冬銀花   作:さくい

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演習1

 フユカがウォーターベッドの上でモゾモゾと動いている横で、サスケといのが今回の演習内容について話していた。

 

「まず今回の演習内容をまとめるぞ。制限時間は放課後のチャイムが鳴るまで。必要なものはこのアカデミーの何処かに隠されている黒い巻物で数は全部で十。勝利条件は巻物を最後まで多く持っていること。くらいか……」

「さっすがサスケ君!こんなに簡単にまとめちゃうなんて!」

 

 否、真面目にまとめているのはサスケだけでいのはサスケの魅力に当てられて目をハートマークにしている。

 そんないのの様子を見て気付かれないように軽く溜息を吐いたサスケは、未だにモゾモゾと動いているフユカに目を向けた。

 

 昔から変わらないという髪型はツインテールでその状態で膝近くまであるミルク色の髪、やる気の全く感じられない眠た気な半分閉じた蜂蜜色の瞳。

 身長は同年代のアカデミー生の中では一番低く華奢。服装は忍者候補にあるまじきふわふわとした白色のワンピースで薄い桃色のカーディガンを羽織っている。

 ユウリ曰くワンピースの下には短パンとタンクトップを着ているらしいが、正直それがどうしたとサスケは感じている。

 言わないが。

 

 サスケが多分に呆れた視線を向けている中、未だにベストポジションが見つかっていないのかモゾモゾと動き続けるフユカ。

 何でこんな奴のチャクラコントロールが凄いのかと疑問が尽きないサスケではあるが、以前それをした時に延々と考えて寝不足になってからはなるべく考えないようにしている。

 

「で、フユカは何か案あるか?」

「……ん、聞いてるだけでいいって、言った……」

「……」

 

 フユカの返しに思わず無言になるサスケ。

 確かに話だけでも聞いてろとは言ったがまさか本当に聞きに徹しようとするとは、なんて図太い奴なんだ……いや、単に面倒臭いだけか……。

 そう思考しているとフユカがやっとベストポジションを探し当てたのか、ふうと満足そうに息を吐いて目を閉じた。

 

「ってちょっとフユカ!流石にその態度はないんじゃない!?今は演習の作戦を練る時でしょ!?少しは協力しなさいよ!」

 

 不真面目極まるフユカの態度に業を煮やしたのか、はたまたフユカのサスケに対する態度が我慢ならなかったのか眉間に皺を寄せていのは声を荒げた。

 だがそんないのの怒鳴り声は何処吹く風。

 全く反応しないフユカに、いのの堪忍袋が本格的にブチ切れようとした瞬間イルカから演習開始の声が上がった。

 

 そしていのが再び声を荒げる。

 

「ああもう!フユカ!あんたのせいで全然作戦練れなかったじゃないの!どうしてくれんのよ!」

「……ん、巻物見つけた人から、奪えばいい……その方が……楽……」

「んなっ!そんな狡いことできるわけーー」

「確かに、それが効率的だな」

「ーーないでしょ!!……えっ?……サ、サスケ君が……そう言うなら……」

 

 やる気が微塵も感じられないフユカに子供故の正義感が顔を出したのか、多少厳しくしてでもその態度を改めさせようとしたいのの言葉を遮りサスケがフユカの案を承諾。

 結果いのはサスケが良いならと渋々身を引いた。

 正義感や自分の気持ちとかよりも、好きな男の子の印象を良くしようとする健気な女の子の心理戦。

 フユカは偶然サスケを味方につけたことによっていのの説教から逃れる事が出来た。

 

 それから時間が経ち昼食の時間帯、フユカ・サスケ・いのの三人は各自で持ってきた弁当をアカデミー保有の森の中で食べていた。

 今に至るまでに見つけたチームで巻物を取得出来ていたチームはいなかった。

 という事は巻物はそれなりに探すのが大変な場所にあるらしい。

 まず候補として上がるのはグラウンド・校舎内・アカデミーが所有している小さな森の三つ。

 つまりアカデミー全域何処にあっても不思議ではなく何のヒントも与えられていない現状では探し当てるのは厳しい。

 結局フユカが提案した巻物を見つけたチームから奪うという作戦が一番体力の消耗が少なく済むと思い至ったいのは、時には狡い事も必要だと知ってまた一つ大人になった。

 

 いのは自分より子供っぽい見た目であり、その実合理的な思考をしていると思われるフユカに目を向ける。

 持ってきたサンドイッチを小さな口でもきゅもきゅと食べ、サスケに飲み物を飲まされていた。

 

 サスケに恋する乙女にとってはとても羨ましく、同時に他の人がやられているのを見れば激しい嫉妬に駆られる事間違いなしなその光景に一瞬思考が停止。

 直ぐに再起動して行動を起こそうとするもフユカとサスケが作っているほのぼのとした空間を壊すには途轍もない勇気が必要だった。

 かくしていのは自分の猛狂う嫉妬心を直向きに隠し、好きな男の子からの心象を悪くしないように頑張った。

 そしていのは自分の嫉妬心を誤魔化そうと思考の方向を転換した。

 

 つまり、フユカとサスケは恋人同士ではなく兄妹という風に見ればこの渦巻く心は消えるはず……と。

 

「たくっ、何で少しずつ食べて喉詰まらすんだよ」

「……ん、まとめて、飲んでるから……」

「わかってんなら直せ」

「……ん……」

 

 そう、そうよ。

 二人が兄妹だと思えば世話焼きな兄と手の掛かる妹として見れるじゃない。

 それに普段クールで一匹狼然としているサスケ君の意外な面が見れたし。

 ……でも、それはそれで妬ましい……。

 

 そんな風に思考が再ループし始めようとした時、サスケが何かに気づいてフユカといのに静かにするようにジェスチャーをした。

 いのは即座にそれに反応したが、フユカは気付いていないのかもきゅもきゅと小さな口を動かしている。

 こりゃ確かに手の掛かる妹だ。

 いのは苦笑しながらそう感じフユカに近付いて食べるのをやめる様に言い含めサンドイッチを弁当箱に戻させた。

 

 フユカにサンドイッチを戻させたいのは次にサスケを見て、サスケが何処を見ているのか確認する。

 サスケから見て左の方向、自分から見て右側。

 その方向に目を向けると油女シノ・うずまきナルト・春野サクラの三人がいた。

 

 その三人が何をやっていて何を目的として行動しているのか、それを見ようと意識を集中する。

 木や草が視界を遮り見難い。

 だが、状況は分からなくもない。

 

 サクラが苛立ちを露わにしながら先頭を歩き、シノが大人しく追従し、ナルトが落ち込んだ様に肩を落としながら歩いている。

 

 恐らくナルトが何かをやらかしてサクラを怒らせたのだろうと、いのは推測する。

 昔は泣き虫でよくイジメられていたサクラだが、今ではコンプレックスだったおでこを出して立派に堂々としている。

 そのお陰でサスケとの取り合いが頻発するがそれはそれ。

 いのはその状況を楽しんでいたりする。

 

 閑話休題。

 

 取り敢えず見た限りでは巻物を持っていなさそうである。

 そう判断してサスケに指示を仰ごうとした時フユカが小さく言葉を発した。

 

「……ん、巻物、みつけた……」

「えっ、本当フユカ?」

 

 何処にあるか分からない巻物、それをみつけたと言われて半信半疑でいのはフユカに聞く。

 帰ってきた答えは肯定であり、フユカの乗っているウォーターベッドから細長い触手が出てその方向を指す。

 

 その水の塊どうなってるの……いのはそう思いつつも触手が指し示した方を見る。

 触手が示した方向はナルト達が向かおうとしていると思われる地点。

 その方向にある一本の木の枝に黒い巻物が一つ吊るされていた。

 

「……あ、本当ね。というかあんな風にあるのね」

「あんな分かりやすくあんのに、なんで気付かなかったんだ……」

 

 いのが巻物の設置の仕方を見て感心し、サスケが思ったよりも見つけやすい場所にあった事を知って軽く落ち込む。

 フユカはそんな二人を不思議そうな顔で見て、そして何事もなかった様に昼食後の睡眠に入ろうとウォーターベッドに体を埋めた。


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