異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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大分前の投稿から間隔が開いてしまいました。
うーん、ちょっと夏バテ気味です。


第117話  大森林の向こう側

異次元の惑星アルクスの軌道上を周回する人工衛星ひすい1号。

魔石機関を搭載する事で、従来の衛星よりも稼働時間が理論上では伸びるとされる実験機でもある。

ひすい1号は、のちに打ち上げられた2~5号と連携して、惑星アルクスの地形を電子の目を持って調査する任務を持っていた。

 

現在日本が主に開発を進めている大陸沿岸部から、大森林と切り立った山脈に阻まれている大陸中央部へと高空から眺め続ける彼らは、無数の集落の存在を確認していた。

 

 

大陸中央部への道は、大森林や山脈を突破する必要は無く、海から迂回することで行く事も可能だが、この世界の航海技術では海流が不安定な荒れた海では耐えきれず、沈没してしまう事が殆どで、滅多なことでは大陸中央部の人間が沿岸部に訪れることは無い。

 

しかし、時折それらしき異国人が流れ着く事もあり、大陸中央部の文明の存在を沿岸部の国々は朧気ながら認識している様だ。

 

大陸沿岸部の開拓を進める日本は、それ以外の地域への調査隊の派遣は小規模に収まっており、ここ最近になってやっと一段落付いた日本は、大陸沿岸部から大陸中央部へと目線を移し始め、それなりの規模を持つ国家と接触を持つべく大規模な調査隊を派遣する事にした。

 

 

「これだけの規模の船団が動くのは転移したばかりの頃以来じゃないか?」

 

「あぁ、大陸に上陸したばかりの頃か、懐かしいな。」

 

「この世界の文明と接触する最初期に悲劇は起きたが、次は二の轍を踏む訳には行かない。」

 

「あれは今から見ても迂闊すぎだったな。」

 

「今回は、既に調査隊や偵察衛星によってある程度向こうの調査も進んでいるから、何とかなるだろうが、慎重になる事に越したことは無い。」

 

「地球でもそうだが、まずは相手に舐められないようにしなければならない、野蛮に映るかもしれんが、多少派手に動くべきだろう。」

 

 

惑星アルクスの文明では、荒れた海で沈没してしまい渡る事の出来ない海域でも、日本の荒波も航行できる鉄の船団は鋭い刃の如く海を裂き、風向きに関係なく目的地に向かって進み続ける。

 

小規模ながら調査が進められていたおかげで、比較的安全な航行ルートが確認されていたので暗礁に乗り上げる事も、危険な海洋生物の襲撃を受ける事も無く、予定通りに大陸中央部へと向かうことが出来た。

 

 

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大森林と山脈に近い位置にある大陸中央部の国、ケーマニス王国。

立地の関係上、大森林から迷い込んできた魔獣や鎧虫の襲撃を受ける事が多く、その周辺国も好戦的であり、資源豊かではあるが悩みの種を多く抱え込んでいた。

 

時折大森林から溢れ出てくる鎧虫の群れを迎撃する為に兵士の練度は高く、魔物の生息地が近いことも影響して周辺国も手を出しにくいので、大規模な衝突は避けられていた。

 

『ミヤモト殿、本当にあの荒れた海をそちらの船団は超えて来れるのか?』

 

ケーマニス王国の港町を収める領主が、双眼鏡で海を眺める男に話しかける。

 

『我が国の海は、あの海と同じくらい荒れる事がよくあります。この街にも問題なく来ることが出来ますよ。』

 

港町の領主は、顎に手を当てて唸る。

 

ケーマニス王国の民族衣装を着てはいるが、黄色い肌と全く魔力を持たない謎の種族であり、明らかに異民族である。この異国の商人は、その高い知性と立ち振る舞いから高貴な身分であると確信している。

彼らの祖国から持ち込んだと言う見事な工芸品をこの街に齎し、それが切っ掛けで交流を持つに至ったが、まさか彼らの祖国と直接国交を結ぶ事になるとは・・・。

 

『ミヤモト殿、貴殿がこの国に持ち込んだ品々は首都でも話題になっており、国王陛下も貴国との国交に強い関心を持っている。あの荒れた海を越えられる事を祈っておるよ。』

 

『えぇ、我が国としても大森林の向こう側にある国と交流出来るようになりたいですね。』

 

大森林の向こう側・・・ごくわずかにこちら側に迷い込む者が居るので、その存在自体は薄らと影が見えていたが、まさかこれ程の工芸品を生み出す国が存在しているとは!しかも、あの荒れた海を越えることが出来ると言う。

 

今まで大森林に阻まれていて、その向こう側の開拓が出来ないでいたが、むしろ大森林に阻まれていたおかげで命拾いをしていたのかもしれない。

もしかしたら、大森林と山脈に阻まれていなければ、そのまま向こう側の国々に飲み込まれていた可能性すらあったのだから・・・。

 

『予定ではもうそろそろ見えてくる筈なのですが・・・・あっ!?』

 

まだ薄暗いが、日が昇るにつれてキラキラと陽光を反射させ明るくなりはじめた頃、水平線に小さな影が映った。

 

『来ましたね。此処まで来ればもう直ぐでしょう。』

 

『?・・・どこだ?』

 

『ほらあそこ・・・あぁ、そうか、これを覗いてみてください!』

 

双眼鏡を港町の領主に渡すと、見よう見まねで双眼鏡に目を当てて水平線を眺める。

 

『おぉ、良く見えるぞ・・・・?何か見えるな?あれが船か?』

 

(何と小さな、まるで豆粒の様だ・・・明るくなっているがまだその姿ははっきり判らない・・・いや、まて・・・。)

 

思わず双眼鏡から目を離すと、今度は肉眼で水平線を眺める。

 

『まてよ?この距離で船が見える?』

 

再び双眼鏡を覗くと、先ほどよりも影は大きくなってきており、後続の船も薄らと確認できる。日が昇るにつれ船の全容が浮かび上がり、次第に領主の顔は唖然とした顔になって行く。

 

『な・・・なっ・・・なっ・・・なっ・・・・!!?』

 

遂には双眼鏡を降ろして、顔をこわばらせて体を細かく振るわせる。

 

街の住民たちも、海の向こうを指さし、寝ているものを叩き起こし騒ぎ始める。

 

 

島が動いている。

 

誰かが聞いていれば馬鹿にされただろうが、これを適切に表現できるものはそれだけであった。

 

『あ・・あっ・・・あっあっ、あれが船だと!?何と巨大な!まるで動く島ではないか!!』

 

『えぇ、そうです。我が国が誇るある種の輸送船です。』

 

未だにこの光景が信じられない様子の領主を見ながら話を続ける。

 

『先にお話しした通り、海と砂浜を走る乗り物を上陸させて積み荷を降ろさせていただきます。』

 

『ぬ・・・ぬぬぬぬ・・・何故直接船で乗り付けないか疑問であったが、こういう事だったのか・・・。』

 

間違いなく座礁する。

それどころかあんな巨体では港町ごと押し潰されてしまうかもしれない。

 

『!?』

 

巨大な船の船尾が開き、中から船の様なものが出てくる。

何とも形容しがたい形をしており、凄まじい水飛沫を上げながら海面を滑る様に進んでいく。

 

『船の中から船が・・な、なんだあの速度は!?』

 

港町の住民たちは海を滑る謎の物体に混乱状態に陥っていた。

予め領主から指示を受けていた兵士たちは、パニックを抑えようとするが、その兵士すらも海上から砂浜に乗り上げるLCACの姿に言葉を失い硬直する者も居た。

 

『船の中から船が出て来たと思えば、異形の鎧虫を乗せているとは・・・貴国は・・・一体・・・。』

 

『前にもお伝えしましたが・・・この世界とは違う世界からやって来た国、日本国です。』

 

『そうだった、ニーポーン・・・国・・・ニス・・・・ニーポニスか・・・。』

 

 

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それから数週間後、港町の領主との会談を行った後、使節団はケーマニス王国首都へと向かった。

 

無数の戦闘車両と共に・・・。

 

 

「幾ら何でもこれは威圧的過ぎんかね?」

 

「ゴルグの件もあるだろう?流石にあれ程野蛮ではないと思いたいが、チラリとでも力は見せつけておかねばならんのさ。」

 

「護衛もつけず、丸腰でゴルグに交渉しに行った使節団の事だろ?ウミビトから言葉を教えてもらったばかりなのに、ウミビトの警告を無視して話せばわかると赴いたお花畑は流石にもう居ないと思うが・・・・。」

 

「不謹慎だぞ、言いたい事は分かるが・・・。」

 

「魔力無しって言うのもリクビトを始めとしたアルクス人に見くびられる要素なんだ、だから示威しなければ最悪ゴルグの事件の再来だ。」

 

バタバタと空気を叩く音が上空を通過する。

 

「頼むからうまくやってくれよ・・・。」

 

 

ケーマニス王国は、事前に話を通していたにもかかわらず、無数の鎧虫の軍団に蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

島の様に巨大な船が現れ、そこから見た事も無い大きさの鎧虫が降ろされ、骨の様な羽虫が人を乗せて空を飛ぶ、彼らの常識からしてみればあり得ない話であり、港町の領主も冗談を言うようになったのかと呆れれていたのだが、実際に王都からでも見える位置に鎧虫が整列していれば嫌でも理解できる。

 

港町の領主が言っていた事は本当の事であったのだと。

 

『何という事だ・・・・。』

 

本日何回同じ言葉をつぶやいたのであろうか、国王は監視塔から斑模様の軍団を自分の目で見た時に、事の重大性を理解し、少し前まで港町の領主の冗談だと軽く見ていた事を後悔していた。

 

『彼らは本当に我が国と友好的な関係を築きたいのだろうか?』

 

『陛下・・・。』

 

『あれ程巨大な鎧虫に暴れられては、どれほどの被害が起きるか予想もつかん。彼らの言う友好とは属国になれと言う事ではないのだろうか・・?』

 

『そうで無いと信じたい所ですが、態々王都の前で陣を構えるのです。覚悟を決めるべきでしょう。』

 

『ニーポニスと言う国の者達が、角と牙が生えていて背中に翼を持っていても驚かぬぞ?何せ使節団自体は空から王都にやって来るらしいではないか?』

 

『いえ、話によると空を飛ぶ乗り物があるとの事ですが・・・まさか・・・?』

 

『・・・・何の音だ?これは・・・。』

 

空気を叩くような音が城の外壁を通して響いてくる。

奇妙な音に耳を傾けながら、バルコニーに出ると異形の羽虫がこちら側に向かって飛んでくる姿が見えた。

 

『な・・・よ・・・鎧虫に続き羽虫だと!?それも何と言う大きさ・・・。』

 

『中庭の広場に着地するみたいですね・・・気を引き締めていきましょう。』

 

 

巨大な羽虫から降りて来たのは、護衛と思われる奇妙な模様の服を着た兵士と、仕立ては良いが黒く飾り気のない服の男であった。

 

『朗報ですね、角も牙も翼もありませんよ?』

 

『全く持って何の慰めにもならんな。』

 

 

それから会談は長く続き、日本と言う国がどのような国なのかを説明する動画や、彼らが持ち込んだ品々に圧倒され、日本国が好戦的でない事に胸をなでおろし、資源を輸出する代わりに日本の工芸品を輸入する事で話はまとまる事になる。

 

 

『まさかあれ程とは、今日ほど驚きを覚えた事は、もうこの人生で二度とおこらないだろう。』

 

『全くです。』

 

『しかし、イクウビトか・・・本当に魔力を一切宿さないとは・・・・。』

 

『人食い族とは関係ないのでしょうか?』

 

『馬鹿を申すでない、イクウビトと人食い族は正反対であるぞ?あれは魔力の化身、魔力の権化、魔力無しとは全く違う存在だ。』

 

『そう・・・ですね。』

 

『1000年前、我らが祖先が戦火から逃れてこの地に定住し、突如出現した大森林に阻まれ向こう側に戻る事が出来なくなったと伝わるが・・・・。』

 

『・・・できれば、人食い族がこちらを追ってくる前に森が出来て欲しかったものですね・・・。』

 

 

 

 

日本は大陸中央部の国の一つに接触し、国交を持つことに成功するが、彼らの持ち帰った情報は驚愕の内容が含まれていた。

 

人食い族の生き残りらしき者達が、大陸中央部に存在する可能性を・・・・。




きみはいま! たいりくちゅうおうぶ への だいいっぽを ふみだした!
みたいな感じです。タウンマップで確認したら違う地図になっているかもですねw

惑星アルクスの地図は、大雑把にしか決めていないので、意図的に曖昧な表現をしております。

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