某月某日。SAO事件が始まってから一年半と一ヶ月程が経過したある日の事。建斗ことツルギは悪友であり仲間であるユウキとシノンと共にとある街の酒場で集っていた。
PKKも上々。奪った金と武器とアイテムを湯水の如く使い素材を集め酒盛りをするのはいつもの事。
VR世界で酒を飲めば、現実では酔わないが、仮想空間では酔ったような気分になれる。そして、その規制はなく、例え未成年だろうとそれは飲むことができる。
三人はそれを堂々と口にし、ツマミを口にする。
「で、だ。これからどうする?」
「これからどうするって……とうとうボク達、サラマンダー領で指名手配されたからね……流石にやり過ぎた感じだよ」
「でも後悔はしていないわ。だって楽しいもの」
「せやな。じゃあ、これまでの同じって事で」
『さんせー』
よく遠出をしてはPKをするサラマンダー達はかなりの頻度でこのPKKを生き甲斐とするキチガイ三人に狩られていた。そのためか、最近ネットのサラマンダーの掲示板では、三人は何時しか要注意人物として名が上がり、つい先日、見事にサラマンダー領では指名手配された。
が、サラマンダーに指名手配されようとやる事は変わらないので特に変えること無し。キチガイ共はそう判断し、酒を注文する。
たまに、リアルでも主に祖父のせいで酒を飲むツルギとユウキはALO内で酒を飲んでもケロッとしているが、そんな事は経験したことが無いシノンはジョッキ一杯で顔を若干赤らめていた。
「そういえば、つい最近のアプデでまたフィールドボスが出てきたらしいわよ?」
「またかよ……この間追加されたばっかじゃねぇか」
「それって陸戦?空戦?」
「空戦よ」
「んでもって俺役立たず確定ワロタ」
空中戦に関しては、ツルギは随意飛行こそユウキとシノンのお陰で出来るようにはなったが、お得意の歩法と剣術は空中では使えないため、三人の中では一番のお荷物となる。
それはツルギ自身も認めているため、ツルギはジョッキをテーブルの上に置いてから背もたれに背を任せ、体を逸らした。
「そう。じゃあ、戦わない?」
「冗談」
「ま、そうなるわよね」
だが、その程度のハンデでこのキチガイは止まらない。空中戦なら空中戦で戦い方はある。苦手であるだけで、負けるとは一言も言っていない。
「じゃあ、ポーション集めのために小銭稼ぎしましょうか」
「そうだな。じゃあ、ユウキ。何時ものやりに行くぞ」
「あいよー」
ツルギとユウキは立ち上がり、右手でメニューを出す。そして、少しその画面に弄り、ツルギとユウキは得物を腰に具現化させる。
シノンは最後にグイッとジョッキを飲み干し、弓を背負った。
「じゃあ、私は野良で素材集めしてるわ。今回は炎属性が弱点だったから、ちょっとサラマンダー領付近で戦ってくるわ」
「俺達はそれを武器にするための他の素材の購入資金集め。まぁ、いつものだな」
三人はサッと打ち合わせを終え、酒場から出てそのまま解散する。
ツルギとユウキはちょっと広めの広場に行き、アイテムからとある看板を具現化させ、一緒にツルギとユウキの使わない武器、両手斧や鉤爪、短剣と言った数々のレアドロップ品を置き、ついでに今でも上位で通じる片手剣両手剣刀といった武器とレアドロップのアイテムや防具も並べる。
その看板はALO内では結構有名なもの。対戦相手募集中。勝てばこの中から好きな物をプレゼント!負ければ所持金の半分を貰います!
そう書かれたこの看板は、廃人やら腕に自身のある上級者やら、自分の腕を勘違いした初心者を招き寄せる。
デュエルで勝てばレアドロップ品を貰える。しかし、負ければユルドを奪われる。そんな突発的なデュエル大会は唐突に幕を開けた。
「おっ、アレなんだ?」
「おい待て、あのアイテム、かなりレアな奴じゃないか?」
「マジかよ、勝つだけであの中からどれか一つ貰えんのかよ」
廃人の間では沼やら闇やら言われ決して受けるなと言われているそれに次々とプレイヤー達は引き寄せられていく。
一度痛い目に会ったプレイヤーも、誰か無様に負けないかなと興味本位でツルギとユウキを囲む。
暫し後に、その人混みの中から一人の屈強な体をしたプレイヤーが現れた。
見た目はノーム。両手斧を持った男は見た目だけは強そうだった。しかし、ツルギとユウキの目にはただの雑魚にしか見えない。体の使い方が、素人と全く同じだからだ。
「おい、お前ら。デュエルで勝てば本当にその中のどれか一つを貰えるんだな?」
「そりゃ勿論。喜んでお譲りするぜ」
「まぁ、勝てれば。だけどね」
「ほう……なら、早速やらせてもらおうじゃねぇか」
男が右手でメニューを開いた所でツルギが待ったをかける。何だ、怖気づいたのか?と煽る男だが、ツルギはまず条件を提示した。
「お前さんにはまず、陸戦か空戦を選んでもらう。陸戦の場合はジャンプあり羽なし。空戦の場合は何でもありだ。道具も挑戦者は使用可能。俺達は戦闘中にアイテムを使わない」
「で、陸戦はこっちのツルギが。空戦は『絶剣』ことボク、ユウキが務めるよ。好きな方を選んでね」
ツルギとユウキ。その名を聞いて男は顔を顰めた。
その名はALOをやっているのならよく聞く、PKK三人組の内二人の名前。レプラコーンとケットシーと組むインプの絶剣を名乗る女プレイヤーというのは二人とて存在せず、さらにその名がツルギとユウキなら、この二人はかの有名なキチガイに変わりなかった。
が、そんな有名なキチガイがこんな少年少女とは思ってなかった男は、こんなナリの奴等なら余裕だとニヤリと笑った。
「なら俺は空戦を選ぶぜ」
女の方は少し力を入れてしまえば折れてしまいそうな体をしている。こんなのにノームが力負けるわけがない。男はそう思い、不敵な笑みを隠さない。
しかし、そんな笑みを向けられてもキチガイ共は動じない。
「やった、ボクからだ!」
「何だよ、つまんねぇな」
「まぁまぁ。きっと次はツルギだからさ、多少はね?」
「はいはい。ったく、暫くは観戦してるよ」
幾らかの有名な絶剣とて、力で押されればどうする事も出来まい。男からのデュエル申請をユウキは軽く引き受ける。
全損決着。今回のデュエルはHPが無くなるまで、つまりどちらかが死ぬまで止まることはない。
カウントダウンが始まり、ユウキが羽を広げて飛び立つ。男もそれを追って空へと浮かぶ。
「絶剣がこんな小娘だったとはなぁ。これならすぐに片付きそうだぜ」
「まぁ、ボクは好きで名乗ってる訳じゃないけどさ……売られた喧嘩は買う主義なんだよね。久々のデュエルだし、フルボッコにしてあげるよ」
ユウキが腰の片手剣、マクアフィテルを抜く。
ツルギがユウキのために作った懇親の一作。柄と刀身の境が見られないその剣は、ユウキを絶剣として知らしめる剣そのものだった。
そして、カウントダウンはゼロになる。その瞬間には男がユウキへ向かって両手斧を構えて突撃していた。が、その程度、ユウキが読めない訳がない。
気合の一閃。それは、ユウキがいきなり目の前から消えた事で空振った。
「呼吸を合わせて同化して最速で動く。これだけで案外裏って取れるんだよね」
ユウキの声は後ろから。まさかと振り返ろうとしたその瞬間には背中に衝撃を感じ、視界の端のHPバーが減っていた。回り込まれた。それすら、斬られた後に感じる程の超高速移動。
そんなの、ALOのバトルスキルには存在しない。なら、この移動は何か。決まっている。プレイヤーの、純粋なる力量だ。
このゲームにレベルは無い。あるのは熟練度によるボーナスのみ。だが、そんな物を上げた程度で、当たらなければそれはタダの飾りだ。ならば、当てるためには。それは、プレイヤーの力量に依存する。
ボタンは無く、スティックも無い。己の体一つで戦うのがVRMMORPG。それ故に、このゲームで強い人間は、体の効率のいい動かし方、剣の当て方を熟知した、リアルでも動けるゲーマー。
ユウキの剣閃はリアルで見て学んだ剣術により、より実験向きに昇華され、その反射神経と才能は敵の攻撃を最小限の動作で避け、確実に一撃を当てることに特化していく。
「このっ!!」
後ろへと両手斧を振り回す。しかし、それは得策ではない。
ユウキという少女は小柄であり、尚且つ素早い。それ故に、大雑把に斧を振り回すという行為は隙を作る事に他ならない。
振り回された斧はユウキの頭の上を通過するどころか、完全なる空を斬る。
これは三百六十度、全てに場所のある戦い方。それは正しくユウキの独壇場だ。
下からの奇襲。本来は有り得ぬ真下からの攻撃は、容易に攻撃を奇襲へと変化させる。
その奇襲はノームの男の両腕を、一瞬にして切り飛ばした。
そして上へと切り抜けたユウキはそのまま天を蹴るかのように急降下。そのまま首を跳ね飛ばし、男をそのまま殺し、リメインライトへと変えた。
たった三回の交錯で敵を殺す。その剣はまさしく絶剣。
ぶい。と指でVの字を作りリメインライトと共に降りてくるユウキに観客は歓声を上げる。
ツルギはサクッとリメインライトに蘇生道具を使って蘇生させる。蘇生された男はムスッとしたままだ。
「んじゃ、ユルド半分貰おうか」
「チッ……おらよ」
約束は約束。ツルギは男からユルドを貰う。中々いい量だ。毎度あり、とツルギはニヤニヤとニヤけて次の対戦相手を探す。
しかし、男は再び立ち上がり、ツルギに指を突きつけた。
「ならテメェと勝負だ!」
「え?俺と?別にいいけど。あ、じゃあ、俺に勝てたらさっきのユルドも返してやるよ。代わりに、お前が負けたらユルド全部貰うからな」
「それでいい!とっととやるぞ!」
ユウキに負けたのが悔しかったのか、それともこんな大衆の目の前でやられたのが悔しかったのか。どっちかは分からないが男は顔を赤くしながらツルギに宣戦布告した。
ツルギはそれを簡単に受け、刀を手に距離を取り、デュエル申請を送った。男はそれを承認し、カウントダウンが始まる。
さっきの少女は正しく絶剣。言うならばラスボスだ。だが、この青年には目立った二つ名はない。それに、地上戦なら下からの奇襲もない。勝てる。
カウントダウンの数字が少なくなっていき、そして、デュエルが始まる。
最初に動いたのは、ツルギだった。
「これはとあるアニメで見たんだが……俺にとっちゃかなりいい技なんで真似させてもらっている」
ツルギの足元が歪み、その虚空から片手剣、両手剣、刀といった、様々な刀剣が顔を覗かせ、上へと射出される。
その刀剣類は重力に引かれて落ちていき、ツルギと男を中心に円形のフィールドを作り上げる。
鍛冶魔法の応用であり極限。それを使った、バトルフィールドの形成。初手での有利なフィールドを作り上げる、ツルギの常套手段。
「『無限一刀流』……まぁ、その真似事だ。手加減はしないぜ?」
ツルギは刀をまるで居合いのように構える。横に、水平に。まるで居合いの応用だと言わんばかりの構え。
男がその構えごと叩き斬ってやると両手斧を手に突っ込む。しかし、それこそツルギの狙い。
一歩、二歩。確実に進んでくる敵に向かって、ツルギは前足の力を抜き、滑らせる。そして、一歩。たった一歩で体勢を低く距離を一瞬で詰める。
瞬地と呼ばれるその技は、漫画やアニメと比べれば一見地味かもしれない。しかし、その速度は、一歩二歩の距離を一瞬で詰めるのに事足りる。
純粋なる身体能力。体の運び方一つで行ったそれで懐に潜り込み、斬。斬る、のではなく斬り飛ばす。
数打ちの一刀では傷を付けれども切断は出来ない。ならば、斬ると同時に全力で敵を押し出し、斬り飛ばす。
深く傷を付け、さらに距離を取る。両手斧相手に接近戦はただの自殺行為。あれ程の鉄の塊で殴られよう物ならガードの上からでも吹き飛ばされる。なら、一回斬る毎に距離を取ればいい。
「ぐぅぅ!?」
「そうそう。一つ言い忘れた」
ツルギは刀を地面に刺し、今度は両手剣を虚空より取り出す。
「俺は、ゲーム内での戦いならユウキには勝てない。あっちは反射神経お化けだからな……だが、俺のフィールドで純粋な殺し合いをしたら、例えユウキが飛んでいようと、俺は純粋な剣技だけで切り落とせる」
ジャンケンの手札全てを持っているのは、何もユウキだけではない。いや、むしろツルギが持っていない訳がない。
例え空に居ようと、地中に居ようと、殺し合いなら、避けて斬る。このアクションを成功させれば、例えどんな相手だろうと殺せるのだ。そのための術を、知識をツルギは持っている。
だからこそ、ユウキが空戦に持ち込もうと、ツルギの有利な状況を、場所を作れば、絶対に負けない。
接近戦に必要な、距離を詰め、必殺を受けず、必殺を決め、反撃を許さない。そのためのありとあらゆる知識を詰め混こまれた現代のキチガイ。それがツルギ、如月建斗だ。
最も、質を上回る数で押されれば何も出来ずに死ぬのだが。
「掛かって来いよデカブツ。俺は逃げも隠れもするが勝負は投げないぜ」
「このっ……絶対にぶっ殺してやる!!」
走ってくる男。それこそが先程、一撃を貰った事にまだ彼は気が付いていない。
だからこその煽り。煽って正気を消して戦闘での負ける確率を減らす。
走ってくる相手の呼吸と呼吸を合わせて走り出す。気配を消し、存在を気薄にし、一歩、二歩。残り数歩となった所でツルギは動く。
二歩。一回の歩行で二歩踏み出す。相手との遠近感を一瞬で崩す、高速の二歩。それで男の間合いを一瞬で詰める。両手斧の刃が当たらない位置へと。
「その腕を斬る」
振り上げた両手剣。それは男の両腕を斬り飛ばし、さらにツルギが手を離したことで上へと飛んでいく。
そして虚空より取り出される二本の短剣で振り下ろした時に切り裂き地面へ投げ捨て、右手で刀を振り上げ左手で片手剣を突き刺し、一歩下がって足で片手剣を踏んで突き飛ばし、円形に刺さった、内側へ刃を向けてた刀にぶつけてさらにHPを減らし、再び瞬地で目を水平に切り裂き視力を奪い、逆手に持った片手剣を振り上げ切り付け投げ捨て、さらにナイフを虚空より取り出して首筋に突き刺し、空いた手で足を両手剣で切り飛ばした。
一瞬にして達磨になった男のHPは一瞬で消し飛び、リメインライトとなった。
「ハハハ、俺に勝ちたきゃリアル捨てて廃人になるんだな」
「流石にその言葉は教育に悪いのでNGで」
圧倒的。正しくその一言だった。
歓声が再び上がり、ユウキとツルギがハイタッチをする。イエーイと二人でハイタッチ。そして悪い笑顔。
「んじゃ、有り金全部」
「貰っていこうかな〜」
例え敗者にも容赦はしない。いや、敗者だから容赦しない。この二人はやはりキチガイだった。
「さて、有り金全部巻き上げてノルマ達成した事だし……いっちょやるか?ユウキ」
「おっ、やっちゃう?」
「やろうやろう」
有り金全部巻き上げたその後、体が暖まってそれなりに気分も高揚してきたツルギとユウキは互いに喧嘩を売って買った。
二人は片手剣を構えて一度ぶつけ合ってから距離を取った。
「全損だよなぁ?」
「もち」
「っしゃぶっ殺してやら」
「身ぐるみ剥がしてやるぜぐへへへ」
「おまわりさーん、そこの女の子を捕まえてー。か弱い僕の身ぐるみ剥ごうとするのー」
「か弱い……ふっ」
「鼻で笑いやがったなテメェ事実だけどぜってぇ殺したる」
「はっ!」
「貴様ぁ!!」
そんな煽り合いをしている中で着々とカウントダウンは進んでいき、そして零になる。
その瞬間、二人の眼光が変わる。先程までのふざけあっていた雰囲気は完全に消え失せ、VR空間だというのに、空気までが変わった気がする。
ギャラリーの誰かが唾を飲む。その瞬間に二人は動いた。
呼吸を相手に合わせ、合わされたら外し、そして合わせる。無意識へと踏み込み、無意識を意識する事でそれを無効化する。これを接敵までの間に行い、そして二人が完全に戦闘前の手札を使い切った瞬間に剣を切り結ぶ。
剣が当たった瞬間、甲高い音が――鳴り響かない。その瞬間、ユウキの表情が変わる。
「滑らせて……っ!?」
「小手先の技術で俺に勝てると思うなよ?クレイジーガール」
ツルギは剣が当たる直前、いや、当たった瞬間、音が鳴るよりも早く、神速の如き速さでユウキの剣の刃と自分の剣の刃を滑らせ、振りぬくことでユウキに無駄な力を入れさせ、次の行動を遅らせた。
その次の瞬間、ツルギは虚空から剣を取り出し、予め構えておいた左手に剣を握り、ユウキの体を真っ二つにしようと振るう。が、ユウキの体は真っ二つにならない。いや、飛んでいる。
羽を使った緊急上昇。更に地を踏み込み少し体が浮き上がった所で羽を使って飛んだ。そして、そのままツルギの頭上を弧を描いて飛び、背中側に着地して剣を振るう。が、ツルギは剣を捨てしゃがんでそれを避け、ユウキに一気に肉薄する。
「この距離ならバリアは貼れないなってな!」
そして打ち込む拳。鎧のない腹に拳を打ち込み、ユウキの体が宙に浮く。しかし、吹き飛ばない。吹き飛ばさない。腕を掴み、飛んでいくユウキの体を抑えつけ、引き寄せると同時にユウキの首にラリアットを叩き込む。
完全に決まった。確かな手応えと同時にユウキの体が一回転して顔面から地面に叩きつけられる。が、それだけではユウキも終わらない。叩きつけられた衝撃を利用しそのまま羽を使って起き上がり、ラリアットをした反動で物理的に向けない方向の背中を飛びながら斬る。
「ぐぉっ!?」
「リアルなら死んでたよ。流石に」
「そりゃ殺す気でやったからな」
「ってか、さっきのはマジで首折れたよ。体があらぬ方向にあったし。でも流石アバター、何ともないぜ」
「やーい、お前のHPまっかっかー。え、なに?飛べるのに衝撃逃せないとか雑魚かよ」
「やべぇ殺してえ……」
だが、ユウキのHPが真っ赤なのは事実。ユウキの首は先程確実に折れたが、それでもアバターのHPは全損せず、何とか生き残った。対してツルギの体力は半分以上も残ってる。誰がどう見てもツルギの優勢にしか見えない。
が、この状況はツルギの不利だ。ユウキは距離を取った。三次元軌道が可能なユウキはその化け物としか言えない反射神経で攻撃を避け受け流す。
ツルギは冷静に虚空から盾を取り出し構える。が、その瞬間ユウキは勝ちを確信した。
「えー?盾なんて使うのー?だっさ。やーいお前の職業メイン盾」
「うっせ貧乳」
「ぶっ殺す」
「やっべ、逆鱗に触れちまった。煽り無しにぶっ殺すとか言いやがったよあの貧乳」
「手始めにお前の頭を抉る」
「ちょっと殺意高すぎませんかねぇ……」
だが、ツルギの判断は間違っている。ツルギはここでシールドバッシュでユウキの機動力を削いでその瞬間に畳み掛けるつもりだった。が、その程度でユウキは飛ぶのを止めない。
真っ正面から突っ込んでくるユウキ。それに対してシールドを構えタイミングを待つ。
そして、今。剣と盾が当たる瞬間、ツルギはシールドごと全身を押し出す。普通なら、これで隙は作れる。普通なら。
しかし、ユウキはそこから動く。
押し出される体。しかし、上半身は押されない。剣が当たった瞬間に離し、足を当てて一気に下半身を上へと逃がし、逆さの体勢でツルギの頭上を取る。
「んなアホな!?」
「死ねオルァ!!」
その瞬間、逆さの状態でのユウキの唐竹割りが炸裂する。
未成年のプレイヤーにはモザイクがかかり、成人したプレイヤーには剣が人の頭に抉りこむ映像が再生された。
そしてツルギのHPはそのまま無くなり、一瞬でリメインライトと化した。
「ウェーイ!ウェーイ!」
そのままユウキは煽りと言わんばかりにツルギのリメインライトを踏み続ける。
「ねぇねぇ今どんな気持ち?自信満々で盾を取り出したら頭上取られてどんな気持ち?そのまま頭を情けなく唐竹割りされてどんな気持ち?対人戦なら負けないとかドヤ顔して負けるってどんな気持ち?煽った相手に頭かち割られるってどんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?どんな気持ち?」
『やべぇこのアマぶっ殺してぇ……』
しかしユウキの煽りは止まらず、蘇生制限ギリギリまで煽られた後にユウキに蘇生されたツルギの顔面には青筋が浮かびまくっていた。
「テメぶっ殺すからデュエル受けろや」
「嫌でーす(笑)」
そのままダブルピースしながら白目をむくユウキは完全に女としての何かを失っていた。
取り敢えずツルギはユウキの目に指を突っ込んでからシノンにそろそろ合流しようぜとメッセージを送る。
「オラ行くぞキチガイ」
「前が見えねぇ」
「いいからとっとと歩くんだよぉ!」
「お返しそぉい!!」
「貴様ぁ!!」
ユウキも声の発信源からツルギの位置を特定してツルギの目を潰した。
そのまま公衆の面前で煽りまくった二人はシノンにぶん殴られドナドナされていった。
私の書き溜めは残り一話です(震え声)