一兄さんが出て行ってしまった後、私はというと特に何をするでもなく外に出てリフレッシュしようと決めた。ちー姉ちゃんも考えることがあるということで1人家に残ることになった。私自身も特に行く当てもないが、強いて言うならば昼食時なのかお腹が空いてきた。既に街中の方まで来てしまっているからそこら辺のファストフードで食べようかと思っていたところで、ふととあることを思い出した。中学の友人の実家が食堂を開いていることを
「久しぶりに会うわけだし、少し気晴らし程度に行きますか」
ここからならある程度距離は離れているが十分に歩いて行ける距離だ。来た方向へと戻る。この時間帯ならたぶんあいつはいるであろうと思い、足を進めていく。話してみれば何かアドバイスを貰えるであろうという多少の期待と共に向かう。そして歩くこと約10分で友人の実家が経営している五反田食堂に到着した。今日も営業しているようで戸の前からでもいい匂いが漂ってきて空腹感を刺激してくる
「お邪魔しまーす」
戸を開くと満席ではないにしろ7,8割の席が埋まっていた。正面には厨房があり、そこでは中華鍋を2つ振っている筋骨隆々のおじさんが1人で厨房を回していた。てか、あの人確か80歳超えてたような気がするんだけど
「あら、お久しぶりね円華ちゃん」
「お久しぶりです蓮さん」
自称五反田食堂の看板娘である私の友人の母親。常に笑顔を絶やさず、とても愛嬌のある美人だ
「弾なら上にいるわよ」
「ありがとうございます。でもその前に昼食を食べにきました」
「あらあら、それはごめんなさいね。それと今日は
「ちょっといざこざがありまして・・・」
ここに来るときは大抵が一兄さんと一緒で来てたから蓮さんにもそういう認識をされていたと思う
「あらあら、それは大変ね。ところでご注文はいつものでいいかしら?」
この食堂において、いつものとはオススメメニューである業火野菜炒めである
「はい、それでお願いします!」
「一名様、業火一丁!それじゃあ円華ちゃん、どこか適当に座って頂戴。お冷持ってくるから」
「分かりました」
適当に空いてる席に座り昼食を待つことにした。周囲からは定食や業火野菜炒め等のいい匂いが常に漂ってくるせいか、店に入る前よりも空腹感が強くなってきた。中学の時は週に1回は弾や数馬、鈴と一緒に遊んでいたためそのペースで食べていたのを思い出す
「おう嬢ちゃんじゃねぇか。お待ちどうさん!」
ここの店主である五反田厳さんが出してくれた業火野菜炒めが目の前に置かれた。量こそ多いがこの空腹感ならすぐにでも平らげてしまいそうだ
「お久しぶりです」
「おうよ。ここんとここの店に来てくれなかったもんで一部の客が嘆いてたぞ」
「あはは・・・」
なぜだろうか、自称五反田食堂の看板娘を置いておいて一部の客に人気がある客って・・・
「忘れてないと思うがここのルールだけは破んなよ?」
「分かってますって。それじゃあいただきます」
この見た目で豪快であるこの食堂の店主はかなり食事のマナーに厳しい。もし破ろうものならお玉が飛んでくる。ピンポイントに額にだ。どうやってるんですかと言いたくなるほどの命中率である。それはおいておくとして今はこの業火野菜炒めを食そうじゃないか
うん、やっぱり美味しい。いつ食べてもここの野菜炒めは真似できないおいしさがある。料金も払い、蓮さんからも弾がいる2階へと通してもらった。蓮さん曰く、今日も部屋でだらだらしているとのことでしっかりさせてくれということだそうだ。弾といえば弾らしいのかな。とりあえず弾がいるであろう部屋の襖をノックすると中から弾と思われる声がした
『うーい、今日は手伝いしなくていいんじゃなかったかー?』
「蓮さんでもなきゃ厳さんでもないよー。円華よー」
『げぇ円華!?急に来んなよ!しゃあねぇから少し待ってろ!』
アポなしで来てしまったことには後で謝ろう。でも部屋ぐらい少しは片づけておいた方がいいと思う。ネットで見たことだが部屋に溜まった埃は換気や掃除をしないと放射線の量が増加するとかなんとか。末恐ろしい話である
「おうよ、入っていいぞ」
襖を開けてもらい部屋の中に入れさせてもらうが、和室で6畳ぐらいの部屋で所狭しとベッドから机などが置かれている。この部屋を使用している五反田弾は私や一兄さんの中学時代からの友人である。髪は赤くオールバック。身長は一兄さんよりも少し小さいくらいだ。顔立ちは悪くはないのだがとにかくモテないのだ。理由としては性格が少し残念なのだ
「お邪魔しまーす。それとアポなしでごめんね」
「んなもん別にいいっての。それとお邪魔されまーす」
こんな感じで適当な返しをしつつも気楽でいられるというのは本当にありがたいところだ。IS学園ではいろいろとありすぎたから、このくらいがちょうどいい
「適当に掛けてくれ。それと何か飲み物でもいるか?」
「ううん、大丈夫。それはそうと、さっきなんであんなに慌ててたの?」
「あ、え、えっとだな・・・見られたら不味いというかなんというか・・・察してくれよ」
「あっはい」
もしかしたら、やらしい本でも隠したのだろう。そうであれば納得という感じだ。現に弾の焦り様が半端ない
「そういや、今日は一夏は一緒じゃねぇんだな」
「蓮さんにも言われたけど四六時中、一緒にいるってわけじゃないからね?」
「そんなことは知ってるっての。そのなんだ?IS学園ってどんな場所なのかとかいろんなこと聞いてみたいんだっての」
実際に経験したことを聞いてみたいのだと思う。百聞は一見に如かず。IS学園に行ってどんなことをしていたのかというのを男性視点で話せるのはたった2人しかいないのだ。しかも、それが友人であればなおのことだ
「あわよくば誰かを紹介してもらおうかと」
「そんな都合よくいくわけないでしょ」
「ですよねー。ちくしょう、1つぐらい夢見させてくれてもいいじゃねぇかよう。だってIS学園と言えば可愛い子しかいないことで有名なんだぞ!?」
そんな簡単に出会いが生まれるのであればちー姉ちゃんは既に・・・おっとこれ以上この話題に触れないようにしよう。もしかしたら私も同じ道を辿りかねないし
「まぁ、それはともかくIS学園はどうだ?楽しいか?」
「んー、まぁまぁかな。可もなく不可もなくって感じかな」
楽しかった事は確かにあった。だが、それと同じように疑問や不快に思うことが多々あった。日を追うごとに積み重なりこのままでいいのかという疑問が、どうしたらいい方向に事が進むのかという思いが強くなっていく
「煮え切らない返答だな」
「まぁ、本当にいろいろあったからさ。どうしたらいいのか分からなくなっちゃったりして大変なんだよね」
「ふーん。いつも通りに中途半端だな」
「そんなことは分かってるよ。でも事が事だから悩まなきゃいけないの」
一兄さんが迷惑をかけているのが私だったら、まだ妥協できたかもしれない。だが、相手は七実だ。辛辣で聞かれたことには本心で語る、学園1嫌われ者。しかし、本当のところは私たちの中で最も活躍し、傷ついたのが彼だ。周囲から感謝されること無く今までの学園生活を過ごしてきたのだ。だからこそ私は間違えてならないような気がする
「そういや、もう1人一夏とは別にIS学園に男性IS操縦者っていたよな?」
「ん、七実こと?」
「そうそう。そいつのこと知ってんの?」
「知ってるも何も同じクラスだよ。それでもって・・・一番迷惑をかけてる相手かな」
私もそうだけど一兄さんやセシリア、箒にシャルロットだってそうだ。もしかしたらラウラだってISの暴走を含めばそうなってしまう。同じクラスのたった1人の人物に全員の面倒事を押し付けてしまっている。私はそのことで申し訳なく思う
「んで、今日ここに来たってことはそういうことなのか?」
「そういうことだよ。なんかごめんね?」
「いいんじゃねぇの?相談事とか中学の時と結構あったしな、どっかの朴念仁の事前準備だったり後処理だったりな」
これには苦笑いするしかなかった。中学の時は一兄さんが告白をぶち壊したり、不用心な言葉で期待を持たせてしまったりともう本当に女の敵である。このことは私は許せなかった。しかし、弾と数馬がアフターケアをしてくれていた。流石にあんなことになってしまった娘をそのままにしておくのはダメだ、ということで率先して行動に移していたらしい
「あはは・・・それはともかく、もしさ弾は見知らぬ人を助ける場面に出くわしたとして選択肢が2つ頭によぎったとしよう。1つは過ごしている場所の規則に則ってその人を助ける。もう1つはその人が生きてきた国や環境を全て取り払って全てリセットさせる方法。どっちの方法も実行に移せるだけの力はあるとする。弾ならどうする?」
「はぁ・・・凄い突拍子もないことを聞くな」
弾は呆れた顔でそういうがすぐさま考え出した。実際にあった話だし、一兄さんと七実の行動を選択する問だがどっちを選択してどうなるとかは分からない。結果論として七実の行動・案によってシャルロットは救われた。だが一兄さんの方法では何もわからないのだ。甘い話をすると、デュノア家の誰かがわざとそうさせてシャルロットをIS学園で保護してもらえるようにわざとそうしたのかもしれない。話を聞いただけで全てを知っているわけじゃない。だからこそ、関係のない第三者に聞きたかったのだ
「でもさ、前提を覆すようで悪いけど結局のところ本人がどうしたい、どうありたいってのが分からんからどうしようもないってのがあるな」
「そこ?」
「いや、一番重要だと思うぞ。だってよ、その人を完全に安全と言える状況にできたとしても自分が助かろうとしなきゃただの無駄骨だぞ?」
確かにそうだが、私としてはそんな回答が返ってくるとは思ってもいなかった。前者か後者で返されるものだと思っていたから呆気に取られてしまった
「それでもし、助かりたいのであればちゃんと助けるさ。解決方法はその人次第だけどよ」
「・・・そっか」
「んで、その人が可愛い女の子なら嫁にしたい」
さっきのところで止めておけばいい話だったのに・・・シャルロットは七実に目が行ってるから無理だろうけど。環境さえ違えばワンチャンスあったかもしれないけど
「なぁ円華、マジで誰か紹介してくれよ!」
「自分で頑張ってよ。きっかけぐらいは作れるかもしれないけど」
「マジで!?おぉ、円華様ありがとうございます!」
と言って目の前で土下座し始める弾を見て、どれだけ出会いに必死になっているのかが実感できたような気がする。なるべく弾にいい出会いが生まれるよう助力しよう
「私と弾の仲でしょ?たまにはこういうこともいいんじゃないかなって。それと頭上げて」
「ははぁ~、いや、マジでありがとうな」
「はいはい、今日は早いけど帰ることにするね」
「あー、そうだ。1つ聞いておきたいんだけどよ、その七実って奴はどんな奴なのかだけ教えてくれねぇか?」
「七実?・・・別に構わないけどどうしたの?」
弾にとっては七実の事なんて知らなくていいことだけど、今日は話を聞いてくれたこともあるし話してもいいと思った
「お前が相談、もとい質問するなんて大抵は一夏や自分の事が多いけど内容を考えると一夏や円華の考え方じゃないって思ってな。なんとなくそう思っただけだよ」
「ふぅん・・・でもだいたいは当たってるよ。ちなみに後者の考えが七実だよ」
「んで前者がお前とか一夏か。一夏らしいと言えばそうなんだろうけど、円華だったららしくないわな」
自分でもわかってるとも。葛藤するだけして解決まで至らない。それが積み重なり忘れるまで延々と続く。まさにその現状の真っただ中。だが弾に話したことにより、どうしたらいいのかは分からないが少しは気が晴れた気がする
「そう言われるとキツイなぁ・・・それはともかく七実の事だったね。何が聞きたいの?」
「んっと、じゃあ七実って奴が円華から見てどんな奴だ?」
「最初は不愛想な人だと思ったよ。話す時も適当だし髪の毛で視線もわからない。でも日を追うごとにみんなが七実に負担をかけているにも関わらず、誰よりも辛辣で誰よりも優しい人なんじゃないかな」
結局のところ自分のことを顧みず箒を助けたり、一兄さんと対立してもシャルロットを助けたりした。極めつけには臨海学校で
「辛辣で優しいと。変な表現だが円華がそう感じたならそうなのかもな。さてとそろそろ帰るんだろ、店前まで見送るわ」
「ん、ありがと」
私たちは立ち上がり部屋を出る。ここに来た時よりも幾分かは気は楽になった気がする。弾には申し訳ないことをしてしまったのでここは彼のお願いをなるべく叶えてあげよう。店に出ると蓮さんに目を細めて首を傾げた後に私が帰ることを察してくれたようで手を振ってくれた。店の外に出ると日も落ちてきて少しは気温も下がってきていた
「んじゃ、今度は普通に遊ぼうぜ。一夏から聞いたけど鈴もこっちにいることだしな」
「そうだね。その時は一兄さんや数馬も呼んで全員でね」
「おうよ。さてと、俺もしなきゃなんねぇことがあるからここまでな」
「うん、今日はありがとうね。このお礼はいつかするから」
そう言って私たちは別れた。この後、家に帰るのだが一兄さんはこの日、帰ってくることはなかった。ただ、メールで軽く一文「今日は友達の家に泊まる。頭を冷やすから」との事で、私とちー姉ちゃんは1日一兄さんの帰りを待つことにした
弾サイド
急な円華の襲来には驚かされた。俺の部屋に
「よかったの?」
「いいんじゃねぇの?指摘されなかったのと言わないように言われてたしな。だますようなことは性分じゃないんだけどな」
「でも友達の、
円華が来た時には既に一夏が家に来ていた。ちなみに靴は隠していた。理由はあの状態の一夏を蘭に会わせるわけにはいかなかったからだ。蘭は一夏に対して完璧な王子様のようなイメージを押し付けていた。だが、一夏も人だ。勝手につけられたイメージの通りにはいかない。焦燥し、間違え、踏み外したりもするだろう。そんな状態の一夏を見たら、どう思うだろうか。よくは思わないだろうな、ということで爺さんや母さんには黙っててもらっている。本当に蘭には甘い爺さんだよ
「一夏の為であり蘭の為であるって感じだな。店番降ろしてもらってまでやってるんだ、今日中にはいいとこまでは解決しておくよ」
「よろしくね。夕飯は部屋に持っていくわ」
「サンキュー。んじゃ上行くわ」
俺は食堂を後にし自室に戻った。襖を開けると気まずそうに押し入れから出て俯き座っていた。さっきの円華の話を押し入れの襖越しで聞いていたため堪えているのだろう
「んで、
「円華の言う通りだよ。俺がシャルロットの事を守ろうとしたけど結局のところは何もできてなかったんだ・・・やろうとしたことが逆に危険なことに巻き込んじまった・・・」
そのシャルロットって人が中心の出来事なんだろうが、円華曰く辛辣って言ってたし多分一夏の案では無理だというのが分かって、その上で全てをリセットするなんて案を出したんだろう
「んで、それは謝ったのか?」
「いや・・・してない。このことを知ったのは今日なんだ。あれだけ守るって言っておいて何もできてなかったって思い知ったら・・・自分がしてきたことが無意味に思えて・・・それで逃げてきたんだ」
「そうかい。何があってそうなったとかは聞かないけどよ、やることはきっちりやんねぇと言ったことも何の意味も為さなくなっちまうからな?」
言うだけなら誰にだってできる。その先が重要なのである。我が身に余る宣言しても期待させるだけで何もできず、結局のところ無意味に終わってしまう。こう言っては何だが今の一夏に惹かれる要素がほとんどと言っていいほど無くなっていると言っても過言ではないと思う。誰からも好かれ、信念を貫くところに惹かれた人間としては見過ごすわけにはいかない
「ああ・・・なんかありがとうな」
一夏は申し訳なさそうにするが俺としては今の状態からさっさと抜け出してほしいものだ
「気にすんなって。友達なんだからこのくらいはするっての」
「ありがとうな。いつかお礼するよ」
「なら今度でいいから勉強、もとい宿題を手伝ってくれ!教えてくれるだけでいいからさ!」
そういうと言うと唖然とした表情をしていた。いやね、そんな顔しなくてもいいじゃないか。某錬金の漫画じゃないけど等価交換というか、急に押しかけてお邪魔しに来たのはそっちだと思うんだがなぁ
「でも今回は俺が迷惑をかけたしな、それくらいでよければ手伝うよ」
「うっし!これで課題はなんとかなる!やっぱ持つべきは友人だな!」
なんだかんだでIS学園ではどうだか知らんが中学までは成績優秀だったのだ。それもあって結構、課題だとか手伝ってもらってたっけな。それはそうと約束を取り付け一安心したところで次の話題へと移そう
「そうだ一夏。1つ聞きたいんだけどよ、今日お前どうすんの?」
「どうって、何がだ?」
「あのなぁ・・・仮にもお前は家から逃げてきたんだろ?クールダウンとか顔が合わせづらいだとかあるんじゃねぇのか?」
「確かにあるな・・・すっごい気まずいな」
「だったら家に泊まっとけ」
エレベーター式の学園を蹴ってまでIS学園の試験勉強をしている蘭に息抜きがてら適当に遊ばせるつもりなんだが、俺だけでは無理だろうという腹積もりから一夏にも協力してもらおうという算段である。蘭に滅法甘い爺さんならこれで許してくれそうだし、何とかできるだろう
「でも急にいいのか?」
「いいんだよ。爺さんと母さんには俺から上手く言っとくから、円華だったり千冬さんに連絡しておけよな」
返事を聞く前に俺は立ち上がり部屋を出て、説得するために食堂の方に降りていった。思惑通りにどうにか説得できた。長時間の詰込みは効率悪いだとか最もらしい言い訳を並べつつ蘭の話に持って行けたのが大きいだろう。本当に甘すぎだろ爺さん。とりあえず今日は徹夜とはいかないが夜遅くまで遊べそうだ。ちなみに一夏が家にいることを知らない蘭を驚かせようと、一夏に迎えに行かせたらなぜか殴られたぜ。理不尽だよ。あとは一夏がどう七実だとかいう奴と上手くやっていくのかは聞かないでおいたが、何かあったら円華経由でまた話だあるだろう。それまでは俺ができることはこれくらいだろうしな
今回もお読みいただきありがとうございます
前回に円華、一夏視点(箒も)と言っておきながら話の方向性が変わっててすみません
ぶっちゃけここで弾を出した方が話をまとめやすいかなと思ったので変えました