元奴隷がゆくIS奇譚   作:ark.knight

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リクエスト第1弾、温泉もとい小旅行です


そうだ、温泉に行こう

無事テストも終え、終業式も終わり夏休みとなった。寮の中も生徒は帰省したり、帰国したりと人気が少なくなった。ただ中には家に帰ろうともしないやつもいるので食堂はやっていないが学園内のスーパーだったりコンビニはちゃんと機能している。いや、してくれないと俺が困る。聞いた話だが7年間暮らしていた家は既に別の誰かが住んでいるとの事で家が無いのだ。金や服はあったとしても家が寮って複雑な気分だ

 

「暇だなシャルロット」

 

「そ~だね~。やることも無いっていうのが一番暇なんだね」

 

簪や本音も家でやることがあるとの事で今は寮にいない。それどころか本音に約束を取り付けたらしく、本音がいない間はシャルロットが本音のベッドを使うとの事。ちなみにシャルロットの同室であるラウラはドイツへ帰ってしまった。軍属ということもあり大変なんだろう

 

「・・・適当に夏休みの宿題でもやっとくか」

 

「それもそうだね。ちょっと勉強道具持ってくるよ」

 

シャルロットは椅子から立ち上がり部屋から出ていった。なんだかんだで行ったり来たりをしているのは効率は悪いように思う。外の日差しが熱いため適温でクーラーを入れて、カーテンなんて締めきっている。暑すぎて外に出るのも躊躇われる。とりあえず俺も立ち上がり勉強道具を用意しようかと思った時だった。俺のスマホが振動を始めた。見てみると楯無からの電話だった

 

「もしもし」

 

『もしもし七実君、昨日ぶりね。元気にしてた?』

 

「今日も元気に引き籠ってるぞ。んで何の用だ?」

 

『こんなに天気がいいのに引き籠っているなんてお姉さん的にポイント低いぞ』

 

逆にこんなにいい天気で糞暑い中、外に出ようと思っている奴いるのか?少なくとも俺は出ようと思わない

 

「・・・切っていいか?」

 

『もう少しだけ待ってちょうだい。七実君、明日温泉旅行行くわよ!』

 

聞いた瞬間、思わず切ってしまった。明日行くとか急に言われても準備なんて前もってしておくものだ。急にするものではないだろう。今から遊びに行くよ、的な発言は止めていただきたいものだ。再び俺のスマホが振動を始めた。相手も同じく楯無だ

 

「・・・はい」

 

『なんで切ったの?』

 

「今から遊びに行くよ、的な感覚で言われたのがムカついた。反省はしない」

 

これに関しては両方悪いように思う。故に俺は反省はしない。したとしてもすぐに忘れるかもしれんが

 

『潔すぎない?』

 

「これくらいがいいんだ。んで明日?」

 

『そう明日。迎えに行くからシャルロットちゃんと一緒に準備して待っててね』

 

今度は一方的に切られてしまった。どこに行くのかとか何時に待ち合わせしていればいいのかぐらいは聞きたかったものだ。一応メールだけでも出しておくか

 

「七実どうしたの?」

 

いつの間にかシャルロットがこの部屋に戻ってきて、首を傾げていた。既に勉強道具をテーブルに置いて広げていた

 

「楯無からの伝言だ。明日温泉行くから用意しとけってさ。無論、お前もだぞ」

 

「お、温泉!?」

 

 

 

翌日、モノレールに揺られていた。時間通りに着くように出発しているのだが如何せん隣に座っているシャルロットが近い。1両に俺ら以外誰もいないというのにピッタリとくっ付いているのだ。役得と思えばそうなのかもしれんが日差しや密着度のせいもあってか普通に暑いというのもあるが花のような匂いと柔らかい感触が伝わってくる

 

「おいシャルロット、離れてくれ暑い」

 

「えー、いいじゃんか。臨海学校で心配させた罰だと思ってさ」

 

そう言われると弱い。実際、俺は悪くないと言いたい。まぁ今回は役得と思うことにしよう

 

「勝手にしろ。っていってもそろそろ着くぞ」

 

「うん、でも今はこのままでいさせて」

 

・・・他の生徒が帰省したりしているのを見て、もうフランスの地を踏めないシャルロットにはくるものがあったんだろうか。そこは俺が知る由は無いがそれを紛らわせるためにもこうしてるんだと思うことにしよう。だいたい7分ぐらいだろうか、それぐらいで到着した。荷物を持って駅の外に出るが今だそれらしい人影は見えない

 

「あっつ・・・」

 

「本当にね・・・それにしても温泉だなんて急だね」

 

「思い付きじゃないにしろ、もう少し準備期間を欲しかったもんだ」

 

スマホを取り出すのも面倒だしISの待機状態である懐中時計に触れるがじわじわと真夏の日差しによって熱くなっていた。二度手間だがスマホを取り出して時間を確認するが既に集合時間である9時半になっている。そろそろ到着するころだろうと思っていた矢先、近くに黒塗りの高級車が停止した。助手席からは楯無が顔を出していた

 

「やっほー七実君にシャルロットちゃん。後ろに乗ってくれる?」

 

「はいはい、ほれ行くぞ」

 

「うん」

 

この場から逃げるように車の方へ向かう。車の中から楯無が出てきて、バックドアから荷物を入れて車の中に入る。こんな暑いところにいられるか、俺たちは車の中に入るぞ。ドアを開けて中に入るが後方に虚と本音、真ん中に簪が座っていた。シャルロットに背中を押されながら中に入れられ、簪とシャルロットに挟まれる

 

「おはよ七実・・・元気にしてた?」

 

「簪も楯無と同じことを聞いてるぞ。昨日ぶりとはいえ急に病気になるとか無いと思うぞ?」

 

なんだかんだで簪はやっぱり楯無の妹と認識してしまった。仲が良いことはいいんだろうな。羨ましい

 

「それじゃあ出発するわよ。運転お願いね運転手さん(お父さん)

 

自分の親を運転手にしているのはどうかと思うのは気のせいだろうか

 

「任せておけ・・・とはいえ運転だけでいいのか?お父さんも一緒に宿泊しなくていいのか?」

 

「もう・・・お父さんも引退したとはいえやることは残ってるんでしょ?」

 

「うぐ・・・と、とりあえず出発するから2人はシートベルトを着用してくれ」

 

安全は大事だしな、言われた通りにシートベルトを締めるとゆっくりと出発した。どこに行くのか聞かされないまま出発したがそろそろ答えてもいいだろう。だが答えることなくどんどんと進んでいく。車内では会話が続いているが、話を振られた時にしか反応しなかった。いつの間にか都会から外れ、山奥に進んでいた。道は整備されているがこんなところに何があるのかさえ分からない。何も無い道路を進んでいくと旅館が見えてきた。駐車場も広く、建物も大きい。駐車場に停車すると旅館内から人がぞろぞろと出てくる

 

「到着したからみんな降りてちょうだい」

 

車から降りて荷物を持ちいざ旅館へ、と言う時に運転手をしてくれた簪と楯無の親父さんに声を掛けられた。先に簪達は旅館の方へ向かっていった

 

「・・・一応言っておくが、娘たちの仲を取り持ってくれたのは本当に感謝している。だが手を出したら何が何でもお前を許さんからな?」

 

「しませんよ、こう見えても今の関係が好きなんで壊したくありませんし」

 

「ならいい。それじゃあな」

 

そういって来た道を戻っていった。本当に簪や楯無の事を大事に思っているからこその発言なんだろう

 

「ななみん、早く早く~!」

 

「おう」

 

俺も旅館の中に入っていくがだいたい20人ぐらいの出迎えなんてされたことは無く、少なからず緊張してしまったが中に入ると和のテイストで臨海学校の花月荘を彷彿してしまった。楯無が部屋の鍵を受け取り、2階へと上がっていく。部屋の前に到着するなり鍵を回し、中を見てみるが1部屋だけで6人はざらに寝れるだろう

 

「・・・おい楯無。1つ質問してもいいか?」

 

「なにかしら?」

 

「もしかしてだが俺もこの部屋なのか?」

 

「当たり前じゃない。全く七実君たら何を言ってるの?」

 

その台詞は俺が言いたかった。なんだかんだで女子5:男子1という構造の中で全員が同じ部屋で止まるというのはよろしくないと思う。寮でも似たような状態だが本当によろしくない。最悪、虚を頼ることにしよう

 

「というよりも結構いいところだな。それなりに高い金額だったんじゃないか?」

 

「ここは「更識」の管轄にある旅館なの。ただっていうわけにはいかなかったんだけど、それなりに格安になってるのよ。ここも所謂VIP専用だったりするしね」

 

だとしてもこういうところに来るのは初めてなもんであまり慣れない。とりあえず適当に荷物を置いて部屋の中を確認して回るが備え付けの露天風呂や大きめの冷蔵庫、トイレや洗面所なんかはあった

 

「今、お茶を淹れますのでごゆるりとしてもらってもいいですよ」

 

「そうか」

 

虚がお茶を淹れてくれるとの事で適当に座るがティーパックなのはしょうがないことだ。茶葉なんてあったなら、盗まれかねないしコストが尋常じゃない程に高くなるだろう

 

「シャルロットちゃんは水着は持ってきてるわよね?」

 

「え、無いですよ。どういうところに行くかとか聞いていませんし、七実からも言われていませんし」

 

「あらー、せっかくここの近くの沢に遊びに行こうかと思ったんだけど・・・七実君も当然行くわよね?」

 

臨海学校の時は買うのが面倒になったので買わなかったがこんなところで使うのか。聞いても無駄だと思うが聞いてみることにする

 

「拒否していいんだったら拒否するぞ?」

 

「だーめ」

 

「こんなこともあろうかとななみんの水着を用意したのだ~」

 

本音は旅行バックの中から中身が入っているであろうビニール袋を取り出し渡してくる。それを受け取り、中身を確認するが男性用の水着が入っていた

 

「・・・これを使えと?」

 

「その通りよ。でもその前に昼食ね、それまでは自由時間にしましょ」

 

自由時間か、適当に旅館内を探索してくるとしよう

 

「七実さん、どこに行かれるのですか?」

 

「ちょっと探索でもしてくる。何か飲み物でも買ってくるか?」

 

「それじゃあ適当に私達の分もお願いねー」

 

「はいはい」

 

「私も・・・行く」

 

簪は立ち上がり一緒に部屋を出た。とはいえここの探索と言っても簪がいるのであれば簡単に済んでしまいそうな気がする

 

「そういえば簪はここに来たことはあるのか?」

 

「小さい頃に何度か・・・でも最近はめっきり。でも建物内の構造は覚えてる」

 

「なら飲み物を買うついでに案内してもらっていいか?」

 

「任せて」

 

建物内を一周グルッと回って案内してもらっていたがここの温泉には3種類あるらしい。1つは普通の温泉、2つ目は露天風呂で夕方に入ると夕焼けが山に沈んでいくのが見えるらしい。3つ目は混浴風呂。これは楯無が何かしない限り入ることはなさそうだ。というよりもそんな状況にならない・・・はずだ

 

「お姉ちゃんなら何かしてきそう」

 

「だな。何かあったらよろしくな」

 

「わかった・・・その時はどうしよう。虚さんに手伝ってもらって説教?」

 

さすがにそこまでしなくてもいいが、面倒になるよりかは全然いいだろう

 

「ほどほどにな」

 

「そういえば骨折してたけど・・・本当に大丈夫なの?」

 

「完全に治っている、医療用ナノマシン様様だ」

 

あれとISだけ世界観が違い過ぎる気がするのは俺だけだろうか。しかし、その世界観が違うこの2つにより2,3度命を救われている。あれを作ったところには感謝すべきだな

 

「ならよかった・・・なんで何度も無茶するの?」

 

なぜ無茶をするのか。それを問われると答えに困るのだ。なぜならいくら関係が最悪で修復が困難だと思っていても、それだとしても血縁関係だ。ましてや兄という立ち位置であれば、何か行動を起こすだろう。例えそれが無意識だとしてもだ

 

「・・・すまん」

 

「謝らなくていい・・・でもその内、話してね?」

 

「ああ、その時が来たらな」

 

俺自身が元に戻れないと思う反面、元に戻りたいという矛盾した願望に挟まれている。そんな状態にいる。俺としてもどうしていいか分からない。とりあえず適当に自販機で人数分購入して部屋に戻ることにした。部屋に戻るなり、テーブルには昼食と思われる品が置かれていた。この旅館の場所が山というわけで山の幸をふんだんに使った昼食となっている

 

「遅いよ~待ちくたびれたんだよ~」

 

「悪いな、これは冷蔵庫に入れとくからあとで適当に飲んでくれ」

 

「ありがとうございます七実さん。それではいただきましょう」

 

俺たちも座り昼食を食べ始める。山菜の天ぷらだとかそばだとかがあるから目移りしてしまうが結局は全部食べてしまうので適当に食べることにしよう

 

 

 

昼食も食べ終わり俺たちは山の中に来ている。旅館内を探索する前に言っていた沢へと向かっている。道はある程度、整備されていてあの旅館を利用する家族連れでは有名らしい。ただ今日は俺達以外には旅館の利用者はいないため貸し切り状態になっているとのこと

 

「さーて到着っと」

 

目の前には深そうに見える川と浅く水が溜まっている場所があるが、どこも水が透明なので水中に何があるのかもはっきりと見える

 

「さて七実君、さっき本音ちゃんが渡した水着履いてきた?」

 

「一応な。でも泳ぐ気は無いし、適当にいるつもりだ」

 

「まぁいいわ。それじゃあ思いっきり遊ぶわよ!」

 

俺以外も部屋で水着を着てきて、その上に薄い上着とズボンを着てきている。楯無と本音の上着がぴっちりしているのは気のせいということにしておこう。その上着を脱いで川の中へと飛び込んでいった。ちなみに楯無の水着は水色のクロスワイヤーの水着を身に付けていた。本音に至っては臨海学校では着ていなかった黄色で水玉模様がはいっているフレアワイヤービスチェビキニを着ていた・・・一瞬だけどことは言わないが着痩せするタイプなんだなと思ってしまった

 

「・・・くっ」

 

「どうしたんだ簪」

 

「なんか負けた気がする・・・七実はお姉ちゃんや本音みたいなのが好きなの?」

 

自分の胸を擦りこちらに質問を投げかけてくるが別にそういうことは無い

 

「人によって良いところ悪いところが違う。外見だけで人を判断するのは失礼だ・・・こんな回答でいいか?」

 

「うん・・・ありがと」

 

「僕たちも行こう?」

 

「うん」

 

簪とシャルロットも楯無や本音の元に行ってしまった。俺は水着は履いているものの上には黒いワイシャツを着ている。背中にある傷だけでは無く左腕にある傷がある為、あんまり見せたくないのもある

 

「七実さんはいかないのですか?」

 

「俺はここで見てるだけで十分だ。虚はいかなくていいのか?」

 

「私もいいです。一応年長ですし監督でもしておきます」

 

そう言って虚は脚だけを水の中に入れていた。楯無や簪、本音にシャルロットもそうだが虚も十二分に美少女もしくは美女という言葉が似合う。この姿も絵になっている

 

「どうしました?」

 

「なんか似合ってるなと思って」

 

「お世辞でもありがとうございます」

 

「世事とかそんなんじゃないんだが・・・ん、どうした楯無」

 

「べっつにー、虚ちゃんにはそういうこと言えるんだ。私達には何にも言ってくれないのは寂しいなー」

 

期待するかのように楯無たちは俺へと視線を向けてくるが何を期待しているのだろうか。虚みたく何か言えばいいのか?

 

「そうやって遊んでいる所を見て元気だな、と思った」

 

「そういうのじゃなくて・・・もっと何か無いの?」

 

「冗談だ、凄く綺麗だし可愛いと思う。その水着だって髪の色に合わせて似合っている」

 

「え、あ、そ、そう?」

 

珍しく楯無は顔を赤くして俯いてしまった。そういう風になるのであれば言わなきゃいいのに

 

「ねぇ簪。七実って女誑しなんだね」

 

「ここ最近だけど・・・なんだかんだ先生だから」

 

蒼の魔導書を腕に宿した犯罪者なんかになれはしないからな?

 

「なんでもやるわけじゃないからな?それに誑しってのも間違いだ」

 

「うっそだ~」

 

簪や本音、シャルロットから冷たい視線を貰う羽目になってしまった。解せぬ。俺は俺で生きやすいように生きてきたつもりだ。その結果が今の現状なのであって、誑しではないと思いたい

 

「お前らが俺の事をどう思っているのかもわかったが何気に酷いな」

 

「そういうわけじゃないと思いますよ?ただお嬢様が羨ましいんだと思います」

 

「羨ましい?何が羨ましいんだ?」

 

羨ましいというのであれば素直に言えばいい。でなければ、俺にはわからない。人の感情程伝えなければ他人には分からない。伝わらないものはない。人は言葉を話す生物故に知ることを怖がり、重要視しなければならない。あくまでも持論だがな

 

「・・・七実さんって鈍感なんでしたね」

 

「さてな。でも言わないだけでみんながそうだとは思っている。俺も俺で言うことははっきり言っているつもりだ。聞きたいならはっきりと聞いてくれ」

 

その言葉をきっかけにいろんなことを聞かれた。スタイルがどうだとか、水着がどうとか。遊びながらだが聞かれた。聞かれたことに対しては全て当たり障りのないように答えはした。この時だけは少々しつこく感じたが、それでも聞きたいから聞かれたのだろう。こういう話こそ旅館の部屋の中でされるのではないのだろうか?

 

 

 

あれから時間は過ぎ、夕食も取り終えた。みんなが浴衣に着替え、これから温泉へと向かう途中であった。多少の小銭を忍ばせ、風呂上がりに何か飲もうという算段だ。とにかく移動するがある程度の旅館内の構造は知っている。簪に説明されたので知っているのだが・・・

 

「おい楯無、ここに入るつもりは無いぞ?」

 

目の前には予約制の混浴風呂の立て看板が置かれている。楯無は部屋に通ずる鍵を振り回してにやりと薄気味悪い笑顔を浮かべていた

 

「此処しか空いていないのよ。そもそもどうしてこの旅館に私達以外、いないのか知ってるかしら?」

 

「おい、まさかとは思うが・・・」

 

混浴以外の風呂が使えないからという理由じゃないだろうな?もしそんな理由だったら俺は部屋に戻るぞ

 

「多分思っている通りだよ~。この混浴風呂以外が~使えないのだ~!」

 

「・・・俺は戻る。んで寝る」

 

その場で回れ右、即座に部屋へと帰ろうとしたががっちりと肩や腕を掴まれてしまった。その数8つ。虚以外なんだろう。そもそもお前らは良いとして虚はいいのか?

 

「放せ、んで1つ聞かせろ。お前らは良いとして虚はどうなんだ?賛成なのか反対なのか」

 

「私はどちらでも構いませんよ。公序良俗、キチンとルールさえ守っていただければ問題ありません。それに七実さんはそんなことしないと信じていますし」

 

信じてもらえるのはありがたいのだが、ここで言うべき台詞ではない。もっと重要なことを言って欲しい。「すみませんが別々にしませんか」とかな

 

「これでいいでしょ七実君?」

 

「ほぼ事後承諾になってるがな。折れたくは無かったが折れることにする」

 

「よしよし、素直が一番よ。それじゃあ行くわよ!」

 

掴まれたまま引き摺られるようにして中へと入れられてしまった。どんな目に遭うのか、それを知る由はない。俺はみんなとは離れて個別の棚に浴衣を脱ぎ捨て、腰にタオルを巻いてさっさと温泉の中へと入っていく。まだ楯無たちは入ってきていないが、先にさっとシャワーでも浴びて少し温泉に浸かってすぐに出ることにしよう。シャワーを浴び、身体を洗う。ここまではいいのだが終えた途端、浴場の扉が開いた

 

「な、七実はもう来てたんだ」

 

そこにはシャルロットと本音の姿があった。簪や楯無の姿は見えないものの、扉の奥からはちゃんと声は聞こえていた。ちなみにタオルは巻いていて見えてはいけないものは全て隠しているが出ているところは出ているので一瞬だけ見てしまったが、すぐに目を逸らした

 

「・・・正直こんな状況から抜け出したくてな」

 

「ななみんたら照れ屋さんなんだから~」

 

こんな状況で照れなくてどうするんだよ。そもそもの話だがこんな状況になるなんて思いもしなかったのだから当然である。照れ屋なんて遥かに通り越して心臓が爆発しかねんが

 

「とりあえず露天風呂の方に行ってる。できれば来るなよ。本当にフリとかじゃなくて本当にな」

 

「む~、別にななみんが減るものがあるわけじゃないでしょ~?」

 

注意、色々と減ります。正気度だったり理性だったり、最悪心拍数が上がりすぎて寿命が減るかもしれん。だからやめてくれ。今のお前らに目を向けないようにして姿を確認しないようにしているのはそういうことなんだからよ。とにかく俺は外にあるであろう露天風呂に向かった。外へ繋がる扉を開けるとそこには石で出来た窪みだけ。お湯が引かれているはずである露天風呂がなかったのだ。ここで本音が先ほど言っていた言葉を思い出す。そう、混浴風呂以外が使えないのだ。今思い返せばなるほどなと言いそうになったがこの時だけは勘弁してくれと思う。渋々、中に戻り中にある温泉に浸かることにした

 

「あれ七実、露天風呂に行かないの?」

 

「・・・無かった」

 

シャルロットも同じように温泉の中に入ってくる。それと入れ替わる様に簪と楯無、虚もこの室内に入ってきたようだが目も合わせられない。目を合わせようともしない

 

「七実、1つ聞いていい?」

 

「・・・なんだ?」

 

「左腕の変色してるのと背中の傷、それってどうしたの?」

 

初めてシャルロットに見られてしまったのだ。過去の負の遺産とも言える二つの傷。基本的に簪や楯無、本音に虚もあまり見せないこの傷。臨海学校でも今日行った沢でも上着で隠していた。以前にセシリアに俺の過去を教えることになったのも背中の傷を触らせたのは特例だが、誰にもそうするわけじゃない

 

「ニュースで俺がどんな人間か報道されたのは知ってるか?」

 

「一応はね、でも僕には関係ないって思ってた。それで?」

 

「それを嘘と言い張ることのできる証拠、犯罪者と化したあの糞野郎共につけられた傷だ」

 

あの時ばかりは死を覚悟した。いつもは死んでも構わないと思っていたがあの時はなぜか死から逃れようとしていた。あまり思い出したくないが体が勝手に動いていたのだ

 

「・・・なんかごめんね。思い出させるようなこと言っちゃって」

 

「別に構わん。この話題はここまでだ、もう触れてくれるなよ?」

 

「うん、そうする」

 

あれも過去の一部、消せはしない過去の一端。それが右腕以外が動かなくなったとしても今の俺を形成する過去の一部だ。決していい思い出では無い。だが今に至るまでの過程の一部であった

 

「あの時ばかりは私達も焦ったのよ?」

 

いつの間にか本音や楯無たちも温泉の中に入っていた。俺の左側にはシャルロット、右側には本音。少し距離はあるものの正面には楯無と簪、虚が温泉に浸かっていた。両隣が密着してきているので肌やら何か分からないが柔らかい感触と共に、俺の心拍数やら体温が上昇しているように思う。ただ単に温泉の水温が高いからそうなっているのかは分からない

 

「俺だって焦ってたさ、でも結果的には助かった。夜の公園に逃げて誰が助けてくれたのかは知らんが」

 

そういえばあの白猫、シャイニーだったか?その飼い主の名前も聞けずにいた。あの一件以来、シャイニーも眼帯を付け、煙管を使っていた和服の女性とも会っていない。どこかで元気にしているといいな

 

「それよりもだ、シャルロットと本音。お前ら近すぎないか?」

 

「そ、そんなことないよ?」

 

「そ、そうだって~」

 

噛んだ上に棒読み、自分でもそう思っているんだろう。だけど非常によろしくない。俺の理性ががりがりと削られているのだ。そんな状態では何が起きても仕方ないだろう。心頭滅却すれば火もまた涼し、煩悩を断ち切るなんてことは出来ないがこの時だけは断ち切りたい

 

「ふっふっふ~、ならこれはどうかしら?」

 

目を瞑っているが水をかき分ける音が微かに聞こえてくる。声からして楯無だろう。足を延ばして温泉に浸かっているが、その足に重量がかかる。というよりも足の自由が無くなってしまった。確認のために目を開けてみるが目の前に楯無がいた。それも対面してだ

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「・・・おい楯無。さすがに悪ふざけが過ぎるんじゃないのか?勘違いしそうになる」

 

「してくれてもいいのよ?」

 

本当にやめてくれ、ただでさえ理性が無くなってしまいそうなのに、後押しするように攻めてくるのはどうかと思う。少しだけ頭の中が揺さぶられるような感覚にさせられた

 

「お嬢様、さすがにやり過ぎです」

 

「ちぇ~、仕方ないわね」

 

楯無が俺の足から退いたのを見計らい立ち上がろうとした時だった。急に力が抜けて楯無目掛けて倒れこんでしまった

 

「きゃ!」

 

もう思考が回らない。手に何か柔らかいものを握っている感触があるものの上手く思考が回らず何であるかは覚えていなかった

 

「七実君たら大胆ね・・・って大丈夫?」

 

「もしかしたらのぼせたんじゃないですか?なんだかんだで一番最初に入っていましたし」

 

「・・・お姉さんやっちゃったんだぜ」

 

「お姉ちゃん、後で説教ね。虚さんも手伝って」

 

「わかりました。この際ですから今まで溜まった鬱憤を晴らさせてもらうことにします」

 

なんか熱く感じてきた。それが温泉の熱さなのか、そうでは無いのかすらわからなくなり、徐々に瞼が重くなっていったのだった

 




今回もお読みいただきありがとうございます

書いたら15000~20000字ぐらいになりそうだったので分割することにしました

今日は就活・・・一発試験だぁ

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