彼らは辛うじてかつて大陸中を崩壊させた先祖たちの過ちを思い出すことが出来た。

 

『そうだった、我らが祖先の過ち、それは復讐心と力に溺れた故に起きた惨劇。』

 

『再び1000年前の過ちが起きた時、今度こそこの世界は滅びてしまうだろう。』

 

『・・・・少なくとも、カクーシャ帝国には落とし前を付けなければなりません、それは間違いないでしょう。』

 

『だが、どうする?ドーリス達をやった魔術師は、我らとニホンの秘密の交流の情報が既に本国に届いていると言っていたが。』

 

『問題はありません、こう言った手合いは前の世界でも相手しておりますからね。』

 

『そうか、貴国も苦労している様だな。』

 

『それは兎も角、暫くはあまり村の外に出ずに、成るべく身を隠した方が良いかもしれません。』

 

『確かに、我らを探そうとリクビト共の動きが活発になっている様だが・・・。』

 

『カクーシャ帝国とその取り巻きの狙いは貴方達の体と魔石です。彼らがやろうとしている事は人間狩りそのものです。』

 

『恐ろしい事だな。』

 

『ふん、上等だ。返り討ちにしてくれる!』

 

『ダリウス殿、対処は我々に任せてください、カクーシャ帝国には自分達が何をやらかしたのか身をもって理解させてやります。』

 

『こちらから出向いて仕掛ける事は無いが、返り討ちにはしてやるさ、だがニホンも中々血の気が多いな。』

 

『国交を結んだ国の民が苦しめられただけでなく、カクーシャ帝国は我々を絶滅させると宣言しておりますからね、再三にわたりこちらの抗議を無視しただけでなくこの様な蛮行に踏み切ったのです、容赦なんてしませんよ。』

 

『我らは暫く身を隠す。大森林の外に出ないように村の者に徹底させることにする。情けない話だが・・・・。』

 

 

トガビト達は偵察隊の遺灰と遺骨を共同墓地に埋葬し、彼らの魂の安息を祈った。

 

大陸中央部に覇を唱えるカクーシャ帝国に怒りと憎悪を燃やしつつも自分たちの力が無秩序に振るわれた結果1000年前の大厄災が起きてしまった事を思い出し、やがてカクーシャ帝国自体も自分自身を滅ぼすだろうと予想もした。

 

自分達が背負う咎と同じく、彼らもまた大陸中央部に癒えぬ傷を残して・・・そう予感せざるを得なかった。

 

 

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・・・・ヒシャイン公国にて。

 

 

『それは真か?』

 

『えぇ、どうにもニーポニスが人食い族と交流を結んでいるとカクーシャ帝国の使者が早馬で伝えてきました。』

 

『これは・・・・驚いたな、まさか皇帝の肉筆か?』

 

『敵対していると言って良い相手ですが、何故あえて我らに伝えたのでしょうか?』

 

『ふん、気に食わんがかの国が人食い族と交流を結んでいるという情報は無視できぬ、これが事実ならばとんでもない事になるぞ?』

 

『しかし、カクーシャの言葉を何処まで信用して良いのやら・・・。』

 

『上手く利用してやろうという魂胆が見えているが、まぁそれはお互い様であろう。』

 

『どうします?我々もこの情報を広めましょうか?』

 

『ああ、出来ればカクーシャ帝国の仕業に見せかけたいな。』

 

『魔力無しのニーポニスです。きっと騙されてくれるでしょう。』

 

『いや、決して侮って良い相手ではない、曲がりなりにも大森林を超えてきた者達だ、油断すると足元をすくわれかねん。』

 

『は・・はぁ・・・。』

 

『信頼できる男が実際にケーマニスで奴らの軍事演習を見たからな、下手しなくとも人食い族よりもよっぽど脅威的だ。』

 

『世界を滅ぼしかけた人食い族を超えると?』

 

『そうだ、そんな連中がその人食い族と裏で手を組んでいるとなると、いよいよもって世界規模の脅威になる。』

 

『ニーポニスとはそこまでの相手なのですか。』

 

『カクーシャ帝国め、肥大化しすぎて現実すら見えなくなってしまったか?よりにもよって絶滅宣言だ、だが我らにとって都合が良い、後釜に座るのは我らヒシャインだ。』

 

その後、カクーシャ帝国やヒシャイン公国の者と思われるものが、度々日本影響圏の国や集落に現れ、現地住民たちをそそのかし暴動を煽った。

 

その多くは、扇動に失敗し追い立てられるのだが、ごく少数元から日本国に偏見を持っていた国や集落が暴徒と化して周囲を荒らす事があった。

 

基本的に、近隣の国が制圧に乗り出すのだが、ケーマニス王国の駐屯地に比較的近い位置にある所かつ近隣諸国が対応できない時に、自衛隊が鎮圧に向かう事もある。

 

 

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・・・・・とある都市国家にて

 

『ニーポニス人を探し出せ!人食い族の居場所を吐かせるのだ!』

 

『あの力は人食い族の魔石に違いない!魔力無しの分際で我らの上に立ったつもりか?笑わせるわ!』

 

『ケーマニス王国も何故あの様な連中と手を組むのか?人食い族の仲間は世界の敵だ!』

 

『それに郊外とは言え国内に他国の軍事基地の建設を許すなぞ狂っているとしか言いようがない!さっさと制圧して魔道具と兵器を奪ってしまえば良いのだ!』

 

『ケーマニス王国もフーヒョニス王国も我らが正気に戻すべきなのだ、魔力無しの劣等種族の言いなりなぞ誇り高きリクビトに許されるべきではないのだ。』

 

『あの魔石さえあればカクーシャ帝国を超えることが出来るかもしれないのだ、ニーポニスが人食い族の力を借りたように、圧倒的な破壊の魔導を操ることが出来れば我らも頂点に立つことが出来る!』

 

 

元々日本影響圏の国の中で日和見な態度を取っていた国であったが、目の前に人食い族の魔石を手に入れられるかもしれない可能性がぶら下げられ、魔力無しの民族に主導権を奪われて溜まっていた不満を刺激された結果、見事に爆発し、半ば盗賊と化していた。元よりカクーシャ帝国に内通していたという要素も大きかった。

 

『つい最近この村にニーポニス人が滞在していた筈だ、まだ近くに居るはずだ!探し出せ!!』

 

悲鳴を上げる農村の村人たち、村に滞在していた日本人の商人の居場所を吐き出させようと拷問するが、既に危険を察知してケーマニス王国まで退避しているので、彼らの行動は徒労である。

 

『くそっ、此処にも居ないか!まさか既に逃げ去った後か?』

 

『ネズミみたいな奴らめ・・・うん?何だこの音は?』

 

奇妙な音を聞いた暴徒の男が周囲を見渡していると、突如意識を刈り取られた。

 

UH-1イロコイが機銃掃射を行い、村を襲っていた暴徒を肉片に変えたのである。

 

「GO!GO!急げ、まだ村の生き残りが居るかもしれん。」

 

「何でまたこんな時に裏切ったんだか。」

 

「元から怪しい動きをしていた連中だ、本性を現しただけだろう。」

 

「隣接した集落を襲うとは、此処まで突発的に起こるとどうしても被害が出てしまうな。」

 

「悔しいが既に失われた命はどうにもならない、せめて彼らの冥福だけでも祈るしか・・・・?」

 

ヘリボーンして展開した自衛官の一人が、気配を感じて89式小銃を構えるが、目の前に現れた男は武器を落として手を頭の後ろに組み降伏の姿勢を取っていた。

 

『や、やめろ、降伏する。その魔杖を下げてくれ。』

 

『そこを動くな!そのまま地べたに這いつくばれ!ゆっくりだ!』

 

『何故だ?なぜ人食い族の味方をするのだ?』

 

『いいから這いつくばれ!』

 

『何故俺たちを裏切って、人食い族についたのだ?何故・・・。』

 

『裏切り者は貴様らだ!カクーシャの扇動に載せられた挙句近隣住民を殺戮、我が国民にも手を出そうとした!違うか!』

 

『違う、1000年前の大厄災の再来を防ぐため、お、俺たちは間違っていない。』

 

『もういい、今すぐ伏せろ。』

 

『くそっ、ならば滅びろ!人外め!』

 

手袋の内側に隠していた短剣を目にも止まらぬ動作で取り出し振りかぶろうとした男の眉間が穿たれ、後頭部から赤い花が咲く。

 

「人外?トガビトの魔石を奪おうと目先の欲に駆られた連中が何を言っているのやら。」

 

「黙って滅ぼされるいわれはない、火の粉くらいは払わせてもらうさ。」

 

 

盗賊と化した都市国家の兵を射殺した自衛官は、ふと遠くで音が聞こえた気がした。

 

「あちらさんも恐らく派手にやっている所だろうな。」

 

ケーマニス王国の自衛隊駐屯地を出撃した部隊は、彼らの常識では信じられない程の進軍速度で現れ、堅牢な作りの筈の防壁を跡形もなく吹き飛ばしていた。

 

『あぁ!あぁ!街が!街が燃えている!』

 

『おのれ、人食い族についた裏切り者共が!』

 

自衛隊の戦闘車両の多くはキョーシャ傭兵国の前線基地に派遣されているため、こちらに派遣された部隊の規模はそこまででも無いが、小さな街を吹き飛ばすには十分であり、次々と迫撃砲から砲弾が吐き出され、赤黒い花と共に暴徒の街を破壊し尽くして行く。

 

『何故我らを裏切った!何故我らがこのような目に、この悪魔め!』

 

『禍々しい、穢らわしい!人食い族の魔導がこれ程おぞましい物だったとは!』

 

『呪われろ人食い族!地獄に落ちてしまえ二ポポ族め!』

 

『あ・・・あひ、あぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

カクーシャ帝国に扇動され近隣を荒らしていた暴徒の国は、自衛隊の到着後数時間も持たず首都を瓦礫の山へと変えられた。

 

「仕掛け来たのはそちらの方だ、悪く思うなよ。」

 

「しかし、酷い有様だな。」

 

制圧の為に突入した自衛隊が見たものは砲撃に巻き込まれ肉片と化した貴族と、絶望して自害した王の遺体であった。

 

見せしめの如くあっという間に地図から消滅した国の様子と自衛隊の火力を観測していた近隣諸国は噂でしか聞いていなかった日本国の軍事力に驚愕し、軍事演習を見ていた国は改めてその軍事力を再認識するのであった。

 

 

その後、ケーマニス王国の自衛隊駐屯地に1機の鉄の巨鳥が舞い降りた。

C-130 ハーキュリーズが羽を休めつつ、その腹にある積み荷を詰め込んで大陸中央部の空に飛び立つ準備を進めていた。

 

「まだカクーシャやヒシャインの扇動工作は、お互いの影響圏ギリギリにしか届いていないが、座視してもいられない。」

 

「プロパガンダを流したり扇動したりするのは昔から使い古された手法であるが、そんなのこちらも何度も経験してきているんだよ。」

 

「まぁ、こちらの事をあまり知らない連中には紙吹雪でも見せてやれば考えを改めてくれるかもしれんな。」

 

「人食い族の事で騒いでいるが現在進行形でカクーシャ帝国がやらかしている事の方がよっぽど問題だ。」

 

「人食い族と大陸に覇を唱えるカクーシャ、果たしてどちらが脅威的なのか、見せてやろうじゃないか。」

 

手元にプリントアウトされた決定的な写真と各資料、そこに映し出されていたものは大陸中央部の国々に衝撃を与えるのに十分な代物であった。

 

空が白み始め夜が明ける、鉄の巨鳥が羽休めを終え再び空を舞おうとしていた。




何か、ダラダラ書き進めていたら起伏が少ない物になってしまった気がします。
少しスランプ気味な感じがしますが、テンポだけは維持したいと思います。

エンジンが回ると一気に進められるのですけどね。

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