「なぁ、俺、昨日のログアウト直後辺りから記憶がないし全身痛いんだが……」
「気のせいでしょ。女の子の心が分からない馬鹿の事なんて知らないよ」
「お、おう……?」
翌日。目が覚めた建斗は前日、木綿季にフルボッコにされた事を覚えておらず、しかも外で目を覚ました。親に聞いても何も言ってくれないので部屋に出没する頻度が多い木綿季に聞いたものの、木綿季が教えるわけもなく、真実は迷宮入りになった。
しかし、翌日になったということは今日は作戦決行の日。つまりは今日でSAO未帰還者達を全員解放する。そのために既に裏の方は忍者が準備を終え、作戦決行となる夕方を待っている。そして、それは建斗達のグランドクエストクリア……つまりはA LOのクリアとなる日でもある。
備えは既に万全。あとは結果を御覧じろ。和人は今頃アスナのお見舞いに、珪子と詩乃は一旦家でアバターの体を動かして調子を確認しているだろう。そして、建斗は裏の仕事の打ち合わせを行っており、木綿季はそのサポート。各々の時間を過ごして集合の時を待っていた。
そして、時間はあっという間に過ぎていき、夕方。何時もの五人と直葉を含めた六人は既に建斗の部屋に集まっており、作戦決行の時間を待っていた。しかし、その中で和人だけはかなりピリピリとした雰囲気を醸し出していた。
「……和人、どうしたんだ?」
「……アスナの親が須郷って奴とアスナを婚約させたらしい。アスナが目を覚ませば消されるらしいんだがな……」
「ブッ!! ?」
その瞬間、建斗が口にした飲み物を一気に吐き出した。それは笑いからではなく、タダの驚きから。それを真正面から浴びた木綿季は静かに木刀を取り出したが、それに肌寒い物を感じた建斗はガチ謝りをして、木綿季は納得したのかそのまま自分の家で着替えるために去っていった。
和人はなんだよ。とかなり不満な顔をしていたが、建斗は暫し悩み、そして暗黒な笑顔を浮かべると和人に真実を教えた。
「今回の黒幕、その須郷って奴でさ!!」
「よし殺そう!!」
ちなみに、アスナと須郷が婚約させられたと聞いたとき、和人はかなり上の空で直葉も和人の目を覚まさせようと必死だったため、須郷の自白は完全にスルーしていた。しかし、ここで和人の須郷=妖精王オベイ ロンに対する殺意が完全にマックスになった。これで和人のコンディションは限界突破した。
まさかこんな所で和人のコンディションを更にあげられるとは思わなかった。そしてそこで着替えた木綿季が復帰してきて六人全員でアミュスフィアを被った。
「木綿季!俺たちの今回の目的を言ってみろ!!」
「金!暴力!殺戮!!」
「上等!!詩乃、目につく敵はどうする!」
「サーチアンドデストロイ!!」
「正解だ!和人、黒幕はどうする!!」
「ぶっ殺す!完膚なきまでに全力全開で惨たらしくぶっ殺す!!」
「その意気だ!!珪子、要約してみろ!!」
「キルゼムオール!!」
「その通りだ!!野郎共、準備は出来たな!」
『イエエエエエエエエエエエイ!!』
「キルゼ ムオール!!」
『キルゼムオール!!』
「よし、忍者には連絡を送った!!なぐりこみじゃあああああああああああああああ!!」
『リンクスタート!!』
そして仮想現実に殴り込んでいった五人。
「……えぇ……何このテンション……」
直葉だけはこのノリについて来られず一人静かに仮想現実に潜っていった。
****
そして数分後の世界樹。何時も誰も居らず、静かな場所に六人の妖精が舞い降りた。そして、世界樹の中へと入るための扉の前に六人のうち五人は走りながら迫っていき……
『ダイナミック・お邪魔します!!』
そのまま蹴破った。そして五人と後から入ってきた一人にはグランドクエスト開始を伝えるホロウィンドウが現れるが 、五人はそれを叩き割りそのまま敵のいない上へと飛んでいく。
「陣形を組んで出来る限り距離を詰めるぞ!!」
ツルギの言葉に四人がそれぞれあらかじめ決めていたフォーメーションを取り、何とかリーファが追い付く。
桐ヶ谷兄妹、一番上へと辿り着かなくてはならない男と唯一のヒーラーを中心とした遊撃。ツルギとユウキの二本槍に加え後ろからのシノンの援護に加えて飛び道具であるシリカの援護。そして、キリトはリーファを守りながら上へ。誰かがリタイアした場合は蘇生が不可能なら蘇生せずにそのまま突っ込む。例えそれがキリトだろうと、無理なら捨て置く。所詮はそれだけの男だったという話だ。
だからこそ、全員が全力を発揮する。言葉はいらない。空気を読め。ただひたすらに全員の行動を先読みし、その中で敵の攻撃も全て先読み。その中で蘇生すら先読みする。それが、この五人だからこそ組めた作戦。
「来るぞォ!ユウキィ!!」
「言われなくてもォ!!」
そして、二人の頭から全ての雑念が捨て去られる。そう、全てが。その結果、残るのは一つの強い意志のみ。
『斬る』。ただその一つの意志のみが二人を支配する。
距離が離れている?関係あるか。この剣に射程なんてない。あるのは、相手を斬る。その結果を残すための一太刀のみ。
そして、その強い意志により、仮想世界の塗替えが発生する。剣を振り、遠くの相手を斬った。その塗替えにより、二人の斬撃は――――
『飛べッ!!』
飛ぶ。剣がすっぽ抜けた訳ではない。剣を振った。その事象が世界を塗り替え、斬撃を飛ばしたという結果が生まれる。
振り払った剣は白く発光しており、そこから放たれた飛ぶ斬撃は目の前の雑魚の装甲を知ったものかと斬り裂いそのまますべてを貫通する。そして、斬撃の通った跡がそのまま道となる。
その瞬間、シリカが『走る』。何よりも速く、音すら置いて、残像すら残さず、赤の瞳が影すら残さず。ただ走り斬る事のみを考え、仮想世界を蹂躙し、工程を飛ばし結果のみを実現させる。その足に白色の光が纏わり付き、赤色の目がただ相手を捉える。
キリトを踏み台に。そしてツルギを踏み台に、今シリカに出来る全力の縮地によってシリカの体は一瞬にして音を超え、姿勢制御を随意飛行に任せ、その短剣を加速により何倍にも加速させた思考によって撫でるように切り裂いて行く。
そして残ったのは音。トン、トン。とキリトとツルギの背中を足場にした音。そして、次の瞬間には雑魚の中を無数の足音が支配し、次の瞬間には雑魚の首が一斉に取れていき、二つの小さな穴が一つの大穴となる。しかし、その全てが一筋の光によって吹き飛ばされる。
シノンだ。その弓に番え放った弓が通っただけで相手を射抜く。思考にあるのは『射抜く』。この一つのみ。それ故に、射抜く事に特化した矢はその速度が先程のシリカすら超える。その常識を超えた速さの矢は雑魚の群れの中を流星のように通り過ぎただけで衝撃波を起こし、蜘蛛の子を散らすように吹き飛んでいく。そして、その一瞬の間に近接武器を持った三人は大穴へと突入している。
だが、新しく来た雑魚を飛ばせても元からいた雑魚が再び壁を作ってその行く手を阻む。そこでキリトが前へと躍り出て両腕に持った黒の大剣を重ね合わせる。考える事は、『貫く』事のみ。
全力の飛行を行いながら敵の中へと突っ込むキリトの体から白いオーラの様な物が迸り、キリトの体を雑魚を無視して突き進めさせる。
しかし、その突進は食い止められてしまった。キリトの肩にあたった矢。それがキリトに雑念を生ませてしまい、キリトの突進を止めてしまう。
その瞬間、キリトの周りを包囲し、完封する準備が完了する。
しかし、それがどうした。次の瞬間には赤色の目が軌跡を残しながらキリトの周りを飛び回り、次の瞬間、雑魚は光の粒と消える。シリカの殺伐を止めれる者など、存在しない。
だが、シリカのスピードは徐々に落ちてきている。先程までは軌跡すら残さないレベルの速度で走り回っていたが、今はそれを残している。シノンの矢も段々と吹き飛ばす範囲が小さくなり、ツルギとユウキの斬撃も段々と飛距離と大きさが小さくなっている。
疲労だ。この仮想世界を塗り替える程の気迫と意思が精神的な疲労によって薄れていっている。人間故に仕方のない事だが、このペースが収まってしまえばこの六人であろうとたちまち全滅は間違いない。それは、この現象に目を丸くするしかないリーファですら分かった。
――――だが、それがどうした。
「気合入れろお前等ァァァァァァァァ!!」
キリトの慟哭。アスナを思う気持ちが、須郷への殺意が、仲間への信頼が、全てがキリトの気持ちを、疲労を関係なく押していく。
その言葉に全員の心が再びリセットされる。そうだ。たかが数秒の世界の塗替えで何を疲れている。この程度、朝飯前だ。
そして、キリトが空中で、丁度自分の後ろへ来たシリカを土台に世界樹の端から端へ、四方向へ正方形を描く様に飛び、片手剣を振るう。
その直後、完成するのは正方形の斬撃の跡。その跡は膨張し、破裂。その爆風に巻き込まれた雑魚は一瞬にして消し飛ぶ。
ホリゾンタル・スクエア。かつて黒の剣士、キリトがSAOで使っていたソードスキルの一つ。それを、キリトは気合のみで再現した。
「飛びやがれェェェェェェェェ!!」
そしてそれを見たツルギの斬撃が負けられないと言わんばかりに更に巨大となり、速度を増す。
「この程度ォォォォォォォ!!」
ユウキの斬撃もツルギに負けじと、更に巨大となり、速くなる。
(もっと、速く……速く……!速く、鋭く!音を超え、完全な無間に入って、全部を必殺に!!)
そして、シリカの縮地が更に速度と精度を増す。最早彼女には音すら追い付けない。純粋なる歩法のみで彼女は音すら置き去りにし、雲燿すら超える。
(誤射はない……あるのは弦から手を離して、当たったという結果だけ……!!)
シノンの矢も、さらに速さと威力が増す。疲労しているのにも関わらず、その精度は衰えるどころか増した。
「わ、私だって役に立つんだから!」
そして、リーファも左側に映る五人の体力を見て、数の暴力によって徐々に減っていく五人の体力に確実な優先順位を付けて回復を行っていく。
最早ファンタジーに一歩足を踏み込んだような事をしているこの五人でも、雑魚を処理するペースと増えるペースを同じにしか出来ない。だが、それで十分。六人は着実に、しかし確実に奥へ奥へと進んでいく。
そして、辿り着く。ゴールへと。だが、そのゴールを見てリーファが目を見開いた。
「で、出口がない……!?」
そう、出口がなかった。あるのはピッタリと閉じられた天井のみ。逃げ場すらない。それはやっとここまで来た、と思ったリーファの心を折ろうとしていた。
が、その前にユイと、今の今までずっとシリカの体のどこかにしがみついていたピナが動いた。
ユイよりも飛行速度が速いピナがユイを乗せて飛行し、ユイをその天井へと連れて行く。そして、ユイはキリトに守られながらその天井に手を当て、目を閉じる。
そして数秒。ユイが目を開いて後ろを見た。
「パパ!あのカードキーでここは通れます!」
その言葉に反応できる程キリトには余裕が無かったが、二刀流ソードスキル、エンドリボルバーで一気に周りの雑魚を蹴散らしてユイの元へ行き、伸ばしていた手に掴まり、代わりにユイにカードキーを渡す。
「皆さんもパパと手を!」
その言葉を聞いてシリカが一瞬にして残りの五人の周りの敵を一掃し、一人ずつ瞬間移動のような縮地でキリトの元へと送り届け、最後に自分はちゃっかりとキリトと手を繋ぐ。
そして六人が手を繋いだのをユイは確認すると、カードキーを天井に当てた。
「転送します!」
その言葉が聞こえると同時に七人と一匹の姿は完全に世界樹から光を残して消え去った。
そして残された雑魚達は標的を失い、出てきた場所へと戻っていった。
――――グランドクエスト、攻略完了。
アニメ版キリト同様心意技でゴリ押すキチガイ共。特にシリカが一番ヤバイ。とうとうスピードが某龍球Zみたいな感じに突入してる。あと、何気に他のキチガイ共も超範囲の飛ぶ斬撃(防御不可)だったりソードスキル(防御不可)だったり音速を超える矢(防御不可)を使用しているから何気にヤバイ。
次回はいよいよラスボスとのご対面ですよぉ!