異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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前回の投稿から大分時間がかかりました・・・。
なんとか時間を見つけて、進めていきたい所ですね。


第116話  群人・ムレビト

何処までも奥深く続いている様に思える密林地帯。

赤道に近く水源にも恵まれているために、多くの動植物の楽園となっており、魔素が失われた大陸の中でも珍しく生命に満ち溢れた場所である。

 

密林の奥深くにある洞窟とその奥に存在するヘビビトの集落が発見された頃、民間企業によって切り開かれた開拓拠点に異変が起きていた。

 

 

「なぁ、ここ最近なんか誰かに見られている気がするんだが、お前はどう思う?」

 

「いや、特には・・・また腹をすかせた魔獣がうろついているんじゃないか?」

 

「猟師が常に待機しているとはいえ、たまに何処から入り込んだのかイノシシモドキが生ごみ漁っている事があるんだよなぁ・・・なんにせよ、ばったり遭遇したくはねーな。」

 

「そう言えば、昨日猟師さんから巨大バッタの燻製貰ったんだけど食ってみるか?意外と悪く無いぞ?」

 

「ば・・・バッタって・・・」

 

「味を例えるならまぁ、海産物・・・かな?まぁ、後で酒の摘みに持ってくるよ。」

 

 

日が傾き夕焼けになりつつある頃、密林の奥にある小高い丘に生える木の上から開拓団の拠点を見つめる者たちが居た。

 

『テポ、ぴかぴか、何だった?』

 

『たぶん、リクビト!森の外から来た!』

 

『テポ、どうする?ペペ、不安』

 

『ペペ、落ち込む、良くない。テポ、リクビト、初めて見る。』

 

小柄な人影が二つ、しかし彼らは全身が体毛に覆われており、まるで二足歩行する獣の様な姿であった。

 

『明日、リクビトの村、見に行く!』

 

『テポ、流石に危ない、むらおさ、相談する。』

 

『ペペ、勿論相談する、明日、みんなと一緒、リクビト、会いに行く。』

 

 

彼らはムレビト、個体数を増やすことに特化したアルクシアン、多産多死を生存戦略に選んだ亜人である。

リクビトと祖先を共にするが、類人猿の段階で分化したので、他の亜人と比べて遺伝的に離れており、辛うじて生殖能力を持たない一代限りのリクビト交雑種が生まれたケースが過去に存在する。(地球でいう所のライガーやタイゴンに当たる)

 

 

翌日、トーラピリア・日本合同の開拓拠点は、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

拠点周辺に設置されたセンサーに無数の反応があり、二足歩行する獣の様な人間の様な生物に包囲されていたのである。

 

「な・・・何なんだこいつ等は!?」

 

「くそっ、朝っぱらから何でこんな事に!」

 

「警備の奴らは一体何をしていたんだ!?」

 

「見ろ!奴ら、武装しているぞ!雑な作りながら槍らしきものも見える。」

 

周辺を警戒していた猟師は、交代時間まで仮眠している仲間を叩き起こし、トーラピリアから派遣されていた騎士団は、鎧を着込んで拠点の出入り口を封鎖する。

 

そして、開拓拠点から少し離れた場所からその様子を見ていた獣人達は、顔を見合わせて、武装を解いて使節を寄こすか話し合いをし始めた。

 

『テポ、リクビト、怖がっている。』

 

『ペペ、逆になって考える、リクビト、怖い顔、集まる、やっぱりやだ?』

 

『怖いの、やだ!ペペ、逃げる!』

 

『むらおさぁ、これ、絶対、悪手。』

 

『むむぅ、しかし一応警戒じゃ、戦士は最低一人、つける、これ決まり!』

 

『おおおーーーーーっ!!』

 

彼らは、ムレビト村の中でも聡明な者と若く勇猛な戦士を選び、少人数で開拓拠点へと赴いた。

 

開拓拠点を包囲していた獣人の中から、これと言って武装らしきものをしていない者達が近づいてきたことで、多少警戒心は和らいだものの、開拓拠点の門の前に立ち止まり緊張が高まる。

 

「い・・・一体何者だ!?」

 

『あー・・・テポ・こんテ・あすマだ!』

 

『ペコ=ランテ!ムらぉさーだ!』

 

『ペペ!ペペ!うぉリア!スぴらーダ!』

 

 

密林の奥にひっそりと独自の文明を開いていたからか、大陸共通語が通じず、双方首を傾げ困惑する。

 

「・・・・なんて言ったかわかるか?」

 

「わからん、少なくとも大陸共通語ではないな・・・。」

 

「でも、悪意は無さそうだな?まさか、こんな密林の奥で未知の種族の原住民に遭遇するとは・・・。」

 

 

『ペペ、言葉、わかるか?テポ、わからない。』

 

『ペペ、分からない、ペペ戦士、槍の扱い、自信ある、でも、リクビト語、さっぱり。』

 

『ほわぁほわぁ、ワシ、たぶんヘビビト語、似ている、分かる。』

 

『おおーーーーっ!!流石、むらおさ!ペコ=ランテ!名前長い!頭違う!!』

 

『流石ワシ!流石ペコ=ランテ!交渉は任せるのじゃ!!』

 

『おおーーーーっ!むらおさー!!』

 

他の獣人よりも老けた様に見える者が、一人開拓拠点の門に近づいて行き、木の枝(実は杖)でトントンと地面を叩き、口を開く。

 

『あーーー・・・ワシは、ペコ=ランテ、むりゃーダ・・・みぇ・・・ムレビトの村を収める、村長じゃ!』

 

「ウミビト訛りの大陸共通語?何でこんな密林で・・・いや、言葉が判るのか?」

 

「俺に任せろ、お前はあの連中に警戒していてくれ。」

 

ウミビトの鱗が縫い込まれたワッペンを付けた者が、ムレビトの使節団の前に近づく。

 

『あー・・・我々は、トーラピリア・日本合同の開拓団です。貴方達は、この周辺に住む方々でしょうか?』

 

『トーラピリア?ニホン?ワシは知らんぞ?リクビト、ヘビビト!言葉近い!すごい!』

 

(大丈夫か?この爺さん・・・。)

 

『リクビト!此処に住むのか?ワシら!近くに住んでいる!仲間になるか?』

 

『えっと・・・つまりは貴方達は使節団と言う事でよろしいですか?ムレビトと言う人々とは初めて出会いますね・・・。』

 

『この森!ムレビト!ヘビビト!住んでいる森!仲良し!ワシら、布作る!ヘビビト!鎧虫狩る!仲間!!』

 

(単語がつぎはぎで、断片的にしか解らん・・・でも、聞く限りだと彼らムレビト以外にヘビビトと言う種族が住んでいるらしいな・・・?)

 

『あーー・・・我々日本人はこの世界でイクウビトと呼ばれていまして、リクビトとは違う種族なのです。』

 

『イクウビト?ニホン?じゃぁトーラ・・ぴりゃ?ら?リクビト?』

 

『えぇ、トーラピリアの方々はリクビトですね。』

 

ムレビトの村長は、目を見開くと万歳ポーズで飛び跳ね、それは後ろにいるムレビト達にも伝搬し、全員喜びの表情で飛び跳ね始める。

 

『素晴らしい!仲間!仲間達!リクビト!イクウビト!仲間!上手くいく!仲間になる!上手くいく!』

 

ムレビトのハイテンションぶりに開拓団は困惑し、どうすれば良いのか判断できずにいた。

 

『えぇと・・・もちろん我々も貴方達と仲良く出来れば良いと考えておりますが、これからどの様にお付き合いをするのか決めませんと・・・。』

 

『仲間になってくれるのかー?いいぞぉ!いいーぞぉ!流石ワシ!ペコ=ランテ天才!』

 

(この妙なテンションには慣れないな・・・・。)

 

その後、ムレビトとの奇妙な交渉は続くが、彼らはトーラピリア・日本合同開拓団の用意した宝石や貴金属にはあまり興味を示せず。かと言って好奇心旺盛な彼らは、開拓団の持つあらゆる物品に対して質問攻めをするので、何を交渉材料にするか困り果てていた。

 

しかし、開拓団の一人が何気なく彼らに渡したものが思わぬ興味を引き、ムレビト達に群がられる羽目になった。

 

『アキヒコー!!あめだま!もっとくれ!』

 

『あめだま!あめだま!』

 

『ユーキ!ラムネ!甘い白い粒!もっと!もっと!』

 

お八つを与えられた小学生に懐かれたような光景だが、彼らムレビトは、この様な言動でも既に成人済みであり、知能は小中学生程度に留まる。

 

しかし、手先は器用で布や磨製石器・荒い作りの青銅器までも作り出す事が出来る者も居るのだ。

 

価値観は一般的なアルクシアンとは大きく離れているが、美味な食事を報酬に開拓団の手伝いをする奇妙な共生関係を築く事に成功するのであった。

 

特に、携帯性に優れた食品が需要が高く、飴玉やチョコレート、握り飯やサンドイッチなどが通貨価値を持つほどになっていた。

 

 

『ん?テポさんどうしたの?』

 

『テポ、村に帰った、あめだま、友達あげた。』

 

『ふむふむ・・・。』

 

『でも、あめだま、手元に無くなった、不思議!』

 

『友達にあげたからでしょ?私はもう持っていないよ?』

 

『ユーキのけち!!』

 

 

後に、洞窟を調査していた隊と合流し、ムレビトとヘビビトを発見した開拓団は、密林を切り開く今の方針を部分的に改めて、彼らと共存できる方向へと進路を変えるのであった。

 

そして、いつかは彼等もまた、日本の領域に訪れる事になる・・・。

 




所謂、ゴブリンさんに当たる種族ですね。でもFF8のムンバをベースにFFTのゴブリンを混ぜて何かの動物と割った感じの姿をイメージしていますので、一般ファンタジーのゴブリンとは大きく外見が違うと思います。

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