異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第124話  動き始める大陸中央部

立地の関係上敵が多く、近隣諸国や原生生物に襲われるケーマニス王国だが、そんなケーマニス王国にも友好国は存在する、隣国フーヒョニス王国である。

 

フーヒョニス王国は、巨大湖を水源とする民が集まって形成された国であり、潤沢な水資源のお蔭で農業が盛んで、大陸中央部の中でも上位の農業大国である。

ケーマニス王国を含む友好国に農産物を輸出しており、人口も多く、首都は大きく賑わいを見せている。

 

そんなフーヒョニス王国にも脅威は存在し、近年ヒシャイン公国やカクーシャ帝国などの拡張主義国家が進出し、じわじわと小さな都市国家や部落などが侵略され取り込まれて行き、その勢力はフーヒョニス王国に迫りつつあった。

 

フーヒョニス王国は人口が多いため、それ相応に兵士も多く、数はそろっているので、好戦的な近隣諸国も迂闊に手を出せない軍事力を持っていた。

しかし、反面騎兵が少なく、装備の質も良くも悪くもない程度なので、重装備の相手には分が悪かった。

 

そこで、大森林の資源の恩恵を得ている友好国のケーマニス王国と軍事同盟を結ぶ予定をしていたのだが、ここで大陸沿岸部からの来訪者が現れたのであった。

日本国の存在である。

 

日本国との国交を結んだケーマニス王国は、思わぬ所から現状打開の糸口をつかむ事が出来、日本は、ケーマニス王国経由でフーヒョニス王国との国交を結ぶ切っ掛けを得る事が出来た。

 

そして、フーヒョニス王国と国交を結ぶ会談をする為ケーマスニス王国の時の様に無数の戦闘車両と共に使節団は、フーヒョニス王国首都へと向かった。

 

人工衛星ひすい3号の衛星写真から地球のオンタリオ湖に匹敵する面積の巨大湖が確認されており、日本は既にケーマスニス王国と接触する前からそこに集落が存在する事を把握していた。

 

 

『もうそろそろ例の鎧虫を操る国の使節団が訪れる頃だな?』

 

フーヒョニス王国の兵士が日本を迎える為に、国境近くの街道に待機していた。

事前に、ケーマスニス王国から通達があり、鎧虫の大群を見かけたら彼らと共に王都へと向かいつつ、規律のあるフーヒョニス軍の力を見せつける為、兵士たちも気力に満ち溢れ身が入っていた。

 

『何でも、島の様な大きさの船に乗って来たらしいじゃないか?まるで御伽噺の様だな。』

 

『はん、御伽噺でもそんな出鱈目なのは無いさ、どうせ誰かが面白半分に誇張した話だろう?大森林の向こうでは人の言うこと聞く大人しい鎧虫が生息していたと言う事なんじゃないか?』

 

若い兵士の中では、腰蓑を巻いた半裸の蛮族が木を尖らせた槍を握り締め、鎧虫の背中にまたがる姿を思い浮かべていた。

 

『仮にそうでも、彼らの力は本物だ、ここ最近出回り始めた見事な装飾品や魔道具だが、どうにもその出所はかの国らしい。』

 

『ほう、と言う事は思っているよりは文明が進んでいるのかも知れんな。』

 

『おいおい、あんまり他所の国を下に見るなよ?ましてや、一度も見た事も無い国ならなおさらだ。自分達よりもずっと上の相手も見て来ただろう?』

 

『・・・軍事力は上かも知れないが、帝国を名乗る野蛮な国よりも我が国が下だとは思っていないぞ・・・忌々しい。』

 

『まぁ、ケーマスニス王国の紹介だ、これから会談を行うニーポニスとやらがヒシャイン公国やカクーシャ帝国の様な野蛮な連中と同じとは思わんさ。』

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・?

 

日本の使節団が通る予定の道を見つめていると、違和感を感じた。

 

次第に違和感は確信に変わり、それは小さな点から次第に輪郭が明らかになり、土煙を上げながら異形の鎧虫の様な物の群れが目を光らせながら信じられない速度でこちらに迫って来るのが見えた。

 

『な・・・なな・・・何だあれは!?』

 

『鎧虫・・・なのか?あれだけ重そうなのにとんでもない速度だ!』

 

『事前にケーマスニス王国から鎧虫の軍勢が訪れると聞いていたがこれ程とは・・・・・。』

 

斑模様に塗装された大小さまざまな鎧虫が現れ、驚く事にその中に似たような模様の兵士を乗せており、地の底から響くような唸り声を上げながら地面を抉る様に猛進する。

 

『おおっ、お出迎え感謝します。我々が、日本国から派遣された使節団です。』

 

『国交を結ぶための会談を開ける事に、感謝します。』

 

少し小さ目の鎧虫の中から現れた使節団の男達に慌てて敬礼するフーヒョニス王国の兵士達

 

『いえ、友好国ケーマスニス王国の紹介ですし、貴国との会談を行えることを光栄に思います。』

 

『それでは、王都までご案内します。道中の護衛は我々が行うのでご安心を!』

 

フーヒョニス王国の兵士は正直、日本の鎧虫・・・戦闘車両の迫力に押され気味であったが、彼らは自分たちの誇りと矜持を守るために、日本の使節団を王都まで護衛をした。

 

日本としては、速度を大幅に緩めなければならないのでタイムロスに感じたが、フーヒョニス王国にもプライドがあるので彼らを立てなければならなかった。

 

 

フーヒョニス軍の兵士たちと同行する鎧虫の群れ・・・それは、街道から少し離れた場所からも見え、少し小高い丘などから眺めれば相当に目立つ光景であった。

 

フーヒョニス王国に潜む好戦的な近隣諸国の間諜は、それを異常事態として、フーヒョニス王国に潜む仲間達を緊急招集し、遠目からそれらを監視し始める。

 

『あの鎧虫の群れは一体なんだ?』

 

『白地に赤い丸が描かれた旗・・・?一体何なんだあれは?』

 

『最近噂されるようになった、大森林の向こう側の国ではないか?』

 

フードを深めに被って素顔が解り辛い男が呟く

 

『どの道あれだけの数の鎧虫を操る存在だ、唯者では無いだろう。』

 

顔を包帯で巻き素顔を隠したローブの男が頷く

 

『あれがどの様な鎧虫なのかはわからぬが、地面にあれ程の足跡が刻み込まれる重量だ、まともに刀剣が通用するとは思えんな。』

 

『あのまま王都へと向かうのか・・・巨大湖を独占する蛮族共と一体どのような関係が・・・?』

 

『我らが公国の障害にならなければ良いが・・・。』

 

 

フーヒョニス軍の誘導に従って王都まで訪れた使節団は、戦闘車両を防壁の外側に待機させて、使節団を乗せた軽装甲車のみ王都へと入って行く。

 

異形の軍勢がフーヒョニス王国に現れたと言う事で、住民たちは怖いもの見たさの好奇心で、自衛隊の戦闘車両を遠巻きに見つめていた。

 

それに混じる様に、鋭い目で観察する者達がいた。

 

『何だあの化け物は・・・鎧虫・・なのか?』

 

『鎧虫でも何でも良い、少なくともアレがフーヒョニス王国と関係があるのは間違いないだろう。』

 

『最近報告にあった、大森林の向こう側の民ではないか?』

 

フーヒョニス王国の民族衣装を着込んだ間諜たちが、小声で会話する。

 

『奇妙な意匠の旗だ・・・赤い丸・・玉か何かを現しているのか?』

 

『白地に赤い丸など・・・まるで血を垂らした布の様だ。あれが何を表現しているのかは与り知らぬ所だが旗の意匠は細かく優美であるべきものだ。』

 

『我が帝国の巨獣旗と比べる事自体おこがましいだろう、だがあの感性の無さだ、鎧虫を多少操れるからと言って中身は唯の蛮族だ。』

 

『そうだ、我々は常に鎧虫や甲獣との戦いに明け暮れた選ばれし民だ、人の手に落ち使役される鎧虫など我らの敵ではない。』

 

『しかし・・・。』

 

大型トレーラーから降ろされ、フーヒョニス王国の防壁周辺に展開する戦車に注目する。

 

『巨大な角を持つあの鎧虫は、厄介そうだな・・・足跡から察するに相当な重量だ、恐らく外殻の密度も高いだろう。』

 

『あの角で殴り倒されては一たまりも無いだろうな、罠にはめるなり毒液壺で弱らせるなり搦手が必要になって来るかもしれん。』

 

『いずれぶつかる事になるにせよ、無策と言う訳にも行くまい・・・本国に報告し、対策を練らなければ・・・。』

 

 

それから、フーヒョニス王国との交渉を進める日本は、ケーマニス王国同様に、日本を紹介する映像や、交易品に使う予定のサンプルなどを見せ、日本の高品質な製品の輸入や農業支援などを条件に、資源を輸出する事を合意し、無事に国交を結ぶことが出来た。

 

比較的に友好的な国を中心に大陸中央部の国々と国交を結び始めた日本は、少しずつ確実に大陸中央部開拓への地盤を固めつつあった。

 

明らかに排他的で好戦的な近隣諸国の干渉が始まる前に、日本としては早い段階でその軍事力を平和的に誇示する必要性があり、まだ国交を開いていない国との接触を急いでいた。

 

 

・・・・日本の軍事パレードがケーマニス王国の郊外で行われるまで、まだ少し時を待つ必要がある。

 

 

 

 

 

ケーマニス王国

大陸沿岸部と中央部を隔てる大森林と山脈に一番近い位置にある国。

立地の関係上、鎧虫や魔獣などの襲撃を受けやすいが、その分大森林からの恩恵がある。

近隣諸国の圧力や鎧虫や魔獣との戦闘で鍛えられた兵士の練度は高く、侮れない実力を持つ。

国土の多くは平地の為、騎兵隊が主力で、高い機動力を誇る。

 

 

 

フーヒョニス王国

ケーマニス王国と友好国。

騎兵はあまり多くないが、歩兵はかなり多い。

大陸中央部の中でもそこそこな規模の農業大国。人口も多い

日本が国交を結ぶ候補に挙がっているが、内陸部寄りなので接触が遅れる。

巨大な湖が水源となっており、それを廻って小競り合いが多い

 

ヒシャイン公国

山岳部に首都を構える軍事国家。

元々鎧虫の巣だった巨大な蟻塚の様な洞窟を制覇して、作り上げられた国なので兵の練度は高い。

鉱物資源も多く、鎧虫の外骨格を利用した軽くて丈夫な鎧も装備しており侮れない相手。

かなり好戦的で、次々と小さな国を侵略しており、縦横無尽のヒシャインと恐れられている。

元々、カクーシャ帝国の将兵たちが作り上げた城塞都市だったが、カクーシャ帝国が内乱で荒れた時に、どさくさに紛れて独立した経歴がある。

 

カクーシャ帝国

大陸中央部の中でも特に大きな軍事国家

入り組んだ地形が多いため、人口の割に農地が少なく、鎧虫の生息域も近いため、狩猟によって食糧を確保している。

鉱物資源はかなり豊富で、初期の鋼を加工できるほどの技術を持つ。

近年、平地の国々を襲撃して侵略し、農地を確保する政策に移っている。




色々リアルが忙しくなってきました・・・新幹線で長距離移動すると思ったら、とんぼ返り・・・一日丸々潰れて、結構疲労が蓄積してしまいました。げふり

せめて平日だけでも、多めに睡眠時間を確保して、早朝に書き進めるスタイルにしないと進行速度が大幅に低下してしまうかもしれませんです。

インフルエンザもボチボチ流行り始める季節になって来たので、R-1ヨーグルトでも食べながら対策を練りたいと思います。

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