提督(笑)、頑張ります。 外伝   作:ピロシキィ

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嘉佳様から寄稿頂きました。

感謝申し上げます。




世にいう長野機関は存在し得るのか 

小話 世にいう長野機関は存在し得るのか 著 阿川

 

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前書き

 

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繰り返しが多く申し訳ないことではあるが、本書籍はあくまでも推察の整理であって、事実が全てでない。予めのご了承を強く願い申し上げる。

とは言え読者の方もじれったいであろうから、この辺りでそろそろ本題に戻ろうか。

戦前、戦中、戦後の裏事情には長野という名がすぐにちらつくわけであるが、筆者の取材活動から見えてきたものとつらつらと述べていこう。

 

 

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2章 長野家とユダヤの関係

 

まず、前提として述べておきたいが、筆者は日ユ同祖論という学説には一切関知しないものである。私個人は学者ではなくジャーナリストであるからして、この学説と呼べるかどうか疑わしいものを解説するにしても知見が足りないうえに、権利、義務いずれも持ちえないのである。

それは日本国が天に頂く畏れ多いお方の出自を問わねばならぬということに繋がりかねないことに起因するのだ。また読者諸兄にしてもやんごとなきお方の正当性を問いたい方はおらぬと信じて話を戻ることにする。

 

ユダヤ人と聞いて一般に思い浮かぶことはなんであろうか。

ナチスドイツによる排斥、ホロコーストを思い浮かべる向きが多いだろう。が、私が推察のテーマにあげていることを思えば、杉原千畝外交官が為した『命のビザ』であるだろうし、知見の深い方は樋口季一郎陸軍中将のオトポール事件に端を発するシベリア鉄道による難民輸送『ヒグチルート』を、合わせて頭の引き出しから取り出すことだと思う。

 

ここでほんの少しではあるが。これらの偉業が生まれた土壌について解説しておこう。排斥対象となった民族、様々な国籍を持った者たちは当然脱出を図るわけである。が、イタリアは地中海のルートを遮断し、イギリスに抜けるルートもフランスが堕ちたからには使えない。つまり西方のルートから脱出は望めなかったのだ。

当然、東方に希望を見出したわけである。

杉原外交官はリトアニアで、樋口中将は満州で彼らの窮状を目の当たりにすることになった。

 

彼らの人道的配慮、行動には頭が下がると同時に、またその評価の低さに筆者は憤りを覚えるものであるが、ここまでにしておこう。

 

そして多少の前後は出てくるが、杉原氏は4000人程度にビザを発給し、樋口氏は5000人程の輸送に尽力したものと考えられる。またこの被排斥者たちの長い逃避行の終着点は上海租界であった。

 

ここまで整理したなかで長野の名が出なかったことに、読者は違和感を感じ始めていることだろう。だがここでようやく、長野が、長野商会が関連してくるのだ。

 

まずシベリア鉄道の利用に関して問題があった。避難民の少なくない人数が、鉄道料金を払えないほどに貧していた。当時のソ連政府は外貨準備に不安があり、米ドルで160ドル前後の支払いを利用者に求めていたのだ。日本円で言えば800円ほどであり、今の物価で考えれば80万円強にもなる。つまり、当時の日本人には高い買い物としか言いようがない。

が、ここで手を挙げたのが長野商会であった。米ドルの準備が少なからずあった長野商会は、帳簿によるところ800人程の乗車券の購入を支援したのである。

ただ、どこから嗅ぎつけたのかは何も資料が残されておらず、分からず仕舞いなのが残念なものだ。長野壱業氏の為した名誉の証人が歴史の向こうに姿を消したことは悔やみきれない。

今は帳簿の走り書きにあった、円ノ支払イハ不可デアッタ無念という文言の悲壮を知るばかりである。円が使えればもっと多くの避難民が助かったことを想像するのは簡単なことだ。

 

また上海租界に押し寄せた数万の避難民の対処にも長野氏は関係してくる。

当然、上海のみでは対処できず、本土の神戸港、横浜港、敦賀港に割り振られてアメリカなりオーストラリアなり南米なりに出国させねばならなかった。

日本が出したビザはあくまでも通過ビザが大半であるからだ。滞在させ得る人数は残念なことに少なかった。

 

また造船業にも手を出しつつあった長野商会は将来の顧客たちのコネ作りも兼ねて、アメリカ行きの船便の手配も支援している。得難い技能を持った避難民をリクルートしつつ、多数を退去させることで国内の避難民問題の回避に努めたことは偉業に他ならないはずである。

知米家であった長野氏にしか為し得ない、日本国の国際貢献であり、国内治安の維持である。

この両輪の行き先が名誉であることを筆者は願って止まないものである。

 

さて長野グループの功績が所謂機関に繋がるかどうか。というのが2章のテーマである。

 

まず、杉原氏がビザを、樋口氏と長野氏が足を確保したというのが分かりやすい経緯の理解であると述べさせて頂く。厳密にはそうではないが、これらの人道支援は重なるところが多いことからして、認識としてはそれほど離れていないからである。

 

また杉原千畝氏を知る人の中では戦後の外務省での冷遇は有名である。彼には名誉も地位も贈られなかった。氏は戦後に度々ある学校に出入りしているが、その学校にロシア語課程があるのもその為かどうかは推測の段階から進むことはない。

同じように表面には出ていないが、長野グループと外務省の間においても似たような問題がある。外務省にとって避難民の支援はあまり歓迎すべき行いではなかった。合わせて講和の立て役者である長野氏の外交面の陰日向の行動が彼らの職分、職権を脅かしていたというのもあるだろう。今章のテーマにそぐわないため割愛させて頂くが、そういった別の要因もあり両者の仲は冷え込んでいたのである。

 

政財界の権威において比類のない長野グループではあるが、外交事情を知るには面倒な立ち位置に苦慮することが避けられないのだ。

そして、ここに一つの必要が生まれる。

 

連携出来ないのであれば、自ら情報を集めることが、そういった活動が求められるのだ。いかに日本資本主義の天皇と長野文乃氏が言われようと、必要であれば、十分な体制を築かなければならない。

 

私には長野壱業氏が創設した学校の第二外国語課程の異様な充実ぶりから目を離せぬのだ。自前で諜報員を育成出来る環境がある上に、ヒグチルート時代からの陸軍との深い関係を思えば荒事にも耐用出来る人材も困らない。

仕事道具にしても軍需企業でもあるグループからすれば員数外も転用できよう。

 

公然の秘密と化している日本赤軍と長野家の暗闘を踏まえても、いくらかの武装は予測されるわけである。

長野系列のフェリーで発生したシージャック事件では、偶然乗り合わせた長野系列の警備会社社員が、最終的に犯人グループの半数を射殺している。銃器は犯人グループが持ち込んだ物を奪取しているのだが、どこで覚える必要があったかを思えば裏が気になるのが人というものである。退役軍人といっても事件の10年以上も前に軍籍を抜けていることが分かれば。

 

加えて申し上げるならば、イスラエル高官が来日するたびに、会食に長野グループ関係者が出席している現状が一種の状況証拠たり得るのではないか。

ナチス狩りの経験則を買っているのか、赤狩りの経験知を売っているのか。はてさてアメリカの内情についての情報交換であろうか私は邪推を禁じ得ない。

 

またイスラエルと言えば、私も取材で入国した経験があったりするのだ。長野グループの海水淡水化プラント事業の技術提携の商談を取材させて頂いていたのだが、その内容もさることながら不可解な点があった。

 

まず、英語の商談であろうから私でもなんとか訳せるだろうと思って行ったわけだが、結果としては訳せる言語ではなかったのだ。私の前では恐るべきことにヘブライ語による商談が繰り広げられていたのだ。

溜息混じりに取材対象の商社マンに訳を頼むことになったのが、その彼はどうやら大学でヘブライ語を学んだらしいのだ。果たしてどこの大学だろうか、だが読者の方は察しがついているだろうと思う。

 

また、こちらは英語であったから聞き取れたのだが、挨拶するとともに、ズボンを見てイスラエル人が言うのだ。今日は入っていないんだね、と。なんのことだろうか。

商社マンの彼いわく、一度もポッケに拳銃を入れたことがないというのにからかわれるんです。

どうも、背広かズボンに拳銃を突っ込んだ日本人商社マンというのが、向こうの定番ジョークらしいことが分かったが、私を悩ませるだけである。ちなみに彼は趣味で鍛えているという範疇にない肉体の持ち主であったとだけ記述しておく。彼が偽物であればNeedToKnowの原則が保たれている、本物であればそういうことなのだろう。

ケースオフィサー、パラミリタリーオフィサーの匂いがするのが私だけではないはずである。

 

余談になるが、イスラエルの諜報組織の人員になるには第一に愛国心が要求され、その他の適性が確認されれば数年の人格観察が待っていて、それから招待状が来ることでやっと扉が開かれると言われている。

一度でいいから、長野グループ各社の人事部の考課票の評価項目を閲覧したいものである。

長野グループの各社人事部にはどの様な考課評があるのだろう。

 

結論として、遅くとも戦後においては、長野グループに諜報組織が生まれる必要性と実行力の二点はクリアしているという推察をユダヤ問題からの視点でもって論じる次第である。

長野壱業氏が偉大なことと同じ様に、長野グループもまた、その道を歩いているのだろう。

 

 




著 阿川氏の平穏を願うばかりである。
      byピロシキィ

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