現代の修羅、VR世界で暴れる   作:黄金馬鹿

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人の心理描写ってむつかしいね。

あと、SAOHR面白いです。基本的にはキリト、シリカ、ユウキ、シノンでやってますけど、ユウキが綺麗過ぎてここのユウキが余計にヨゴレ系に見えてくる。多分、オンラインやれるようになったらツルギって名前の赤髪のアバター作ってやると思います


そのじゅーなな

 息をする毎に視界の中ではバレットサークルが大きくなったり小さくなったりを繰り返す。スコープを通して見える敵は十人ほど。全員がこちらを気付いていない。伏せ、バヨネットを立てて完全にセミオートのスナイパーライフルを固定しているため、息遣い程度では動かないが、バレットサークルは別だ。これは円の中、ランダムに弾が飛ぶ。故に、それを引き絞るために息を止める必要がある。

 そして、一旦スナイパーライフルから手を離し、手を上げて小さくハンドサインを出す。内容は、十秒、狙撃。その直後、スナイパーライフルを再び手に、スコープを覗き込む。

 十秒。その間にスコープの真ん中に敵の頭を合わせ、集中。そして、十秒後。今だと言わんばかりに息を止め、バレットサークルを最小にまで絞り、引き金を引く。

 その一秒にも満たない時間の後には視線の先のプレイヤーの頭が弾ける。狙撃だ、そう気付かれたが遅い。余所見しているプレイヤーをすぐに発見し、一発、二発。弾道予測線に気付くことができず二人が倒れる。その弾でやっと気がついたのか、残りの七人が銃を構えて彼女を、シノンを撃つ。しかし、既にシノンは近くの物陰に隠れている。

 

「さぁて、後はあの二人に頼みましょ」

 

 スナイパーライフルを立てながら座り込んで果報を待つ。そして、シノンが物陰に隠れたその時には既に他の二人は、ツルギとユウキは動いていた。

 音もなく物陰から飛び出し、走り寄っているのはユウキだ。声も出さず、横からバヨネットを取り付けたシズを片手に、もう片手にはS&W。そのまま零距離まで近付いたユウキは無音でバヨネットを使って敵の首を刈る。

 

「なっ!?もう一人いるぞ!!」

 

 仲間が一人やられた事にやっと気がついた敵が一斉に銃口を向ける。ユウキは腰のグレネードを転がしてからバックステップで距離を取る。前方ではグレネードの範囲内の敵がグレネード!と叫んで退避し、銃を撃つ。

 だが、それだけの時間があれば十分。ユウキは急所を外し、弾ける物は弾いて弾幕の中を潜り抜ける。それに驚愕するプレイヤー達だが、その後ろには既に次の手があった。

 光剣を握り締めたツルギが後ろから一人の首を落とす。さらに気づかれる前にもう一人の心臓を焼く。

 

「もう一人だと!?」

 

 残り四人。ツルギは銃を撃たれる前に光剣を投げ、その軌道上の敵を焼き斬る。そして、すぐにAN-47、アバカンを構えて撃ちながら後ろへと引く。

 それにプレイヤー達も弾幕で応戦しようとする。しかし、それをユウキは許さない。

 ツルギの投げた光剣をキャッチし、呼吸を合わせて後ろから一人を暗殺。それに気が付いた一人がシノンの狙撃で倒れ、今度は狙撃かと銃を構えた一人をツルギが蜂の巣にする。残りは一人。その残りの一人はアサルトライフル片手に戦況を見て絶望をしている。その絶望を体現するかのように、ユウキは呼吸を合わせて後ろに回り込んでいた。

 

「ごめんねぇ、強くってさぁ!」

 

 最後の一人をユウキがS&Wで頭をぶち抜いて倒す。

 僅か一分にも満たない攻防で相手は全滅。十人分のプレイヤーからドロップしたアイテム、武器、クレジットが三人に平等に配られた。

 

「おっ、三十万クレジットも入ったぜ。流石上級者のパーティ潰すと入ってくる額がちげーな」

「相手もまさか、初心者にやられたとは思わなかっただろうね。ボク達、まだ始めてから三日だし」

「三日でほぼ百万クレジット。現実世界なら一万円よ?ボロ儲けだわ。これだからPKは止められないのよ……!」

「おいコイツ暗黒面に落ちてんぞ」

「初めからよ」

「それもそうか」

 

 このゲームは一ヶ月プレイするのに三千円かかる。が、既にこの三人は三日で一万円稼いでいる。つまり、実質タダでのプレイになる。パッケージ代もすぐに取り戻せる。これほど楽しめる無料ゲームがかつてあっただろうか。

 

「消費した弾は……シノンが四発か?で、俺がワンマガジン、ユウキが一発とグレネード一個」

「うっわぁ、一人だけワンマガジンも消費してるよ。ゲームやめたら?」

「貴様ぁ!!お前なんかダメージ受けてんだろうが!!テメェ人の事言えねぇだろうがよ!!」

「貴様ァ!なら一人で突っ込んでみたらどうなんだよアァン!?」

「やんのかゴルァ!?」

「そんな二人の間にインパクトグレネード」

『貴様ァ!!?』

 

 この煽り合いもいつもの。そして最後にツルギとユウキが爆発したのは初めて。

 GGOを始めてから三日が経った。ツルギ、ユウキ、シノンの調子はというと、絶好調以外の何物でもない。相手から金と武器を巻き上げ、最低限の補給を済ませ、そしてプレイヤーを狩る。そしてゲットした武器を、とエンドレスでやってればそりゃあ楽しい。ネットでは既に要注意人物として名を連ねているこの三人の動きはたまに撮影され、某動画サイトにアップされている。

 その際のコメントは大抵、コイツ等に狩られたとか、チーターとか、運営の回し者とか、クソゲー乙とか。最初の動画が出てから三日なのにこれである。

 中には検証のために殺されたプレイヤーもいたらしいが、三人はそんなのお構いなしに殺したし、検証したプレイヤーもコイツ等チート使ってねぇぞと気付きネットで少し騒ぎになり、通報したプレイヤーは何でBANされねぇんだよと憤慨する。正しくキチガイオンステージみたいな事になっていた。

 

「そういえば、あのミニゲームの攻略動画の再生回数はどんな感じなんだ?」

「数万再生だけど……簡単に言うなとか出来るか馬鹿とか人間卒業試験とか若者の人間離れとかチート乙とかお前らALOじゃなくてGGOに来たのかもう帰ってくんなとか。けど広告収集はうっはうはよ」

 

 シノンの目が$マークに変わっている気がするが、金とは正義だ。溺れるのも仕方がない。

 

「そうそう。そういえば、最近新しいダンジョンが発見されて、そこのボスがアンチマテリアルライフルを落とすらしいのよ」

「アンチマテリアルライフルか。欲しいのか?」

「建物ごとぶち抜けるし欲しいわね」

「んじゃ、取りに行くか」

 

 そんな訳で三人は初心者なのにも関わらず、新しいダンジョンのモンスターを狩りに行った。

 結果。

 

「おいシノン!こいつクッソ硬いんだけどぉ!?」

「ダメージ入ってる気しないんだけど!?」

「いやぁ……予想外だったわ。あ、弾切れた。んじゃ、私ここで待ってるから」

『貴様ぁ!!』

 

 シノンが弾切れ、相手が巨大、爆発物を殆ど持ってきていないという最悪の状況で光剣とバヨネットだけで戦ったため、三時間以上の戦闘となってしまった。

 兎にも角にも最後はほぼツルギ一人の頑張りによってボスは倒され、シノンはアンチマテリアルライフル、ヘカートⅡを手に入れることが出来た。

 

「テメェ、今度なんか奢れ……」

「分かってるわよ。いやぁ、まさかドロップ品がヘカートなんて思わなかったわ〜」

 

 ご機嫌なのか、シノンはアンチマテリアルライフルを抱えながら頬擦りしていた。珍しくテンションの高いシノンを見ると、二人もまぁいいか。となってしまう。

 が、しかし。

 

「……必要STR足りない」

『ざまあ!!』

「貴様等ァ!!」

 

 結局はお預けになってしまった。これにはシノンも両膝をついて項垂れた。しかし、約束は約束という事でシノンには後日、適当な喫茶店で食事を奢って貰うこととなった。

 

「……まぁ、ヘカートの事はさておいて。再来週にBOBが始まるみたいよ?」

「BOB……あー、バレットオブバレッツか」

 

 バレットオブバレッツ。それは、GGOの中で最強プレイヤーを決める大会と言っても過言ではない。その第一回。それはもう盛大に告知されていたため、ツルギとユウキも目にしたことはあった。

 

「第一回だし、優勝賞品は色々あるらしいわよ?クレジットに武器、それと現実世界でも色々と」

「現実でも?」

「そ。個人情報を入力したら配送してくれるらしいわ。確か、モデルガンとかじゃなかったかしら?ここオリジナルのレーザー銃の」

「ほぅ……限定物か。そりゃ普通に欲しいな」

 

 ゲームの中の物が、レプリカとは言え本当に手に入る。それはゲーマーからしたらかなり魅力的な報酬だ。

 

「でしょ?だから、三人で出てモデルガンは後で交換、商品ウハウハってのはどう?」

「さんせー。やろうよ」

「そうだな。いっちょやるか」

 

 この三人なら相手が裏側でなければ確実に勝てる。バレットオブバレッツは主に一対一。最後は各ブロックの決勝戦まで残ったメンツでのサバイバルになるが、一対一なら呼吸を合わせれば確実に勝てる。

 中にはチートだと呼ぶ者もいるだろう。だが、それに対してキチガイ達はこう答える。

 ごめんねぇ、強くってさぁ!対応出来ないのが悪い。初見殺しを見切れないのが悪い。避けれなかったお前が悪い。呼吸外しを出来ないお前が悪い。縮地を追えないお前が悪い等。正論に暴論で返すのがコイツ等だ。

 

「そんじゃ、今日はログアウトしましょ。今度リアルでなんか奢るわ」

「おう。んじゃ、またな」

「またねー」

 

 丁度街についた三人はログアウトし、現実世界へと戻った。今度の目標はBOBだ。罪無きゲーマーがリアルチートに蹂躙される日は近い。

 

 

****

 

 

「まぁ、色々あってGGOやってる新川君を連れてきたけど異論ある?」

『ボッチな詩乃が男連れてきた事だけに驚いた。ボッチな詩乃が』

「上等だ殺してやる」

「やべぇ逃げなきゃ」

「ちょっと沸点低すぎませんかねぇ……」

 

 数日後。建斗と木綿季に食事を奢るために詩乃は二人を適当な喫茶店に呼び出した。そして、喫茶店へとやってきた二人は詩乃が連れてきた新川という青年を見て驚愕し、今に至る。

 余りにも失礼だったため、詩乃が若干切れたがこのやり取りもいつもの事だ。喫茶店なのであまり叫ばずに一旦落ち着く。

 

「で、この人がGGOをやってる同級生の新川恭二君よ」

「えっと……新川恭二、です?」

「何故疑問形……まぁ、いいけどさ」

 

 あ、すいませーんと店員を呼び止め、色々と注文しまくる建斗と木綿季。奢りだからとかなり調子に乗っているが、詩乃も最近は色々とあり、金には困ってないため自分も便乗して色々頼む。新川だけが特に何も頼んでいない。

 

「あー……ちょっと私、お花摘んでくる」

「素直にトイレって言えよ。何時も普通に……」

「ア゛?」

「す、すんません……」

 

 流石に年頃の女の子にこういう事を言うのはデリカシーが無かったと建斗は口を塞ぐ。謝る時は素直に謝るのがキチガイだ。

 お花摘みに詩乃が行ったことで特に関わりのない建斗と木綿季と新川の三人がお見合いのようになった。建斗と木綿季は特に何も言わずに水を飲んでいるが。

 

「ね、ねぇ、君達……朝田さんとはどんな関係なんだい?」

「詩乃とか?俺は……まぁ、昔からの腐れ縁か?引きずり込んだのは俺だしなぁ……」

「ボクもそうかなぁ。あ、後は頼りになる先輩かな?なんやかんやで勉強の教え方とか上手いし」

 

 新川の問いに二人は素直に答える。そうなんだ。と新川はそれに頷き、続けて二人に問う。

 

「じゃあ……朝田さんの秘密については……」

「あー?詩乃の秘密?」

「詩乃の秘密かぁ……」

 

 二人の言葉は少し躊躇っているような感じに見えたが、内心は違う。

 何処から何処までが秘密なのか、そして何処まで喋っていいのか。まさか拳銃にトラウマ抱えるレベルの事件に巻き込まれて今は地下で元気にスナイパーライフルの射撃練習してますがなんて言える訳がない。

 そんな風に悩んでいると新川は満足したのか、そっか。と答えた。

 

「君達は本当の朝田さんを知らずに……」

「何だって?」

「いや、何でもないよ」

 

 建斗は惚けたが、この二人に小声が聞こえない訳がない。

 本当の朝田さん。本当の詩乃。そんなの心当たり有りすぎて逆に笑える。どうやら新川は二人の真相とは真逆の解釈をしたらしい。

 まぁ、そこまで困るものではないし黙っておこう。と二人は水に口をつけながらアイコンタクトでやり取りした。

 だが、二人はすぐに新川の目を見てその意見を取り止めた。

 

「……木綿季」

「分かってる。あの目はちょっと危ないね」

 

 二人は小声で会話をする。新川の目。それは、とてもじゃないが正気の人間の目では無かった。どちらかと言えば、狂信者のような、そんな目だ。

 

「……新川。悪いが、俺は詩乃の秘密を全部知ってる。銀行強盗の件もな」

「ッ」

「何を思ってるのかは知らないから言っておくよ。『余り詩乃の奥底には触れない方がいい』。君の知っている事から先は、特にね。勿論、ボクと建斗のにも。もしも触れたら最後――――」

 

 ――――死ぬよ?

 木綿季の声無き忠告は届いたらしく、新川の顔色が真っ青になる。

 恐らく、新川が知っているのは『詩乃が銀行強盗相手に拳銃を撃って人を殺そうとした』事だ。裏の事は何も知らない。

 もし裏の事を知れば。新川は詩乃からしたら話の合う同級生ではなく、秘密を知った抹殺対象へと一瞬で変わる。詩乃はそれが出来るように既に訓練されている。

 知り合いが抹殺対象になっても任務を遂行できるようにする。これは裏の人間では当たり前の事だ。だから、詩乃は知り合いである新川だって殺せと言われれば殺せるし、建斗と木綿季も殺せと言われれば殺す。

 

「……GGOで知り合ったって事は、大方詩乃が拳銃の実物を撃って人を殺そうとしたって所にでも惹かれたか?」

「ッ……」

「ビンゴだね。あーいるよね。そういう人。偶に見る見る」

 

 つまんねーとでも言いたいのか二人は溜め息をついて届いたケーキにフォークを受け取った。

 

「……だ、だって凄いじゃないか……本物の拳銃を撃ったんだ。それで人を殺そうとしたんだ。そんなの普通の人には出来ないじゃないか!」

「ふーん……人殺しがそんないいか」

「だって、本物の正義の味方みたいじゃないか!朝田さんはその凄さを分かってないんだ……」

「……人殺しを誇れるなんてハッピーな頭してるよね、君」

 

 木綿季が呆れながらも新川へ言った。

 

「ならボク達が今から人を一人殺そうか?このフォークで」

「……は?」

 

 木綿季がフォークをプラプラさせながら新川へと言った。だが、建斗が目的が違うだろうがとゲンコツを落とす。

 

「いって……」

「新川は『悪を成敗しようとした詩乃』に憧れてんだ。その過程にコイツの好きなモンが敷き詰められてたに過ぎない」

「あー……そっか。銃を使って悪を撃ち殺そうとした詩乃に憧れてるのか」

「そういうこった」

 

 そういう事だろう?と言わんばかりの建斗の言葉に新川はたじろいだ。

 図星だった。建斗と木綿季の言葉は全て合っていた。だからこそ、新川は詩乃へ近付いたし、GGOをやってると知ってもっと近付きたいと思った。

 それをカンパされ、新川は何も言えなかった。訂正も出来なかったから。

 

「……おい新川。あまり人殺しを美化するな。人殺しは正義じゃ無い。悪だ。これは変わらない」

「人殺しは『悪』を裁くための『絶対悪』なんだよ。決して『正義』じゃない」

 

 人殺しとは『正義』ではなく『悪』。二人はそれを忘れることは無い。

 人殺しとは『正義』で裁けない『悪』を裁くための『絶対悪』であり『最終手段』。この前殺した須郷も、正義では裁ききれない悪だったからこそ、絶対悪の二人が動いた。

 だから、人殺しを憧れるな。二人はそう言う。正義ではなく絶対悪を受け入れる。普通ならば選ばない道を選ぶ。

 だからこその、気違い。普通の人間が行かない道を正気で進むからこそ、人は彼等を気違いと呼ぶ。新川のやっている事は、気違いへの憧れだ。

 

「……それでも、僕は……」

「お前がそう言うんならそれでいい」

「けど、それは何時か自分を滅ぼすよ」

 

 新川はそれに黙りこくる。その言葉には若干の心当たりがあったから。

 SAO。それにログインした新川の兄はログアウト後は人が変わった。ラフィン・コフィンというギルドで人殺しをしていたのは聞いた。自慢話のように聞かされた。新川はそれを聞いた。何度も聞いた。

 それからだろうか。詩乃への思いが徐々に過激になってきたのは。

 

「殺人は……悪……」

「そうだ。それを犯した者は一生それを背負う。そして乗り越える。生きるために必要だったってな」

「それを誇るような人間はただの小悪党。それを仕事にして気にしてないのは狂人にして絶対悪。カッとしてやるのは馬鹿」

 

 一息つくために運ばれてきたコーヒーを飲む木綿季。その苦さに少しだけ顔を顰めたが、すぐに表情を戻した。

 

「動物だって同属同士で殺しあったり食い合ったりなんて殆どしない。俺達もその殆どに入るんだ。だから、お前の認識をゆっくりでいいから直していけ」

 

 建斗もコーヒーを飲んで一息つく。新川はそれを見て何とも言えない表情をしている。

 その時、人気のない時間帯にも関わらず数人の客が団体でやってきた。五、六人か。何とも雰囲気が小悪党というか馬鹿っぽい。

 建斗と木綿季は気にせずケーキを食う。が、新川はその五、六人を見て顔を青くし、俯いた。

 

「木綿季」

「苛めに一票」

「俺もだ」

 

 入ってきた青年達はこっちへ目を付けると、新川を見つけたのかニヤニヤしながら歩いてきた。

 あーめんどくせー。と二人は呟き他人のふりをする。

 

「よう新川クーン?こんなトコでなにしてんだ?」

「い、いや、僕は……」

「ちょっと俺等と遊ぼうぜ?」

 

 新川は助けを乞うように建斗を見る。しかし、建斗はそれをのらりくらりと避ける。

 

「お持ち帰りならお好きに」

 

 別に建斗はそういうのを見逃せないとかそういう質ではない。知り合いや友人がリンチになっていたら助けに行くが、今日会ったばかりの男にかける情けはない。

 新川は肩を組まされて立たされ、そのまま店の外へ連れて行かれる。その直後、入れ替わるように詩乃が戻ってくる。

 

「遅かったな」

「途中でお腹痛くなってね……消費期限切れた牛乳なんて飲むんじゃなかったわ……」

「いや馬鹿だろお前。前から思ってたけどお前の頭一部が馬鹿だろ」

 

 失礼な。と言いながら詩乃はコーヒーに口をつける。

 

「……で、新川君は?」

「カツアゲに一票」

「ストレス解消に一票」

「ふーん……じゃ、ちょっと引取りに行ってくるわ」

「おっ、やさしー」

「一応知り合いだし」

 

 詩乃はコーヒーを一気に飲んでから面倒くさそうに立ち上がった。そして歩き始める前に建斗がそれを止めた。

 

「コレ、使ってくれ。ペイントのやつ」

 

 建斗は握り拳の人差し指と親指を立てて詩乃へ伝える。あー、はいはい。と詩乃は自分の服の内側を確認する。

 

「まぁ、新川君の事もあるしそれでやるわ」

 

 なんだ、知ってたのか。という建斗の声を無視してすぐ戻ってくるわ。と詩乃は一度服の内側に手を突っ込み、何かを取り出すとポケットに突っ込み、そのまま手をポケットに突っ込んだまま外へ出て行った。

 建斗と木綿季はやる事が無くなったため、自分の分のケーキにフォークを刺した。

 

 

****

 

 

 新川は同じ学校の不良に肩を組まれてそのま路地裏まで連れて行かれ、行き止まりで蹴られてそのまま尻餅をついた。

 なんで今日に限って。新川の内心を馬鹿にするように不良達はニヤニヤと笑っている。

 学校でもコイツ等にいいストレスの吐き場にさせられ、ただ詩乃に会いたい一心だけで生きているのに、なんでこうなるんだ。新川はもう泣きたくなった。

 そして、不良が口を開く前に、違う声が聞こえてきた。

 

「そこまでにしといたら?みっともないわよ、アンタ達」

 

 その声は、新川がヒーローとして憧れ、そして恋い焦がれる少女の声だった。

 

「朝田さん……?」

「新川君。今からあなたがずっと憧れてきた正義ってやつ……その真実を見せてあげるわ」

 

 靴音を鳴らしながら詩乃が路地裏の入り口から歩いてくる。不良達はたかが女一人、とナメている。

 

「おいおい、コイツ、あの殺人犯じゃないか?」

「そうだそうだ。俺達殺されちゃーう!とか言っちゃって!」

「じゃあ死んだら?」

 

 悪ふざけの声の中で聞こえた女性特有の高い声。その直後、乾いた音が響いた。

 パシュッ。そんな空気の抜けた音だった。それが聞こえた瞬間、殺されると言った不良の額から赤色の液体が飛び散り、そのまま倒れた。

 

「……え?」

「まず一人」

 

 詩乃は片手を突き出していた。その手には、煙を上げる、日常生活ではそれの本物を見ることが無い。そんな非日常的な物が詩乃の手には握られていた。

 拳銃。サプレッサーが取り付けられた拳銃が詩乃の手には握られていた。

 

「安心しなさい。これは本物……撃たれたと思ったら夢の中よ」

 

 パシュッ。またもう一発撃たれた。次の旬感、もう一人が額から赤色の液体を飛び散らせて倒れる。

 

「な、何だよコイツ!!」

「マジでやべぇぞアイツ!!」

「ひ、人殺し!!犯罪者!!」

「残念。もう人は殺し慣れてるのよ」

 

 再び銃声。それだけでまた一人の額から赤色の液体が飛び散る。

 

「じゃ、サヨナラ」

 

 そして二発。それだけで残っていた二人が倒れた。詩乃はそれを確認すると、銃を持った手を下げて新川の前に立った。

 

「あ、朝田さん……もしかして、僕を助けに……」

「あとは貴方だけよ。新川君」

 

 え、なにを?そんな新川の間抜けた声が口から出る前に、詩乃は拳銃を新川へ突き付けた。

 

「残念だけど、これを見られたなら殺すしかないのよ。例え知り合いでもね。だって口封じってこれが一番楽だし」

 

 詩乃の目は冷たい。最早、新川を人として見ていない……そんな目だった。

 

「な、なんで……!?」

 

 詩乃は正義の味方だ。悪をその拳銃で成敗するヒーローの筈だと新川の中での詩乃の理想像と今の詩乃の認識が噛み合わない。

 今の詩乃は、悪人だ。人を殺してサッサと全てすませようとする、自分勝手な悪だ。

 

「これが貴方の抱いた偶像の正体よ。目的のためならどんな人間も殺す。これでもまだ私が正義に見える?」

 

 見える訳がない。人殺しを目的を済ませる手段の一つとして見ている人間が、正義になんて見える訳がない。

 

「殺人犯?大いに結構。人殺し未遂?もう遅いわ。正義?人殺しは悪。これは世界が変わらない限り有り得ないわ」

 

 詩乃は一旦マガジンを外してマガジンを確認する。もう弾が無いのか少ないのか、服の内側からマガジンを取りだすと拳銃に差し込む。

 

「じゃあね、新川君。あなたの好意、気付いてたけど私は友人としてしか見れなかったわ」

「い、嫌だ!死にたく……」

 

 パシュッ。人の命を奪う事すら容易い音が新川の耳へ響いてきた。

 が、直後、聞こえてきたのは自分の内側を破壊する音ではなく、絵具が地面に落ちたかのような音だった。そして、新川もまだ意識がある。

 

「……え?」

 

 新川が目を開く。目の前の光景は先程と同じで、横を見てみればそこには赤色の液体が広がっていた。

 

「鎮圧用ペイント弾。何の用途があって作られたのか私にも分からない弾よ。頭に当たっても気絶するだけで死にはしないわ」

 

 詩乃は拳銃を服の内側へと仕舞い、ハンドタオルを取り出して新川の顔の横を素通りして地面に当たった鎮圧用ペイント弾を回収する。

 

「まぁ、多分訓練のためでしょうね。当たれば痛いしペイント弾としての効果もある。難点はこの専用のハンドガンじゃないと撃てないことね。弾が大きいもの」

 

 詩乃は淡々と説明しながら不良達の額に当たった弾を証拠隠滅のために回収してポケットに仕舞った。新川はまだ立てずにいた。

 

「新川君。これが貴方の憧れた物。分かったら私に憧れるのはやめなさい」

 

 詩乃はそう言うと、そのまま背中を向けて去って行った。

 確かに詩乃は正義ではなかった。きっと、あの銃は実物だ。突き付けられた時に見えた銃口には本物にしかないライフリングがあった。

 だが、それは関係無い。あの一連の詩乃が、確かに悪だったが新川には格好良く見えた。

 ダークヒーロー。なんやかんやで助けてくれた詩乃は新川の目にはそう見えた。だからだろうか。胸の動悸が今までよりも強まったのは。

 

「ま、待ってよ、朝田さん!」

 

 詩乃の言葉からして、人殺しは何度かした事があったのだろう。だが、新川はそれでも気にしない。

 格好良い憧れの女の子。新川の中の詩乃の像は変わらなかったが、今までの、悪を成敗しようとしたヒーロー、というのとは少しだけ違った。

 自分をなんやかんやで助けてくれた格好良い憧れの女の子。そんな憧れに変わっていた。

 だから、兄から引き付けた殺人計画の立案は、取り止めよう。あの子に幻滅されないために。少しでもあの子に近付きたいから。新川は心の内を新たにして去って行く詩乃を追った。

 

「あ、でも拳銃見られたからどっちにしろ口封じしなきゃいけないのよね。どうする?新川君。いっぺん死んでみる?」

「い、いや、遠慮しとくよ……ちゃんと黙ってるからさ……」

「そう。ならいいけど。ただ、何か問題起こしたら私が直々に殺すから」

「そ、それは勘弁して欲しいかなぁ……」

 

 ただ、詩乃の事は殺されかけたためか、恐ろしいとも思うようになった。




新川君生存ルート。新川君の中の理想像がぶっ壊された後になんやかんやで助けてくれたという理由で好感度上がった結果、人殺しは悪い事だし怖い事だけど詩乃はカッコいいから別って感じになりました。ついでに、殺される側の気持ちを知ったため、殺人計画は捨て去ったようです

ちなみに、詩乃もとっくに殺人処女は捨ててますよ?建斗と木綿季が捨ててるのに捨ててないわけないじゃないですかやだー

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