現代の修羅、VR世界で暴れる   作:黄金馬鹿

12 / 18
いよいよALO編も大詰め。あ、これが終わったらGGOにこいつらは殴りこみます(ネタバレ)

あと、一時間ちょっと前にもう一話投稿してるのでそちらから、どうぞ


そのじゅーに

 転送された場所は小奇麗な通路だった。そこへ手を繋いで下り立った七人と一匹は何が起こったのか分からないまま呆然としていたが、その内の一人が父親の髪の毛に潜り込んで上半身だけを出し、一匹が主の頭の上に乗った。

 

「な、何ここ……」

 

 その中で唯一リーファだけが困惑を声にして顕にしたが、残りの五人はその場に座りこんだ。

 

「ちょっ、みんな!?」

 

 リーファの声に五人は反応できない。全員がまるで高熱に魘されているかのような表情でその場に座り込み、荒い息を整えようとしている。

 体は辛くない。だが、代わりに気力が沸かない。いや、使い切ったかのように空っぽだ。立つための気力すら彼等にはもう残されていなかった。

 間違いなく、先程の仮想世界を塗り替える程の気迫をずっと出し続けたせいだ。きっと、現実でこれほど疲れていたら、玉のような汗を地面に流しながら顔を蒼白にして座り込んでいた事だろう。

 リーファもそれが何となく察せたのか、気休め程度に回復魔法をかける。しかし、五人の疲れは精神的な物であり、回復魔法ではどうにもならない。

 それから数分間回復に努め、まだ五人は息が荒い状態で立ち上がった。そして――――

 

「なんか斬撃飛ばせたんだけど……」

「ボクもノリで飛ばせたんだけど……」

「私もなんか凄い矢を射ってた……」

「俺もソードスキル使えた……」

「私、多分音速の数倍の速さで走ってました……」

「全員無自覚でやってたの!?」

 

 先程の光景が全て無意識の内にやっていたという告白に誰よりもリーファが驚いた。

 

「いや、なんかさ、出来るかなーって思ったら出来ちゃってさ……」

「ボクもツルギがやるんならやれるって思って……」

「私もなんかこう、凄いの出ろって思ったら出た……」

「俺もなんかやれる!って思ったらやれた……」

「私ももっと速く走りたいって思ったら……」

「その時の気分だけでゲームバランス壊しにかからないでくれるかな!?」

 

 流石にリーファもツッコミに回らざるを得ない。しかし、この五人が起こした気分によるゲームバランスの崩壊が全員無事での到着を達成させたのだ。そこは褒められる点ではあるのだろう。そもそもクリア自体が奇跡な訳で。

 

「ほらほら、早くしないと忍者さんが動いちゃうんでしょ?特にお兄ちゃん。早くアスナさんに会いたくないの?」

「そう言われると俄然やる気が出てくる」

「全くもう、お兄ちゃんったら……」

 

 現金な兄に苦笑するリーファだが、キリトには分からないが他の四人には分かった。やはり、リーファは少しだけ無理をしている。

 想い人であり、一番一緒にいる時間の多かった義兄が恋人を、妻を助けに行く。それがどれだけ辛くて苦しい事か。きっと、シリカやシノンよりも辛い事だろう。

 彼女は既にキリトとアスナの関係を知っている。そしてユイの存在についても知っている。それなのに今、こうしてキリトの想い人を共に助けようとしている。

 

「アイツは将来いい女になりそうだ」

 

 ツルギは誰にも聞こえない音量でそう呟き、走っていく仲間の後ろをついていく。

 先導をピナに乗ったユイに任せる。この空間は一体どうなっているのか分からない。だから、一番詳しいとは言えないが、この空間の情報をすぐに読み取り反映させる事ができるユイを先導とさせる。勿論、何かあってもいいようにユイの後ろには最速のシリカがついている。

 そしていくつかの壁を抜けて走り、そして道は巨大な木の枝へ。その先には、鳥籠がある。

 

「アスナ!!」

 

 キリトが叫びながら走る。飛行制限という邪魔な物を縮地で振り切り、一気に鳥籠の外へ。そして、その中には、栗色の髪の妖精がいた。

 

「キリトくん……本当に来てくれたんだ……」

「当たり前だ!俺がアスナを放っておく訳ないだろ!!」

 

 アスナ。キリトの最も大切であり最愛の人物が。白色のドレスを身に纏ってそこに立っていた。

 ユイが妖精の姿のまま鳥籠に取り付けてあるパスワード式の鍵を開き、そして人間の姿へ戻ってキリトと共にアスナに抱き着く。

 

「キリトくん!ユイちゃん!」

「アスナ!」

「ママ!!」

 

 親子の感動の対面。まさしくその言葉が相応しいだろう。

 だが、それだけでは終わらない。終われない。

 

「キリト!その人を連れて端へ行け!後は俺達に任せろ!」

 

 すぐにツルギ、ユウキ、シリカ、シノンが三人の壁となるように立ち塞がり、リーファも三人の前に立つ。

 なに、一体どういう事?と困惑するアスナを他所に、キリトは後は任せてくれていい。とアスナに優しく囁き、アスナとユイの肩を抱き寄せながら五人の背中を見つめる。

 その瞬間、体の重さが数倍となる。

 

『ッ!!?』

 

 咄嗟の事に反応出来ず、五人のキチガイが地に膝を付き、アスナは空から飛び出た鎖と手錠に腕を掴まれ無理矢理立たされ、リーファとピナはそのまま倒れてしまう。そして、ユイの全身がまるでポリゴンが崩れていくかのように崩壊していく。

 

「ユイ!」

「ユイちゃん!?」

「だ、大丈夫です……け、けど、私は一旦パパのアミュスフィアに避難します……ごめんなさい……」

「大丈夫だ。次ぎ目が覚めた時は全部終わらせておくから。ユイはゆっくり休んでろ」

「はい……ママを、絶対に助けてください……!」

 

 そして消えるユイ。だが、心配はない。これが終われば何時でも親子三人で一緒だ。

 膝を付きながら前を見れば、そこには下衆顔を浮かべた金髪の妖精がいる。

 

「ほぅ、この魔法を受けてもまだ倒れないか……調整不足だったか?」

「やっと出てきたな……オベイロン。いや、須郷!!」

 

 ツルギが叫びながら剣を抜く。しかし、膝を付いたままだ。

 妖精王オベイロン。ゲーム内では辿り着いた種族をアルフへと変える役割を持つ。が、ここでは違う。

 須郷伸之。SAO未帰還者事件の黒幕にして裏で人の感情を使った実験をくり返す畜生。そして、ここに居る妖精七人の、殺すべき相手。

 

「ククク……重力が数倍にはなっているのに大した威勢だな」

「そういうお前からは小物臭しかしないけどね」

「というかゲス臭」

「ロリコン臭」

「加齢臭」

「貴様等……この状況で私を罵倒するとどうなるか、その身を持って思い知らせてやる!」

 

 そして須郷がコンソロールパネルのような物を召喚し、何かをスライドさせた瞬間に全員の体にかかる重さが更に倍になる。それに全員の口から呻き声が漏れる。

 ざっと全身が五倍か、それ以上の重さになっている。全身に軍隊のフル装備に加えて人を何人も背負っているような重さだ。しかし、踏ん張り膝をつくに留まっている五人の足元は僅かに陥没しており、どれ程の重さに耐えているのかが分かる。

 

「これは今度実装しようと思っていた重力魔法なんだが……どうだ?調整を放棄した魔法を受けた気分は」

「こ、こんなの、屁でもねぇなぁ……!」

「たかが重力如き増やしただけで……粋がってるんじゃないよ、このゲス野郎……!」

 

 須郷の目的は全て知っている。だからこそのこの言葉だ。だが、それが須郷の何かに触れたのか、須郷は怒りに塗れた醜い表情を隠そうとせずにユウキへ近付き、胸倉を掴んでそのまま放り投げる。

 そして、空を一瞬舞ったユウキの体が地に触れた瞬間、ユウキの体が床に陥没し、身動きが取れなくなる。

 

「女に手を上げるかよ……やっぱゲスだなテメェ」

 

 そう言いながらツルギは鍛冶魔法の応用で収納していた刀剣を発射しようとするが、魔法は発動しなかった。

 

「ククク……まさか王の御前で魔法を使えるとでも思ったのか?」

「そうやってシステムに守られなきゃ何も言えないなんて……軟弱過ぎて笑えるわ」

 

 その瞬間、須郷の腕に矢が突き刺さる。シノンだ。シノンが重力に縛られながらも弓矢を構え、射った。だが、震える手で射ったからか、シノンの矢は急所でも何でもない腕に当たった。

 須郷はそれをつまらない物を見る目で引き抜き、シノンへと近付くが、シノンは次の矢を構えていた。

 

「弓兵が早射ちできないと思った?」

 

 そして再び射られた矢は須郷の顔の横を通る。須郷はそれを見てお前は最後だ、と舌打ちをしてからキリトへ近付く。

 

「おっと、その前にこいつのレベルを下げておくか」

 

 わざわざ須郷はペインアブソーバーのレベルを下げてっと。と声を出しながらホロウィンドウを操作し、再びキリトへ近付く。

 

「どんな気持ちだ?黒の剣士様ぁ?」

「……」

 

 キリトは何も答えない。そして、それを見た須郷がキリトの顔を蹴り、キリトの地に伏せさせる。そのまま須郷はキリトの頭を踏み付けるが、キリトは何も言わない。

 

「どうした?悔しくて何も言えないか?」

「……」

「黒の剣士様もこうなっちゃあ無様も無様!所詮は生意気なガキだ!」

 

 どんな罵倒が来てもキリトは何も答えない。表情を伺えない須郷は舌打ちをするとキリトの顔をもう一度蹴ってからアスナへ近付く。

 

「まぁいい。ならそこで見ている事だな。お前の大切な人が犯されるのをな!」

 

 須郷はこの日一番の下衆顔を披露しながらアスナへと近付いていく。アスナは須郷を睨んでいるが、動けない。身動ぎすら相当な体力を使う重力の中では抵抗なんて出来やしない。

 

「このっ……!!」

 

 それを見てリーファが動こうとする。だが、リーファは動けない。アバターの力を使っても動く事は叶わず、逆にペインアブソーバーのレベルを下げられた事で何倍もの重力の中を動こうとした事で全身に自重による激痛が走り、地に伏せる。

 リーファがせめてこの剣を、と腰の片手剣に何とか手をやる。

 そして、須郷がアスナとの距離をほぼ完全に詰める。

 

「さぁて、どうやって……」

 

 須郷がアスナの顔を見ながらそう呟き、アスナへと触れようと手を伸ばす。

 ――――だが、その手は横から伸びてきた手に掴まれ、阻まれた。

 

「わりぃな、もう我慢出来ねぇわ」

 

 その瞬間、須郷の手が思いっ切り引っ張られ、地面に背中が叩き付けられる。

 

「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 ペインアブソーバーのレベルを下げていただけに、須郷の背中には激痛が走る。

 その須郷の視線の先には、完全にキレた表情を浮かべる黒の剣士が……キリトがいた。

 

「な、何で動ける!!?」

「俺達は自分の十倍近くの重さの重りを着けた状態でも普通に日常生活は送れるもんでな。それに、自分の身体へかかる重さと力を分散させる事が出来ない訳がないだろうが」

 

 そうだろ?お前ら。とキリトが声を投げかけると、ツルギが、ユウキが、シノンが、シリカが、平然とその場で立ち上がる。

 

「おいシノン、お前触られたくないからって動くのは止めろよ。バレたかと思ったじゃねぇか」

「あんなのに触られたくないわよ。ユウキはよく許したわね?」

「あの一瞬は寝てたよ。流石に鳥肌立ったけど。シリカも嫌でしょ?」

「もし触られたら全身を解体してたかなー。臓器含めて」

 

 その瞬間、須郷の表情が驚きに染まる。こんなの、開発者の間で重力を増やすのは流石にヤバイんじゃ?と言われここまで実装を渋ってきた魔法だ。通常の出力でも動けなくなるのに、最大出力でピンピンとしているのは、異常以外の何物でもなかった。

 

「後、ついさっき悪ふざけと言わんばかりの表情でとある天災がある物を寄越してくれてな……さっき黙ってたのはそれが原因なんだけどよ……」

 

 ニヤニヤとしながらキリトはその寄越された物を口にした。

 

「システムログイン。ID、ヒースクリフ」

 

 その瞬間、キリトの周りには小さなホロウィンドウが現れた。須郷はそれを見た事があった。

 GM権限を持つ者だけが使えるウィンドウ。更にその一つ上のクラスの者しか見ることが出来ないそれをキリトは展開した。ヒースクリフの名と共に。それは即ち、このALOの、SAOのコピーサーバーであるこのゲームの絶対的な権限者がログインしたという事。

 それは即ち、何者かが介入した。この仮想現実の世界に一番詳しく、チートレベルの頭脳を持った天才が。そんな人物、一人しかいない。

 

「か、茅場ァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 須郷の叫び。それを聞いてキリトは今までの鬱憤を晴らすかのような笑みを浮かべ口を動かす。

 

「GM権限により、妖精王オベイロンからGM権限を破棄!そしてペインアブソーバーのレベルをゼロにし、この空間でのオベイロンによる魔法を全てロック、デリートする!」

 

 キリトの言葉にALOは反応し、須郷からGM権限を奪い、ペインアブソーバーを完全に機能しないようにしてから須郷の使った魔法をGM権限を使って消し去った。

 そして、全員の体が重力の束縛から逃れ、アスナとリーファの苦しそうな顔も安らぐ。

 キリトはそのままアスナを拘束していた手錠を丁寧に外す。

 

「こ、このガキがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 須郷は完全に理性が切れたのか、キリトへと殴りかかる。

 だが、それは残像を残しながら現れた一人の少女に取り押さえられる。

 

「キリトさん、これに数回の蘇生をお願いします。全員で一回は殺すので」

「おうよ。オベイロンに蘇生回数を四回に設定」

 

 そして須郷には命のストックが与えられ、飛行制限を無視したキリトがアスナを抱えてゆっくりと飛び、リーファの隣に下ろす。

 

「アスナ、少し待っててくれ。ちょっとあのクソ野郎にお仕置きしてくるからさ」

「うん……私の分もお願い、キリトくん」

「任せとけ」

 

 キリトはアスナを抱き締めながらそう囁くと、片手にブラックプレートを持って立ち上がった。

 

「オブジェクトID、エクスキャリバーをジェネレート」

 

 そしてキリトはもう片方の手にエクスキャリバー……この世界で最高級の片手剣を呼び出すと、須郷へ向けて投げた。

 シリカは既に須郷から退き、準備体操のような物をしている。

 

「使えよ、須郷」

「な、なに……?」

「これからお前には俺達と戦ってもらう。それまではログアウトもさせない。お前が無傷でこの場から去る方法は俺達を全員倒すだけだ。ほら、やってみろよ。そのチートレベルのアバターで俺達をな」

 

 ペインアブソーバーがない今、アバターの受けた痛みはダイレクトで伝わり、もし腕が切断されたりしたなら、現実世界でも流石に切れはしないものの、腕が動かなくなるレベルの後遺症は発生するだろう。

 だが、今の須郷はこの世界で最高レベルの能力値を持つオベイロンの姿だ。たかが一般アバターのプレイヤーに勝てる存在ではない。

 それが分かっている須郷はニヤけながらもエクスキャリバーを手に取った。

 

「この俺をここまでコケにした罰、貴様等に償わせてやる!!」

 

 須郷が下衆顔を披露しながら素人丸出しの構えを取る。

 そして、それはつまり、処刑が始まる事を意味していた。




キチガイが動けないかと思った?残念!演技でした!精一杯の演技でした!!

五人の中では一番温厚なキリトさんでも嫁を触られるのは流石にブチ切れる様子。まぁ、こいつ等の目的って須郷を呼び出したら時間稼ぎするだけだったので、こうやって演技した方が時間稼げるわけで

あと、ここでネタバレ。須郷は何回か死にます(暗黒微笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。