現代の修羅、VR世界で暴れる   作:黄金馬鹿

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おや、キチガイの様子が……?


そのじゅー

 キチガイがサラマンダーを美味しく頂いてアイテムにホクホク顔をし、それから数分。サクヤとアリシャは改めてリーファに礼を言っていた。

 

「いやぁ、助かったよ、リーファ。倒せなくても逃げれるまでの時間稼ぎはしてくれるとは思っていたが、あのユージーンをまさか倒してくれるとはね」

「いやー、まさかサクヤちゃんがこんな隠し玉を持っているなんて分からなかったヨ~」

「私も予想外だ」

「いや、そんなに褒められる事じゃ……」

「いやいや、あのユージーンだヨ?あそこのキチガイ全員倒したって位凄いんだヨ?」

「あのキチガイは次元違うから……」

 

 アイテムの分配を終えたのか、キチガイ共はリーファの元に飛んできた。特にツルギは使える武器が大量に増えたため、かなりご満悦の様子だし、ユウキは久々に蹂躙が出来てかなりのご満悦である。このキチガイ共め。とリーファは苦笑いしながら五人を迎える。

 

「いやー、獲物が沢山で前哨戦には丁度良かったぜ」

「前哨戦?何の?」

「世界樹」

 

 その言葉を聞いてシルフとケットシーの両軍が固まった。リーファはあぁ、とうとうアレを攻略しに行くんだ。とちょっと遠い目。

 サクヤとアリシャから見ても、この種族混合パーティはレプラコーン、ケットシー、インプ、スプリガンだ。もしこのパーティが万が一、億が一にも世界樹を攻略したらどの種族がアルフになるのか。確実にシルフはありえないのだが。

 しかし、サクヤとアリシャには幾らこの五人が強くても勝てないと思っている。世界樹は予想よりも数百倍は難易度が高い。そして、あのパーティは後衛を務めれるのがケットシーのみ。しかも、そのケットシーは見た所、魔法が得意なようには思えない。回復役がいない時点であのグランドクエストは攻略が不可能だと言ってもいい。

 

「あ、リーファ。一緒に世界樹攻略しないか?」

「え?アタシ?」

「回復出来るしさ。サポート役として来れないか?」

 

 ここでシルフのリーファを誘う辺り、あのキチガイ共はただ、純粋に高難易度クエストを楽しみに行くだけだろう。当のリーファはえ、ホント?行く行くと結構乗り気だ。

 これは対話(物理)でもしない限り止まらないな、とサクヤは諦めていたが、アリシャは一人、こっそりとケットシーのシノンとシリカの後ろから二人の間に入り込んで肩を組んだ。二人は後ろから来ていたのを察知していたのか特に驚いてはいない。驚かせ甲斐が無いなぁ、と思いながらもアリシャは会話、と言うよりも取引を同種族の二人と始めた。

 

「ねぇねぇ、お二人さんは領地で護衛とかやってみる気ない?」

『特に』

「報酬は弾むよ?」

『間に合ってます』

「二人ともケットシーなんだしさぁ」

『自由気ままにやるのが大好きなので』

「そんな事言わずにさぁ」

「しつこいと目に矢を刺して脳みそグチャグチャにするわよ?」

「内臓全部引っ張りだされて最後に脳みそをグチャグチャにされたくなかったら不毛な取引は止めてください」

「私が思った以上にキチガイな思考していた件」

 

 流石に二人からの残酷というか人の殺し方じゃない殺し方の脅しにドン引きするアリシャ。サクヤもスプリガンとかレプラコーンとかインプをシルフの護衛に誘おうかと思ったが、同種族で誘っても無理なら無理だろうと溜め息をついた。これはなるべく早めに世界樹の攻略に挑まなくてはな、と計画の前倒しを計画した。

 そして、ちょっとあのキチガイ共と行動を共にしてくるから、とリーファはそのまま飛び立ったキチガイ共を追って去っていった。

 

「……さて、領地に戻って準備をするか」

「先に攻略されたら堪らないもんね」

 

 そして、シルフとケットシーのグランドクエスト共同攻略は始まった。しかし、資金不足という現実が突きつけられ、二人は領地の机で頭を抱えた。

 

 

****

 

 

 その日の内にリーファを混ぜたキチガイ六人は央都アルンまで飛んで行った。

 央都アルンは既にキリトとシリカも来たことがあり、特に目新しく周りを見渡す事はなかった。しかし、央都には偶に寄った程度であり、多少ばかりは目新しさがあった。ユイはキリトの髪の毛から出てきて、世界樹の方を、上空を向いた。キリトはどうしたんだ?とユイに聞くと、ユイは目を閉じて何かを感じ取り、再び空を向いた。

 

「この上に、ママがいます!」

「アスナが……!?」

「ママって……アスナさんが!?」

 

 やはり、分かっていたとは言え、本当にこうやって確認されると驚かざるを得ない。SAOサバイバーではないツルギとユウキとシノンはやっぱりか、と思った程度で、ついこの間アスナとキリトの関係を知ったリーファは複雑そうな顔をした。

 

「アスナ……!」

 

 その直後、キリトが羽を広げて空へと飛び立とうとする。当たり前だ。この直情には愛する人が、最愛の人が居る。それをジッと下から見続けるなんて出来るわけがない。だからこそ、無駄だと分かっていてもその羽を広げて飛び立とうとする。そして、それをリーファが止める前にツルギとユウキが止めた。

 

「止めるな!」

 

 キリトの、滅多にない心からの叫びを受けても二人は涼しい顔をしていた。

 

「その気持ちは分かる。けど落ち着け。この上には壁がある」

「だからって……」

「じゃあ、手紙を書いてシノンに渡せ。そうしたら手紙程度なら届けてやる」

「は?」

 

 その言葉を聞いてキリトが困惑の声を漏らした。それもその筈だ。プレイヤーでは何をやっても届かない距離にアスナはいる。だからこそ、こうやってもどかしさを感じながらも、何もしないよりまマシだと飛ぼうとしたのだが、流石に飛んでいけないのにどうやって手紙を届けるのか、それがキリトには分からなかった。

 

「ったく……流石に距離が分かんないんじゃキツイんだけど……」

 

 この中で唯一の遠距離攻撃手段持ちのシノンはちょっと愚痴りながらメニュー欄を開いて装備を変更した。そして取り出したのは、二メートル以上はある大弓。明らかに数人で構えて引くような巨大な弓だった。それを地面に付け、シノンがユウキの手を借りて矢を番えて上を向く。それを見てから、キリトは渡された紙にユイと共にアスナへのメッセージを書いてシノンに渡した。シノンはそれを弓に括り着けた。

 キリトとシリカとリーファはまさか弓で手紙を届ける気なのか、と困惑する。しかし、シノンは本気だ。その眼からはふざけた様子が全く感じられない。

 

「……流石に見えないわね」

 

 そして上を、弓を構えながら見るシノンだが、流石にアバターの眼でもアスナが捕らえられている籠を確認する事が出来ない。が、ここでユイがサポートに回った。アスナの位置が分かるユイはそれを口伝えで伝え、シノンはそれを聞いて完璧に角度と射線を調整。そしてユウキとツルギの手を借りて全力で引く。

 ギチギチ、と少し離れても分かる、弓を引き絞る音が聞こえてくる。きっと、あの大弓にはアバターの力も加わって数百キロ、下手をしたら数トンレベルの力が加わっている。そして、シノンが目で合図し、ツルギとユウキとタイミングを合わせる。

 

「……発射!」

 

 その瞬間、矢が音速を超えた。物凄い衝撃、ソニックブームを発生させて飛んで行った矢は一瞬で視界から消え去っていき、飛んで行った。

 

「さ、手紙は届かせたわ」

 

 そんなアホな、とキリトは困惑したが、ユイは暫くしてから頷いた。という事は、矢文はアスナへと届いたのだ。なんというか、滅茶苦茶だ。しかし、それもその筈。今、シノンの使った大弓は実はレジェンダリー級、この世界で最高のレア度を持つ武器の一つ、タウロポロス。リアルではギリシャ神話の狩人、アタランテが使ったとされる、引けば引く程その威力が増すという弓。流石にそれを手軽に使えるサイズだとぶっ壊れになるため、二メートル級の大弓にしたのが、このゲームのタウロポロスだ。

 それを体重運びや筋肉の使い方が完璧であり、更にアバターの能力もトップクラスの三人が完璧に息を合わせて引いた。その威力はこのゲームで設定されている最高値に近い値を叩き出したことだろう。欠点と言えば、これはボスにやろうとすると人海戦術で弓をガードし続けるしかないため、三人だと不可能なのだ。

 キリトは本当なのか?とユイの方を見るがユイを苦笑しながら首を傾げるだけ。まぁ、そうなるだろう。

 

「ん?何か上から落ちてきたわよ?アスナって人からのプレゼントじゃない?」

 

 

 この中で弓兵故に一番目が効くシノンが空に目を凝らしてキリトに伝えた。キリトはそれを聞いてからすぐ様飛び立ち、その落ちてきた物を回収する。それは銀色のカードだった。それをユイも気になったのか触って確認すると、その表情が驚きに染まった。

 

「こ、これはシステム管理用のアクセスカードです!」

「……つまり?」

「今は使えませんけど、多分、これはママからのメッセージなんじゃないかと……」

 

 ユイにも何処で使うのか、どうやって使うのかはあまり分からないが、それでもこれはアスナが送ってきた物だ。きっと、何時か役に立つときがくる。カードを胸ポケットに入れてユイを髪の毛の中に押し込んでから再び仲間たちの元へと戻る。

 なんだった?と聞いてきたため、キリトはそれに対して素直に何が落ちてきたのかを答えた。それを聞いて四人の中で、この上ではきな臭い事が起こっているのだと言う気持ちが大きくなっていき、リーファはよくわかっていない。

 気にしないでくれ。とキリトはリーファに答えてから六人で回復アイテムや弓矢、それなりに強い店売りの武器を大量に買って万全の体勢を整えてから六人は適当な宿の部屋を借りた。

 

「さて、今日はここまでだ。リーファは……キリトに事情を聞いてくれ。世界樹の攻略は明日になる」

「アスナ……」

「キリトは一回アスナって人の見舞いにでも行ってこい。そんで気持ちを落ち着けてこい」

 

 そうする。とキリトは答えてからログアウトをして続いて五人もログアウトをした。ログアウトをすると六人はそれぞれ仮想現実に入った場所で目を覚ました。

 建斗、木綿季、詩乃、和人、珪子は同じ部屋で目を覚まし、和人はアミュスフィアを鞄の中に仕舞うとせっせと片づけをして立ち上がった。

 

「明日はここで集合だぞ。多分、かなり時間がかかるし人気の少なくなり始める夕方辺りからのアタックになるから、泊まりの許可とかも貰って来いよ」

「分かってる。スグも連れてきた方がいいか?」

「お好きに」

 

 建斗の言葉に和人は頷いてから部屋を出て行った。珪子は猫のように伸びをしてから小さく欠伸をして立ち上がった。

 

「帰りか?」

「はい。和人さんと一緒にアスナさんのお見舞いに行ってきます」

「お見舞いに行くんじゃなくてお見舞いを決める間違いじゃ……」

「何か?」

「いや、何も」

 

 まぁ、きっとなるべく和人にひっついて和人を奪うチャンスを伺うつもりなのだろう。しかし、この中では一番和人と付き合いが長い建斗は分かる。和人はそうそう女を乗り換えたりはしないと。そもそも、建斗は詩乃や珪子が和人とくっ付いた時に、和人の浮気で全てが終わらないように建斗が解除不可能のちょっとした洗脳をした。そのため、珪子の努力は水泡になってしまうだろう。哀れ珪子。あと詩乃。お前たちはちょっと日和過ぎた。

 報われない少女の悲しい恋の物語はさておき、大体諦めている詩乃は持ってきていた水を一口飲んでから建斗の椅子から降りた。

 

「ちょっと弓引いてくるわね。何時もの武器庫にあるでしょ?」

「あぁ。ただ、弓道用の矢を使えよ?最近ご近所さんに不審がられているからモノホン使うと危ない」

「はいはい。あ、外の的も使うわよ?」

「ご勝手に」

 

 詩乃はちょっと肩を回しながら建斗の部屋を出て行った。こう見えても建斗の家は道場もあるし弓の的もあるため、ちょっとした広さだ。和人の家よりは少し大きい位の大きさがあるだろう。

 暫く木綿季と二人きりでボーっとしていると、矢が的に当たる気持ちのいい音が響いてきた。まぁ、建斗の祖父が教えたのだから止まっている的には百発百中だろう。

 

「……ねぇ、建斗」

「何だ?」

 

 自分の部屋のゲームのカセットから何をやろうかと建斗が迷っていると、アミュスフィアを被った木綿季が声をかけてきた。

 

「……恋って、そんなに必死になるような物なのかな?」

「さぁな」

 

 木綿季の問いに建斗はどっちつかずな言葉で返した。建斗は今まで生きてきた中で一度も恋なんてした事は無い。最も、外見だけはパーフェクトな同年代の異性が周りにいるせいで理想が高くなりすぎているというのもあるが。

 建斗はまだ途中だったRPGのカセットを見つけるとゲーム機にセットし、今度はコントローラーが何処だったかと探し始めた。

 

「ボクも付き合ってみれば分かるのかな?」

「好きなやつでも出来たのか?」

「別に。ただ、姉ちゃんが少女漫画でも読んだのか、恋っていいよねって言ってきてさ」

「ふーん。藍子ちゃんがねぇ」

 

 木綿季の言葉の端々からしんみりとした雰囲気が漂ってきているのは、まぁ、家族関連で何かしらの事があったのだろう。そして姉からの言葉と、和人の、アスナへの必死も必死な行動と言葉。それが少し、木綿季の心を打ったのだろう。

 なにかあったのか?と建斗は言葉には出さず、しかしコントローラーの探索を止めて木綿季に向き直った。

 

「この間さ、姉ちゃんのお見舞いに行ったら遺産目当ての屑がボクにお見合い申し出てきてさ……今までは騙そうと必死だったけど、建斗のお祖父ちゃんの事もあって無駄だって思ったのかボクを含めて騙し取りに来たよ……参っちゃうなぁ」

 

 木綿季は何時も元気に振る舞っている。建斗の影響もあってかヒャッハーで何時もテンションが何処か別な場所にぶっ飛んでいてキチガイだが……しかし、まだ木綿季は十三歳の子供だ。親が守らなくてはならないような年齢だ。

 そんな幼い少女が将来は天涯孤独しかない道を進まされ、そして親の残した木綿季への金を無情にも奪い取ろうとする血も涙もない連中が彼女を狙っている。今は建斗の祖父が中心となって建斗の両親と共に木綿季を守っているが、建斗の祖父ももうすぐ寿命だ。建斗の祖父が死んだ途端に木綿季を守る強大な後ろ盾が壊される可能性もある。そうなったら、木綿季は汚い大人に狙われ続けるだろう。脅されるかもしれない。好きでもない男と変な結婚をさせられるかもしれない。

 今まではそれを木綿季は意図して忘れてきたが、恋に必死な周りを見て、姉の言葉を聞いて思い出してしまったのだろう。これから先に待つ将来の可能性を。

 

「……まぁ、ここで気さくな言葉の一つでもかけるのが漫画の主人公とかなんだろうが、俺は何にも言えねえよ」

 

 建斗とてまだ十六の子供。木綿季に年上ぶって説教できるような年齢でもないし精神でもない。だから、ここで木綿季にかける特別な言葉なんて見つからない。

 

「まぁ、将来後悔しないように子供の内から地盤は固めていくもんだ。けど、それは子供一人じゃ難しい」

 

 だけど、と建斗は付け加えた。

 

「いざとなったら俺を頼れ。俺は確かにまだ未熟者だが、将来は爺ちゃんの全部を継ぐ。表も裏も俺は手を出せるようになる。お前はもう最強の後ろ盾を得てるんだ。そう不安になるな」

 

 現在の最強の後ろ盾である建斗の祖父。彼が死ぬのはもうすぐだ。しかし、死んだところで今度は親友の建斗自身が最強の後ろ盾となる。如月の名は……『如月流剣闘術免許皆伝』の称号は、決して軽くはない。

 

「……うん、そうだね」

 

 木綿季は建斗の言葉に頷いた。建斗の事をよく知っているのは誰でもない、木綿季だ。物心つく前から彼の背中を見て育ち、彼の強さに憧れて剣術を習った。そんな彼女が彼の強さを知らないわけがない。

 

「じゃあさ、ボクに悪い虫が付かないように付き合って……って言ったら?」

「テメェみたいなキチガイはお断りだ。俺はお淑やかな人が好みなんだ」

「………………ふぁっきゅー」

「ん?え、ちょ、木綿季さん?その木刀は何処から取り出したんですか?あの、その、せめて目にはハイライトを戻してくれませんかね?ちょ、怖い怖い怖い!!せめて何が気に障ったのか言ってくれないとわからなああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 その数分後、ボロ雑巾のようになった男が窓から投げ捨てられた。詩乃はそれを見てため息をついてから再び弓に矢をつがえた。

 気持ちのいい音が響き、矢は的の中心を捉えた……のではなく、かなり外れて隣の的に中った。

 

「……ふーんだ。建斗のばーか」




流石にあんな事言われたらキチガイだって怒るという話でした。次回からは世界樹攻略に入ります。

オベイロン、死ねぇ!!

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