冬銀花   作:さくい

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アカデミー

 午前七時、起きる人は起きて寝ている人は寝ている時間帯に女の子の声が住宅街に響き渡る。

 

「フーユーカー!アカデミー行こーぜー!」

 

 そう元気一杯にとある一軒家の前で叫んでいるのは花実ユウリ、忍者アカデミーという忍者を育成する学校に通うくノ一候補の女の子。

 彼女は毎朝七時にフユカの家に行きこうやって声を出しており、近所では目覚ましとして利用している人もいる。

 

「フーユーカー!今日も師匠流アカデミー登校で行こーぜー!!」

 

 ユウリがブンブンと手を振りながら再び声を上げるとカラカラと二階にある窓がゆっくり開いてミルク色の髪を持つ少女が顔を出した。

 瞼は半分以上閉じ、明らかに今起きたような姿をした少女は小さく欠伸を漏らしてから口を開いた。

 

「……ん、先行ってて……」

 

 そう言って窓を開けた時とは正反対の速さでピシャリと締めた。

 それを見たユウリは少しムッとなって実力行使に出る。

 即ち家にお邪魔してフユカを引き摺り出すのだ。

 因みにフユカの両親であるカオリとトオヤは引っ張り引っ張られる二人を見て微笑ましそうに笑っている。

 

 そしてユウリの手によって着替えさせられ顔を洗われ歯を磨かれて朝ご飯を食べさせられて綺麗に整えられたフユカは、幼少の頃に生み出した水の布団(ユウリによりウォーターベッドと名付けられた)に乗り微睡みながらユウリに連れ出された。

 

 ユウリが師匠と呼び慕う人物流らしいアカデミー登校、それはサイドステップやバックステップ、側転や逆立ち歩き等を組み合わせた登校法である。

 ユウリの師匠曰く、全てに於いて体力は大事であるとのこと。

 この登校法は様々な動きを使って全身の筋肉を鍛えると同時に持久力をあげる画期的な方法らしい。

 

 ユウリがほっほっほっと息を吐きながら律儀に側転で移動し、フユカはユウリの後ろをのろのろと付いて行く。

 この時フユカは全く動くことはせず、ウォーターベッドの上に乗って快適な移動をしている。

 

 色々と歩き方を変えて移動するユウリと水の塊に寝転がって移動するフユカの二人の登校風景がある種の名物となっているのは近隣住民の秘密である。

 

「あ、そう言えば今日の授業って一日使って演習だったっけ。楽しみだなフユカ!」

「……」

「おーい、フユカー?」

「……」

「駄目だ、またぼーっとしてる」

 

 ぽけーとしながら明後日の方向を見続けるフユカを見て、ユウリは諦めたように溜息を吐いて移動に集中する。

 フユカに声を掛けて返事がない時は、しつこく声を掛けても一切の反応が返ってこないのは幼少の頃から変わらない。

 フユカの意識をこちらに向けさせる方法はあるにはあるが、現状フユカの意識を向けさせる物を持っていなくて出来ないので仕方ない。

 

 暫くの間大人しく師匠流アカデミー登校を続けるユウリと終始変わらずウォーターベッドに乗ってふよふよ移動しているフユカの二人。

 その二人に一人の女の子が近付いていく。

 腰まで伸びたサラサラな濡れ羽色の髪に大きくおっとりとした黒真珠のような瞳、纏う雰囲気は柔らかく温かい母性を感じさせる女の子。

 名前は時津ミナミ、フユカとユウリと同い年でありアカデミーに入学したその日に二人と仲良くなった。

 以来ユウリとフユカの二人と一緒に行動している。

 

「おはようございます。フユカ、ユウリ」

「ん?おはよミナミ!フユカは今ぼーっとしてるから反応しないぞ」

「あら、そうですか、残念です……。ところで今日は一日演習ですけど準備はしてきましたか?」

「もっちろん!待ちに待った演習だからな、準備は万全だぜ!」

「ふふ、それは良かったです」

 

 ミナミは口に手を当てて穏やかに笑い、ふと視線を感じてその方向に視線を移動させる。

 其処には力の入っていない目でミナミを見ているフユカがいた。

 

「フユカ、おはようございます」

「……ん……」

「ふふ、相変わらず可愛らしいです」

 

 フユカの返事を聞いて蕩けたような笑顔でフユカの頭を撫でるミナミ。

 為すがままにされるフユカの様子に更に表情を蕩けさせたミナミを横目に見ながらユウリはバク転を始めた。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 演習の時間になりグラウンドに生徒たちが集まった現在。

 生徒達は教師である波野イルカと他数名の教師の前でそれぞれ座って演習の話を聞いていた。

 

「よし、みんな集まったな。今日は前から伝えてた通り一日使ってサバイバル演習を行う。内容はこのアカデミーの何処かに隠されてある黒色の巻物を見つけて午後の終業のチャイムが鳴るまで守り抜くこと。チャイムが鳴って一番巻物を多く持っていたチームが勝ちだ。数は全部で10、三人一組に分かれて行ってもらーー」

 

 そうイルカかが続けようとした瞬間に子供達から歓声が湧き、仲の良い友達と組もうとしたり好きな人と組もうと行動を開始し始める。

 それはユウリ達も例に漏れず、普段一緒にいる三人で組もうと盛り上がっていた。

 

「よし!フユカ、ミナミ!一緒に組もうぜ!」

「ええ、是非!」

「……ふぁ……ん、ねむ……」

「……あー、フユカ?ミナミと一緒に演習組もうぜ?」

「……ん?……ん……」

 

 ワンテンポ遅れてマイペースなフユカに苦笑しつつ承諾を得た事に嬉しそうにするユウリと、フユカが欠伸したことで生理的に涙目になっているのを見て顔を蕩けさせたミナミ。

 和気藹々とした雰囲気を放出する三人組の空間を切り裂いてイルカの声が響いた。

 

「静かにしろお前ら!チーム分けはバランスが良くなるようにこっちの方で決めてるからちゃんと従うように!」

 

 そのイルカの言葉を聞いて悲鳴をあげる子供達に構うことなくイルカは淡々とチーム分けをしていった。

 結果的にフユカはユウリとミナミから離れることになり、ユウリとミナミがイルカに猛反発したがその反論が通ることはなくチーム分けは完了した。

 

 フユカのチームはフユカを含めて山中いの、うちはサスケの三人。

 いのはサスケと一緒の班になった瞬間に悲鳴を上げてサスケの所に向かい、フユカがサスケと同じ班と発表された瞬間に複数の女子から嫉妬と怨念の混じった視線が突き刺さった。

 何故女子達からそんな目で見られるのか。

 それはミナミがサスケと両親の繋がりで幼馴染であり、ミナミと出会った日にフユカとユウリはサスケと面識を交わして以降親しくしているからだったりする。

 

 最初はなんで女なんかと……とぶつくさ文句を言っていたサスケだったが、フユカがぽへーっとしているようで何気に高度なチャクラコントロールを常にしているのを知ったり、ユウリとの組手でボコボコに負かされたりして気付けばサスケの態度は軟化。

 最近ではフユカ・ユウリ・ミナミの三人に加わってサスケが昼食に入る事もしばしばあるし、アカデミー後に女子三人でやっている訓練にも加わる事が増えてきている。

 ユウリがアカデミーの男子達と忍者ごっこをしていたり、ミナミが用事があってフユカの下を離れていなくなると二人の代わりにサスケがフユカの面倒を見るようになった。

 

 フユカは何気に世話焼きなサスケの介護を受けて快適に過ごし、サスケは偶にフユカの口から漏れるチャクラコントロールのタメになる話を聞けてwin-winの関係。

 ちなみにフユカのタメになる話とは、トオヤが何処からか集めてきたチャクラに関する書物をカオリがフユカに読み聞かせて覚えさせられたものである。

 そういうサスケとの普段との関係もあって女子達から睨まれているが、フユカは体の向きを変えるのに忙しくて気づく事はなかった。

 

 周りが班分けされたメンバーで作戦を練っている最中、フユカはそれを一切気にする事なくゆっくりとした動作で体の向きを変えてベストポジションを探しているとサスケが面倒そうな顔をしながら近づいて来た。

 

「おいフユカ、いい加減作戦会議するぞ」

「……ん、ちょっと……待って……」

「……はあ、まあいい。そのままで良いから話だけでも聞いてろ」

「……ん、りょーかい……」

 

 と、二人が如何にも慣れてますよと言わんばかりの雰囲気にいのは嫉妬してハンカチを噛まんばかりに酷い形相をしたが、二人はそれに気づく事はなくサクサクと作戦会議は進んでいった。


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