現代の修羅、VR世界で暴れる   作:黄金馬鹿

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SAOHRにユウキが出ると知って気分でちょくちょく書いてた作品。プロットは頭の中にしかないけど投稿


そのいち

 両手斧の刃が目前へと迫る。それは、当たれば間違いなく死へと誘われる凶刀。人を殺すのに十分であり最重要の一撃。だが、それは当たらなければ車道を行く車と何ら変わりのない物。彼はそれを、両手斧を握っている手の方へと、滑り込みながら一瞬の内に移動する歩法、瞬地で潜り込むように避ける。

 両手斧の弱点。それは、槍と同じく、距離を埋められれば必殺では無くなるということ。そして、彼の相手は巨大なモンスター。数メートルある巨体故に、潜り込むのは瞬地を使えば容易。ならば、潜り込んだ後はどうするか。決まっている。必殺を潰す。

 抜刀。何ら変哲の無い刀は振り返りざまに一度、足を止め地面へ刀を突き刺し、新たな刀を虚空より召喚し、鞘へ手を当て柄を握り上段からの一刀。さらに今度は下から刀を召喚し、刀を離し新たな刀を手に持ち、再び鞘を握り抜刀と同時に斬撃。そして振り抜いた刀を上へと投げ捨てる。

 投げ捨てられた刀は長髪の、片手剣を持った少女が握り、背中から生えた紫の羽根を羽ばたかせ、空中からそのまま地面へと急降下。そして、腕と交差するその瞬間に振るわれた片手剣と刀はモンスターの指を切り落とす。

 五撃。四本の剣により行われた計五回の、たった二秒にも満たない斬撃の舞は、モンスターの指を全て切り落とし武器を奪うことに成功する。その直後。いや、全く同時に遠方より飛来した矢がモンスターの目を穿つ。そして、男が更に召喚した槍が槍投げの要領で投げられ、目を穿つ。

 両目を穿ち、視界を奪う。

 武器を奪い、視界を奪った。なら、後は殺すのみ。虚空より吐き出された両手剣を長髪の少女が背中の羽を動かしながら飛び、掴みとる。そして、十分な溜めと構えから放たれる斬撃は、モンスターの首を落とす。

 一秒の余韻。その後にモンスターの全身はまるで硝子細工のように、割れ、破片が散らばった。

 

「……っしゃあ!!やってやったぞクソ野郎が!!」

「苦節三十回!やっと三人で倒せた!」

「あー……やっぱ神経すり減るわね、これ」

 

 たった一瞬の殺伐を成功させた三人は集まり、それぞれの喜びを口にした。

 ここは妖精の世界、アルヴヘイム・オンライン。最新のVRゲームであるこの世界はやって来た者達の心を掴んで離さない。それは、彼等三人も例外では無かった――――

 

 

****

 

 

「乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯」

 

 三者三様の声でグラスが叩きつけられ、中の液体が少し宙を舞う。

 酒場。この世界に数ある街の中の一角にあるそこでは、赤髪の青年と紫の長髪の少女、青髪に猫耳の少女が一同に介して先程の勝利を祝っていた。

 

「いやー、やっと倒せてホッとしてるよー……流石ゲーム、戦闘キチのツルギがいても苦戦するモンだねー」

「俺の武器在庫が無くなる前に倒せてよかったよ。な、シノン」

「槍の在庫は尽きたみたいだけど?それに、ユウキも十分戦闘キチよ」

 

 赤髪の青年の名はツルギ。紫の少女はユウキ。青の猫耳少女はシノン。レプラコーン、インプ、ケットシーの種族で構成された三人のパーティはつい先ほど、三十回目のボス討伐に成功したばかりだった。

 本来、種族統一のパーティが主流であるこのゲームで種族混成パーティが組まれる理由。それは、このゲームを始める前、もしくは後にリアルかネットで知り合い、そのままパーティを組んだという理由が大半だ。彼等もその例外ではなく、リアルでの知り合い故に組んだ腐れ縁とも言うべきパーティを結成していた。

 

「いやー、本来ならレイドで戦うボスを三人で倒すのは気分がいいね」

「うし、じゃあ俺はちょっくらサラマンダー領に喧嘩売ってくる」

「待ちなさいキチガイ。その思考回路中断してそこに座れ」

「チッ……」

「喧嘩売るんならそこら辺のPK集団にしておきなさい」

「よっしゃちょっとサラマンダーのPK集団に喧嘩売ってくる」

「サラマンダーへのヘイト高すぎぃ!!」

「だってアイツラ俺の髪の毛の色と同じ色してるんだぜ?許せなくね?」

「至極どうでもいいわよ戦闘キチ」

 

 お祝いムードからの戦闘ムード。彼は正しく戦闘狂とも言えた。が、これはゲーム。どれだけ戦闘して死のうとも失うのは所持金と持っているアイテムだけ。基本的に所持金を殆ど持たずに素材買収に注ぎ込み、アイテムをポーション系と刀剣類しか持たない彼にとって、デスペナで重要なのはボーナススキルポイント程度。しかし、彼は基本的に腕で性能をカバーするため、そんなの関係ない。

 彼は他とはかなり変わった戦い方をする。だから、彼は基本的に所持アイテムの殆どを刀剣、しかも数打ちの物で埋めている。それ故に、彼はデスペナを気にしない。

 

「じゃあボクもPK狩りに行く!」

「うーん、まさか戦闘狂が増えるとは思わなかったわ」

「シノンは?」

「綺麗な顔をふっ飛ばすわ」

『知ってた』

 

 彼等の戦い方は三人共、相違点ばかりだ。まず、ツルギの戦い方はレプラコーンの鍛冶魔法による刀剣類の遠隔操作。それによる虚空からの刀剣の召喚で剣を使い捨て手数で押す。つまりは多刀流にして一刀流。剣の基礎を極めそれでいて技術ではなく手数で押し、歩法で技術をカバーする。

 ユウキに関しては、特筆すべき物はその戦い方からは予測出来無い。しかし、戦えば分かる。彼女は超人的な反射神経に、熟練度なんて放り投げて捨てたような、ツルギの出すありとあらゆる武器による多種多様な攻撃を得意とする。槍を使われれば剣で潜り込み、剣を使われれば槍で払い、スピードで接近されればパワーで引き剥がし、パワーで押されればスピードで凌ぐ。ジャンケンの全ての手札を満遍なく使う戦いをする。

 そして、シノンは至ってシンプルに、狙撃。しかし、その腕は人間の極限を行ってるとも言っても過言ではなかった。

 落ちてくる葉を貫き、槍を矢代わりに放ち、たった数瞬の隙を狙撃する。狙撃手としての基礎を極め尽くした戦い方をする。

 そんな彼等三人が、人間相手に戦えばどうなるか。腕の差と手数の差で蹂躙しつくすだけだ。故に、彼等はALO界ではかなり有名だった。

 『PKKのキチ集団』。死ぬことを恐れず笑いながらPK集団を殺していく彼等の事を端的に指し、尚且つ伝えるにはこの言葉で事足りた。

 

「あ、でもそろそろ飯だな」

「えー、もうそんな時間?」

「なら、一時間後にまたここで会いましょう」

「そうすっか」

 

 ツルギ達は適当に借りた宿の一室でログアウトし、現実世界へと帰還する。

 暫しの視界の暗転。その後に、ゴーグルのようなもので遮られた視界が戻り、VR世界から現実世界へと意識が戻されたのが実感できた。

 座った状態で伸びをしてゴーグルのようなもの、彼等をVR世界へと誘う機械、アミュスフィアを外して傍らに置くと、丁度同じ部屋のベッドで横たわっていた少女が目を覚まして起き上がる。

 

「あー……やっぱ椅子だと体いてーわ」

「だろうねー。よいしょっと」

 

 ベッドに背中を預けて座っていた青年は立ち上がり、腰を逸らし、ベッドに横たわっていた少女もベッドから降りて一度体を伸ばす。

 

「さて、飯までゲームするか、木綿季」

「だね、建斗」

 

 ツルギこと建斗。ユウキこと木綿季はゲームを中断したばかりなのに、すぐにVRゲームではなく、据え置きゲームによる格ゲーを始めた。

 如月建斗十五歳、紺野木綿季十三歳。近所付き合いから派生した腐れ縁が続いて続いて十三年。彼等は揃いも揃って立派なゲーマーだった。

 

 

****

 

 

 如月建斗の話をしよう。

 彼は幼少の頃から祖父より剣術を習い、現代に産まれた戦士の一人だ。建斗の持つ才能は、一般人として生きていれば決して開花することの無い物、人斬りとしての才能だった。

 剣豪とは言えないが、剣士としては一人前。刀を持たせ戦場へと叩き出せば全身を赤に染める。正しく、産まれた時代を間違えた男だった。それ故か、彼の思考回路は戦争を経験した祖父の思考回路を受け継ぎ、見事なキチガイへと変貌した。

 だが、彼は産まれた時代を間違えたという言葉を否定する。何故なら、この時代にはゲームがあるから。天才的とも言えないが、上手いとは言える彼のゲームの腕は、日に日にコントローラーを使うだけのゲームを物足りなく感じさせた。

 美麗なグラフィック、快適なロード、指示通りに動く画面内のキャラクター。それを見て建斗は何時しか自分の手でキャラクターを動かしたい。いや、キャラクターとなりたいと感じていた。

 そう感じていた一年前。彼にとっての朗報が舞い降りた。

 ナーヴギアとソードアート・オンライン、通称SAOの公開。VRの世界へとダイブし、モンスターと自分の体で戦う。正しく、建斗が求めていたゲームそのものだった。

 建斗はそれを幼馴染兼腐れ縁の木綿季と共に予約抽選に応募したが惨敗。苦渋の涙を流す羽目になった。悔しいという気持ちは、SAOがデスゲームになったという報告を聞き、更に強まった。

 命のやり取り。ゲーム内の死亡イコール死。それは建斗の戦士としての血を沸かせるのには十分過ぎた。

 現代に産まれた戦士だからこそ、剣士だからこそ、SAOというデスゲームはより魅力的に感じた。感じてしまった。

 そして一年後に発売されたALO。建斗がそれを買わない理由は無く、木綿季と共に購入した。それから先は、言うまでもないだろう。

 続いて、紺野木綿季の話をしよう。

 彼女の家族は輸血からのAIDS感染により、全員が病院にて入院している。しかし、木綿季だけは運が良かった。双子の姉である藍子は感染したのにも関わらず、木綿季は感染しなかった。彼女はAIDSにならず、健康体のまま成長していった。

 しかし、彼女の人生は前途多難だった。小学校ではAIDSの両親と姉を持つからと煙たがられ、イジメられ、彼女の居場所は奪われていった。だが、その中で唯一木綿季に笑顔で接してくれる人が居た。そう、産まれた時からの付き合いの建斗だ。

 彼は木綿季が泣けば泣かせた人間に木刀を笑顔で突き付け、虐めた人間が居れば強い者虐めと称して鎖の先端に木を括り付けた鈍器で虐め、陰口を叩けば死角からカラーボールを投げつけ嫌がらせをした。彼は昔からキチガイだった。

 だが、それが木綿季の心の拠り所でもあった。彼が小学校を卒業するまではお兄ちゃんと呼んで後ろをアヒルの子のように引っ付いて回り、一緒にゲームをやって一緒に陰口を叩いた人間にカラーボールを投げ付け、たまに毛虫を投げつけた。そう、彼女はキチガイに毒されてキチガイになってしまった。

 建斗が小学校を卒業した頃には喧嘩を売られたら笑顔で鈍器片手に喧嘩し、勝てない時は遠方から毛虫やカエルやバッタを投げ付け嫌がらせをしながら逃げ、陰口を叩かれたらバレないようにその生徒、もしくは近所の人の鞄か靴か家の中に犬の糞を投げつけた、もしくは詰め込んだ。

 彼女が小学校を卒業する時には彼女は頭可笑しい人間に認定され、手を出されなくなった。出したら何かしら嫌がらせをされるから。

 そして現在。中学一年生の頃に発売したSAOを逃し、今年発売したALOを元気に遊ぶキチガイの姿がそこにはあった。

 彼女のゲーム好きは建斗から引き継がれた物だが、彼女は反射神経が良かった。建斗は鍛えた甲斐あり良くなったが、木綿季は建斗よりも遥かに反射神経がいい。建斗のよりも遥かに強い建斗の祖父の斬撃を、ある程度手加減されたとは言え、避けた程だ。

 だからこそ、彼女はアクションゲームや格闘ゲームにドンドン惹かれていった。そして、ALOではその反射神経を存分に活かして、今や『絶剣』としてALOでは有名となっている。

 

「ふはは、俺のラグナに勝てるかこのガキンチョ!!」

「ボクのプラチナをナメてると痛い目にあうよ!」

 

 そんなキチガイ二人は二人で購入したゲームを一緒にプレイしていた。

 二人の両親は、近所付き合いが良かった。建斗が産まれた時には既に母親同士でよくお茶を飲み、父親同士で酒を飲みに行っていた。それ故に、建斗と木綿季の腐れ縁が紡がれるのは必然だった。

 しかし、木綿季の両親と姉がAIDSになったため、木綿季は両親と姉が入院してからは実質、如月家の居候となった。まだ、当時小学生の彼女を独り暮らしさせるなんて、出来る訳がないからだ。

 それ故の腐れ縁は、何時しか兄と妹のようになり、建斗の部屋には木綿季の私物も置かれ、互いの小遣いで買ったゲーム機やゲームが次々と増えていった。

 

「おまっ、そのコンボやめろやぁ!」

「うへへっ、そりゃそりゃ!」

「ラグナの体力は全キャラ中最低値なのに容赦ねぇなテメェ!」

 

 木綿季が家族の事が心配か心配でないか。そんなの、心配に決まっている。だが、肉親達がもうすぐ死んでしまうのはどうしようもない事だ。

 だから、木綿季はその分楽しんで生きると決めた。両親の分も、藍子の分も、後ろを向かずに前を見て進んで、楽しみ尽くしてやると決めた。この考えが木綿季をキチガイに染めたとも言えるが、両親も藍子も、お見舞いに来た木綿季の笑顔が何よりも嬉しい品だった。

 

「よし勝ったぁ!」

「結局ハメ殺された……」

「へへーん、どんなもんだい!」

「くそっ、リアルファイトなら負けないのに……」

「いや、ホントその話題止めよ。エアライドでリアルファイトになった時、ボク、マジで死にかけたんだから」

「二階から放りなげただけで死にかけるとは情けない」

「普通、大怪我間違い無しなんだよなぁ……」

 

 何度か小さな喧嘩はあったが、二人の中は良好。木綿季が窓から投げ捨てられたのは一度や二度ではないが、木綿季が誘導して窓から突き落としたことも一度や二度ではない。その度に落とされた方が凶器を手に戻ってくるのだが。

 木綿季の場合は毛虫、建斗の場合は木を括り付けた鎖だった。流石にそうなると謝ることになる。

 

「そういえば、シノン……じゃなかった。詩乃は今何してんのか」

「電話かけてみる?」

「せやな。飯の邪魔するか」

 

 そんな軽いノリから建斗はスマホからシノンこと、詩乃に向けて電話する。

 暫くして詩乃は電話に出た。かなり面倒くさそうな雰囲気を醸し出しながら。

 

「もしもし、何よ。今夜ご飯作ってるんだけど?」

 

 冷蔵庫の中の余った食材でパパっと野菜炒めを作っていた詩乃はBluetoothのイヤホンマイクを耳に着けて通話に出た。

 一人暮らしの彼女は両親と住んでいないため、自炊が当たり前だ。

 

『え、煽りだけど』

「うざっ」

『シンプルに罵倒してきましたぜ、このクーデレ』

「誰がクーデレよ。今度リアルでカラーボール投げられたくなかったら黙りなさい」

『その時は投げ返す』

「ならシュールストレミングを目の前で開けられたい?」

『それは止めろ、割とマジで』

 

 ご覧の通り、詩乃と建斗と木綿季はリアルでもよく会う仲だ。こういった罵倒や罵り合いは日常茶飯事である。

 ここで彼女、朝田詩乃について説明しておこう。

 彼女は数年前、銀行強盗に巻き込まれた。その時、彼女は離婚を境に精神崩壊し、幼児退行してしまった母親を守るため、目の前に転がってきた拳銃を手に、銀行強盗を撃った。もし、弾が当たっていれば、詩乃は銀行強盗を殺し、拳銃がトラウマとなった所だろう。しかし、弾は外れ、天井にめり込むだけだった。詩乃は全てが終わったような錯覚がしたが、運命は詩乃に味方した。

 その銀行には、遠出した建斗の祖父が偶々連れて来ていたキチガイ二人がいた。

 キチガイの内一人は素早く銀行強盗と詩乃の間に割り込み、鼻フックをしてから鼻フックデストロイヤーファイナルドリームと叫びながら銀行強盗を鼻フックしたまま勢いに任せてぶん投げ、もう一人のキチガイが何故か常備していた芋虫を銀行強盗の口の中に流し込んだ。それで錯乱した銀行強盗を建斗の祖父が鎮圧した。これがキチガイ二人との出会いともなった。

 詩乃が拳銃を手に呆然としていた所で警察が突入。詩乃達は無事に保護された。

 けれど、その後が大変だった。世間の好機の目が詩乃に注目し、学校では拳銃で人殺ししようとした人殺しとまで言われ、詩乃は精神的に参っていた。

 そして、そんな詩乃に狙いをつけたいじめっ子達が詩乃にある事ない事言って詩乃を虐めようとした……が、そこに偶々キチガイが通り掛かった。

 キチガイ二人は強い者いじめと称してそのいじめっ子の口の中にカラーボール突っ込んだり口の中に芋虫流し込んだり口の中に犬の糞を突っ込んだりと好き放題やりいじめっ子を追い返した。詩乃は途中から余りにも酷すぎて手で顔を覆った。

 そして、改めてキチガイ二人と詩乃は自己紹介し、キチガイ二人は新聞で詩乃の事を見たため、心配で一度様子を見に来たと言った。その言葉を聞いて現状を話した詩乃はキチガイ二人に軽く引っ越ししたら?と言われ、詩乃は母親と祖父母に相談し、そういう事ならと独り暮らしをする事になった。

 過程は省いた物の、こうして独り暮らしを始めた詩乃は、何処から見つけてきたのか当時、銀行強盗の現場で一緒にいて詩乃の行動に結果敵に救われた親子に会ったりとして、今は吹っ切れた。

 その結果か、当時の事で色々言ってくる人間にはよくシュールストレミングをチラつかせて黙らせたり、毛虫投げ付けたりカラーボール投げつけたりした。そう、彼女もキチガイに毒され、本人は自覚していないが十分なキチガイとなったのだ。

 そして、キチガイ二人に勧められてALOを始め、隠れた狙撃の才能を開花させ、今に至る。

 建斗ことツルギ、木綿季こと『絶剣』のユウキ、詩乃ことシノンはこうして三人パーティを組むことになったのだ。何とも奇妙な縁だ。

 

「はぁ……で、キチガイ。用がないんなら切るわよ?」

『ちょ待てよ。お前最近、学校で変な奴に絡まれてるって聞いたんだが……』

「あぁ、新川君の事?別に気にしなくていいわよ。新川君、確かにたまに変な目付きになるけど、何かしようとしてる訳じゃないっぽいし。それに、何かあったら芋虫を口の中に流し込んでやるわよ」

『お前それ好きだよな』

「楽しいもの」

『お前やっぱキチガイだよな』

「アンタにだけは言われたかないわよ」

 

 類は友を呼ぶとも言うべきか。詩乃は自分が明らかに普通じゃない思考をしてるのに気が付いていない。

 暫く建斗と話していると、いきなり今度は木綿季が電話に出た。

 

『ねぇねぇ、詩乃。今度勉強教えてよ。次のテストピンチでさ〜』

『おい木綿季、何故俺に教えを乞わない』

『だって建斗の教え方分かりづらいんだもん。キチガイだし』

「はいはい。今度ALOの中でじっくり教えてあげるわよ」

『やふー!ありがとー、詩乃』

『おい木綿季、少しお話しないか?』

『いいよ。じゃあ、ボクの先制攻撃!窓から投げ捨てる!』

『ファッ!?ちょっ、おまぁぁぁぁぁぁ…………』

 

 ドップラー効果を残しながら消えていく建斗の悲鳴。流石の詩乃もこの二人の喧嘩は口伝てにしか聞いてなかったので、マジで二階から投げ捨てたユウキに若干引いた。

 ユウキはその後、鍵閉めてっと。よし完璧。と言ってから再びスマホを手に取った。

 

『いやー、流石に建斗相手だと先制攻撃で一撃必殺しないとねー』

「そ、そうね……」

『じゃあ、ボクは部屋にトラップしかけるからここら辺で……ファッ!?ま、窓に、窓にぃ!!?』

『ゆーうーきちゃーん……あーそびーましょー……』

『ちょっ、怖っ!?って、窓から入っ』

 

 ブツン、と音が鳴ったあと、電話は勝手に切られてしまった。確か、二階から建斗を投げ捨てたと言ってたから、少なくとも建斗は壁を数メートルよじ登った事になる。流石に怖い。

 まぁ、あと数十分後には何もなかったかのようにゲームにログインしてくるだろうと考えながら、詩乃は皿に野菜炒めを盛りつけた。

 何処にでも居たら確実に何かしらの事件が毎日勃発するような性格をした三人だが、どこぞの並行世界のように、先の無い未来を持ったり人殺しを経験したりはしていない。彼女達はイレギュラー的に発生したキチガイに毒され、毎日を楽しく謳歌している。

 これは、そんなゲーム好きな三人の何気無いようで頭が可笑しいただの日常の話。




取り敢えず主役キャラ三人の簡単な紹介

主人公……キチガイ其の一。リアルでは三人の中で一番強い。ユウキとは幼馴染でよく部屋に侵入される。

ユウキ……キチガイ其の二。ゲームでは一番強い。健康そのものな世界線なので死ぬ心配はない。一応剣術と護身術を習っている。

シノン……隠れキチ。三人の中で一番エグい思考回路をしている。特に拳銃にトラウマが無いためよくガンシューティングとかやってる。一応護身術を習い、主人公の家にある弓でたまに遊んでいる。

あ、時間軸的にはSAOがまだデスゲームしてる頃なのでキリトとかはまだ出てきません

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