現代の修羅、VR世界で暴れる   作:黄金馬鹿

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既にキチガイに絡まれている人物は基本的に自覚無しのキチガイだと思ってください。


そのしっくす

「じゃ、アカウント作ったらこっちに戻ってきてくれ。その後リアルで打ち合わせしてから合流しよう」

「分かった。一応、無いと思うが、ゲームから脱出出来ない状況になった場合は一時間後にそっちがログイン、中央都って場所で待ち合わせ、でいいんだよな?」

「あぁ。本来は自分の種族の領地に居てくれた方がいいんだが、生憎、二人がどの種族を選ぶか分からないからな。じゃあ、ログアウトしてくるまではこっちは待機しておく。アバターの容姿はランダムだから、領地に出たら適当な宿でログアウトしてくれ」

 

 建斗の部屋に戻ってきた和人と珪子は簡単にこの後の事を打ち合わせしてから珪子は椅子に座り、和人は床に座ってからリンクスタート、と共通の起動キーを口にして目を閉じた。今頃は二人とも種族選択の場所に飛ばされた所だろう。

 そのまま三人は携帯を見たりゲームをしたり本を読みながら待ち、大体十分程度だろうか。少し時間がかかったが、まずは珪子が目を覚ました。おかえりー、と木綿季の声が迎えてから珪子は、やはり二回目のフルダイブからの目覚めに慣れないのか目を擦ってからナーヴギアを外した。

 

「どうだった?ALOは」

「うーん……その、最初に変な場所に飛ばされて焦った程度だったかなぁ……」

『え?』

「いきなり目の前がいきなりノイズみたいな物だけになって、気が付いたらシルフっていう種族の領地にいたよ」

「シルフ?じゃあ、珪子はシルフにしたの?」

「ううん?ケットシーだけど……」

 

 その言葉に三人は困惑を表情に浮かべた。本来、初ログインの時は自分の選択した種族の領地に飛ばされる。そのため、ケットシーを選んだ珪子は本来ケットシーの領地に飛ばされる筈なのだ。

 じゃあ、バグか。と三人は一応納得したが、このバグでサラマンダーの領地等に飛ばされたらリスキル待ったなしだろう。シルフとケットシーは友好関係にあるので手は出されない。そのため、珪子はまだ幸運な方だ。しかし、これは結構致命的なバグだろう。後で運営に報告をしておかなければ。と三人は考えておきながら、和人の帰還を待つことにした。

 

「あ、そういえば、メニューを開いたらお金が凄い沢山あったんだよね……」

「金?最初はスズメの涙程度だったと思うんだが……」

「いや、その……SAOが終わった時に持ってたお金と同じ分だけ……」

「……それって、幾ら?」

「す、数百万……?」

 

 ALOでそのレベルとなると武器屋で最高級の武器を買い漁っても問題が無いレベルの資金だ。これはまさかSAOのデータとALOのデータが混在している?と三人は疑問に思ってしまった。

 だが、最初からそれだけのユルドがあれば二年もの間仮想現実にフルダイブしていた珪子ならそう簡単にはやられない程のアイテムと装備を整える事が出来るだろう。何だかチートみたいな感じだが、これは珪子が二年間、仮想現実で生きた証だ。羨ましいとは思うが、文句は言えない。これは珪子の特権みたいなものだ。

 あ、そうそう。と珪子が木綿季にALOにログインしたらピナが復活したんだよ、と嬉しそうに話しかけるのを見て、ケットシーの先輩でもある詩乃がテイムモンスターが既にいるのなら、とケットシーの特徴等について改めて指南している。得意武器の一つが短剣でテイムしたモンスターもバトルに連れていける。正に珪子の天職と言える種族だろう。

 それから暫く。大体二十分経った辺りだろうか。和人が目を覚ました。

 

「お、やっと戻ってきたか」

「……なぁ、開始早々森の中に落とされるのはALOの歓迎式みたいな物なのか?」

「バグだ、気にするな」

 

 そうかぁ……バグかぁ……と呟く和人の言葉をぶった切ってどこでログアウトしたんだ?と聞いた。

 

「確か、シルフ領って場所の近くの森の中。今はユイにアバターを見てもらってるよ」

「おい急いでログインするぞ!流石にこれはマズい!!」

「え?」

 

 とぼけた表情の和人に宿やホームでログアウトしないとアバターはそのまま寝ているように放置されると言うと和人は慌ててアミュスフィアを被ってリンクスタートと叫んだ。珪子は苦笑しながらアミュスフィアを被った。

 

「珪子は私が迎えに行くから、和人の方はキチに任せるわ!珪子、武具屋の方に居てくれたらこっちから会いに行くわ。青色の髪のケットシーだから!」

「あ、はい」

『リンクスタート!』

「ちょ、立ったままログイン!?あ、思いっきり倒れた」

 

 建斗と木綿季が急いでいたのか立ったままダイブしてそのまま倒れた。が、この二人は特別頑丈なので問題はないだろう。詩乃はちゃんと座ってからリンクスタートと呟き、ダイブした。何だか慌ただしいなぁ、と思いながらリンクスタート、と呟いてALOへとダイブした。

 そして珪子は先ほど作ったばかりのアカウントにログインし、先ほどまで自分で動かしていたアバターとなって目を覚ました。目覚めた視線の先には先ほど、最初のログインと同時に現れた青色の竜、フェザーリドラのピナがそこには居た。ピナは珪子……シリカが目を覚ましたのに気が付き、きゅいきゅいと鳴きながらシリカにじゃれ付いた。くすぐったいよ、ピナ。と言いながらシリカは宿屋のベッドから立ち上がり、改めて自分の容姿を確認する。

 SAOの時に何度も見た自分の分身……いや、自分そのもの。髪色が若干金色に近い茶色になり、瞳の色が赤色になっている程度であり、後はケットシーの特徴である猫耳と猫尻尾。尻尾を触ってみれば感覚があり、結構くすぐったい。初期装備の服から飛び出す尻尾を確認していると、ピナが肩に止まった。この肩にかかる重みが懐かしい。一応、アイテム欄は確認してみたが、全て文字化けしていたため、全て捨てておいた。若干勿体ないとは思ったが、これは別ゲーム。無いのが普通だと。しかし、溜めたコル、今はユルドだけは捨てられなかった。

 髪の毛が崩れていないのを確認してからすぐに宿屋を出る。SAOと比べてグラフィックが若干荒い気がするが、まぁ気になる程ではない。近くのNPCに武具屋の場所を教えてもらってから頭に乗ったピナと共に武具屋へと向かった。武具屋の店主に話しかければ目の前にメニューが表示され、様々な武器が映し出される。SAOと同じようなメニューなので短剣だけを表示させて見ていると、肩を叩かれた。振り返るとそこには弓を担いだ青髪のケットシーがいた。

 

「あ、えっと……」

 

 詩乃さん。と呼ぼうとしたが、そう言えばアバターの時の名前を聞いてなかったと思い、どうしようかと悩んでいたらあっちから教えてくれた。

 

「シノンよ。本名をもじっただけなんだけどね」

「シノンさん、ですね。私はこっちだとシリカです」

「シリカ、ね。うん、覚えたわ」

 

 きっと珪子という名前から珪素、シリコンになり、そこからシリカという名前になったと言う経緯はそうそう分からないだろう。シリカが武器を選んでいるのだとシノンは確認すると、一度手にとって見た方がいいわよ。と、余計なお世話だろうか、と思ったが助言した。

 そうですね、そうしてみます。とシリカはメニューを退けてから店に飾ってある短剣を片っ端から持ち始めた。しかし、どれも合わないのか、首を傾げて戻すを繰り返し、全ての武器を確認してからこれにします。と武器を手に取った。

 ソードブレイカーと呼ばれる剣の峰に溝が存在する短剣を手に取った。この短剣は余り攻撃で優勢になれず、防御に特化しているが、この剣の溝に剣が通った時に合わせて捻る事で相手の剣の耐久を一気に削る事が出来る、上級者ならいい立ち回りが出来る短剣だ。特に、仮想現実に慣れ切り、現実でも護身術、それから発展したッ短剣術を建斗の祖父より教わったシリカなら、十全に使う事が出来るだろう。

 次にシリカは防具と服を買いに行った。流石に初期装備で連れていくわけにはいかないのでシリカを防具店に連れて行った。

 シリカはそこで青色の服と黒色のスカートを買い、その上からチェストプレートを装備した軽装に着替えた。

 

「そんなに軽装でいいの?」

「これと似た様な装備でSAOはやってましたから。それに私、AGI特化なので」

 

 和人はSTRに少し多めに振ったAGI型だったが、シリカはAGIに多めに振り、STRに少な目に振ったよく見るAGI型だったので、余り装備を着けるよりも軽装の方が強くなれるのだ。それに、軽装でないといざという時に攻撃の衝撃を地面に逃がしたり後ろに飛べないので軽装の方がいい。

 それじゃあ、とシノンはシリカを連れて街の外に出てからメニューのフレンド欄からツルギとユウキを確認してから翼を広げた。が、シリカは飛ばない。いや、飛び方を知らない。あ、そうだった。とシノンは随意飛行は上級者の中でも一部しか出来なかったと思い出し、まずは補助スティックでの飛行を教える事にした。

 

「まずは左手を軽く握る動作をして。それで補助スティックが出るから」

「えっと……こう、かな?」

 

 シノンが補助スティックを出す動作を見せて補助スティックを出して見せる。それを見てシリカも補助スティックを出すが、やはり思うように飛べない。なので暫くは慣らしのために練習をした。が、その飛行速度はお世辞にも速いとはいかず、初心者丸出しの飛行だった。

 

「まぁ、ゆっくりと行きましょ」

「そうしましょう……」

 

 

****

 

 

 そして所変わってこちらは和人ことキリト。急いで再びログインし、アバターへと意識を憑依させた時は辺りには誰も居らず、先程ログアウトする際に座った木陰で自然に目を覚ました。その横には白いワンピースを着た黒髪の少女、キリトの愛娘のユイが寝息を立てていた。

 もっと、何年も先になるかと思っていた愛娘、ユイとの再開はアイテム欄をロールした際に見つけた、キリトが名付けたアイテムを具現化させた際に叶った。たった一ヶ月にも満たない間での再会。だが、その再会はとても嬉しく、それはユイも同じだったようで、二人で抱き合い再会を喜びあった。

 SAOの時とは違い、黒色の髪をオールバックにした、何時もの女顔ではなく勇ましさが出たアバターだったが、ユイは自分をちゃんとキリトとして、桐ヶ谷和人として認識し、パパ、と再び呼んでくれた。それだけでも、キリトは泣き出してしまいそうだった。

 それからはユイと雑談をしながら、文字化けしたアイテムを全て捨て、初期装備のままずっと話した。そして、一度リアルに戻らなければいけない事を思い出し、一度ログアウトし、再びログインした。

 ユイと再び会えたのは夢でも幻覚でもない。それがこの二回目のログインで隣で寝ている事で痛感できた。

 暫く横で寝息を立てる愛娘を撫でながら安らぐ時間を過ごしていると、ユイが身動ぎをした。その数秒後、ユイは目を覚まし、寝ぼけ眼を擦りながら小さなアクビをしてキリトと目を合わせた。

 

「おはようございます、パパ」

「あぁ、おはよう」

 

 笑顔でおはよう、と言ったユイはそのままキリトに抱き着き、胸板に顔を埋めた。キリトはそれを受け入れ、再びユイの頭を撫でる。

 が、本来の目的を忘れてはいけない。キリトはユイを撫でながら暫くの目的を話す。

 

「ユイ、これから俺は友人と合流するんだ。ついて来れるか?」

「はい!大丈夫です!」

 

 元気な返事を返したユイは一旦キリトから離れて立ち上がる。すると、ユイの体が光に包まれた。何事だ、そう思い光ったユイを見ていると、ユイの体は段々と小さくなり、手のひらサイズの小さな妖精となった。

 おぉ。とキリトが声を漏らすとユイは恥ずかしそうに小さく笑った。

 

「この格好なら、パパのポケットの中とか髪の毛の中にも潜り込めるのです大丈夫です!」

「そりゃ凄いな……けど、ユイがこんな事を出来るとは……」

「このALOではMHCPっていうプログラムは存在しないので、ナビゲーションピクシーっていう初心者プレイヤーをアシストするAIの中に割り込みました。なので、前みたいな事は出来ませんが……」

「いや、俺はまたこうやってユイと会えることが嬉しいんだ。それだけで十分だよ」

 

 それは紛れもなく本心だ。それに、ユイが前に出て戦うと言ったら卒倒しかねないのが今のキリトだ。

 立ち上がり、背筋を伸ばすが特に何も起きない。が、気分の問題だ。体の調子を確認し、髪の毛の中に埋もれたユイを見てからキリトは自分の種族、スプリガンの特徴の一つ、真っ黒な羽を出した。飛び方をユイから教わった、というのもログアウトに遅れた理由の一つでもあるが、本来相当な熟練者でなければ出来ない随意飛行をキリトはいとも簡単に行った。

 自分に存在しない器官を動かす、というのは相当なイメージ力が必要だが、キリトは案外それを早く覚えることが出来た。故に、キリトは誰に言われるでもなく一度膝を落とし、一気に飛び上がると同時に羽を広げ飛び上がる。

 そして全身に感じるのは風を切るという爽快感。このままずっと飛んでいたくなると思う程の感覚と共に空へと上がったキリトはそのまま辺りを確認する。

 すると、丁度自分達から少し離れた上空を飛ぶ灰色の光と紺色の光を見つけた。確か、あれはレプラコーンとインプと羽の色だ、と気が付いたキリトはその方向へと飛んだ。

 灰色と紺色はキリトに気が付き、武器を構えたが、相手が武器を構えずに手を振ってるのを見てあれはキリトだと気付き、武器を納めた。

 

「よっ、お待たせ」

「ったく、探させやがって……で、お前はいつも通りキリトでいいのか?」

「あぁ。お前らもツルギとユウキのままなんだろ?」

「そうだよ。あ、詩乃はシノンって名乗ってるよ」

「シノンな。覚えた。あ、珪子はシリカだ」

 

 まずは仲間内の基本情報を交換し、すれ違いが無いようにする。そして、三人でフレンド登録を行い、ツルギがフレンド画面からシノンの現在位置を割り出すと、シルフ領にいるようだった。

 なら、シルフ領の方へ向かうか。とツルギが言おうとした瞬間、三人の耳には聞きなれた音が聞こえてきた。

 鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音。剣がぶつかりあう音を。その瞬間、三人は顔を合わせた。

 

「殺りに行く?」

「行く行く!」

「おう!」

「よろしい、ならば戦争だ」

 

 そして約束なんて無視してそのまま戦場へとぶっ飛んでいく三人。暫く飛んでいると、丁度戦っているプレイヤーが見えた。

 見たところ、シルフの少女のアバターがシルフの青年のアバターを守りながら、サラマンダー五人と戦っている、と言ったところか。だが、どこの世界も戦いとは質よりも量。少女は確かに剣筋は『剣道』として見れば基本を抑え、しっかりとした物になっている。しかし、量には敵わない。

 剣道とは一対一を想定した戦い。故に、単騎戦は強いが物量戦には弱い。

 三人はそれを確認するとすぐにシルフ側に加担するために飛び、シルフの少女が剣を払い、後ろに下がった所でスイッチするように降り立った。

 

「え、だ、誰?」

 

 流石にシルフの少女は困惑している。が、サラマンダーの五人はツルギとユウキを見て一歩たじろいだ。

 

「レ、レプラコーンとインプの剣士……まさかPKK狩りか!?」

「ごめいとーう。今日は一人新入り引っさげでご登場だぜ?ほら、笑えよベジータ」

「小便済ませた?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」

「お前らゲーム内でもそんなテンションなのな……」

 

 ツルギが剣をバラ撒きながら腰に下げていた刀を引き抜き、ユウキも腰の片手剣を抜く。キリトは二人の言動に頭を抱えながら背中の片手剣を抜いた。

 やはり、軽い。だが、無い物ねだりは出来ない。適当にジャグリングを噛ませたパフォーマンスを行い、腕の調子を確認し、コンディションは完璧と分かったところで構える。

 三人の構え方は同じ師から教わったものだが、違う。ツルギは基本を尊重した、両手で正眼に構える刀の構え。ユウキは片手剣を片手で構え、少し体を落とし、左手はフリーにする構え。キリトはその逆で左手を前に、右手の片手剣の剣先を下げた構え。

 三人が構えた事でサラマンダー五人は各々の武器を構えた。が、その瞬間、その五人の後ろから何かが走ってきた。

 

「一歩音越え」

 

 後ろの茂みから抜けてきたのは、一人のケットシー。短剣を片手に構え、もう片方の手で地面を時々後ろへと押し出して加速してくる。

 

「二歩無間」

 

 そして気が付いた時には背後でその赤い目を光らせ、獲物の首を狩る。

 

「三歩絶死」

 

 技の名前は、ない。ただ駆け抜け、首を狩り、殺す。その為だけに作られた名はない。ただ基本のその動作を極限まで極めたそれは、技とは言えず、ただの動作であった。

 だが、敢えて言うのであれば。

 

「切り抜き」

 

 長ったらしい名前は必要無い。ただその動作の名を自分で確認するように呟くのみ。

 

「……シリカ、か」

「はい、キリトさん。余計なお世話でしたか?」

「いいや。数を減らしたのは大手柄だ。けど、よくこんなタイミング良く来れたな。飛んできたのか?」

 

 それを行ったのは、僅か齢十四の少女、シリカ。

 彼女はこの五人の中では、ある一点でのみ頂点に君臨する。リアルでは最強のツルギ。反射神経お化けのユウキ。リアルシモ・ヘイヘのシノン。各基本を抑えどんな相手とでも十全に戦えるキリト。そして、シリカは。

 

「飛ぶのは途中でやめましたよ。あ、でも、流石にここまで『走って』来るのはちょっと辛かったです」

 

 足を使った『速さ』に置いては五人の中ではトップクラスとなる。故に、シリカは防具を極限まで身につけず、最小限の動作で敵の命を狩れる短剣を使う。

 シリカは力は強くない。だが、足運びだけは一流の域に達している。シリカのアバターがその能力値の限界を超えた速さで走り、空を飛ぶシノンとほぼ同じタイミングでここに到着できたのは、縮地を連続で使っているからだ。

 縮地を使い前へと滑った足で距離を詰め、使っていない方の足を一瞬で前に出しもう一度縮地を行う。これを繰り返していく事で普通の走りよりも遥かに速く走る事ができ、シリカはレベル差とステータスの振り方の差でAGIの値がかなり空いていた、閃光とまで呼ばれたアスナよりも速く走る事ができた。

 SAOのアイドルと呼ばれた裏で付けられたあだ名の中には現代の沖田総司だとかスピード狂とかリアル瀬田宗次郎とかがあったそうな。

 

「やっぱお前の速さは別格だな」

 

 空で既に弓を構えているシノンを見てシリカが手を振り、ソードブレイカーを構え、これ位誰でも出来ますよ、と言うシリカは自分の力をかなり甘く見ている。

 そして、この五人が纏まった時の戦い方はリアルの方で何度もやっている。

 まずはシリカが陽動をしてキリトが突っ込み撹乱、そしてキリトへと向かう攻撃を全てシノンが落としユウキとツルギが一撃必殺を決める。

 だが、今回の相手にそこまでしてやる必要はない。相手は雑魚だ。そこまでしなくても勝てる。

 

「オラかかって来いよサラマンダー。俺はお前らが泣き喚いて命乞いする姿が大好きなんだよぉ!!」

「一方的に斬られる怖さと恐怖とトラウマとその他諸々を刻み込んであげるよぉ!!」

 

 ツルギがド下衆な発言が飛び出した後にユウキが問題発言をしてからサラマンダーへと縮地を使いながら突っ込んでいく。

 そのまま二人は一人ずつサラマンダーに剣をぶつけ吹っ飛ばしてタイマンの状況を作り出す。しかし、残った二人はそれを助けようとする。が、それは問屋が許さない。

 

「俺達はアイツ等ほど鬼畜じゃないが」

「やさしーく、首の頸動脈だけ斬って殺してあげるね?」

 

 その瞬間、最初に赤色の瞳が一瞬で相手と呼吸を『合わせる』ことで『相手にとって自然な物』、言わばシンクロ状態となる事で相手の無意識へと潜り込み、更に縮地を乱射して更に撹乱してから首の頸動脈だけを斬り裂き殺す。そして、黒が隣の味方が死んだ事で意識を奪われた瞬間に呼吸を合わせ、無意識へと侵入。そのまま黒も縮地を使い接近し、そのまま首を斬り裂いた。相手は何をされたかすら理解が出来なかった。

 VR世界では難しい部類に入る呼吸を合わすという技。キチガイ共はそれを最早、息をするように出来るため、彼等が戦うとまず起こるのは呼吸を合わせては外して合わせるという合戦だ。それが出来なければキチガイ共には何度戦っても勝てない。だが、それが出来なくても『無意識を意識する』事が出来ればこの技は簡単に無効化できるのだが。

 更にこの五人は相手の呼吸を奪う事で視線を釘付けにしたりミスディレクションをいきなり成功させたりと段々と先読みだけでとんでもない手数が生まれる場合がある。

 そんなキチに勝てる訳もなくシリカとキリトはあっさり二人殺し、ツルギとユウキももう心臓と首に刀を突き刺し勝利している。

 

「あー、私、久々にVR世界でPKやりました……」

「俺もだ」

 

 二人は微妙な顔をしながらそれぞれ武器を納める。が、そこでようやくシルフの二人組の存在を思い出し、顔をそっちへ向けた。

 シルフの少女は片手剣を構えてはいたが、お願いだから見逃して、という視線をキリトとシリカに送っていた。二人は苦笑しながら武器を握っていない手を見せると、シルフの少女は息を吐いて武器を納めた。

 

「えっと……助けてもらってありがと、でいいのかな?」

「あぁ、それでいいよ」

「どういたしまして」

「お陰でデスペナがかからずに済んだわ」

 

 そういえば、このゲームは死ぬとデスペナルティにかかるだけだったっけ。と二人は仮想現実内では常に死ねばリアルでも死ぬと思い続けていたため、忘れていた。

 

「アタシはリーファ。見ての通りシルフよ」

「俺はキリト。スプリガンだ」

「私はシリカって言います。一応ケットシーです」

 

 シルフの少女、リーファはスプリガンとケットシーと聞いてやっぱり、という顔をしていたが、何処か疑いの目線を向けていた。

 

「どうかしたんですか?」

「いや、その……超高速で動くケットシーとか相手に気付かれずに敵を斬るスプリガンって、聞いたことないなぁって……」

 

 本来、ケットシーは自らが前に出て戦うのではなく、騎獣等を使う。一応、ケットシーでも前に出ている人間は少なくなく、短剣や爪が使われているが、それでもリーファの目で追いきれない程の速さで移動するケットシーは初めて見たし、相手の目の前で移動しても気付かれずにそのまま敵を斬り伏せるスプリガンも初めてだ。

 スプリガンの方の戦い方は何処かで見たことがある気がしたが、まぁ気のせいだろう。

 

「っていうか、スプリガンの……キリト君だっけ?キリト君は見た所初期装備みたいだけど……」

「その通りだけど、どうかしたか?」

「嘘っ!?って事は、まさか初心者!?」

「まさかも何も……俺とシリカはほぼ同タイミングで始めたプレイヤーだぜ?あっちのキチ共は前からやってる古参みたいだが」

 

 キリトが指を向けた先にはウェーイウェーイと煽りながらリメインライトを死体蹴りするキチガイ共の姿があった。

 

「あ、あれってPKKのツルギとユウキ、シノンよね……」

「有名なのか?」

「PKするならキチガイに狩られる覚悟をしろって言葉があるくらい」

「あ、あはは……」

 

 あのキチガイ共はそこまで有名だったのか、と思ったが、確かにこのドスキル制のALOで現実で身につけた剣術、歩法、護身術、徒手空拳、技術その他諸々を使えば確かに有名になれるくらいに強くなれるだろう。

 きっと、あの三人は現実の力を惜しみなくこのゲームに注ぎ込んでいる。今まで狩られたプレイヤーが可哀想に思えた。

 

「ほら、レコン。アンタも礼くらいは言いなさい」

「うっ……わ、分かったよ、リーファちゃん……」

 

 シリカが苦笑した所でリーファの後ろで震えていた雰囲気からして情けなさそうな少年がリーファに背中を押されて出てきた。

 

「あ、あの、僕、レコンって言います。その、助けてもらってありがとうございました」

「あぁ、気にすんな。困った時はお互い様だ」

 

 何だか頼りないなぁ、とはキリトとシリカの共通の認識だった。と、そこでキリトの髪の毛が勝手にゴソゴソと動き始めた。

 何事かとキリトを除く三人が視線を向けると、そこからユイが飛び出した。

 

「あ、戦いは終わりましたか?」

「あぁ。ついさっきな」

「あ、ユイちゃんだ。久しぶりだね〜」

「はい。お久しぶりです、シリカさん!」

 

 飛び出してきたユイがシリカの顔にダイブし、シリカがくすぐったそうに表情を崩す。そして、その後きゅいきゅいと鳴きながらやっと追いついたと言わんばかりに飛んできたピナがユイの上からシリカの顔に飛び込む。

 シリカは少し間抜けな声を出しながら一人と一匹に押されて倒れた。

 

「えっ、ちょっ、プライベートピクシー!?」

「それにレアモンスターのフェザーリドラじゃない!」

 

 そこでやっと声を出せた二人のシルフの声に反応してユイがやっとピナののしかかりから開放されキリトの肩に座り、ピナも起き上がったシリカの頭の上に乗ってきゅくるー。と一息ついた。

 

「そ、その、キリトさん……そのプライベートピクシー、ちょっとだけ触らせてもらっても」

「代償はお前の命だ」

「あ、すいません。ホントすいませんだからその剣退けてくださいお願いします」

「ねぇ、シリカちゃん。そのフェザーリドラ、撫でてもいい?」

「はい、いいですよ。あと、この子の名前はピナって言います」

「へぇ〜、ピナちゃんかぁ……可愛いなぁ〜」

 

 片方は殺伐として片方はほんわかとした雰囲気が流れた。流石に娘を変な男に触らせるのはキリトも嫌らしい。呼吸を合わせて無意識に潜り込んで剣を突き付けてる辺りどこまで本気かが物語られている。

 と、ようやくそこで一通り煽り終わったツルギとユウキ、空中で待機していたシノンが合流した。

 

「さて、やっと合流も出来たことだしどうする?」

「取り敢えず、俺は装備整えたいし近くの武具屋と防具屋に行きたいな」

「んー……ここから近いのはシルフ領だが……」

「ならアタシについてくる?アタシって結構シルフの間では顔が利くし、後ろから襲われることは無いと思うけど」

 

 リーファの提案に、ツルギとキリトは迷わずにじゃあそれで。と答えた。が、そのリーファの提案を聞いてレコンが本当に多種族をシルフ領に入れる気なの!?と大騒ぎ。

 が、これもリーファの考えあっての事。流石にサラマンダー等の戦闘大好き民族は連れて行っても確実に袋叩きだが、友好関係にあるケットシー、武器関連でお世話になっているレプラコーン、サポート等でよく他の種族を手を組むインプ、地味なスプリガンなら別にシルフ領に入れても何ら問題がない。

 それに、この五人には助けてもらった礼もある。横でうるさいレコンを無視してじゃあ、着いてきて。とリーファは羽を広げた。

 それを見てから羽を広げる四人と走る準備をする一人。それを見てレコンもあぁもう!と言って補助スティックを握った。

 この後、久々のダイブで慣れなかったつい先ほどとは違い、完全に体が馴染んだシリカが地走で障害物などを飛び越えながら飛行組とどっこいどっこいな速度で走ってるのを見てリーファとレコンが目を丸くしていたのは言うまでもない。




実は超高速戦闘が得意な連続縮地とかいう相手にしたくない技を使うシリカさん。何気にSAOでは超貴重な戦力としてブイブイ言わせていました。

あと、レコンの口調と性格がいまいち思い出せない。

ちなみに、この五人、一応全員が誰か一人に完全なメタを張れるようになっています。ツルギはユウキにメタを張られ、ユウキはキリトにメタを張られ、キリトはシノンにメタを張られ、シノンはシリカにメタを張られ、シリカはツルギにメタを張られています。

なので、この小説のシノンとキリトがGGOで対戦したらシノンが絶対に勝ちます。まぁ、狙撃なんて一瞬でも呼吸を合わせて無意識に潜り込めばその時点で勝ちですからね。呼吸を外す暇すら与えませんよ

あ、他の対戦カードになった場合は全員が勝率が半々って感じになります。しかし、リアルになると幼い頃から体を戦いのために作り続けた建斗の独壇場となり、勝てるのが呼吸合わせに成功して不意打ちが出来た詩乃か木綿季のみになります。

いやぁ、相性って大事ですね。まぁ、このキチガイ共は相性ゲーされるか物量攻めされた瞬間に負けが確定するのでまだ良心的ですね(白目)

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