日本が開発を進めている大陸沿岸部の端に位置する国、イキリータ・ガリア王国
戦乱の世であり、新興国が生まれては滅ぼされる事が日常となっている中で、大陸の外からやって来た新参者である日本が、数えきれないほどの襲撃者を片手間で撃退している事で、多くの国は面白くなく、また日本に対して恐怖感を抱いていた。
イキリータ・ガリア王国もその一つであり、最初の接触の際は噂の日本国がやってきたと言う事で上から下まで蜂の巣をつついたような騒ぎになり、厳戒態勢が敷かれたが、その後の交渉で、平和的な接触の元に国交を結ぶ事になった。
しかし、見栄っ張りで自尊心が高く、嫉妬深い国民性のイキリータ・ガリア王国は日本の進出で栄えても余所者の力で街が発展していくのが面白くなく、決して表には出さないが不満を募らせていた。
『ここ最近ニッパニアの連中を良く見かけるようになったな?』
『正式に国交を結んで、道の整備や農地の拡張をしてくれるんだとか』
『有難い話ではあるが、あんなに苦労して拓いた畑が何倍にもあっさりと拡張されちまうと空しくなっちまうな。』
『ちぇっちぇっ、面白くねぇ・・・勢いが良いからと言って調子に乗りやがって、面白くねぇ・・・。』
酒場の扉が開かれると、見慣れぬ装束を身にまとった黒髪の男達がやって来た。
「イキリータ・ガリア王国の特産品は確か、酒類でしたね。」
「この周辺国では特にイキリータ・ガリア王国のお酒は人気みたいですよ?飲むと疲れが飛ぶんだとか・・・。」
「まぁ、日本でもそう言う人は見かけますし、薬酒の類かも知れません。」
噂の日本人が酒場に入ってきたところで視線が集中する。
好奇心も含まれているが、どちらかと言うと羨望や不満の色が強い視線であり、それらに晒された日本人は居心地が悪そうにカウンターへと向かっていく。
『おお、ニッパニアのお役人さんが何故この様な酒場に?』
『イキリータ・ガリア王国では、お酒が特産品だと聞きました。店主様のおすすめの一品はありますか?』
『へぇへぇ、我が国に訪れれば飲まなければ損なとっておきの一品がありますぜぇ?貴族様王族様が買い占めちまうんで、中々こちらに回ってこない貴重品なんです。』
『ほぉ、それは期待できそうですねぇ・・。』
酒場の店主が、奥の部屋へ行き、暫くすると陶器の器から茶色く甘い香りの酒を、粗末な作りの焼き固めたようなカップに注ぎ、日本人に差し出した。
『これぞ、英雄の酒、ムクムルイキリータでさぁ!』
『ムクムクイキリターツ・・・ですか?』
『ムクムルイキリータでさぁ、これはまだこの国がガリア王国だった頃に活躍した戦姫イキリータが発明した奇跡の酒なんです。』
『ほぅ、国名になる程の英雄の酒ですか!』
『これは、ムクムの実と言う実と蜂蜜を混ぜて醸造させた酒で、強い酒精と眠気を払い、体中に活力を漲らせる効能があるんでさぁ!』
(目が覚めて元気になる・・・ふむ?)
一瞬脳裏に人体に無害かどうか疑問符が浮かぶが、意を決して口をつけてみると、強い甘みと、苦みのある酸味を感じ目を見開く
「これは・・・。」
大陸中にその名を轟かせる大国の日本の役人が、イキリータ・ガリア王国の誇りとも言える英雄の酒に口を付けた事で、酒場に緊張が走る。
「いや、近いが・・・ふむ、酸味がやや強めで・・。」
「どうしました?」
「いや、君も飲んでみれば良い」
「はぁ、ではお言葉に甘えて・・・・あぁ。」
酒場の店主が恐る恐る感想を聞く
『い・・・如何なさいましたか?』
『あぁ、済まない、何となく懐かしい味がする酒だね。』
『甘くておいしいお酒でしたよ。』
英雄の酒は日本人の口にもあった様で、緊張が解け安堵の空気が漂っていたが、それはやがて彼らの誇りでもある英雄の酒が、あの日本国にも称賛される酒だと言う事が解り、酒場の客は明らかにご機嫌な様子で酒を飲むペースを速めた。
「やっぱり、コーヒーリキュールだこれ・・・。」
「でも、ちょっと酸味が強いというか、近いけどやっぱり別物ですね。」
「ムクムクの実か・・・名前はあれですが、リストには入れておきましょうか・・・。」
「ムクムの実じゃありませんでしたか?コーヒーの実そのものとは思いませんけど、コーヒーの代替品にはなるんじゃないでしょうか?」
「次の視察は、この酒の原材料の生産地にしましょう。」
その後、日本とイキリータ・ガリア王国は交渉を進め、英雄の酒の原材料であるムクムの実の輸入とムクムの実の新しい活用法を提案し、両国合同でのイベントを開催した。
『ふふふっ・・・まさか、ムクムの実に目をつけるとはな・・・。』
『まさに救国の英雄イキリータ様のお導きでしょう・・・。』
『それで?このムクムの実の香りのする黒い飲み物がニッパニアの言うコーヒーとやらか?』
『えぇ、彼らはムクムの実そっくりな、コーヒーと言う実を煎じて茶にして飲むそうです。』
日本人が既に似たような木の実を使って茶を飲む文化を持っている事に驚き、少し不満を感じたが、それ故に彼らの舌にムクムの実が馴染んだことにも納得した様だ。
『成程、コーヒーの実とやらと似ているからと言う理由が気に食わんが、英雄の酒以外の活用法が発見できたことは良い事だ。』
イキリータ・ガリア王国の貴族が試作コーヒーに口をつけると、苦みに一瞬顔を顰めるが、コーヒーカップをテーブルに乗せ頷いた。
『ふむ、燻しているのか苦みと酸味が強くなっているな、だが悪く無い・・・。』
そこへ、日本の外交官がやって来て、陶器の小瓶を指さして、蓋を外して中身を見せた。
『この白い粉・・・砂糖を加えると、飲みやすくなりますよ?』
『ほぉ、確か甘い調味料だったかな・・・どれどれ・・。』
ティースプーンで3杯ほど砂糖を試作コーヒーに入れ、良く溶かした後、再び口をつけると目を見開く。
『おおっ、苦みと酸味は相変わらずだが、甘さが加わるだけでここまで味が変わるとは!!』
『日本ではミルクを・・・あぁ、家畜の乳を入れる事もあるのですが、イキリータ・ガリア王国ではあまり乳製品は主流ではないんでしたよね?』
『家畜の乳を入れるだと?ムクムの実の茶・・・いや、英雄の茶にそんなものを入れるとはどういう発想なのだ?そもそも動物の乳だぞ?』
『我が国では、ウシと言う乳を大量に出す家畜から取れた乳を様々な料理に使う食文化があるのですが、コーヒーミルクもその一つですね、苦みが落ち着いて更に飲みやすくなるのです。』
日本の外交官はテーブルに置かれた透明な容器の中に入った白い液体を自分のコーヒーカップに注ぐ。
イキリータ・ガリア王国の貴族は、食文化の違いに驚くが、国が違えば食物も違うかと納得しつつも、奇妙な物を見るような目で、日本の外交官が持つ透明な容器を見つめた。
『わ・・私にも入れさせてくれませんかな?』
『おっと、失礼しました。どうぞ』
動物の乳を飲むと言う経験が無いので、少し緊張したが、ムクムの実の茶に注がれた乳が黒一色だった物から優しい色合いに変化し、不思議な香りが漂い始めたので、度胸と好奇心でそれを一気に飲み干した。
『こ・・・これはっ!!』
『いいでしょう?コーヒーミルク、私も子供のころからこれが好きで仕方がなかったのですよ。』
『なんと・・何と素晴らしい・・・ふ・・ふふふっ・・。』
『ムクムの実とそれを英雄の酒と言う形で、特産品にしていた国と出合えて幸運でした。ムクムの実の増産と農業支援の件ですが、本国の方からも良い返事がいただけましたよ?』
『ふ・・ふは・・ふひゃふぁは・・・ふははははははははぁっ!!』
見栄っ張りで自尊心が高いイキリータ・ガリア王国の国民性であるが、嫉妬深い代わりに自尊心を満たしてくれる者には寛容で、大陸沿岸部の国々にその名を轟かせる日本の称賛に大いに自尊心を満たされ、更に英雄の酒の原材料に新たなる活用法を見つけ狂喜乱舞した。
どちらかと言うとマイナス寄りだった対日感情は、国交を結んで暫くすると好転し、代替コーヒーの名産地として日本国民にも知られる様になる。
イキリータ・ガリア王国建国史
かつて、イキリータ・ガリア王国がまだガリア王国だった頃、周辺国からの侵攻に脅かされていたが、ある日酒屋の娘が軍の兵舎に乱入し、彼女が開発したと言う新製品の酒を兵士たちに振る舞い、酔った勢いのまま敵の軍勢に突き進み打ち倒してしまったと言う。
彼女の開発した酒は、眠気を払い疲れを飛ばし、頭を冴えさせる効能があった。
イキリータと言う酒屋の少女は新製品の味見をしている最中に妙に頭が冴えて来て、酔った勢いのまま軍部に乗り込み、さえた頭でガリア王国の戦術を一新し、恐ろしい戦闘能力で敵を打ち倒し、英雄と称えられてガリア王国の王子と結ばれ、国名をイキリータ・ガリア王国と改名したと言う。
冗談のような話であるが、英雄イキリータの活躍は、この国の大人から子供にまで慣れ親しんだ物語であり、彼らにとって正史とされている。
ムクムの実
ほおずきの様な形をした木の実で、コーヒーとは似ても似つかない見た目だが、中の種を焙煎してお湯を注ぐと、コーヒーに近い味になる。酸味が強くライトボディで、どちらかと言うとモカコーヒーに近い。
カフェインを多く含み、コーヒーと同等の覚醒効果を持つ。
英雄の酒(ムクムルイキリータ
イキリータ・ガリア王国名産の酒で、英雄イキリータが生み出したと言う。
伝統の製法が受け継がれ続け、少しずつではあるが、味が洗練されてきていると言う。
コーヒーリキュールに近い味であり、蜂蜜と一緒にムクムの実を発酵させて作られる。
ムクムの実に含まれるカフェインが強い眠気覚まし効果を発揮する。
ちょっと無理やり書いた感じなので、後で修正するかもです。
今は体力回復を優先して、じっくりと構想を練りたいですね・・・。