異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第139話  日輪の照らす大陸中央部

切り立った山脈と大森林に覆われて大陸沿岸部から大陸中央部への道は閉ざされており、行くには荒れ狂う海域を通り、山脈と大森林を迂回しなければならない。

 

綿密な調査により海図が作成され、自由に大陸沿岸部と大陸中央部を行き来することが出来る文明は、この惑星アルクスにおいて空の民の空中大陸と日本国のみである。(なお、厳密に言えば空中大陸は魔力流頼りなので周回を待たねばならいので、完全に自由とは言えない。)

 

大陸中央部へ進出した日本は、大陸沿岸部で現地人と日本人双方に流れた夥しい血によって、反省点を洗い出し、異世界に転移した当初よりもより強めに出ており、大陸沿岸部にも劣らない程の規模の自衛隊駐屯地を建設していた。

 

駐屯地建設中に好戦的な国が交渉中の国付近まで進軍するトラブルはあったが、予定を前倒しにして行われた軍事演習によって、好戦的な国の進軍は停止したが、依然として緊張状態は高まったままであった。

 

『おい、魔力無し!あまり大きな顔をするんじゃねぇぞ!』

 

『黄色い肌のチビめ!』

 

『魔道具頼りのへなちょこめ!それが無けりゃ貧弱なんだろう?』

 

そして、国交を結ぶにあたって日本側が懸念していた惑星アルクス人の魔力の優劣で決めてしまう本能・価値観によるトラブルが多方面で発生し、大きく頭を悩ませていた。

 

一般人の活動範囲を自衛隊の影響力が及ぶ圏内に限定し、自国民の保護に警戒レベルを大陸沿岸部の日本勢力圏内と劣らぬレベルまで上げて目を光らせているので、拉致などの犯罪行為を阻止したり未然に防いだりしているので現時点では死傷者0人を達成している。

 

『おお、これまた大きな建物だなぁ・・・。』

 

『あぁ、最近ニーポニスの大使館が新設されて、貴族様の別荘からそっちに移されたみたいなんだ。』

 

『へぇ、しっかしおっきいなぁ・・・ひーふーみー・・・ひぇー、7階建てくらいはあるんじゃないかい?』

 

『うーん、ニーポニスの建物は外見じゃ何階建てか分かりにくいからなぁ・・・しかし、本当に雲にまで届きそうだ。』

 

『そうだ、ニーポニスの商人たちが城みたいな大きさの店を王都の空き地に作ったんだ!見に行こうぜ!』

 

『はははっ、実は今朝行ってみたんだ!ゲームとかいう魔道具は凄いぞ!絵の中の世界の人間やニーポニスの兵器を動かしたりできるんだ!』

 

『絵の中の世界の人間を動かす?なんだそりゃ?面白いのか?』

 

『なに、行ってみりゃぁわかるさ!二人で協力して絵の中で共闘する事だって出来るんだ!』

 

『今一何を言っているのか判らんが、試してみるか、よしっ行くか!』

 

日本がどのような国かのデモンストレーションも兼ねて、電化製品・伝統工芸品・飲食店などの企業が進出しており、ケーマニス王国の港町と王都に限り、機械化が進んでいた。

ごく最近、信頼性が高まってきた魔石式発電機が多数持ち込まれ、補助電源として従来の化石燃料式の小型発電機が重要拠点に配備されている。

 

『なんて眩い光だ!これがあのケーマニスだというのか!?』

 

『眠らぬ街とはこういう意味だったのか!まさか夜が昼のようになるとは!』

 

『何れ我が国フーヒョニスもこの様な姿になるのだろうか・・・?』

 

大陸中央部で最初に国交を結んだケーマニス王国は真っ先に機械化が進んだため、日本と国交を結ぼうと接触してくる国も多いが、つい最近国交を結んだばかりのフーヒョニス王国はやっと自衛隊駐屯地が形になったくらいで日本企業の進出はまだ行われておらず、大陸中央部の国々が思うように日本と国交を結んだ瞬間に大発展できるわけではない。

 

『はぁ・・・ボロ小屋の街も無くなっちまったな、まるで貧民街があった事自体、夢だった様な気分だ。』

 

『へっ、見ろよ、随分と立派な工房が建っているじゃねぇか・・・あぁ工房じゃなくて工場って言うんだっけか?』

 

『ここ、俺が住んでいた家だったんだぜ?いや、正確には勝手に廃屋に住んでいただけなんだが、それも無くなっちまって寂しいやら嬉しいやら・・・。』

 

『まぁ、俺たちとしちゃぁ美味い飯を食わせてもらうだけでも有難いんだがな。』

 

日本企業が進出した地域に貧民街があったが、それらはケーマニスの王命で強制退去させられ、日本企業の建設したプレハブ小屋に元の住民は移住させられるなど、かなり強引な手段に出る事もあった。

結果的に、疾病の原因になる老朽化して病原菌に汚染されたあばら家を撤去した事によって衛生面が改善され、日本企業も労働力を確保する事に成功した。

 

『俺たちの街が、一本腕の鎧虫にバッキバキに崩される光景は悲しかったよ。でも、見ての通り今は妙に整ったニーポニス式の家屋だらけだ。』

 

『貧民街のボロ小屋の廃材は、砦の兵士の暖に回収されちまって今頃灰になっているだろうな。』

 

『あぁ・・・・廃屋どころか道端で寝転がっていた俺すら、その綺麗な家に押し込まれたのは訳が分からなかったが、王国も本格的に厄介者だった俺たちをどうにかしようと動いたって事なんだろうな。』

 

『カークシャ帝国やヒシャイン公国だったら、俺たち貧民街の住民は皆殺しで街に火を付けられていたかもな?』

 

『違ぇねぇ、金も相当かけてるらしいし、これだけのモンを用意してくれたことには感謝しないとな、最も強制された事には未だに頭に来ているが・・・。』

 

当初こそ不満の声が大きく、王国騎士団が睨みを利かせるまで暴動寸前であったが、現在は栄養状態もよく生活が改善されたので不満の声はない。

 

『ちっ・・・元貧民街の住民のくせに整った服を着やがって!』

 

『やり辛いったらありゃしない、今度は何処を拠点にすればよいのやら・・・。』

 

貧民街再開発の過程で、大陸沿岸部で見られたような犯罪組織群は、自衛隊と王国騎士団によって一掃されており、工作員の拠点なども潰されたので防諜はかなり進んでいる。

 

『ほうほう、これは広げて仰ぐことで風を送る道具か、それにしても美しい絵が描かれておるな?』

 

『宝玉の中に宝石の羽虫が封じ込まれているとは・・・一体どのように加工したのだろうか?トンボ玉のトンボとは、この細長い2対の羽を持つ羽虫の事らしいが・・・。』

 

『魔力無しの野蛮人と思っていたが、考えを改めたわい!見よ、この美しい模様を!飾りつけのないただ鋭さを極めた刃がこれほど白く美しいとは!!』

 

大陸中央部の国々の中で比較的温厚な部類に入るケーマニス王国でも、魔力の優劣の価値観から進出してきた日本に対して良く思わない貴族や王族も居るが、最近では当初の価値観がひっくり返って、如何に日本の製品を揃えるかがトレンドとなっている。

 

「うわぁ、これ鎧虫の外殻を磨いて作った彫刻だぞ?」

 

「こりゃぁ、機械で大量生産なんて出来ない職人の一品物だ・・・大陸沿岸部ではこのタイプの芸術品はお目にかかれない。」

 

「貴族パーティーでつける仮面かな?玉虫色の複雑な光沢がたまらないな!」

 

「量産には向かないだろうけど、日本でも普通に通用するわこのクオリティ・・・。」

 

ケーマニス王国の伝統工芸士や技術者も負けじと、日本の芸術品を超える作品を作ろうとするが、お得意様であった貴族や王族からは反応が鈍く、むしろ商売敵であった日本人に何故か飛ぶように売れ始めているので何とも言えない表情でその成り行きを見ていた。

 

『ニーポニスの貴族と交流は持てなかったが、良い手土産が出来たわ!』

 

『あの圧倒的な破壊力を生み出す魔導兵器は手に入らなかったが、ニーポニスの片刃を幾つか購入出来た。これ程の切れ味、戦場でどれほどの戦果を産むか・・・。』

 

『武器も重要だが、魔力の薄い土地でも育つ作物の種子は多くの民や兵士を養うことが出来る。腹が減っては戦は出来ぬというニーポニスの言葉もあるが、確かに格言だな。』

 

大陸中央部において流行の最先端となったケーマニス王国は、毎日のように異国の貴族や商人たちが訪れ、建国以来最大級の発展をしていた。

その一つの要因が、街道の安全性の高さである。

 

今まで、集落から集落へ移動するだけでも鎧虫や魔物と遭遇する事が多い地であったが、定期的に巡回する自衛隊のパトロールによって危険生物はあらかた駆除されており、軽装備で護衛も少なく移動できる。

 

そして、大型の馬車が余裕をもってすれ違える程大きな道が、舗装されており、踏み固めたり砂利道だったりした頃の街道とは比べ物にならない程、疲れにくい道となった。

 

『のっぺりとした一枚の岩みたいな道だが、これのお陰で水溜まりも減ったし、溝に馬車の車輪がはまる事も無くなった。』

 

『まぁ、時々ニーポニスの大型馬車に驚かされる事もあるが、街道がこれだけ安全になれば、安心して荷物を満載出来るものだ。』

 

『盗賊にせよ魔物にせよ、積み荷を奪われては商人にとって死活問題だからなぁ・・・逃げるために積み荷を軽くするのも無くなり、俺たち大儲けだ。』

 

『富をもたらすケーマニスとニーポニス万歳!栄えある我らがフーヒョニス万歳!』

 

ケーマニス王国とフーヒョニス王国を結ぶ道は特に広く作られているので、両国間のやり取りも活発化して来ており、フーヒョニス王国の発展も確実視されている。

 

日本と国交を結んだ国は、ケーマニス王国とフーヒョニス王国の両国と、それに近い小国群のみで、これ以上はキャパシティを超えてしまうために離れている国との国交は順番待ちである。

 

日本は大陸沿岸部でトナーリア商業国のコネで販路を拡大した経験から、大陸中央部のトナーリアとしてケーマニス王国を見ており、彼らの仲介で販路を拡大しようと目論んでいた。

 

『ぬぐぐぐぐ・・・今まで武具の新調と破棄か、鎧虫の駆除数を書くだけだったと言うのに、なんだこの忙しさは!』

 

『今が夢の中なのか、それとも現実なのか境界が曖昧になってきた・・・どれだけ書類を処理しなければならないのだ。』

 

『ニーポニスの秘薬を飲むのだ、体力の前借りが出来る。さぁ戦え文官の戦士よ!目覚めよ!』

 

『ぐえっふ・・・この猛禽の紋章の描かれた薬の味は癖になるな、ふ・・・ふひ・・・ふひひひひ!目がさえてきたぁ!!』

 

そのケーマニスは、日本との仲介を周辺国から依頼され忙殺されて文官が悲鳴を上げつつ日本のエナジードリンクで体に鞭を打つ光景が繰り広げられていた。

 

 

『おのれケーマニス!おのれフーヒョニス!そしてニポポ族め!!』

 

『魔力を持たぬ虚無の民の力なぞ偽りぞ!そのような力は間違っている!!』

 

『そのような物・・・この世の法則に逆らうものだ!奴らは存在自体してはいけない!!』

 

『魔物を殺せ!その牙から矛を削り出せ!毛皮は鎧に!鱗は盾にするのだ!』

 

『紺碧の大地は我らのもの!人食い族の呪いから大地を開放するのが選ばれし民である我らに与えられた役目なのだ!!』

 

好戦的な国々は、大陸中央部の勢力図が書き換わる事に恐れをなしており、植民地の増税や魔物狩りによる武具の素材の調達などを行い、軍事力強化に努めていた。

 

大陸中央部に早くも影響力を高めた日本は、各勢力から注目を集める事になる。

好意的な視線から敵意を持った視線など、それぞれ違ったものであるが、日本は国益のために大陸中央部への干渉を高めて行くのだ。


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