異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第101話  崩落の流星群

峡谷の間に建設された巨大な砦と、その巨大さに見合った石の扉、その奥に広がる城塞都市がザーコリアの首都である。

 

活気のある市場は、ごく最近遠方の国から齎された高品質の宝飾品や食器などが出回り、富裕層だけでなく中流層にも行き渡っていた。

 

『ほうほう、これは中々良い品だ。一体何処から仕入れたのですか?』

 

『あぁ、何でもコイツは貴族の館に忍び込んだコソ泥が捕まって、押収された物らしいけど、盗まれた物など汚らわしい!と貴族がお得意先の商人たちに売り払って、ここまで流れて来たんだとさ』

 

『それはまた、いわくつきの品ですな・・・。』

 

『で、犯人のコソ泥は裁かれて牢屋に繋がれて、裁かれた時に落ちたアレは向こうの生薬店で干されているんだとよ。』

 

『ここ最近は、蛮族狩りが行われていないから品不足だったのですよねぇ・・・。』

 

『かっかっかっ!我々の技術を盗むしかできないコソ泥どもは乾物にでもなっていれば良いのだ!』

 

『そう言えば、また討族隊が出陣されたとか?』

 

『あぁ、詳しい事は知らんが、どうやらまた我らに楯突いた愚かな国が現れたらしい』

 

『そうですか、これで我が国の威光もまた大きく広がる事でしょう。』

 

 

突如、擦れた音共に石の扉が開き、ボロボロになった兵士達がフラフラと戻って来る。

 

『なっ?』

 

『あれは一体どういう事でしょうか?』

 

兵士の顔には疲労と何かに恐れるような表情が現れており、城門を開けるために縄を引いていた奴隷に八つ当たりか、棍棒をわき腹に叩き付ける者も居た。

 

気力を振り絞る様に、王城へと向かう兵士の列をザーコリアの住民たちは呆然と眺めていた。

 

 

それから数日後、ザーコリアは厳戒態勢へと移った。

城塞都市の前に、異形の鎧虫の群れが現れたのだ。

 

『アーッ・・・アーッ・・・我々は、日本国自衛隊である!ザーコリアは包囲されている!無駄な抵抗はよせ!我らに投降せよ!繰り返す、無駄な抵抗は止めて我らに投降せよ!!』

 

 

『コレデー・トーコー・シタ・タメシ・ナーヨーナー・・・』

 

『シカタ・ナイー・ダ・ロー・キマリ・ナー・ダカラー!』

 

 

日本ゴルグ自治区へ向かう先遣隊を撃退し、グローバルホークによる偵察後、速やかにザーコリアの城塞都市を制圧する為に補給を終えた自衛隊は、彼らの本拠地の目の前まで進軍していた。

 

『い・・一体何が起こっている!?それに、あの空を飛ぶ不気味な羽虫は何なのだ!?』

 

『ニッパニアです!ニッパニアが攻めて来ました!!』

 

『ニッパニアだと!?魔力が使えぬ蛮族ではなかったのか?何だあの不自然な大声は!?まさか、魔道具で拡張しているとでも言うのか?』

 

『そんな魔法聞いた事も無いぞ?・・な・・・何にせよ、あの蠅を撃ち落とさなければっ!』

 

城門上部に取り付けられた投石器から岩礫が、ヘリに向かって放たれる。

当然ながら飛距離が足りず明後日の方向へ飛んで行き、岩が砕け散る音だけが空しく響き渡る。

 

 

「---・・・---・・・敵の攻撃を確認、繰り返す敵から攻撃を受けた。敵攻撃意思あり、反撃せよ。」

 

 

自衛隊への攻撃を皮切りに、ザーコリアを包囲していた鋼鉄の獣が黒煙を吐きながら唸り声を上げる。

 

砲身が動き照準をザーコリアの城門に向けて、狙いを定める。

 

「っっってぇぇっ!!!」

 

90式戦車の砲口から赤々とした炎が噴き出し、多目的対戦車榴弾が放たれ、吸い込まれるように複数の砲弾が城門に着弾する。

 

 

ザーコリア軍は、城塞都市を囲む鎧虫の群れを迎え撃つために城門前の広場に集結していた。

 

歴戦の戦士たちが、長槍と大盾を振り上げ、闘争心を高めるために雄叫びを上げる。

鞭に打たれながら奴隷が城門を開くために縄を握ろうとすると、突如轟音と共に石の扉が砕け散り、城門の裏側で待機していた兵士や奴隷が散弾の様に降り注いだ破片に体を引き裂かれ絶命する。

 

 

『うぎゃぁぁぁぁぁ!!』

 

『ひぇぇっ何なんだぁぁぁっ!?』

 

目の前で仲間たちが一瞬にして肉塊に変わり、跡形もなく吹き飛ばされた堅牢な筈の城壁がぽっかりと大穴を開けている。

 

すっかり風通しが良くなってしまったザーコリアの城壁は土煙が晴れるにつれ、その凄惨な姿が明らかになって行く。

 

『ば・・馬鹿な!あれだけ分厚い城壁が一撃で粉砕されるだと!?』

 

『そんな馬鹿な・・・。』

 

正確には複数の90式戦車から一斉に放たれた砲弾によって吹き飛ばされたのだが、正確で精密な一斉砲撃により音が一発しか聞こえなかったのだ。

 

『お・・・おのれぇぇぇ!蛮族が我らの誇りに土を付けてくれたなぁァ!!!』

 

『あれ程の大魔術だ、そうは連発できまい!』

 

『魔力無しめ!魔力が無いからと言って盗んだ魔道具に頼りおったな!!』

 

『その皮剥いでくれるわぁぁ!!』

 

目の前で起こった破壊から目を背ける様に、現実逃避するようにやけくそ気味に隊列を組まず自衛隊に向かってザーコリア軍が突撃する。

 

それは戦術も何も無い無秩序な突撃であり物量攻撃であった。

 

凶器を持った暴徒でしかない彼らは、機銃掃射によって次々と打ち倒されて行く。

 

時折戦列を貫き後方に火柱を上げる90式の砲撃と空から降り注ぐ迫撃砲によって撤退する事も出来ず、ザーコリア軍は阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされる。

 

『ば・・・化け物だぁぁぁ!!』

 

『魔力無しの蛮族じゃなかったのかよぉぉぉ』

 

恐慌に駆られた兵士たちが蜘蛛の子散らすように逃げて行くが、天空から垂直落下してくる迫撃砲が退路を塞ぎ、その混乱を突きMINIMIやハチキュウの掃射で次々と撃ち抜かれて行く

 

魔力の無い民という偏見を持ち情報収集を怠り、いつも通りの手口でかの国の民に手を出し、あまつさえ使節さえ亡き者にしようとした彼らは、その身をもって代償を払う事になったのだ。

 

 

ザーコリアの住民たちは、遠目から蛮族と自軍の戦いを眺め、その地獄のような光景に言葉を失っていた。

 

『何なんだよ・・アレ・・・。』

 

『俺達は悪夢を見ているのか?』

 

唖然とした顔で立ち尽くす彼らは、ふと奇妙な違和感を感じ空を見上げる。

 

『・・・あれは?』

 

『流れ星か?』

 

それは、155mmりゅう弾砲やMLRSから放たれた砲撃とロケット弾であった。

流星の如く放たれた光の槍は、軍事施設のみを正確に貫き、内部から解放された爆炎が破壊と死を纏って着弾地点を舐めまわす。

 

 

この国の守りの要であり、彼らの象徴であった城壁を一瞬で破壊され、その瓦礫と化した城門を軽々と飛び越え放たれた崩落の流星群によってザーコリアは恐慌状態に陥った。

 

ザーコリア軍を撃破し、城塞都市に足を踏み入れた自衛隊が見た物は、パニック状態に陥った住民によって放火され、略奪され自己崩壊を起こし始めた街の姿であった。

 

自衛隊の攻撃とは無関係の火災は、瞬く間に広がり、その凄惨さから自衛隊が思わず動揺する程であった。

 

『ひ・・・ひぃぃっ!い・・命だけはお助けをおおぉぉっ!』

 

『娘を・・・うちの娘を差し上げますから、見逃してくださいぃぃ!』

 

自衛隊の姿を見た商人の男は、傍にいた自分の娘の首根っこをつかみ地面に叩き伏せ、泣きさけぶ娘の服を脱がせようとする。

 

その姿を見た自衛隊員達は、何とも言えない表情で顔を歪ませる。

 

「お前ら・・・・最低だよ・・・。」

 

住民たちによって引き起こされた暴動に紛れて脱出しようとした王族や貴族たちは、住民や護衛の筈だった兵士によって身ぐるみを剥がされ、物言わぬ躯の状態で発見される。

 

中枢機能を喪失したザーコリアは、誰一人と責任を取らず取るべき者も持たず、空中分解した。

 

計らずとも行われた焦土化によって、日本は得る物が少なく、幾つかの鉱山を手に入れただけで終戦を迎えた。

ザーコリアの城塞都市から逃げ出した住民の多くは、今まで略奪を繰り返していた周辺諸国に捕まり奴隷化され、今亡き王族と街を襲撃した日本に怨嗟の声をあげるのであった。

 




散々周りに迷惑をまき散らし、今までの不摂生が祟り体を壊し、見当違いの怨嗟を吐きながらこの世を去る人間はごく少数存在しますが、それが国家単位になったらまさに悪夢ですね。


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