元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

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してきたことの結果

1週間ほどIS学園と簪達と別れを告げ、現在ドイツ行きの旅客機に搭乗している。ここに至るまで織斑先生との体力増強メニューや筋トレ、格闘訓練をしてこの日を迎えた。本当に長く苦しい戦いだった。ためになったとはいえ、よく1週間も耐えたと思う。格闘訓練では俺の最大の武器になりえる足を重点的に使う足技や絞め技、拘束なんかを覚えさせられた。やられた技は見様見真似でやって見たが通用しなかったがな。準備万端、後はラウラの元に向かうだけとなった。どうやら空港に迎えが来るみたいだがせめてラウラが来てくれないと、俺はキツイ思いをする羽目になる。知らない奴の案内でラウラの元に向かうことになる。12時間も搭乗したあとにそんな仕打ちでもされたら多分俺は泣く。そんなこんなで無事にドイツのフランクフルトに到着した、既に夜だけどな!

 

「あー・・・腰痛ぇ」

 

旅客機から降りて、キャリーバッグを受け取り空港のロビーへと進んでいく。ISの待機状態である懐中時計を確認してみると時差を合わせることなくキッチリと空港の時計と合致していた。さすがISと言えばいいだろうか。てか12時間も搭乗してたが時間だと5時間しか経過していないのか。とりあえず簪に連絡しとくか。ポケットからスマホを取り出し簪へ電話を掛ける。2,3コールがなった後に繋がったようだ

 

「よ、簪」

 

『ん・・・無事ドイツに着いた?』

 

「座席に座りすぎて腰がやばい。まぁ、無事に到着したぞ」

 

『お疲れさま。時差のせいで体調不良にならないでね・・・ん、ちょっと待ってシャルロットに変わる』

 

電話の向こうで少し会話が聞こえた後にシャルロットの声が電話越しに聞こえてきた

 

『七実、ちゃんとドイツに着いた?』

 

「簪と同じことを聞いてるぞ」

 

『知ってるよ。僕も心配なんだってば』

 

「お、おう」

 

そう臆面も無く言われるとなんだか恥ずかしくある

 

「その、心配してくれてありがとな」

 

『お、珍しく照れてるの?』

 

「うっせ、とりあえずそろそろ誰かしら来ると思うから切るぞ」

 

『うん、あっちに行ってもいつでも電話待ってるからね』

 

到着した連絡を終え、スマホをポケットにしまったところで背後から咳払いする声が聞こえてきた。振り返ってみるとそこには軍服を着たラウラと同じく軍服を着てラウラと全く同じの眼帯をつけていた女性の姿があった

 

「んんっ、誰に連絡していたかは知らないが私の事に気付かないとはどういうことだ?」

 

「悪いな、電話ぐらいは自由にさせてくれ。というよりもそっちの女性は誰だ?たしか・・・シュヴァルツェア・ハーゼ隊の人か?」

 

「ああ、その通りだ。より正確に言えば副官、隊の副長だ。ではクラリッサ、自己紹介を」

 

「かしこまりました隊長」

 

クラリッサと呼ばれた女性が陸軍式の敬礼をして、俺に鋭い視線を向けてきた。てか隊長はラウラなのか。どれくらい階級が高いんだか

 

「ドイツIS配備特殊部隊、シュヴァルツェア・ハーゼ隊副隊長のクラリッサ・ハルフォーフと申します。以後お見知りおきを」

 

「んじゃ俺もか、鏡野七実。世間一般ではどう呼ばれてるかどうかなんて知らない。百聞は一見に如かず、聞くより見て判断してください。あと、そこまでかしこまれても面倒なんでもっと楽にしてください。俺も接し辛いんで」

 

「良くも悪くもいつも通りだな。さて2人ともそろそろ行くぞ、長時間のフライトで疲れたろう。訓練は明日からだ」

 

「はいよ」

 

俺らは空港から出て駐車しているであろう場所へ先導してもらった。向かった先にはジープがあった。なぜだろうか、軍が使う車がジープで概念として固定しているのはなぜだろうか。それはともかく荷物を車に乗せて乗り込む

と他の2人も乗り込みこの場から出発した

 

「そういえばここから基地までどれくらいかかるんだ?」

 

「だいたい1時間程度で到着するぞ。なんなら寝ててもいいんだぞ」

 

「ならそうさせてもらう。疲れたままで行ったところで何言われるか分かったものではないしな」

 

「別に隊長はそういうことを言っているわけではないのですが・・・」

 

クラリッサの言葉を聞いていたが集団で思考が同一になるなんてことは無い。誰かが誰かしらにどのような感情を持つのかなんて知ったこっちゃない。少しでも疲れを取るために寝ることにした

 

寝てからどれくらいの時間が経っただろうか。瞼を開け外を見てみるが未だに運転中だった。しかも舗装された道路があるが周りは森林でその中を走っているところだった

 

「ちょうどいいタイミングで起きたな。そろそろ到着するから降りる用意をしておくように」

 

「はいよ」

 

森林を抜けて目の前には想像していたよりも大きい基地があった。ISの登場で使用頻度が少なくなった、航空機や戦車、装甲車を整備しているのが見える。備えあれば憂いなしとは言うがそれは軍も同じなのだろう。基地の中に入っていき案の定駐車場で停車した

 

「ご到着いたしましたのでお荷物をお持ちの上、私達に付いてきてください」

 

「分かりました」

 

いつになったら柔らかい口調になるのだろうか。硬すぎると俺も話しづらい。まぁ俺のことなんて知ったこっちゃないだろうが。荷物を持って移動すること5分、IS学園の寮より小さいが宿舎のようなところに連れてこられた。その宿舎の前にはラウラやクラリッサさんと同じように軍服に眼帯をつけていた。人数は20人を少し超えたぐらいだろうかえ、何、みんなして同じように怪我でもしてるのか?将又、中二病なのか・・・そもそも聞いていいことなのだろうか?

 

「これでようやく本題に入ることができるな」

 

「本題?」

 

本題というのであれば1週間の訓練参加だろう。ラウラの言う通りであれば明日からのスタートだったはずだ

 

「ああ、ようこそ鏡野七実。1週間の招待に際して我が隊で歓迎会を執り行う!」

 

「は?」

 

相棒ことラウラは何を言ってるのだろうか。歓迎会?

 

「何を唖然としているのだ?」

 

「いや、すると微塵も思っていなかったことをやると言われると唖然とするだろ」

 

「そのことは私から説明させていただきます」

 

ラウラの横にいたクラリッサさんがこちらを向いていたがその表情はどこか消えてしまいそうな笑顔だった

 

「この歓迎会の企画をしたのは隊長を除く私達です。世間一般では先ほど鏡野さんも仰っていたように最悪な物だと思われます。元々はキチンと調査した上で接触いたしましたがIS学園でも最悪な評価が報告に上がっていました。ですがそんなお方が隊長を救ってくれました。それだけで私達には恩を返すに値します」

 

「あー・・・」

 

俺が命を張ってまでやった行動がきっかけになるとは思わなかった。シャルロットといい今回といい報われた瞬間だろう

 

「いい人に恵まれてんなラウラ」

 

「そうだとも。もっともその中に相棒も含まれているがな」

 

「さいですか」

 

簪達の関係に続き、俺の知らないところでこんな関係が形成されているとは思わなかった

 

「そうだとも。それはともかく自己紹介をしてくれ」

 

「はいよ、2人目の男性IS操縦者の鏡野七実だ。どういう評価を俺にしているかは知らんが口よりも行動で示す。これから1週間よろしく頼む」

 

軍ということで俺も敬礼をしてみるとそれに合わせて敬礼を返された。思わず笑みが零れてしまった

 

「相棒が笑うとは珍しいな」

 

「かもな、最近はなんだかんだで笑うことが多くなったそうだ」

 

「良かったではないか。これも簪のおかげか?」

 

「その通りつったらそうかもな」

 

何処か引っかかるようで首を傾げるラウラ。先週から複数の女性と関係を結んでしまったなんてバレてしまうなんてことはあってはならない

 

「とりあえず部屋に案内してくれ。荷物の整理だとか休憩したい」

 

「了解だ。それではみんなは準備に取り掛かってくれ!」

 

『はっ!』

 

ラウラの掛け声とともに敬礼をして宿舎の中に戻っていった。何だろうか、公私混同しないのであれば今は本当にはしゃいでいる時間なのだろう。だがこれだけの人数で歓迎会をされても大人数は苦手なんだよ。ラウラの案内で宿舎の中に入るが内装は綺麗でキチンと清掃が行き届いているのが見て取れる。軍とはこういうところにまでキッチリしているのだろう。宿舎内を進んでいくと数ある部屋の前でラウラが立ち止まった

 

「今日から1週間住まう部屋はここだ。それとこの部屋の鍵を渡しておく」

 

「助かる。ここもIS学園同様で誰かと相部屋なのか?」

 

「その通りだとも。もっともその相手は私だがな」

 

知らない誰かが相手なのより十分ありがたいのだがラウラも一端の女性だ。ある一定の線引きはしなければならないだろう

 

「では中に入るぞ」

 

扉を開けて中に入るがテーブルが1つに椅子が2つと机が1つ。2段ベッドが1つとなんとも質素な部屋だった。IS学園の寮程広くは無いがそれでも人が2人住むのには十分な広さだろう

 

「相棒のベッドは上だ」

 

「了解だ」

 

一旦、自分の荷物を整理するために広げてみるがとりあえず大丈夫そうだ

 

「そういえばこれから歓迎会をするんだろうが俺はどうしてたらいい?」

 

「そうだな・・・ここで1週間暮らすわけになるがその際の行動を伝えておくとしよう。知らずに行うより事前に教えられていた方が気の持ちようがあるだろ?」

 

「そうしてくれると助かる」

 

いい意味でも悪い意味でも気を保てる。織斑先生の時は気が保てるとかそういう次元じゃなかったしな。そのおかげで俺は鍛えてもらえたのだから文句は無い。内容を聞いてみると格闘訓練から射撃訓練、ISの戦闘、整備を1週間行うそうだ。その際に毎日レポート制作を要求されるのだが最もだろう。俺としても今後の成長を望む上で文章にすることで分かりやすくするためだ。軍としても、もしかしたら改善点が見つかるかもしれないということで互いに益を生み出すとのこと・・・基本的に俺の方が益は多いと思うのはどうなのだろうか?

 

「というわけだ。理解してくれたか?」

 

「理解したが1つ聞きたいことがある。どうしてここに俺を呼んだんだ?」

 

「どうしてと聞かれたならこう答えよう。私は相棒を我が軍に、我が隊に引き込みたいからだ」

 

「はぁ?」

 

俺を軍に引き込みたいとか大丈夫なのだろうか。世界中では悪評が知れ渡っているというのに軍に引き込んだとしてもメリットは少ない、もしくは無いに等しいだろう。自信満々な表情を浮かべながら言い放つラウラを目の前に俺は思わず顔を顰めてしまった

 

「なんだ、不満か?」

 

「不満も何もどうして引き込もうとするんだ?」

 

「男性IS操縦者という史上例を見ない稀有な人間。捻くれているがその実は誰よりも思考を巡らせ、誰が相手でも物怖じせず発言をする。それに相棒でもあり、1番相手にしたくないからだ。主にISの性能で」

 

こいつ、最後に本音を漏らしやがったよ。だが高く評価して貰えているとはな。だが捻くれているわけではないんだがな

 

「何ならIS学園を卒業した暁には、私から入隊できるよう申請しておくぞ?」

 

「今すぐに決められることじゃない。受け入れるにしても断るにしても覚悟が決まったら、その時にもう一度伝える」

 

「なるべくいい方向で頼むぞ」

 

「あいよ」

 

こんな形だとしても俺は内心嬉しくてどうしようもなかった。今までこういう風に何かを求められることは正直少なかった。いや、簪達や親父と母さんは除くが。それを抜きにしても誰かに必要とされているのは慣れていない。そのせいか俺はすぐに荷物を片付けて二段ベッドを上り、顔を壁に向けて寝っ転がった。後にラウラに聞いた話では、この時の俺の顔は仄かに赤くなっていたそうだ。いや、誰得なんですかね?

 

 

 

歓迎会も無事終了し、今は宿舎の外に設置されているベンチに1人で座っていた。明かりはあるが夜空を見るには十分な暗さだ。夏休みはこうしてのんびりと夜空を眺めることが多くなっている。肉体的、精神的、時間的余裕がある時にしかやらないのだが、なんとなく見ている分には日本で見ていた時とあんまり変わらないように思える

 

「おや、鏡野さん。こちらでどうしているのですか?」

 

女性の声がした方に顔を向けてみるとそこにはクラリッサさんが立っていた

 

「ただ星を見てただけです」

 

「星、ですか?」

 

「ええ、ただの趣味程度のものですが」

 

「そうでしたか。あ、お隣いいですか?」

 

「あ、いいですよ」

 

隣と言っては距離はあるものの同じベンチにクラリッサさんは座っていた。ただ横に座って、何も喋らずただベンチに座っていた。そんな彼女を横目に俺は再び夜空を見上げた。静寂に包まれこの時一瞬、一秒をこの目に焼き付けては過去を思い出す。決してすべてがいい思い出では無いが、そんな中にもいい思い出は少なからず残っている。親父と母さんとの思い出、簪や本音、楯無、いや刀奈に虚との思い出。それに少なくともシャルロットとの最悪な出会いに相棒と呼べるラウラとの出会い。これからも何かしらの思い出は残るだろう

 

「・・・鏡野さん。1つ話を聞いてくれませんか?」

 

「あ、はい。いいですよ」

 

思い出に浸っているとクラリッサさんの方から話しかけてきた

 

「ここに来た時にも言いましたが隊長を救っていただきありがとうございました」

 

「まぁ・・・そちらからしたら指揮官を失うのは非常に痛いでしょうね」

 

「いえ、そう言うことではありませんよ。以前の隊長はもう1人の男性IS操縦者である織斑一夏の事を憎んでおられました。ですが、貴方と出会ってからというものの、そう言うことは一切無くなって優しくもあり厳しくもある隊長になられました。聞いてみれば貴方がきっかけで恨むのをやめたとのことで、私達は感謝しているのです」

 

今では冷静でただただ目的のために躍起になっていたラウラは、タッグトーナメントまでは一夏の事を憎んでいたのだったな。俺も少なからず今も憎んでいる。向こうの両親が今、どうなっているかなんて知らない。だが俺を除いてあんなに近くて、触れ合うことができて、羨ましいと

 

「きっかけは俺かもしれないが、変わると決めたのはラウラの意思だ。俺がそこまで言われるような事をしたわけじゃない」

 

「それでもいいのです。きっかけを与えた事には変わりませんし、何より隊長がそれで納得しています」

 

「さいですか。最もな話ですが織斑先生の紹介あってこそ出来た関係なんですが」

 

そもそも織斑先生の話が無ければ・・・いや、これも詭弁に過ぎない。話しかけてきたのはラウラ自身だ。そこは変えようもない事実だ

 

「だとしてもです。そろそろ鏡野さんは自分のしてきたことを自覚して、素直になった方がいいと思いますよ?」

 

「十分に素直な方だと思うんだが・・・」

 

言いたいことは全部言ってるし、言われることは素直に受け止めている。俺の考え方が混じっているせいで曲解してしまうかもしれんが

 

「これでは隊長も引き込むのには苦労するでしょう」

 

「それはもう答えは言ってるんだが。先延ばしだけど」

 

「ええ、知っていますよ。ですので苦労と言わせていただきました」

 

「あー・・・納得したわ。まぁ俺も隊長の評価しか分からんだろうし、口ではなく行動で勝手に評価してくれ。俺もそうする」

 

「そうさせていただきます。では、また明日訓練で会いましょう」

 

そういうとクラリッサさんは立ち上がり宿舎の中へ入っていった。俺も明日から始まる訓練ではどうなることだろうか。付け焼刃程度の体力では不安しか残らないが覚悟を決めた以上はやるしかないんだ。さて、明日の為にいつもより早いが寝るとしよう

 

 




今回もお読みいただきありがとうございます

ドイツ編は3話を予定していましたがもしかしたら4話になってしまいそうです
(あと1話で終了がもしかしたら2話になるかも)

これからは日曜投稿になる予定です

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