冬銀花   作:さくい

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衝撃の真実

 アカデミーが終わったフユカは今、うちは一族の集落をサスケと共に歩いていた。正確にはフユカは水布団に乗ってプカプカ浮遊し、サスケだけが歩いている。

 普段一緒にいるユウリとミナミは其々に用事があって此処には居らず、フユカとサスケの二人で行動している今日。

 二人で修行するのも良いが、偶にはゆっくりしても良いだろうとサスケの家でお話しする事に決定した。

 

「……んー……」

「どうした、フユカ」

「……ん……ピリピリ、する……」

「ピリピリ?」

「……ん……」

 

 珍しく起きて、更に珍しい事に頭を持ち上げて周りを見ているフユカ。

 今日の夜は豪火球の術が空から弾幕の様に降ってくるんじゃないかと思わせる程の珍現象を前に、サスケは少し恐怖を感じながらフユカに問い掛けた。

 

 が、返ってきたのはイマイチ要領を得ない答え。

 

 ピリピリ……辛いものを食べて舌がピリピリ痛いのか、はたまたうちは一族の集落に流れている俺達エリート!みたいな空気が合わないのか。

 それとも全く違う理由か。

 そう疑問を感じながらフユカの様子を見ていると、フユカの肩がピクリと動いた。

 

「……ん……」

「……」

「……」

「どうした?」

「……ん、なんでもない……」

「そうか……」

 

 その後フユカの挙動不審な行動は続いたが話し掛けるなオーラが出ているのを見たサスケは聞くのを自重し、何がピリピリしたのか結局分からないままサスケの家に到着した。

 サスケの家に着いて母親のミコトと顔を合わせた後、二人はサスケの部屋に入る。

 ちなみにミコトに出迎えられた時、廊下の角辺りで一人の男性が隠れながら此方をチラチラ見ているのをフユカは目撃した。

 

 サスケの部屋に入ったフユカは水布団の上に乗りながらサスケの部屋を観察し、ふと目を向けた本棚に仕舞われている本を取って読み始めた。

 サスケはフユカの行動を見てから座布団に座り、アカデミーで出された宿題に手を付ける。

 暫くの間紙を捲る音と鉛筆を滑らせる音が響く中、思い出したようにフユカはぽつりとサスケに話し掛けた。

 

「……ん……火の性質変化だけだとつまらないから、雷の性質変化も追加しよ……?身体に直接電気を流して、身体能力を上げたり……超圧縮した電気の球を作ったり、目からビームを出したり……」

「……身体能力の強化や電気の球を作る……確かにそれが出来れば効果的なのはわかるが、目からビームは意味があるのか?指から出しても変わらないと思うが……」

「……ん……相手の意表をつけるし、ロマン……」

「ロマン……」

「んっ……」

 

 珍しく強い口調のフユカに少し驚きながらサスケは目からビームについて考える。

 目からバチバチと光を迸らせチュインとビームを発射する自分の姿を。

 

「……ねぇな」

「……ん……残念……」

 

 目からビームを発射する自分を想像して何とも言えない気分になりながらポツリと呟いたサスケの言葉にフユカが反応を示すが、声のトーンと様子を見る限りそこまで残念がってはいないらしい。

 恐らく何と無くで言ったのだろうと当たりをつけたサスケは中断していた宿題に戻った。

 

 それからまた暫くの間紙を捲る音と鉛筆を滑らせる音が響く。

 パラリ、カリカリ、そんな音だけが響く部屋の沈黙を破ったのはパタパタと廊下を走る音。

 

 その音はサスケ達のいる部屋の前まで来て止まった。

 

 その音を聞いて誰が来たのか、という疑問はサスケの中にはない。

 何故なら物心ついた時からの幼馴染は、アカデミーに入学してから勝手知ったる他人の家と言わんばかりに頻繁に家に来るからだ。

 別にサスケの事が好きでとか、そんな甘酸っぱいものではなくミコトに料理を教えて貰いに来ているだけだが。

 サスケは特に反応する事なく宿題を続け、フユカは黙々と本を読んでいる。

 

 その静寂を消すように襖が開いて中に入って来たのはサスケの予想通りにミナミだった。

 ちなみに今日のミナミの用事はミコトからクッキー作りを教えてもらう事。

 フユカ達と一緒に帰れば良かったがその分クッキー作りに時間が掛かりフユカを堪能出来ない為、ミナミは泣く泣く一緒に帰るのを諦めて一足先にうちは家に着いていた。

 

「二人共、おやつにしましょう?さぁフユカ、こっちにいらっしゃい」

「……ん……」

 

 二人共と言ってる割にはミナミの視線はフユカにだけ向いていてサスケには一瞥もくれないが、それはもう慣れっこなサスケは気にせずにミナミから出来立てだろうと思わせるほのかに温かいクッキーと熱い焙じ茶を受け取る。

 甘過ぎずバターの豊かな香りが口の中に広がるクッキーをぽりぽり頬張りながらミナミの動向を見ると、極々当たり前のようにミナミは水布団の上に上がり込みフユカを後ろから抱きしめる様にして抱き付いた。

 フユカは特に反応する事なく本を読んでいる。

 だがクッキーが口元に来ると、小さな口を開けてパクリと食べている。

 それを見てミナミの顔は、見ているこちらが逆に申し訳なくなる程に蕩けた。

 

「はあぁ、フユカはどうしてこんなに可愛らしいんでしょう。このまま時間が止まれば良いのに……そうだ、時空間忍術を極めれば時間を止める事って出来ないかしら。時空間の時って時間って事でしょうし……」

 

 段々怪し気な空気を醸し出し始めたミナミをスルーして、サスケはお菓子を食べ終わり宿題に戻った。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 ある日、うちはの自治地区にある練習場では男女合わせて四人の子供達がそれぞれ修行していた。

 

 赤色の髪の女の子は只管体を鍛え、黒髪の女の子はチャクラコントロールを高める為に木登りの業や体内のチャクラを循環させている。

 そして、黒髪の男の子はミルク色の髪の女の子に見てもらいながら術の精度を高めている。

 

 其処から少し離れた森の中に、その子供達の微笑ましい光景を覗く一人の人影がある。

 頭と右目を包帯で覆い、顎にバツの字の傷跡がある老人。

 ただ、老人と言ってもヨボヨボのおじいちゃんではなく、凛と背筋を伸ばして立っていて肉体は加齢で老いながらも筋肉はガッシリと付いている老人。

 

 その老人が見ているのは三人の女の子の内の一人であるミルク色の髪をした女の子。

 望遠レンズを付けたカメラ片手にじっと見て時々パシャりとシャッターを切っている。

 

 一歩間違えなくても明らかな変質者的行動をしている老人。

 この老人の普段の言動を知る者が見れば思わず二度見し、そして余りの信じられなさに幻術を疑い、それが幻術ではないと理解すると途轍もない衝撃によって記憶を飛ばすだろう。

 それ程信じられない行動をしている老人。

 

 その老人の名は、志村ダンゾウ。

 

 甘梨カオリーー旧姓志村カオリの実の父親であり今現在被写体(本人は知らない)になっているミルク色の髪の女の子ーー甘梨フユカの祖父である。

 ダンゾウは首に掛けている三つのロケットペンダントの内の一つを開き呟いた。

 

「……ふむ、やはりフユカは可愛らしい。このトロンとして眠そうな蜂蜜色の瞳、絹のように滑らかでさらさらとしたミルク色の髪、小柄で華奢で庇護欲を誘う無防備さ、そして尾獣に匹敵するチャクラ量を持ちそれをコントロールする力量。流石はワシと最愛の妻との間に生まれた愛娘から生まれたワシの孫よの……くっ、もっと堂々と近付きたいが……ワシの弱みとしてフユカが狙われるかもしれんっ……世の中は、儘ならん事ばかりだっ……」

 

 木の葉という大木を支える“根”。そう有り続けようとして、現にそう有り続けているダンゾウ。

 だがその正体は、ファミリーコンプレックスを拗らせたお祖父ちゃんである。

 

 

 それは昔の事。

 初代火影である千手柱間と二代目火影である千手扉間の下で現火影である猿飛ヒルゼンと共に、その二人から様々な事を学び経験して来た時の頃の話。

 

 とある日に、ダンゾウは恋に落ちた。

 同じ木の葉の仲間であり、うちは一族の女性に。

 

 一目惚れだった。

 任務が休みで偶々甘味が食べたくなって寄った甘味処で、運命の出会いをした。

 腰まである濡れ羽色の髪に黒真珠のように輝く黒瞳。

 肌は白魚のように白くて滑らかで、背は小さく華奢、見れば見る程深窓の令嬢を思わせる可憐な女性に。

 

 それからと言うもの、修行に身が入らず日常でも上の空。

 そして任務にですら心が浮ついて普段ならしない失敗を繰り返した。

 それを心配したヒルゼンに全てを打ち明け、それを聞いていた柱間は大笑いして扉間は呆れた態度をしていたが口元は緩んでいた。

 

 そして、三人や同期にアドバイスをもらい、その女性に幾度となくアタックして……見事にゴールインした。

 二人は幸せに過ごし、一人の愛娘が生まれてこれからという時に……最愛の妻が病で帰らぬ身となった。

 それから木の葉を支える傍男手一つで育て、そして一般の男性と結婚して孫が生まれ、今に至る。

 

 

 ダンゾウが創設した木の葉の裏組織である“根”。

 それは木の葉に住む妻や人々の安寧を守りそして世界を平和にしていけたらと願い、表から守るヒルゼンに代わり裏から守る存在となろうとして創設した組織である。

 

 だが今は愛娘と愛孫の健やかなる生活を守り見守り序でに木の葉に住むその他の人々を守る事を己の信条とし、根に在籍する部下達はそれぞれの大切な人達の日常を守り見守る組織になっている……のは組織内の公然の秘密であり、組織外の忍びには木の葉で最も深い闇として知られている組織。

 そんな組織のトップであるダンゾウが久し振りの休日を使って愛孫であるフユカをパシャパシャと撮っていると、微かな草の音と共に……うちはイタチが姿を現した。

 

「……行くのか」

 

 イタチが姿を現して数秒、ダンゾウは真剣な表情をして写真を撮りつつイタチに半ば確信を持った口調で問い掛けた。

 

「はい」

 

 即座に答えた声。

 その声には確固たる意志が込められていて、それを覆す事は至難だとダンゾウは悟った。

 だからこそ、ダンゾウはイタチの意志を受け止める為に一度目を瞑り一呼吸置く。

 

「……道は、険しいぞ」

「はい、元より覚悟の上です……ダンゾウ様、サスケにはーー」

「わかっている。ワシに任せろ」

 

 最後まで言わせずにダンゾウはイタチの言葉を遮った。

 その先の台詞を言の葉に乗せて空間に響かせる事の危うさを、理解しているが故に。

 たとえ、この場に自分とイタチの二人しかいなくてもそれを音にする訳にはいかなかった。

 

「……ありがとう、ございます……」

「ああ、達者でな」

 

 その言葉を最後にダンゾウは口を開く事はせずに撮影に戻った。

 そしてイタチはダンゾウの背に黙礼し、音もなくこの場から消え、そして木の葉の里からも姿を消した。

 

 それから十秒程経ち、ダンゾウはげんなりとした顔で思わず呟いた。

 

「……言えるわけがなかろう。まさかお前が女体化願望を持っていて、それを実現する為に里抜けして大蛇丸の所に行くなど……剰え弟の事が性的に好きだなどと……言えるわけが、ないだろう……」


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