元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

51 / 57
初日といえど甘くはない

 

今日から訓練開始だ。と思っていたのも束の間、初日から無様な姿を見せてしまうことになるとは思わなかった。自分でも分かり切っている弱点。それは体力の無さだ。それこそ、日常生活では決して支障をきたすことは一切ないが授業での体育やらIS操縦の実習の時はまた別だ。俺にはそんなものは無いため、初日早々から出遅れてしまったのだ。そう、早朝ランニングによって

 

「昨日はあんなことを言っておいて、初日からこのあり様か」

 

「悪かったな。言い訳をさせてもらうが元々体力が無いんだよ」

 

現在は宿舎にある食堂で朝食を摂っているのだが対面に軍服を着たラウラがいる。早朝に走り、その後に朝食という順番となっている。腹に物を入れた状態で走るよりかは何倍もマシだ

 

「臨海学校の時に聞いてはいたが、本当に体力が無いとは思わなかった」

 

「織斑先生曰く、体力さえどうにかできればあとはどうとでもなるとの事だ」

 

飲み込みは早いらしく手が掛からないとのことで、本当に体力さえどうにかできればいいと言われた。自分自身でも自覚させられた瞬間でもあった。IS学園に戻っても日課にするとしよう

 

「ふむ、そうだったか。しかし、誰だって完璧な人間なんていないのだから相棒にも弱点はある。ISは言わずもがなあれだが、生身では体力だな」

 

「これからは自力で励むことにする・・・というよりもこの視線はどうにかできないか?」

 

こうして食堂で朝食を摂っているのだが周囲の隊員からの視線が痛い。物珍しいのだろうが見られている方は溜まったものじゃないんだ

 

「男っ気の無い部隊だから仕方ないだろう。この1週間は隊員にも美味しい思いをさせてやってくれ」

 

「俺なんかでそんな大役ができるとは思わんが、それでもいいなら勝手にやってくれ」

 

「相棒本人からもお許しが出たぞ。自由に接してもいいそうだ」

 

これはまたしても墓穴を掘ってしまったかもしれん。周りではガッツポーズをする奴やハイタッチする奴もいた。本当に面倒なことをしてしまったようだ

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたのだ?」

 

「いや、こういう時だけはIS学園の女子みたいに騒ぐんだなと思っただけだ」

 

俺の事を除いてしまえば騒がしいと思ってしまう。それこそ、早朝の目覚まし代わりにしてしまえる程にだ。女三人寄ればなんとやら。この場合では3人以上いるが

「公私は分けているみたいだからいいだろう?」

 

「さいですか。んじゃ、俺は先に戻らせてもらうな」

 

ごちそうさま、と一言言って食器を返却して食堂を出た。IS学園にも似た状況だが、そこはあくまで似ているだけ。明確に違うのは今の俺の事を差別しないということだ。たったそれだけの違いではあるが、邪魔されることは一切ないのだ。それだけで今は十分なのだ

 

「さてと、少し早いが準備しますか」

 

早朝ランニングではジャージで出てしまったがこれからはそうはいかない。朝食前にドイツ軍の軍服を支給されたのだ。これから1週間はこの軍服に身を包み、訓練に励まなくてはならない。俺がここに来た理由の為にも最大限学ばなくてはならないのだから

 

 

 

時はそろそろ8時を回ろうかという時だ。既に軍服の袖を通し指定されていた訓練場へと到着していた。これから動くのでストレッチを済ませることにした。ただあれだな、時差のせいもあってか少し気怠いが無理矢理にでも目を覚ましやるとしますか

 

「やる気が出ているようで」

 

ストレッチを開始しようとしていると前方からクラリッサさんが歩いてきた。他の隊員はまだ来ていないが、彼女は毎回早く来ているのだろうか?

 

「ども。一応、招待を受けた身ですから、ちゃんとやらなければならないと思ってますんで」

 

「それは上々です。慣れないことだとは思いますが応援しています」

 

「ありがとうございます。朝は見っとも無い姿を見せてしまったんで、ちゃんとやるべきことはやろうかと」

 

「真面目ですね。朝は何事だと思いましたけど、疲れが残っていたのでしょうか?」

 

俺としては真剣な問題だがそれを疲れと言われてしまうのは些かキツイものがある。まるで体力がまるでないかのように言われているようで

 

「言い訳にしか聞こえないと思いますが、体力はほとんどないので疲れとかでは無いです」

 

「そうでしたか。そういえば、隊長からお聞きしましたがIS学園に入学する前までは車椅子で生活なされていたのでそうならざるを得ませんね」

 

「そこは早く追いつけるように頑張る。あーだこーだ言うのは面倒なので」

 

論より証拠、物を言う前に確実性のあるものを見せつける。とか言いつつも早朝での失態についてはどうしようもないがな。だが、その方が信用を得るにはもってこいだ。それが形として現れないものであろうと。クラリッサさんと会話しつつストレッチをしていると、続々と隊員が集まってくる。時間的にもそろそろラウラが指定した時間帯となりそうな時にラウラが到着した

 

「ふむ、揃っているな。では整列!」

 

ラウラの号令と共に一斉に整列を始める隊員たち。俺は最後尾に整列することにした

 

「全員集合しているようだな。では、これより格闘訓練を開始する。2人組を作れ」

 

ラウラがそういった瞬間に隊員のほとんどの目が俺へと向けられた。その様子を見てラウラとクラリッサさんは大きなため息を1つ零した

 

「まったく何している。鏡野は招待を受けて来ているのと新兵同然だというのに、アドバイスしてやらねばならないのに・・・独断でクラリッサ、鏡野のペアをしてやってくれ」

 

周囲の隊員は納得のいかない様子で抗議しようとするが、ラウラがそうはさせてくれそうになさそうだ。現に時間は失われていく一方で無限にあるわけじゃない

 

「翌日は相手を変えるが、その時もこちらで勝手に選抜する。運が良ければ当たるやもしれないと言っておくぞ。ペアを組んだ者から組手を開始してくれ」

 

明日からは隊員たちと組むことになると思うと少し憂鬱になりそうだが、招待を受けている以上は余計な注文はできない。文句を言う前にやることはやるとしよう。この場から離れて、クラリッサさんと少し距離を置いて対面する

 

「体力には自信が無いようでしたがこちらではどうですか?」

 

クラリッサさんは両手を腰に据え、足を肩幅に開き構える

 

「どうしました? 構えないのですか?」

 

「ん、ああ、俺は構えとか分からないんでしないです」

 

ここに来る前に織斑先生に教えて貰ってはいたが、全て性に合わなかったというか何一つしっくりこなかったのだ。それ故に俺は自然体であることを構えとしていた。簪に言われたことだが、某小説の姉が俺と名前が同じで同じことをしていたそうだ。その通りにつけるのであれば零の構え「無花果」だったかな

 

「かといって、一応格闘訓練は織斑先生に教えて貰ったので」

 

「ほう・・・では少しは期待させて頂きます」

 

おっと、これはまずいことを言ってしまったようだ。先ほどと打って変わって拳に力を更に込めて前傾姿勢になるのを見て、俺は多少後悔してしまった。先手で戦えるだけの力は無いので織斑先生に教えては貰ってはいないが見様見真似で覚えた方法で乗り切ることにしよう

 

「どうしたのですか?先手はお譲りいたしますよ」

 

「さいですか。んじゃいかせてもらいます!」

 

駆け出して接近するがこちらから攻撃を仕掛けることはしない。ただどんな風に仕掛けてくるのかを見てみたいのだ。どんな戦いにおいても相手を知らなければまともに相対することができないのだから。互いの間合いに入ったぐらいに俺は牽制として、右足で腹部目掛けて蹴り上げるがクラリッサさんが受け流しバックステップで後退して距離をとっていた

 

「織斑教官に教えて貰っただけはありますね。迷いの無い鋭い蹴りでした」

 

「それをいとも容易く受け流してる時点でお察しレベルなんですが」

 

「これでも軍人なので一般人に負けていられないので」

 

「でしょうね。でも俺だって負けてらんないんで、しっかりと学ぶもとい見させて貰います!」

 

再び牽制のために駆け出していく。いくらやられようと喰らいついて効率のいい攻撃方法や仕掛け方を学ぶとしよう

 

 

 

クラリッサさんには勝てなかったよ・・・全てやられた訳ではないが隙を見つけて突けば1回で修正されるわ、カウンターを狙おうにも距離を空けられるわでどうしようもなかった。できたことといえば足技からの投げと関節技ぐらいだ。まぁ、一番自信があった足技がほぼ完全に使えたのは収穫とも言えよう。何せ相手は軍人だ。戦闘においては信用できる存在相手に通用したのだから十分と言えよう

 

「お疲れ様です鏡野さん。これにて組手を終了となりますがいかがでしたか?」

 

「専門職だけあって強かったです。でも、いい勉強になりました」

 

「そう思っていただけたのでしたら幸いです。私も慣れない手合いでしたので非常にやりづらかった。隊長が招待した理由はこれでしたか。型に填ったやり方だけではなく柔軟に相手に合わせてみろと」

 

どのように思っていてもそういう理解になる・・・のか?

 

「とてもいい刺激になりました」

 

「それでは本日の訓練を終了する。各自、通常業務に戻ってくれ」

 

『はっ!』

 

組手を終え、隊員たちがこの場を去っていく。通常業務の詳細は知らないが書類仕事だったりISの整備だったりするのだろう。それぞれの行先が半々ぐらいに分かれているから

 

「初日の訓練を終えてみてどうだったか相棒」

 

先ほど訓練を終了させたラウラが近寄ってくる。正直な感想としてはとても疲れたといいたいところだが、こんなところでそんな甘ったれたことは言えない

 

「正直、慣れないことだらけで精いっぱいだ。だが、少しづつ学べているようにも感じる」

 

「それは上々。クラリッサから見て鏡野はどうだ?」

 

「筋はいいのでこのまま訓練を続けていけば私でも勝てなくなるでしょう。現に今日の段階で何度かしてやられましたので。織斑教官からご指導を受けたのもあるでしょう」

 

「ふむ・・・教官直伝というわけか」

 

直伝というよりも見様見真似でやっているに過ぎないんだけどな。それでも成果を出せていると信じたい

 

「ならば私もそのうち組手をさせてもらおうか」

 

「そん時はお手柔らかにな。ところでラウラやクラリッサさんも業務に戻るんだろうが、その間俺はどうしてたらいい?さすがに部屋に引き籠っている訳は無いだろ?」

 

「そういえばその説明をしていなかったな。レポートを書いて貰うんだが、部隊の大半がいる部屋でやってもらう。書き終わったのであればある程度の自由は許すが出来れば見学ついでに雑務を頼む」

 

「はいよ。貰うもんだけ貰って何もしないのは気が引ける」

 

「助かる。それでは私とクラリッサについてこい」

 

俺は2人の後ろをついていく。歩いていく先には左右対象で2階建ての大きな建物が2つあり、そのどちらかなんだろう。左側の建物の前に着くなり、建物構内へと入る。そのまま入口から進んでいき階段を昇っていき、2階へと上がり右へと曲がる。そのまま奥へと進んでいくと、とある扉の前で止まった

 

「ここが我が部隊の部屋だ。訓練が終わった後はここでレポートなり雑務をしてもらうことになる」

 

「了解。入る前に確認しておくが何か注意しておくべきことってあるか?」

 

「特には無いが問題になりそうなことがあれば早めに言ってくれ。その方がお互いのためになるだろう?」

 

「だな。その時はラウラかクラリッサさんを頼ることにする」

 

「ええ、そうしてください。たぶん席的にも私は近くにいると思います」

 

それは頼もしい。近くに頼れる人がいるというのは安心できる。だが、どこか心無し2人の表情が暗くなっていた

 

「・・・ほら行くぞ」

 

ラウラが扉を開けるとそこには女性、女性、女性。ほぼ180度見渡すも女性しかいないのだ。いやまぁ、ISの部隊だから女性のほうが必然的に多くなるのは分かっているがこれは些か厳しいものがある。クラリッサさんに背中を押され中に入ると俺へと視線が集中する

 

「雑務等を担当させていただきます・・・こんなんでいいか?」

 

「私に聞くな相棒。とりあえず相棒の席はこっちだ」

 

ラウラの後を追うと皆同じの机に椅子、ノートPCが1つに筆記用具やら必要最小限の物は置かれていた。その斜め後ろにも空席があるがこっちがクラリッサさんの席なんだろう

 

「ここでレポートを制作して最終日に提出だ。一応、訂正が無いように完成したらデータでいいから見せてくれ。何せ軍の上層部にも見せなければならないのでな」

 

「了解です、隊長殿」

 

「その言い方はやめろ。いつもの呼び方のほうにしてくれ」

 

隊に入隊した時を想定して呼んでみたが慣れないわ。でもいつかはこういう未来があるんだろうか。それはともかく今はレポートの制作に専念するとしよう。どうでもいい話なんだが元々この席には誰がいたのだろうか?

もし急増したというのであれば端に置いておくというのに部屋の真ん中と言える場所に配置されていた。そしてラウラとクラリッサさんはこの席の話をしたとき、表情が暗くなったような気がする。俺の思い違いかもしれないが、もし俺の予想が正しければドイツ軍を去った人間の席なのだろう。それも退役とかではなく嫌な結末で去った人間だ

 

(今はそんなことを考えるべき時じゃないな)

 

考えたことを一旦放棄して、俺はレポート制作するためにノートPCを立ち上げた

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

なかなか話が思いつきませんでした。申し訳ございませんでした

次回でドイツ編が終了となりますが、次の投稿は早めにできるよう頑張ります



余談

SS専用のTwitterアカ作りました

@alex_SSwriter

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。