俺は外に出て適当なベンチに座ってゆっくりとしている。少しでも落ち着いていないとやってられないからだ。あんな
「こんな危険な作戦がタダってのは・・・さすがに無いよな?」
「何言ってるの・・・七実?」
1人で寛いでいると隣に簪が旅館の中からやってきて距離はあるものの同じベンチに座る
「簪か、いやこんな無茶苦茶な作戦だし多少なりと報酬はあるのかなと考えていたところだ」
「作戦前になんてことを・・・出たとしても学園側に回るんじゃない?」
「・・・タダ働きってか」
嫌すぎる条件だな。篠ノ之束から貰ったシールドビットがどれ程活躍できるのか、それと
「七実、怪我してでもいい。必ず帰ってきて」
「当たり前だ。死んだら元も子も無い」
「前科あるんだよ?・・・私達も作戦が成功することを祈ってるから」
「助かる」
こうして心配してくれるとはな。なんだか慣れないな
「その・・・なんだ、心配してくれてありがとな」
「ふふふ、七実、顔赤いよ」
「そうか?」
自分の顔を触るがいつもより少し熱く感じた。なんでこうなってるんだ?
「緊張でもしてんのかね?」
「そっちなんだ・・・でも絶対ここに帰ってきて」
「・・・ああ」
不安が残る中、俺は作戦開始場所である砂浜の奥にある岩場に向かうことにした。嫌な予感は今尚続いている。何が原因でそうなっているかは、正直な所いろんなことが思い浮かぶ。
「ふん、遅いな七実」
「まだ時間じゃない。少しぐらいはゆっくりさせろ」
これから命の取り合いが始まるというのにお前らはどうしてそんなにも笑えるのだろうか俺にはさっぱり分からない。あと5分で作戦開始ということでここにいる全員がISを展開する。箒は赤い機体で腰に左右1本ずつに刀が装着されていた。機体名は・・・<赤椿>か
『織斑兄、篠ノ之、鏡野聞こえるか?』
ISの
『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間の決着を心掛けろ』
「了解」
「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」
『そうだ。鏡野も同じだ。だが、無理だけは絶対にするな。特に篠ノ之はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。何かしらの問題が出るとも限らない』
今回は一夏を死守しなければならないが、俺の取れる行動は移動後に
『鏡野』
「なんですか?」
今度は
『先に謝っておく。お前に押しつけたように感じただろ?』
「必要な事だったんですよね。それなら気にしないです」
『ああ・・・それとだ。どうも篠ノ之が浮かれている。あれでは仕損じるやもしれん』
「サポートしろってことですね・・・はぁ、やれるだけやってみますよ。こういうのは一夏の方が適任だと思うんですがね」
一方的に言うだけ言って
「機体名<赤椿>、搭乗者篠ノ之箒。起動しろ
俺のISは金色の光を発して、形状が変化する。寸分違わず全てが一緒になるが有線のシールドビットは健在だ。それを見た箒は俺の事を気に食わないと感じ、表情は怒っているように見えた。そして作戦開始時刻となり箒は一夏を背に乗せ飛翔した。俺も続くように後方を飛翔した。あってはいけない保険の為に、あってはいけない事態の為にラウラに
「ラウラ聞こえるか?」
『聞こえるぞ。今は指令室にいるがどうした?』
「保険だ、できればでいいが・・・簪とシャルロットを頼む」
『冗談は止せ相棒。その言い方だと死ぬのが分かっているように聞こえるぞ?』
ある意味、それに近しいのは分かるだろう。だが、俺とて死ぬつもりは無いがちょっとした事故が連鎖的に反応して不幸に繋がる、なんてことにならないといい。ただそれを言っているに過ぎない
「そんなつもりは無い。さっきから嫌な予感が止まらない、それもとびっきりの奴がだ」
『・・・必ず生きて戻って来い。相棒の死ぬところなんて見たくない』
軍人がそんな事を言ってて大丈夫なのか?と言いそうになったがここは抑える
「分かっている。どんな状態になろうとも帰ってくるつもりだ。では行ってくる」
ラウラとの通信も切り、作戦へと気持ちを切り替える。衛星とのリンクを確立させ、目標の現在地及び距離を確認するがそろそろ接触するようだ
「加速するぞ!目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」
「ああ!」
センサー越しだが徐々に接近するのが分かる。機体名通りに銀色で天使を彷彿させるかのような翼型のスラスターで
「失敗か・・・機体名
本日2度目の
「敵機確認。迎撃モードへ移行。≪
(全てが同じというのにどうして差が出る。本来であれば量や質は全て同じだ。こんなの始めてだぞ!?)
移動や回避、攻撃から何もかもしていて手は空いていないが念のためスペックの確認をした。そしたらまさかの結果だった。旅館の一室で見たスペックから、だいたい半減している。どうやら情報のどこかが間違っていたらしい
「一夏!私が動きを止める!!」
「分かった!」
二手に別れそれぞれで攻撃を行っている一夏と箒だが、数に物を言わせた戦い方で少しづつ押していた。そこで一夏が上空へ駆け上がり、一気に急下降して
「何をしている!?折角のチャンスに!?」
「船がいるんだ!ここら辺、一帯は封鎖されてるはずなのに。ああくそっ、密漁船が!」
その台詞はこちらの台詞だ。何が密漁船だ?封鎖されていないならそれは教師陣の責任だ。俺らの知る由じゃない。それよりも面倒なのはあの2人が攻撃の手を止めて会話し始めたことだ。こんな戦場のど真ん中で棒立ちとか正気の沙汰とは思えない
「馬鹿者!犯罪者などを庇って・・・そんな奴らは!」
「箒!!箒、そんな・・・寂しいことを言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて・・・どうしたんだよ、箒らしくない。全然らしくないぜ?」
良い風に語ってるがそんなことをしてるなら戦ってくれませんかね?戦闘における全てを俺に投げて話してんだろ。さすがにしんどいという他ないだろう。そこで最悪な事態が発生する。こちらに来ていた攻撃が全て一夏達の方へ向かってしまった。動き出すまでにどれ程の時間が掛かるだろう。まだ動き出していないあいつらの為にこのシールドビットを使うのは勿体無いように思えるが仕方ない。死ぬよりかは、何かが壊れるだけで済むならこれでいいだろう。呑気に会話している2人をシールドビットを使い巧みに光の弾丸から防ぐが量が多く、完全には防ぎきれない。その分は回避はするが被弾もした
「がぁ!」
1発貰っただけでも異常なほどに熱を感じ、全身を焼き尽くすかのような錯覚に捉われる。視界も白く霞んでしまった。指先には血溜まりでもできているかのようにも感じる。今までとは違く肉が焼ける匂いさえも感じてしまった
「七実!?」
「話してる暇があるんだったら・・・戦えよ!・・・あれを倒した後ならいくらでも話せるだろ!」
ようやく動き出した一夏と箒は
「後は・・・頼むぞ」
どんどんと遠ざかる意識の中で最後に見たのは「雪片弐型」を光らせ
ラウラサイド
指令室からは衛星から経由して空中投影ディスプレイでの戦闘映像を確認している。教官の弟は2度もチャンスを潰し、篠ノ之博士の妹と会話しているのを見て呆れていた。周囲を見渡すも簪やシャルロットは当然のことながら、教官の妹である織斑円華や中国代表候補生の凰鈴音、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットでさえ唖然としていた
「何してんのよ一夏!?」
「あの馬鹿者・・・今のはチャンスだったろうに」
「待って、ちーね、じゃなくて織斑先生。海に船が!」
「なんだと?あそこは封鎖しているはずだが。伝達、あのエリアで警備に当たっている奴に確認を取れ!」
1人の教員が通信を始めるが一向に返事が返ってこない。何者かにやられたか、裏切りの可能性があるかもしれんな。ただここで見守るだけというのは歯痒い
「七実・・・」
「大丈夫だよ簪。帰ってくるって約束したんでしょ?」
「うん・・・でもここに至るまでの事を思い出すと・・・嫌な予感が、ね」
私の事もあるだろう。だがその前にも何かしらあったんだろう
「簪、相棒は帰ってくると誓ったんだろう?だったら私達は信じて、帰ってきたら暖かく迎えてやればいい」
「ラウラは強いね」
「私とて相棒に助けて貰った身だ。そう思っているならあいつのおかげだ」
VTSの時に助けて貰わねばどうなっていたかなんて想像もしたくない。相棒には助けて貰ったからにはこれくらいの事はしなければならん。ディスプレイに視線を戻すと何やら相棒があの2人を篠ノ之博士から頂いたシールドビットを使って庇っている様子。ただ物量で押されシールドビットで何発か貰っている。相棒のISの特性上、1回でも攻撃を受けた場合、人体へダメージが入ってしまう
「なんとか持ちこたえてくれ・・・」
掌に汗を感じながら見ているがどうやら凌ぎきったようだ。だが様子がおかしい。その場から支援することも無く微動だにしない。激痛と戦っているのだろうか。しかし、戦局的には振り出しという感じだ。篠ノ之博士の妹の力を借り、
「七実!」
簪の一声でディスプレイに映し出された七実に注目が集まる。そこには重力に従って自由落下を始めている相棒の姿がそこにあった。先ほどの攻撃で気をやったのだろう。そう信じたい。大きな水柱が上がると今度は
「嘘だよね・・・七実。帰ってくるって約束、したよね・・・なんで、なんで!!」
簪の悲痛な叫びに誰も反応は返せなかった。泣きじゃくる簪を見ていることしかできなかった
「織斑兄に篠ノ之、聞こえるか」
ただ1人、教官はこの現実を受け止め冷静に通信を行っていた。相棒の回収を命じていた。あの出血量では早く治療しなければ命の危機となりかねん。こんな中、私ができることは簪の傍にいてやることだけだ
「織斑先生、異常発生です!海中から熱源発生、これはISです!」
1人の教員から告げられた言葉はある種、希望のように感じた。しかし、そんな希望はいとも簡単に打ち砕かれた。海中から出てきたのはシールドビットの無い
「
世界でも稀有なケースの出来事。
「織斑兄、篠ノ之!作戦は中止だ!引き上げろ!」
教官の声は届いていたはずだが戦闘は開始されてしまった。そこからは早かった。<白式>は為すすべもなく堕ち、篠ノ之箒は敵前逃亡を余儀なくされた。より正確に言ってしまえば織斑一夏に逃がされたのだ。作戦は異例の事態が起きた上の失敗。それにより全体の士気が落ちてしまった。だがここで終わる私ではない。許可をもらい、簪を一旦落ち着かせるために部屋の外へ連れ出し、私は私で出来る行動を取ることにした
「よくも相棒をやってくれたな
今はただ1人で策を練ることしかできないが相棒の仇を取る為、静かに闘志を燃やし続けることにした
今回もお読みいただきありがとうございます
なんか若干ダイジェストっぽいところが出てしまいました。あと3話ぐらいで臨海学校編は終了となります
活動報告の方もご自由にアンケートを書いてもいいんですよ?(チラッチラッ)