異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第121話  咎められる血

大陸中央部に進出を開始した日本は、ケーマニス王国と国交を結び街の発展を進める為に支援を始めたが、その矢先に人食い族と思われる者との遭遇、未知の甲獣の襲撃など様々なトラブルに見舞われた。

 

しかし、その際に人食い族の青年ダリウスを救助し、その礼に彼らトガビトの集落へ案内される事になった。

 

伝承のみに存在が確認されていた人食い族・・・・トガビト

 

使節団は、謎の多いトガビトとのファーストコンタクトに気を引き締めた。

 

大陸中央部は、沿岸部に比べて魔素が濃いのか草木が生い茂っており、生命力に満ち溢れた生態系が広がっている。

 

ダリウスの案内中にも度々、鎧虫の襲撃を受けているので、大型生物の生息密度も非常に高い物と思われる。

 

『この方向は・・・・大森林じゃないか!?トガビトの村は大森林の中にあるのか?』

 

『いや、大森林の中には入らない・・・が、ほぼ隣接しているな、岩山に阻まれてはいるが、魔獣や鎧虫も良く村の中に迷い込んでくる。』

 

装甲車の上に乗ったダリウスが答える。

 

『リクビトはこの周辺・・・鎧虫の生息地に滅多なことでは近づくことが無い、それ故に我らトガビトの村は今までその存在を隠すことが出来たのだ。』

 

『・・・とは言え、稀にトガビトと結ばれ帰化するリクビトも居たらしいがな、英雄たちと人食い族だけの血では濃くなりすぎる。』

 

『成程、完全に閉じた隠れ里という訳ではないと言う事か・・・。』

 

装甲車を運転する自衛官が呟く。

 

『大抵の場合は我々が人食い族だと知った瞬間、襲い掛かって来たり逃げ出したりする奴らばかりで、晩飯や塩漬け肉になる事が多いがな。』

 

麻袋から干し肉を取り出して齧りとるダリウス。

その様子に顔を顰める自衛官。

 

『ククク・・・これか?これは俺の祖父の肉だな、悪いが親族以外は口にして良い物ではないぞ?』

 

『いらん、俺達はトガビトではない、異国の文化に口出しするつもりは無いが、あまりそう言う物を見せびらかすんじゃない。』

 

若干不機嫌そうに答える自衛官。

 

『ふふっ、これは特別な出来事が起きた時しか口に出来ない物でな、我らトガビトが外部から人を招くことなど本来ならばあり得ないのだよ。』

 

『しかし、異国の文化には口出ししない・・・か、リクビトとは自分たちの文化や掟を力づくで従わせようとする連中だが、イクウビトはそうではないのか、興味深い価値観だ。』

 

『俺達が居た元の世界では、価値観と価値観のぶつかり合い、それが原因で大規模な戦争になった事があるんだ。たった数カ月で何万もの人命が失われる戦争・・・信じられるか?』

 

片眉を上げた後、考えるそぶりをした後ダリウスが答える。

 

『元居た世界・・・異界の民イクウビトか・・・その元居た世界とやらは、我らが経験した1000年前の大戦に匹敵する戦いがあったと言うのか?』

 

『恐らくそれ以上だろう、元々この星よりも人口は多かった。そして、戦いの末人類は禁忌と呼んでも差し支えの無い力を手にしてしまった。』

 

『禁忌?』

 

『過去に俺達の国に2発落とされた兵器だ。たった1発で巨大な火の玉を生み出し、12万人の人命が失われ、その土地が毒で汚染されると言う悪魔の様な力だ。』

 

『12万だと!?それが2発も?』

 

目線を合わせず運転しながら自衛官が答える。

 

『もうそれが使われる前から敗戦する事が確定していた。講和する前に俺達の国で実験したかったんだろうな。』

 

『・・・・異世界から来たと言ったな?もしや、お前たちの元の世界はその禁忌の力で既に滅びていて、それが原因でこの地にやって来たのではないだろうな?』

 

『いや、転移現象自体、我々にとっても未知の現象で天変地異だ。・・・ただ、何度かその禁忌の力で世界が滅びかけた事はある。』

 

俺達の国が消えてなくなった事で、元の世界の秩序も崩れ、その力が無秩序に振るわれているかもしれんがと自衛官は続けた。

 

ダリウスが唖然とした表情をしていると、装甲車の周りに無数の気配が近づいてきた。

 

『この気配・・・この魔力・・村の者だ。』

 

俺が出る。と、ダリウスは装甲車から飛び降り、角に魔力集めるとダリウスを中心に青白い光の波が広範囲に広がった。

 

『っ!?今のは?』

 

『合図の様なモノだ。リクビトには真似出来ない芸当だろう?』

 

ダリウスは自慢げな顔をしながら、簡単な事しか伝えられないがな。と続ける

 

次の瞬間、茂みから、木の上から、岩の斜面からトガビトと思われる影が、目にも止まらぬ素早さで現れあっという間に装甲車を包囲した。

 

『ダリウス!一体何だその鎧虫は!・・・その中に居るのはリクビトか!?』

 

『中々村に戻ってこないと思えば、誰だそいつらは?リクビトにそそのかされたのではあるまいな!?』

 

自衛官と、装甲車に乗っていた使節団が外に出ようと、ドアノブに手をかけるがダリウスが制止する。

 

『彼らは俺の命の恩人だ。俺の魔法が全く通用しない巨大な甲獣に襲われている所、彼らイクウビトが甲獣を倒してくれたんだ!』

 

装甲車を取り囲んでいたトガビトの表情に疑問が宿る。

 

『魔法が通用しない甲獣?イクウビトだと?一体何を言っている?』

 

『お前ほどの魔術の使い手が手も足も出ない甲獣など存在するのか?』

 

ダリウスが村のトガビト達に近づいて行く。

 

『あぁ、俺の魔法が凄まじい魔力の奔流でかき消され、刃もまるで通用しなかった。だが、奴は彼らが倒した。』

 

装甲車に目線を向けながら、イクウビトはその身に欠片も魔力を宿さないと言うのになと続ける。

 

『魔力を宿さない?何を言って・・・まさか、そんな・・。』

 

『魂の力・・・魔力を宿していないのか?だが、魔力無しが甲獣を倒すなど・・・。』

 

『彼らの故郷では、魔力と言う物自体が存在せず、魔法を使える物が一人もいないそうだ。俺を襲っていた甲獣の首を消し飛ばした力も魔法ではないそうだ。』

 

ダリウスの発言に驚き、動揺するトガビト達に装甲車を降りて来た使節団が話しかける。

 

『我々は、日本国から派遣された使節団です。大陸中央部の国々と国交を持つべく大森林の向こう側から訪れました。』

 

仕立てがよく飾り気の少ない服を着た男がトガビト達に頭を下げる。

 

『ニホン国?いや、イクウビトと言ったな?我らと一体何を交渉しようと言うのだ?』

 

『多くの国々と交流を持ち、互いの文化に触れあい、共に発展して行くために我が国は世界中に散らばり使節を向かわせているのです。』

 

『ダリウスと共に訪れたと言う事は、我々が人食い族の末裔であると言う事を知っての上だろうな?』

 

『えぇ、貴方達の存在は伝承として多くの国々に語り継がれていました。』

 

横から背の低いトガビトの少女が割り込み叫ぶ。

 

『ならばもう知っているだろう?リクビトや他の亜人共にとって我らトガビトは排除の対象!貴様らは国交を持つふりをして我らの里を襲うつもりだろう?』

 

『いいえ、そもそも我々日本人にとって1000年前の大戦自体無縁ですし、貴方達トガビトを襲う理由はありません。』

 

『信用できぬ!』

 

犬歯をむき出しに、トガビトの少女が腰に吊るした魔石に手を伸ばそうとするとダリウスが小さな衝撃波を放ち、魔石を弾き飛ばした。

 

『何のつもりだ!ダリウス!!』

 

『相変わらずの臆病者だなドーリスよ。それ程村の外の世界が恐ろしいのか?』

 

ドーリスと呼ばれた少女を他のトガビトが下がらせると、使節団の前に進み頭を下げた。

 

『・・・非礼を詫びよう。だが、我々だけではそなた達と交流するべきか決めかねる、村まで案内しよう。』

 

『えぇ、宜しくお願いします。』

 

トガビトに案内されながら徐行運転で進む装甲車。

やがて峡谷の奥の窪地に、木造建築の立ち並ぶトガビトの集落へと到着した。

 

「へぇー・・凄いですね。どこかトワビトの村を思い出します。」

 

「建築様式は若干異なるが、かなり近いな。先祖を共にするのも影響しているのだろう。」

 

自衛官が日本語で会話するが、近くで様子を見ていたトガビトには会話の内容が解らず不安そうな顔で、彼らを見張っていた。

 

「しかし、今まで草木が生い茂っていたが、ここに来てから急に視界が開けたな?」

 

「植物も大陸沿岸部みたいに細い木が多いです。」

 

はっとした表情で、バッグから機材を取り出すと、スイッチを入れ何かを計測し始めた。

 

「・・・・空気中の魔素濃度が、大陸沿岸部かそれよりも少ない・・・これは一体・・?」

 

「何だと?いや、だが周りに吊るされているランプは、魔石灯という奴だろう?つまりは魔石が多く手に入ると言う事だろうが・・・。」

 

自衛官が魔石灯を指さすと、近くで様子を見ていたダリウスが話しかけて来た。

 

『あれが気になるのか?』

 

『いや、魔石灯と言う奴だろう?』

 

何だ、知っているのか。とつまらなそうな表情をするダリウス。

 

『知っているのならば何が疑問だと言うのだ?』

 

『魔石があれだけ手に入ると言う事は、もっと此処周辺の魔力濃度が高い筈なんだが・・・。』

 

ダリウスが驚いた顔をすると、魔力を持たないのに何故分かったか聞いてきた。

自衛官は魔力検知器を取り出すと、ダリウスはますます驚きを深めた。

 

『それ程の魔道具を作り上げるとは・・・益々もって興味深い。村長を説得する必要が高まったな。』

 

『魔力が薄い理由はじきにわかる、それ、もう村長の屋敷の前だぞ?』

 

他のトガビトの家よりも一回り大きく、石材で補強された立派な建物の前に到着した施設と自衛官たちは、ダリウスに案内され屋敷へと入っていく。

 

 

『・・・そなた達が異界の民、イクウビトか、遠路はるばる良く来たな。』

 

鋭い眼光の銀髪の老人が、座椅子に座り胡坐をかいている。

年老いてはいるが、筋骨隆々とした体格と体中に古傷を持つその姿から異様な迫力を感じる。

 

『我が名はヴェルナー、トガビトを纏めし者だ。』

 

トガビトの村長の隣にいた少女が前に出た叫ぶ。

 

『我が名はドーリス!トガビトの戦士にして村長ヴェルナーの孫!』

 

ため息を付きながらダリウスが、お前は後ろに下がって居ろとドーリスの頭を鷲掴みにして後ろに下がらせる。

 

『そして改めて自己紹介を、トガビトの戦士長にして魔術長、ダリウスだ。』

 

自衛官と使節団は、ダリウスの肩書に驚き、ダリウスは愉快そうに笑う。

 

『・・・馬鹿孫の無礼を許して欲しい。確かダリウスから我らの歴史を既に聞いているそうだな?』

 

『えぇ、英雄たちと人食い族の末裔だとお聞きしております。』

 

『そうか、存知の通り、大陸中の国々を滅ぼし、飲み込み、世界を荒廃させた者達の子孫、それが我らトガビトである。』

 

『さて、あの大地が何故生命を宿さぬ不毛の地になったのか、何故魔力が消えてなくなったのか、それはリクビトや他の亜人が真似できない我ら特有の能力に由来するのだ。』

 

ダリウスが屋敷の棚から小さな木箱を取り出すと、ヴェルナー村長に手渡す。

木箱の中から、薄くぼんやり明滅する魔石の欠片の様な物が取り出された。

 

『・・・これは、我らトガビトの頭部に生えている角の欠片だ。あぁ、ある程度成長すると勝手に抜け落ちて生え変わるものなので安心して欲しい。』

 

ヴェルナー村長は手のひらに乗せた角の欠片を握り締めると、唸り声を上げながら魔力を集中する。額には血管が浮かび汗がしたたり落ちる。

 

握りこぶしの隙間からは、強い光が漏れており、自衛官と使節団はその光景に釘付けになる。

 

『ぬ・・・ぬぬぬ・・・ぬぁぁぁっ!!!っつぁぁぁぁっ!!!』

 

光が収まると、その手には大き目の魔石が握られていた。

 

『・・・ふ・・・ふふふっ、そう、周囲の魔力を集め、凝縮し、我らの角を核に魔石を合成することが出来るのだ。』

 

自衛官は唖然としているが、使節団の一人ははっとした表情で答えた。

 

『そ・・それでは大地から魔力が失われた原因は!』

 

『あの大戦で各地で侵略戦争を繰り広げていた我らの祖先は、戦場で大量の魔石を生み出し、その膨大な魔力で大陸の国々を圧倒していた。』

 

『通常ならば、魔石を使い切った後に魔石を構成していた魔力が霧散し、再び巡るのだが、その多くはあの大森林に集まり、大地に戻る魔力が減少してしまったのだ。』

 

『大森林と魔石合成能力・・・これらの要因が複雑に絡み合い、不毛の大地を作り出していたのですね・・・。』

 

難しそうな表情で俯く使節団の一人。

 

『その合成した魔石からは強い魔力反応が出ておりますが、もしや相当な濃度なのでは・・・?』

 

ヴェルナー村長が合成した魔石をダリウスに渡すと、ダリウスは魔力検知器を持つ自衛官へと近づいていく。

 

『やはり・・・恐らくマテリアル企業の人工魔石ほどでも無いが、自然界には滅多に存在しない濃度だ。これ程のものを生物が機材を使わず合成できるなんて・・・・。』

 

『流石にこれ程の塊を丸ごと使う事は無いぞ?これを砕いて小分けにして使うんだ。』

 

ダリウスが魔石を片手で弄びながら答える。

 

『そうだ、お前たちの鎧虫の角を切断した光の刃だが、あれもこの魔石の欠片を使用した物だ。』

 

使節団と自衛官は目を見開く。

 

『恐らくお前達も知っている事だろうが、魔力には空間を歪ませる力がある。それを利用して空間自体をほんの僅かにずらす事で、分厚い城門や岩の塊を切断することが出来るのだ・・・・つまり』

 

自衛官が割って入る。

 

『・・・つまり、空間そのものに作用する為に、どれだけ頑丈でも意味がないと言う事ですね?』

 

使節団の中でショートレンジワープだの次元切断だの小声で喋る者が居たが、日本語での会話なのでトガビトには伝わっていない。

 

『あぁ、あの光の刃は時間差で到達する2枚の刃で構成されており、空間をずらす魔法と空間を固定する魔法を薄い光の剃り刀とし、着弾個所をごく僅かに浮かせて固定する仕組みなのだ。』

 

(・・・ライフル砲の砲身が切り落とされる訳だ。戦車の防御力もこれでは意味がない・・・。)

 

トガビトの・・・そして魔素の脅威を改めて認識した日本の使節団の面々は、これらの情報を必ず日本へ伝えようと心に決めた。

 

『・・・そう言えば、ダリウス殿と交戦した自衛官の話では、時々姿が消えていたそうですが、それもその魔法の応用でしょうか?』

 

ダリウスとヴェルナー村長が驚いた顔をすると、ダリウスが答える。

 

『流石に頭の回転が速いな、そうだ、全身の魔力と魔石を同調させ、自分の体ごと空間を転移させることが出来るのだ。短距離だがな』

 

腕をまくったダリウスは、体中に複雑な魔力回路を浮かび上がらせる。

 

『まぁ、流石に屋敷の中を散らかす訳には行かないので今ここで使わんが、ある程度魔術に精通したトガビトならば使えるだろう。だが、全員使える訳でもないぞ?』

 

チラリと、ドーリスを押し込んだ隣の部屋に目線を向けると、ふくれっ面で彼女はダリウスを睨めつけていた。

 

『ま・・・まぁ、これは下手すると四肢を切断する様な事故につながる事になるので、使える者は腕の立つトガビトの戦士と見て良いだろう。』

 

 

使節団のどちらかと言うとSFに詳しい者が声を抑えてひそひそ話をする。

 

「聞いたか?空間転移能力だぞ?それもあの濃度とコンパクトさだ。」

 

「あぁ、あれなら人工魔石の方が濃度が高い。もしこの技術を応用できれば、日本は大きく発展する。」

 

「新たな加工技術、交通、医療技術など応用できない物を探す方が難しい、例えば脳などの重要器官を傷つけずに腫瘍のみを空間移動させ摘出する事も可能となるだろう。」

 

彼らの中では、何としてでもトガビトとの交流を結ぶべきと言う決心がより強固になっていた。

 

ヴェルナー村長は咳ばらいをすると、視線が村長に集中する。

 

『話がそれてしまったな、そう、大地から魔力が失われた原因である我らは、これ以上大地から魔力が失われない様に、この隠れ里に住まう事にしたのだ。』

 

『人を食らい続ける事によって変異したこの肉体は、どちらかと言うと肉食の動物に近いものになっており、主な食糧は大森林に生息する鎧虫や魔獣の肉であり、その攻撃性からこれ以上集落を広げない様に、村の家屋の建築は厳重に管理されている。』

 

『特に、同族やリクビトに対する攻撃性が高く本能的に彼らの肉を求めてしまうのだ。』

 

ヴェルナー村長は何処か哀愁の漂った表情で俯く

 

『どこまで行っても我らは人食いの咎を背負わねばならない、ならば村の外の世界への干渉は極力抑え、見つからぬよう外の世界の情勢を注意深く観察し、リクビトが村へ侵入しない様にしなければならない。』

 

『村の外で活動する者には2つの任務が存在する。リクビトや他の亜人達の国の情勢の調査と、大森林の地から集めた魔力で合成した魔石の拡散だ。ダリウスや他の腕の立つ戦士がその任を引き受ける。』

 

『魔石の拡散・・・・ですか?』

 

使節団の若い男性が質問する。

 

『あぁ、少しずつだが大陸中の魔力が一か所に集まった大森林から魔力を抽出し、魔石を合成し、それを砕いた粉末を荒れ地にばら撒いている。』

 

切っ掛けはある戦士がリクビト領内を調査する遠征任務中に、自衛用の魔石片を紛失し、彼らリクビトに発見される前に落とした魔石の捜索をしていた時に、青々と茂る草木の中心部に落とした魔石を発見した事であった。

 

元々その地は、荒れ地であり、魔力の濃度も薄く茶色く変色した草木が地面にへばりつくように生えているだけなのだが、魔石片を落としてたった数日でその周辺の植生に影響を及ぼしていた。

 

『・・・・大陸から魔力を失わせ、荒野の大地を作り出してしまったその罪滅ぼしが出来ると思った。世界に魔力が戻れば紺碧の大地アルクスは再び現れるそう信じておるのだ。』

 

使節団の若い男性が、アタッシュケースを取り出すと、屋敷の床に置きトガビト達の向きに中身が見える様に開いた。

 

『元々交渉の為に用意した物ですが、これは我が国近海の海底火山から抽出し合成した魔石です。』

 

美しく六角形にカットされた人工魔石にヴェルナー村長とダリウスは目が釘付けになる。

 

『この魔石は魔力濃度が高すぎるので、一般的なアルクシアン・・・いえリクビトには被曝の危険性があるのですが、自分の力でそれ程の魔石を合成できるなら強力な魔力波に耐性がある筈です。』

 

『本来魔道具の動力源としての用途ですが、もし貴方達がこれを必要とするのならば我が国には交渉の準備が出来ております。』

 

ヴェルナー村長が思わず唸る。

 

『お・・・お・・お・・・何という眩い魔力の光・・・。』

 

ダリウスが何だこの濃度は、と驚く。

 

『この魔石をそちらに提供する代わりに、ダリウス殿が我々に見せた魔法技術を我々に公開できませんか?日本国、トガビトともに利益がある事です。悪い話ではないと思いますが?』

 

ヴェルナー村長は手渡された人工魔石を眺め、太陽に透かして色合いを確かめる。

 

『ふ・・ふふ・・いいだろう、イクウビトよ、我らトガビトは貴国との国交に前向きな検討をしよう。』

 

『本当ですか!?』

 

『それと・・・・お主らニホンだったか、これ程のものを生み出す貴国に頼みがある。』

 

『・・・何でしょうか?』

 

『魔力の失われた大地の生命を取り戻してくれないか?』

 

使節団は顔を見合わせる。

 

『それは、貴方と同じように魔石の粉末を散布すると言う事でしょうか?』

 

『そうだ、数の少ない我らだけでは大地に生命を宿すのに何世代かかるか想像もつかぬ。罪滅ぼしの協力を仰ぐなど格好がつかぬが、紺碧の大地を蘇らせるのにそなた達の力が必要だ。』

 

ヴェルナー村長は、真摯な思いで使節団と自衛官たちの面々に一人一人目を合わせて頭を下げる。

 

『魔力の失われた大地の再生・・・それは、我が国でも慎重に調査と研究が進められております。勿論、前向きに検討させてもらいますよ!』

 

ヴェルナー村長とダリウスの顔に喜色が浮かぶ。隣の部屋に押し込められていたドーリスは複雑な表情でその様子を見ていた。

 

 

(・・・・イクウビト・・・外の世界との繋がり・・・うぅ・・・本当に信用できると言うのか?・・・父上、母上・・・。)




夏休みですー・・・まぁ、たった数日ですけど。
寝る事がこんなに幸せなんて思っていなかった・・・・やはり、日々蓄積しているんでしょうね。疲労

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