元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

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今回は千冬サイドオンリーとなっております


真実、知らずにはいられない

 

月明かりが照らすその顔は子供のように、そして退屈そうないつもと変わらない表情。篠ノ之束その人である。束は岬の柵に腰かけた状態でぶらぶらと足を揺らし、目の前に広がる海をただ眺めていた

 

「ん~・・・いるんでしょ、ちーちゃん」

 

多少は隠れていたつもりだが、こうも簡単に見つかるとは。このまま隠れているわけにはいかないので森から姿を現すことにした

 

「よく分かったな」

 

「束さんにできないことは無いのだよ。それはそれとして、何の用かな?」

 

「それこそ分かっていそうなものだがな。今回の暴走、あれは本当にお前の仕業じゃないんだよな?」

 

私には疑うしかなかった。この世界でただ1人、ISのことを完璧に理解している人間は篠ノ之束しかいない。開発者にして理解者。ならば今回の銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走に何か関与しているのではと思ったのだ

 

「もー、ちーちゃんも疑うんだからー。はー、じゃなくて、なー君もそうだったけどその考えは馬鹿馬鹿しいってもんだよ」

 

「だといいんだがな・・・話題を変えるがどうして一夏と鏡野の2人がISを起動できたんだ?」

 

単純な疑問だが今まで存在しなかった男性IS操縦者が急に現れたのか。そしてなぜ関連性のないあの2人なのか

 

「んーとねぇ、考えられるとしたら・・・ISに対して無欲だった、悪事や偽善のために使わない人限定に使えるとかね。もしくは・・・いや、これは束さんが()()言うわけにはいかないことだね」

 

何か隠しているようで聞き出そうと束に近づくが、右手を前に出して静止された

 

「このことはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。束さんはせいぜい助言程度しかできない」

 

「すまんがどういうことだ?」

 

私の問題でもあり、私たち家族の問題というのはどういうことだ?

 

「文字通り意味通り。あとは君たち次第さ!」

 

そう言って束は岬の柵から飛び降りた。その後、岬の下からジェットの噴出音がした。たぶん束のロケットの音だろう。それにしても束が言っていたことには考えざるをえない。だが、想像の範疇でしかないが束の言うとおりであるとしたら()()()()()()()()可能性を示唆している。いつか聞いてみなければ

 

 

 

「ん・・・」

 

朝、目覚めて起き上がり背伸びをする。先ほどの夢は臨海学校で発生した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走事件の後、密かに束に会っていた時のだった。どうしてこのタイミングであの時の情景が出てきたのかはわからない

 

『おーい、千冬姉!朝ごはん出来たぞー!』

 

ちょうど一夏が作る朝ごはんができたようだ。休暇を取ることができ、久しぶりに家に帰ることができたのだ。カーテンを開けると強い日差しが部屋の中に入ってくる。今日も今日とて暑い。ベッドから抜け出し部屋を出ると朝食のいい匂いが廊下まで伝わってくる。これだけでも食欲をそそるというものだ。リビングに入ると既に円華と一夏が席に座って待っていた

 

「おはよう、ちー姉ちゃん」

 

「ああ、おはよう円華に一夏。今日もいい天気だな」

 

「そうだな。でも、今日は重要な話があるんだろ?」

 

「・・・そうだ。だが、先に朝食だ」

 

一斉に「いただきます」と言い食べ始める。うむ、今日も一夏の作るご飯は美味い

 

朝食を摂り終えて今は午前10時。一夏と円華は2人掛けのソファに座り、1人掛けのソファに座り対面する

 

「んで、話って何だ。千冬姉?」

 

「IS学園でのことだ。様々な状況変化があった1学期だったと思うが2人はどんな感想を抱いた?」

 

「俺は大変だったの一言だな。触れたことのない方面だったからわからないことだらけで、それにISの操縦だったり戦い方も俺なりに学んだけど今でも慣れないかな」

 

一夏に関してはこんなものだろう。むしろあんなことがあったというのによく頑張った方だと言える

 

「私は・・・いつも通りかな。やることはやってるし、ほぼ毎日のように訓練してた。それでも考えさせられることばかりだった・・・かな」

 

円華はそういうもどこかぎこちない表情を浮かべていた。私が知っている限りだと一夏に関しての事だろう。できればそうであってほしい。いや、そうであったとしても如何せん苦しいものではあるが

 

「一夏は・・・そうだな、近接仕様のISであるが故の対策を考えるのがこの夏休みでの課題だろう。鏡野(比較対象)もいることだし、これからも精進するように」

 

「七実か・・・なぁ千冬姉、1つ聞きたいことあるんだけどいいか?」

 

「ん、なんだ?」

 

「俺さ、臨海学校での事件でやっちまったことを謝ったけど許してもらえなかったんだよ。謝るだけじゃダメだったのか?」

 

そう聞いてくるがまったく理解していないのかこの愚弟は

 

「まさかとは思うが一夏自身が気づいてないのか?」

 

「え、いやどういうことだよ?」

 

「一兄さん、一応念のために聞いておくけどシャルロットが男装してた時の一兄さんは何をしてたの?」

 

「そうだな・・・シャルロットが女の子だってばれないようにいつも一緒にいたぞ。それがどうしたんだ?」

 

ここまで来ると一夏(愚弟)がしでかした事の大きさが知れてしまう。()()()とはしていたが結局のところ、何も出来ていなかったということになる。あの時、鏡野が私や更識生徒会長に話してくれたことが事の解決に繋がったのだ。頭が痛くなってくるな

 

「一夏、その時の鏡野の行動は知ってるか?」

 

「知ってるも何も、あいつは()()()()()()()()()()んだぜ?」

 

この様子では鏡野の行動は知らないようだ。これに関してはどうしようもないのだろうか。鏡野が話していないこと、そして一夏が聞かなかったこと。この2つが丁度噛み合ってしまったことで起きたことなんだろうが先に手を出したのは一夏だ

 

「それは違うだろう一夏。お前が鏡野を殴ったのが原因でお前に協力しなかった、の間違いじゃないのか?」

 

「いやいやいや、七実が聞き分け悪かったのが原因だって!」

 

「・・・ねぇ、一兄さん。殴ったのは否定しないんだね」

 

「それは・・・」

 

円華の問いかけに対して言い淀む一夏。ここで即答できないというのは肯定を意味してしまう

 

「だって仕方ないだろ!他に頼れる人がいなかったんだよ!」

 

「どうして、私やちー姉ちゃんには頼ってくれなかったの?そんなに頼りないかな?」

 

「そういうわけじゃないって円華。ただ、あの問題に関わらせるわけにはいかないって思っただけなんだって」

 

「だから鏡野に頼ったと。ふざけるなよ、一夏」

 

流石に我慢の限界で言ってしまった。しんと静まるこの場を流すように1つ咳払いをする

 

「デュノアの問題は、たかが一般人が解決できるような問題じゃないのは考えればすぐにわかるだろう」

 

「でも、俺のやり方で問題は解決したじゃないか。現にシャルロットは今もIS学園に通ってるのがいい証拠だろ?」

 

「馬鹿も休み休み言え。一緒にいただけで問題が解決するわけあるか。私や学園長そして生徒会長が証拠を集め、事の解決に当たることができたんだぞ」

 

「それじゃあ誰が解決したっていうんだよ。ほかに誰にも言わなかったんだから知る由もないだろ?」

 

確かに私も鏡野から教えて貰うまでは知らなかった。もしかしたら学園長や生徒会長は知っていたかもしれないが私が知ることはほとんどなかったのだ。円華は臨海学校の際に教えて貰ったそうだが、事が事なので喜べるわけがない

 

「・・・たった1人だけ知っている人物がいるよね。誰にも言っていないわけじゃなくて協力を求められなかった。そうじゃなかったっけ?」

 

「ああそうだよ・・・まさかとは思うけど七実がやったわけじゃないよな?」

 

「何を言うか、お前でなければデュノアか鏡野の2択になるだろう。そして、デュノアの近くにいたというなら消去法で鏡野ということになるだろが」

 

「じゃあなんで俺に協力してくれなかったんだよ!?」

 

一夏はソファから立ち上がり、額に汗を噴き出しながらしどろもどろとしていた

 

「お前の対応の仕方が悪かったのだろうさ。頼みごとをする相手を殴るなんてのは以ての外だ」

 

「だったとしても!」

 

「いい加減にしろ!デュノアの件に関して一夏は何一つ()()()()()()()()。むしろ危険な目に晒してしまっていることに気づけ!」

 

ついに言ってしまった。避けるべき言葉なんだろうが教師として保護者として言わねばならんことがある。一夏も既に高校生なのだから責任感を持って貰わねばならんのだから。だがそれとは裏腹に一夏はリビングから飛び出し家から出て行ってしまった

 

「待って一兄さん!・・・ちー姉ちゃん、言いすぎだよ!」

 

「これくらいは言わなければならなかったんだ・・・円華も鏡野がどういう立ち位置に立たされているかは知っているだろう?」

 

「知ってるよ。だからこその言い方なんだろうけど、もっと優しくできたんじゃないの?」

 

そう言われても私にはこのやり方しか思い浮かばなかった。優しくしすぎても結局は一夏のためにならない。かといって最初から叱りつけても効果は薄い。これくらいがベストだと思ったのだが、そうはいかなかった。この場から一夏は出て行ってしまった

 

「どうしてそこまで七実に関連させる必要があったの?」

 

「あったさ。本当は一夏にも教える予定だったんだが・・・こうなっては円華だけでも聞いてくれ」

 

一夏には少し時間をおいておくしかないだろう。反省する時間も含め、しばらくはこのようにしておこう。円華も私が追いかけないのを見て意図は汲んでくれていることだろう

 

「その話は一兄さんが戻ってきてからでもダメなの?」

 

「ダメではないが明日にはまたIS学園に戻らねばいけない。ようやく取れた休暇もこの日のためにと思ってたんだ」

 

「そっか・・・なら聞いて、一兄さんにも伝えておくよ」

 

「実はな、一夏と円華以外にも兄弟がいたんだ」

 

私はズボンのポケットから1枚の写真を取り出す。その写真は幼い頃の私たちが全員映し出されている写真である。無論、この中にはいなくなってしまった春十の姿も見える

 

「えっと・・・実は4人兄妹だったってこと?一番大きいのはちー姉ちゃんだとして真ん中が私かな?」

 

「ああ、それで左が一夏だ。そして右にいるのが春十だ。ちなみに上から春十、一夏、円華の順で生まれた」

 

「じゃあなんで春十がいなくなったの?」

 

「ちょうどこの頃に誘拐されていなくなってしまった。そして今も行方不明となっている。だが、ここ最近束から確信に近いヒントを得た。信じられんが鏡野が春十である可能性が出てきた」

 

円華からしてみればまさかの人物が挙げられたと思う。実際にありえないという顔をしていた

 

「一番ありえない人物なんだけど」

 

「私だってそう思う。だが、私は鏡野が春十であると信じたい。そして、どうしてすぐに帰ってこなかったのかと問いかけたい」

 

「はぁ・・・それならそれで頑張るしかないね。私、このままでいいのかな・・・

 

円華は小さく何かを呟いたが私には聞こえなかった。本当にこれからどうしていこうか。一夏のこともあるが鏡野のこともある。いつかはきちんと4人で話をしなければならないな

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

こんなんでいいんですかね?作っていて若干コレジャナイ感がすごいです

次回は円華、一夏(もしかしたら箒も)サイドになりそうです

あ、それと今週末が終えたら本格的に執筆再開するようになりますので投稿が早くなるやもしれません

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