異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第123話  大陸中央部の変化

大森林と切り立った山脈に阻まれた大陸中央部に海を経由して迂回して、進出した日本は、大陸中央部玄関口に位置するケーマニス王国と接触し、港町を中心に開発を始めていた。

 

未だに大型船は入港できないが、港の拡張工事は急ピッチで進められており、次々と輸送船から小型船を介して資材が荷揚げされている。

 

ケーマニス王国は日本と国交を結んだことで、建国以来最大の発展をしていた。

港町と王都を結ぶ信じられないほど太くて丈夫に舗装された道路、そして道路沿いに立てられた夜を昼間のように明るく照らす照明、次々と日本から持ち込まれる便利な道具など。

 

今まで、大森林から度々はぐれ個体の鎧虫や甲獣などに襲撃を受け、好戦的な近隣諸国の圧力により、押さえつけられて中々開拓が進んでいなかったケーマニス王国は、大陸中央部の国々から一目置かれる存在へとなりつつあった。

 

元より資源が豊富であり、開拓の障害である魔物の撃退が容易となった為に、日本が求める資源の採掘も進み、日本とケーマニス王国双方に利益を齎していた。

 

しかし、ケーマニス王国が発展できなかった要因の一つの好戦的な近隣諸国にとってケーマニス王国の発展は面白い話では無かった。

 

好戦的なために、ケーマニス王国よりも国交を結ぶ事を後回しにされた近隣諸国は対抗勢力であるケーマニス王国と友好関係の日本に対してあまり良い印象を抱かなかった。

 

日本はケーマニス王国と国交を結ぶ前に、綿密な調査の上で国交を結ぶのに国ごとに優先度を決めていたので、幾つかの候補の中で港町を持つケーマニス王国を大陸中央部への足掛かりに選んだのであった。

そろそろ大陸中央部へのアプローチを進める為の基盤が完成しつつある現在、積極的に日本の品を大陸中央部の商人に売却し、日本の名を広めようとしていた。

 

歪みも変色もしていない見事な装飾の手鏡、貝殻の様な美しく複雑な光を宿す人工オパールの装飾品、日本の一般家庭でもお馴染みの各種包丁など、高品質の日本の製品は飛ぶように売れ、日本の名はあっという間に大陸中央部の国々へと広まっていった。

 

 

当然ながら、近隣諸国は日本がどのような国なのか調べる為に密偵をケーマニス王国へと派遣し、同時にケーマニス王国がどれだけ日本の援助を受けて発展しているのか調査した。

 

『こ・・これは一体どういう事だ?大森林と王都の間に巨大な防壁が聳え立っているぞ!?』

 

『見ろ!一本腕の鎧虫が地面を掘り返している!いや、他にも奇妙な鎧虫がうじゃうじゃ居るぞ!』

 

商人に扮した密偵は、ケーマニス王国が想定していたよりも遥かに発展している事に驚愕し、その異常なまでの発展速度に言い表せない程の恐怖を覚えた。

 

『黄色い肌の魔力を宿さない亜人・・・情報通りだ。』

 

『しかし、奇妙な装束だ。仕立ては良いのに装飾らしい装飾がされていない、まるで喪服の様だ。』

 

『どうする?一匹でも奴らを攫えないか?』

 

『いや、既にほかの国の奴が失敗して捕まっている。奴ら、常に街中を監視の目を光らせてやがる。』

 

近隣諸国の密偵達はありとあらゆる手段で情報源の日本人を拉致しようと試みるが、どうやっても街から出る前に発見され、逆に捕まってしまう。

 

酒に催眠効果のある薬草を混ぜたり、暗がりから鈍器で殴り口を布で縛ったり、街の外れを散歩している者を草むらに引きずり込んだりするが、何処からともなく現れた斑模様の兵士に捕縛されてしまうのだ。

 

証拠隠滅も完璧だった筈、何処にも人の気配も視線も感じなかった筈、運送手段の馬車の偽装も問題は無かった筈。

 

・・・だと言うのに、日本の監視や警備は人知を超えるほどに厳重過ぎたのだ。

 

ケーマニス王国の主要都市に無数に設置された各種センサー群、派遣された人数の少なさを補う様に監視カメラも裏路地や暗がりの道にも抜かりなく設置されているため、それらの存在を知らない密偵達は犯行を無防備に晒してしまうのだ。

 

『不気味なほどに警備が厳重だ、一体どういう事だ?』

 

『あまり欲をかくなよ、今回はあくまでケーマニスの発展度を見るだけだ。』

 

『変に色気を出して情報を本国へ持ち帰れない事態だけは避けるべきだ。』

 

『チッ・・・了解した。』

 

密偵達は、以前拠点にしていた貧民街へと向かうが、そこは既に取り壊されており、プレハブ小屋が立ち並んでいた。

 

『ど・・どういう事だ?本当にどういう事なんだ?貧民街が消えてなくなっている!?』

 

『いや、それどころか向こうは数年前の火災で空き地になっていた筈だぞ?そこも建物で埋まっている!?』

 

ケーマニス王国に進出した日本は、早い段階で貧民街の住民に職と新しい住居を与え、開拓の労力を確保していた。貧民街の住民たちは最初は警戒と不満を抱いていたが、荷物の運搬などの覚える事の少ない単純労働と、新たに与えられた快適な住居に戸惑いながらも喜び、最終的に大衆食堂に胃袋をがっちり掴まれ、生きているだけで死んでいない様な生活から人生に前向きなモチベーションに満ち溢れた毎日を送り、元貧民街の住民たちの顔つきは変わっていた。

 

 

『・・・・よく見れば、どいつもこいつも見覚えのある顔だぞ?』

 

『前来た時は、死人の様な顔で地面に転がっていた連中が・・・くそっ、気に食わない!』

 

『ニーポニスとやらは、こいつらに住居を与えて一体何の得があると言うんだ!?』

 

日本は完全な善意で彼らに住居を与えた訳ではない、ボロ板にカビた布や毛皮を被せただけの様な建物が立ち並ぶ貧民街は、衛生環境も劣悪であり、犯罪や未知の感染症の温床となる可能性もあるので、治安の回復や労力の確保もかねて支援をしたのである。

 

『恐ろしい程の建築速度だ、唯の空き地がこの短時間で小さな町が出来てしまうなんて・・・。』

 

『もしかして、城も短時間で作れてしまうのではないか?』

 

『いや、よく考えても見ろ、もう既にケーマニス王国と大森林の間に巨大な防壁が建造されているんだ・・・城塞の様なものだろう。』

 

密偵達はその異常な建築速度に恐れをなした。それはつまり、短時間で軍事拠点を次々と作られてしまう可能性があると言う事だ。

今まで、ケーマニス王国を抑え込んでいたのに、大陸中央部のパワーバランスが変わってしまう、この周辺の勢力図があっという間に塗り替えられてしまう。

 

『仕方がない、隠れ家に使えそうな建物が見当たらないから宿をとるぞ、あくまで商人として振舞え。』

 

『あぁ、分かったよ、いつもの様に筆談で会話だな。』

 

彼らは、大森林の向こう側から訪れたと言う謎の種族イクウビトを脅威とみなし、確実にその情報を持ち帰る様に、終始商人として振舞い、幾つかの物品を購入し帰路に就いた。

 

彼らの祖国は、日本の底知れぬ国力と製法不明の見事な加工物に驚嘆し、畏怖し、迂闊に軍事的な行動が出来なくなった事を悟るのであった。




うぬぬ、ネタはあるのにたった数行書くのにも、滅茶苦茶体力を持っていかれる・・・秋の疲れなのかしら・・・。

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